日本では世界に関する報道が非常に少なく、また地域的な偏りが大きい。これはGNVによる2015年、2016年の日本における国際報道の分析記事において共通して見出された傾向である。この傾向には何らかの変化が見られるのか。2017年の日本における国際報道の分析をもとに探っていきたい。
国際報道の割合(2017)
まず2017年の新聞記事全体における国際報道の割合を見てみよう。下図は朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の各新聞社の全記事数に対する国際報道の記事数の割合を示したものである(※1)。
結果は朝日新聞10.7%、毎日新聞10.3%%、読売新聞11.1%となり、前2年と同様新聞社ごとに大きな差はみられなかった。2016年の数値(朝日:11.7%、毎日:11.0%、読売:11.0%)と比較すると、2015年のレベル(朝日:10.0%、毎日:9.3%、読売:8.9%)までは減少していないものの、朝日、毎日では若干の減少が見られた。
この数値がどれほどの量なのか、一つの指標としてスポーツについての報道量を取り上げて比較してみよう。2017年のスポーツ関連の記事数の割合は、毎日新聞で23.3%であり、これは過去2年間も同様の数値である。日本での国際報道量が非常に少ないことが明らかだ。
地域別国際報道量
次に地域別での報道量を比較してみよう(※2)。下図は2017年における朝日・毎日・読売の3社の国際報道量(文字数)の合計を地域別に分類し、円グラフにしたものである。
地域別の報道量は上からアジア、北米、ヨーロッパ、アフリカ、中南米、オセアニアの順に多く、アジアが42.7%と最大多数を占めている。この数値は2016年の46.5%に比べると減少しているものの、依然として日本における国際報道の大部分を占めている。一方で北米の割合が2016年の数値(22.4%)と比べると大きくなっており、文字数も増加している。文字数のみを比較すると、2015年から2017年にかけて増え続けていることになる。1月に就任したトランプ米大統領が大きく取り上げられたことがこの要因になっていることは想像に難くない。やはりトランプ効果は国際報道の上でも大きな影響を及ぼしたのだろう。
アジア、北米、ヨーロッパが全国際報道の90%を占めているのに対し、アフリカ(3.3%)、中南米(2.0%)、オセアニア(0.7%)の報道量は極端に少なく、足し合わせてもたったの6.0%である。これらの地域の報道量が少ないのは2015年、2016年においても同様である。また、新聞のみならずLINE NEWSやテレビ東京の『池上彰の報道特番』などといった他の媒体においても同じ傾向がみられる。2016年と比較すると特に変化の大きかったのは中南米である。2015年から2016年で2倍ほど増加していた文字数が、2017年にはほぼ半減している。2016年にオリンピックの影響で一時的に増加した報道量がもとに戻ったと考えるのが妥当だろう。
報道量上位10か国(2017年)
さらに詳しく、国別の報道量をみていこう。下図のグラフは、2017年の国際報道で報道量の多かった10か国をグラフにしたものである。右端の図は国際報道のなかでも日本に関する報道の割合をグラフにしたものである。
2016年と同様、アメリカが大きな割合を占める結果となった。2016年と比較するとアメリカの報道は割合、文字数ともに増加している。2016年と同様、中国、北朝鮮、韓国と東アジアの国が続いてランクインしているが、北朝鮮と韓国の順位が入れ替わっている。なんとアメリカ、中国、北朝鮮、韓国の4か国のみで国際報道全体の半分以上を占める結果となった。北朝鮮、ドイツ、イラク以外の国は2015年から3年連続のランクインだ。一方、アフリカ、中南米、オセアニアの国が上位10か国に入っていないという傾向には依然として変化はない。地理的なつながりの強い東アジア諸国や政治・経済的力の強い大国についての報道が多い一方で、インドやインドネシアといった日本に地理的に近く、近年力を強めている人口大国についての報道は少なく、どちらも1%を切っている。
それでは2017年にはどのようなニュースが注目されたのか見ていこう。まず1位にランクインしたアメリカは、トランプ大統領の就任とトランプ大統領の政策、動向がやはり大きく取り上げられた。2位の中国日本と地理的、政治経済的なつながりがどちらも強いためかどの時期でも報道量が多く、内容にはばらつきがあった。2015年には上位10か国に入っていなかったが2016年に4位、2017年に3位となり年々報道量が増加している北朝鮮は、核実験や弾道ミサイル発射の強行などが去年に引き続いて報道されたほかに、2017年は金正男氏の殺害事件も話題となった。4位の韓国は中国と同様内容はばらつきがあったが、収賄や強要の罪に問われた朴槿恵大統領の罷免、判決が大きな話題となった。5位のイギリスはEU離脱に関する話題の他に、3月から9月にかけてロンドン各所で発生したテロ事件が注目を集めた。
その他に、2016年と比較すると報道量が約1.5倍となったフランスは、大統領選が大きく取り上げられ、「大統領選」を見出しに含む記事が4割を超えた。大統領選が話題になったとはいえ、2017年のフランスの報道量は、テロ事件が大きな話題となった2015年の半分以下である。先進国でのテロ事件というのがどれほど大衆の注目を集める出来事であったのかが見て取れる。中東で注目されたのは、10位以内にランクインしたイラク、シリアである。どちらも「IS(イスラム国)」に関する報道が注目されたほかに、イラクではクルド独立の住民投票も話題となった。
上位10か国にはランクインしなかったアフリカ、中南米、オセアニアではどのような国が多く報道されたのだろうか。アフリカでもっとも多く報道されたのはエジプトでアフリカ全体の約20%、次いで僅差で南スーダンが約17%を占めた。エジプトに関しては多発したテロ事件についての報道が多く、特に11月に発生したモスクへの襲撃は大きく取り上げられた。次いで多かった南スーダンは、「PKO」(国連平和維持活動)を見出しに含む記事が多かった。中南米で最も多く報道されたのはメキシコ、続いてベネズエラ、ブラジルとなった。2016年はオリンピックの影響でブラジルが最多となっていたが落ち着いたよう。メキシコについては、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉やアメリカの移民政策などといったアメリカの動向に付随した報道が多かった。
変わらない国際報道
2015年から2017年の3年間の分析によると、日本における国際報道の量は年により若干の増減があるとはいえ依然として少なく、日本と政治・経済的な関わりのつよい大国・先進国や、地理的に密接な繋がりのある東アジア諸国が報道の大半を占めているといった現状に変化は見られない。アフリカ、中南米、オセアニアといった報道量の極端に少なかった地域に注目しても、大国の動向に関連した出来事や特定の注目を呼ぶ事件が起きた国のみが大きく取り上げられていることが見て取れる。こういった偏りが強いために、報道を通して知ることのできる世界の現状が限られてしまっているのが依然として現在の日本の国際報道の大きな課題となっている。国際報道を通して、さらにグローバル化が進展していく世界の現実を捉えられていない。この傾向は今後是正されるのだろうか、それともより偏りは大きくなっていくのだろうか。今後も注意深く分析を続ける必要があるだろう。(※3)
※1 各社のオンラインデータベースを参照した。国際報道記事の定義については「GNVデータ分析方法【PDF】を参照。
※2 地域は、UNSD(United Nations Statistics Division、国連統計部)の基準に従い、アジア、アフリカ、オセアニア、ヨーロッパ、北米、中南米の6地域に分けた。
※3 現在GNVでは国際報道についての独自の年・月別統計であるマンスリーレポートを公開している。今後も継続的に更新していくので、是非そちらも閲覧してもらいたい。
ライター・グラフィック:Eiko Asano
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興味深く読ませていただきました。
報道量の多いアメリカ・中国・韓国は、日本から距離が近かったり経済的に強いつながりがあるから、一つ一つの出来事が直接的に日本に関係がなくても報道される。その一方で、アフリカの動向は日本にあまり影響がないから、日本がらみの出来事じゃないと報道されないのかなという印象を受けました。南スーダンの報道が多かったとのことですが、これは日本が強く関連しているから報道されているのであって、日本が関連していないアフリカの報道がどれだけの量あったのかが気になります。