「ナゴルノ・カラバフ共和国」、この自称独立国家は他の主権国家と同様に、選挙制度や通貨を持ち、そこには大統領までも存在している。しかしながら、国際法の観点から見ると、「ナゴルノ・カラバフ」とはアゼルバイジャン国内に存在する一地域に過ぎず、独立した国家として認める国はない。地球儀にも一国家として描かれることはない。しかし冷戦後、武力紛争を通じて、事実上の「独立」を獲得した。1994年の停戦以来、アゼルバイジャンとナゴルノ・カラバフの境界付近では比較的小規模の武力衝突が生じるに留まっていた。ところが20年以上ぶりに、2016年4月、2017年5月と民間人をも巻き込むほどの武力衝突が起きてしまったのだ。この問題が、アゼルバイジャン国内における問題であるという単純な解釈は適切でない。アゼルバイジャンと隣国アルメニアとの長きにわたる対立も背景にはある。その歴史は第一次世界大戦後にまで遡る。
アゼルバイジャンとアルメニアの確執
ロシア帝国とオスマン帝国の崩壊により、アゼルバイジャンとアルメニアが独立したのと同時に、ナゴルノ・カラバフの帰属問題は生じた。というのも、アゼルバイジャン国内の領域である一方でそこに住む人々の大半が、アルメニア人としてのアイデンティティを持っていたからである。第一次世界大戦後両国は共産化され、ソビエト社会主義共和国連邦下に置かれることとなった。その後、ナゴルノ・カラバフはソビエト社会主義共和国憲法において、アゼルバイジャン内の自治州としての地位を与えられたが、事態が収束することはなかった。
1980年代後半、ソ連の弱体化と共に、自治州内からアルメニアとの合併を求める声が高まっていった。同時にアルメニア系住民とアゼルバイジャン系住民(アゼリ人)との間の衝突も発生するようになり、少しずつ本格的な武力紛争へと発展した。1991年、独断で実施した「国民投票」を元にナゴルノ・カラバフは共和国としてアゼルバイジャンからの独立を宣言し、自治州であった領域以外の地域の領有権も主張するようになった。その後、紛争はますます激しさを増し、ナゴルノ・カラバフはアルメニアによる軍事介入も受け、自治州の領域外のアゼルバイジャン領をも占領し、支配下の領域はアルメニアの国境とつながるようになった。1994年、ロシアの仲介により停戦協約が結ばれ、激しい戦争は終わりを迎えた。死者は約3万人、難民は100万人以上にも上ったという。現在のナゴルノ・カラバフは、経済、軍事的にアルメニアに依存しているが、他国と同様にアルメニアからも国家として承認されていない。
ここで注意すべきことは、1994年に行われたのはあくまでも「停戦」であり、永続的な平和が当地域にもたらされたわけではないということだ。その後もアルメニア人とアゼリ人の対立は続き、度々停戦ライン周辺では衝突が起こっており、近年ますます両者間の緊張は高まり続けていた。そして2016年4月、ナゴルノ・カラバフにて4日間に渡り激しい戦闘が続き、死者は少なくとも110人に上ると発表された。2017年5月にはアゼルバイジャン側の攻撃により、ナゴルノ・カラバフに設置されたアルメニアの防空ミサイルシステムが破壊されるという事態が生じた。なぜ停戦から20年以上が経った今でも当地域に平和がもたらされることがないのだろうか。
紛争激化の背景には
アゼルバイジャンは国連の安全保障理事会や総会による「アルメニアに占領されているナゴルノ・カラバフと7つの地域がアゼルバイジャン領である」という明言に基づき、領土保全を主張している。一方で、アルメニアはナゴルノ・カラバフ住民による自治権を尊重すべきだと主張している。このような認識のずれは1994年以降も継続して存在していたが、2016年からさらに激化したアゼルバイジャンとアルメニア・ナゴルノ・カラバフ間の対立の背景にはどのような問題が存在しているのだろうか。まず、石油価格の低下に伴う国内の不景気が挙げられる。アゼルバイジャンにはバクー油田があり、他国への輸出のおよそ9割を石油が占めている。一方で、アルメニアも国内に油田はないものの、ロシア国内の経済停滞に伴い、それに依存するアルメニア国内の経済も停滞しており、国民の不満は募っている。このような状況の下で、両国内では、内政に対する国民の不満をそらすための切り札として「ナゴルノカラバフ問題」が利用されることがあるのだ。また、この地域で影響力を持つ2つの大国、ロシアとトルコとの間の関係悪化も背景にあるという見解もある。
現在の状況を変えなければならないという考えについては、アゼルバイジャンとアルメニア両国に共通するものであり、それが新たなる武力行使を意味しうるということも共通の認識としてある。それを顕著に表しているのが、両国ともに更なる軍備増強を進めているということである。2015年にドイツのシンクタンクにより行われた調査によると、両国ともに世界で最も軍国化された国家トップ10に含まれているという。
難航する和平交渉
ナゴルノ・カラバフを巡る争いの和平交渉は、アメリカ、ロシア、フランスを中心として行われている。この三カ国が、欧州安全保障協力機構の、ナゴルノ・カラバフ問題を平和に解決することを目的として結成された、ミンスク・グループの共同議長国であるからだ。和平交渉の論点としては、もともとのナゴルノ・カラバフ自治州の領域外で、ナゴルノ・カラバフが占領している地域の返還や、ナゴルノ・カラバフの地位、難民を帰還させることの主に3つであるのだが、20年間を経ても、どの点においても合意がなされていない。ナゴルノ・カラバフの住民を対象に行われた調査によると、住民の約85%がソ連時代の自治州の境界線に戻すことに反対しており、平和を実現するために領土の割譲を検討する意思がある人々の割合は全体の26%に過ぎない。このことからも両者の合意を得ることがかなり困難であることが窺い知れる。
このような幾度もの和平交渉の失敗の要因は、ミンスク・グループによる停戦監視の不徹底や、和平交渉過程の不透明性にもあると指摘されている。実際に、2017年までにナゴルノ・カラバフとアゼルバイジャン間の停戦ライン付近では、たった6人の監察官により監視されているに留まり、紛争予防が不十分であると言わざるを得ない。
他国の思惑
当事国以外の国家の立場からナゴルノ・カラバフ問題について捉えていこう。まず最も深く関わっているのが、ロシアだ。ロシアはミンスク・グループの共同議長国家の一国として仲介に一役買っている一方で、アゼルバイジャンとアルメニアの両国に武器供給も行っており、アゼルバイジャンに至っては、輸入武器の8割がロシアからの物であるという。1990年代、ロシアが抱えていたチェチェンの反政府勢力にアゼルバイジャンが軍事支援をしていたとされ、ロシアとの関係は悪化したが、近年回復に向かっている。一方で、現在、アルメニアとは協定を結び軍隊を常駐させており、有事にはアルメニアの防衛を行うことにもなっている。このような行動の裏には南コーカサス地方における影響力を保持するという目的がある。トルコに関しては、第一次世界大戦時に行われたとされるオスマン帝国によるアルメニア人大虐殺の歴史は、現在もこの地域に暗い影を落としている。この背景もあり、ナゴルノ・カラバフ紛争が勃発してからトルコとアルメニアの国境は閉鎖され、現在も外交関係が断交されている。一方で、民族・言語的にもつながりが強いトルコとアゼルバイジャンは非常に良好な関係を保っているのだ。
ヨーロッパ諸国によるインフラ計画もナゴルノ・カラバフ問題が他国の干渉を受ける要因の一つとして挙げられる。ヨーロッパ諸国は、ロシアに対する天然資源の輸入依存度を軽減する手段としてこの計画を考案した。中央アジアからヨーロッパへと繋ぐ南回廊パプラインや、アゼルバイジャンの首都であるバクーからジョージアの都市トビリシを経由し、トルコのジェイハンへと繋がるバクー・トビリシ・ジェイハンパイプラインはこのインフラ計画において欠かせないものである。当地域において戦闘が勃発した場合には、パイプラインを通る石油や天然ガスの供給を停止するしかない。それゆえ、欧米諸国やトルコはナゴルノ・カラバフにおける戦闘を防ぎたいという思いを持っている。またロシアは、ヨーロッパに対する影響力低下を恐れ、このような欧米のインフラ計画に難色を示している。継続するナゴルノ・カラバフにおける緊張状態はロシアに利益をもたらしているとも言えるという指摘もある。イランは、1990年代のナゴルノ・カラバフ紛争の際、アルメニア側に支援を行い、現在もアルメニアとの良好な関係を保っている。このように、天然資源や民族・歴史的な仲間意識などの他国の思惑が複雑に絡み、問題解決がさらに困難なものになっているのが現状だ。
今後の展望
旧ソ連地域における対立はしばしば「凍結した紛争」と表されるが、これまでに見てきたように決してそのようなことはなく、現在に至っても多大な被害をもたらしている紛争である。両者の対立が非常に根深いものであるからこそ、中立性を備えた第三国の重要性が大きくなる。現在、1994年の停戦後最大の緊迫状態を迎えているナゴルノ・カラバフ問題。本格的な戦争に発展することなく問題を解決することは可能なのであろうか。今後の各国の対応に注目していきたいものだ。
ライター:Hinako Hosokawa
グラフィック:Kamil Hamidov
住民はアルメニア人だったって・・・・じゃあなぜ現在アゼルバイジャン国内に200万人も難民がいるんだ??
別にあんたを誰も信用しなくなるだけだからいいが
初戦はアゼルバイジャンが優勢
ドローンでアルメニアの防空施設を破壊
中国で絶対の信頼を誇ってるロシア製Sー300が木っ端微塵に、ドローン攻撃のすさまじさを世界にしめした
おかげでいまや両軍とも砲撃戦に意向、砲弾とフェイクニュースを撃ち合ってる