国際連合(以下、国連)における活動の一環として知られる国連平和維持活動(以下、PKO:Peacekeeping Operations)。2019年度のPKOの予算は約65億米ドルと巨額な資金が割り当てられており、約11万人もの兵士が世界中で活動している。そして、現在活動中の13個のミッションのうち、半数以上にあたる7つのミッションはアフリカで行われている。
世界の平和に貢献しているとイメージされるPKOだが、実際は様々な問題を抱えている。2019年11月25日、コンゴ民主共和国(以下、コンゴ民)で活動中である、国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)と政府軍に対して抗議活動が起き、その過程で8人の死者が出る事態となった。コンゴ民でのPKOの活動は、世界で最も大きいミッションであり、20年間にわたり人的資源と多額の資金が投入されているが、その成果はコンゴ民主共和国の人々にとって満足できるものではないようだ。今回の抗議者たちの怒りも、MONUSCOと政府軍が反政府勢力による襲撃から市民を保護できなかったことに起因している。このような事例の背景にはどのような問題があるのだろうか。国連のアフリカにおけるPKOの現状と課題について見ていきたい。

コンゴ民主共和国で道をパトロールするパキスタンのPKO兵士たち(写真:MONUSCO Photos / Flickr [CC BY-SA 2.0])
PKO活動の概要・歴史
まず、PKOについて簡単に説明したい。PKOは、主に複数の国連加盟国の兵士によって遂行されるミッションである。PKOには、活動3原則というものがあり、概ねそれに則って活動している。簡単にまとめると、第1に、兵力の派遣は受け入れ当事者の同意が必要、第2に、紛争当事者のいずれか一方に加担するような行為を行わない、そして第3に、自衛に必要な場合を除いて武器の使用は行わないことである。
国連安全保障理事会(以下、安保理)が国連休戦監視機構(UNTSO)の中東地域への派遣を許可した1948年に始まったPKOは、事態を鎮静化させたり停戦を維持したりと、政治的取り組みに欠かせない支援を提供する活動に限られており、具体的な活動としては、監視や報告、信頼構築の役割を果たすことが多かった。こうした伝統的な活動の目的は、事態を収束したり紛争を再発させないことであった。
しかし冷戦の終結により国連PKOの戦略的背景は一変する。安保理の運営をしばしば麻痺させ、PKOの派遣を妨げてきた東西の対立がなくなったことで、PKOのミッションの数が増えるとともに規模も大きくなり、その担う役割が大きく広がった。例えば、治安回復、選挙監視および実施、さらには元戦闘員の武装解除、動員解除、社会復帰などの任務である。その後も従来型のミッションは残ったものの、大半は以前よりも拡大した役割を担うようになり、国連はPKOを、軍事要員による全般的な監視任務を主とする「従来型」のミッションから複雑な「多次元型」活動へとシフトさせたと言える。

(※1) 各ミッションの正式名称は、記事の最後に掲載している。
アフリカとPKO
1960年にPKOはコンゴ動乱の鎮静のためサハラ以南アフリカに初めて派遣され、冷戦後、多次元型の活動もリベリア、アンゴラ、モザンビーク、ナミビアなど、アフリカ各地で行われるようになる。ところが、1990年代前半はPKOの苦難の日々が続いた。第2次国連ソマリア活動(UNOSOM II)は、ソマリア紛争の収拾のために派遣されていたが、まだ混乱が続く中での活動であったため民兵との衝突がしばしば起こった。それゆえ死者を出すこととなり、撤退を余儀なくされる。さらに、国連ルワンダ支援団(UNAMIR)も、ルワンダ紛争の和平協定が結ばれたことを受けて1993年に派遣されたが、和平合意の遂行状況は芳しくなく、1994年に始まったジェノサイドの際に大きく縮小され、傍観者という立場に追い込まれてしまう。こうして世界は国連PKOの「失敗」を経験し、1990年代後半にはその活動が停滞することとなる。
しかし、2000年頃からは、シエラレオネでの国連シエラレオネ派遣団(UNAMSIL)や、コンゴ民での国連コンゴ民主共和国ミッション(MONUC)及びその活動を引き継いだMONUSCOなどを始めとして、その活動を徐々に復活させ現在に至る。例えば、コンゴ民では、市民の保護、治安の回復、反政府勢力の武装解除、民主的な法体系の整備などを支援することに加え、ラジオ・オカピ(Radio Okapi)というコンゴ民で最大となるメディアを設立するなど、包括的な活動が見て取れる。
このような歴史を経て幅広い任務を行うようになったPKOであるが、世界中に派遣される兵士はどの国から来ているのだろうか。現在実施されているミッションの数の多さから、アフリカはPKOを受動的に受け入れ、世界から「支援されている」と思われていることが多い。しかし、アフリカは世界のPKOにその兵力で「貢献している」とも言えるのである。2019年10月末の国連のデータによると、PKOへの派遣人数はエチオピアが世界1位で、7,026人の貢献がある。また、3位にルワンダ、7位にエジプトなど、上位20か国中、12か国がアフリカの国々であった。全体でみると、アフリカの国々からのPKOへの派遣人数は、全体の48.5%と約半数を占める。特にエチオピアの貢献の増大には目を見張るものがあり、2010年から2015年の間にアフリカの国々によるPKOへの貢献は46%も増加したが、その40%はエチオピアが担っていた。
この背景には、アフリカ諸国とPKOミッションが行われている国との地理的な近さがある。つまり、アフリカ諸国がPKOに積極的に貢献する一つの動機は、隣国の不安定な状態がもたらす自国への悪影響を防ぐということが挙げられる。その他には、大陸内の団結を表す側面もあるかもしれない。こうした流れは、ルワンダで安保理及び派遣されたPKOが市民をジェノサイドから守ることができなかった頃から強まっていった。「アフリカの問題にはアフリカの解決策を」とアフリカ内外で言われるようになり、2002年にアフリカ統一機構 (OAU)がより包括的で積極的なアフリカ連合(AU)に進化を成し遂げた。
政治的な課題
上記のようにこれほどの規模のPKOがアフリカで活動しているが、アフリカで行われているPKOの問題にはどのようのものがあるのだろうか。まずは、政治的な課題に注目したい。つまり、PKOに関する決断が行われる国連安保理において、ミッションを設立する過程で発生する問題である。アフリカから遠く離れたニューヨークの国連本部で、PKOの規模や任務を決定したり、ミッションを発動させる決議を採択したりしているのだが、そこで起こる一つの問題は、PKOの派遣が必要とされる事態が発生してから実際にPKO部隊が派遣されてくるまで時間がかかるということである。安保理がPKOの派遣を認可してから、安保理の決議に基づき兵力を派遣してくれる国を探すことになるので、一連の過程を経ている間にかなりの時間が経過してしまうこともしばしばである。
また、ミッションの執行に必要な兵力を揃えることは容易なことではない。PKOに自国の兵力を提供するにはコストがかかったり、兵士が怪我をしたり亡くなったりするというリスクがあるため、決断を渋る国が多く、ゆえに人が中々集まらないという問題がある。資金面についても、アメリカがニーズに基づいて兵力を提供するのではなく、自国が負担する分担金を意識して安保理が決議で決定する兵力に制限をかける場合もある。そもそも、前掲のグラフからも見て取れるように、アメリカを含め高所得国は基本的に兵力をほとんど提供していない。

決議を採択する安全保障理事会(写真:United Nations Photo / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
さらに、そもそも全体的に足りない人・資金の中で、過去にヨーロッパで平和活動をする事態が発生した時に与えられてた、平和活動のための人・資金は圧倒的に多く、相対的にアフリカでは少ない。実際、国連PKOではないが、旧ユーゴスラヴィアのボスニア・ヘルツェゴビナの紛争後に展開され、1996年に始動した和平履行部隊(IFOR)は、初期には約60,000人が派遣された。また、1999年に始まったコソボで治安維持を担うコソボ治安維持部隊(KFOR)の初期の派遣人数は約50,000人であった。その一方、活動するエリアや死者数という意味で捉えた時に紛争の規模としても大きい、コンゴ民のミッションへの派遣者数は、最大で約22,000人であった。コンゴ民の200分の1しか面積がないコソボへの派遣人数はその倍以上にも上った。また、こうした資源が限られた状況と現場のニーズがある中で、安保理がそれに見合った現実的かつ効果的な任務を与えられるかということも大きな課題となっている。
現場の課題
現場のニーズに見合った、規模・資金・役割を与えられていると限らないPKOは現場でさまざまな問題に直面する。派遣人数が足りないと市民の保護ができない可能性を高くしてしまうことは想像に難くないだろう。冒頭でも触れたように、2019年11月末にコンゴ民で起きた事件は、MONUSCOと政府軍の保護の失敗に対して市民が怒りを隠せなくなったことが発端であった。また他の例として、南スーダンや中央アフリカ共和国でも、保護の失敗が指摘されている。しかし、人・資金が不足している状況で、ある程度保護に限界があるというのは認めざるを得ない。例えば、人数が少なければ、基地から遠く離れたところまでパトロールすることが難しい。資金がないと、もともと賃金のレベルが相対的に低いアフリカからの兵力に頼ろうとするので、訓練があまり十分でなかったり、経験が少ない兵士が派遣されたりすることもある。また、派兵される各国国軍の幹部や兵士のモチベーションに関してはどうだろうか。自分の国の安全保障のために働くのではなく、自分とは直接関係のない異国の地で任務を全うするとなれば、自国のために働く時よりも守りに入ってしまったり、リスクを負う覚悟が相対的に小さくなってしまったりしまうかもしれない。

コンゴ民主共和国で任務をするグアテマラの特殊部隊(写真:MONUSCO Photos / Flickr [CC BY-SA 2.0])
また現場では、国連の公平性を欠く行為によって国連への信頼の失墜や失望が広がっている地域もある。冒頭のPKO活動3原則で紹介した通り、PKOは紛争当事者のいずれか一方に加担するような行為を行わないとされていたが、実際にはコンゴ民やマリなどでは国軍と力を合わせ、反政府勢力と戦っているという現状がある。そうすると、反政府勢力から敵視され、攻撃を受けやすくなってしまい、マリでのミッションは世界で最も危険なものになっている。また、コンゴ民では国軍の人権侵害が度々指摘され、国民の反感を買うことにも繋がっている。
さらに、国連への信頼を失いかねないこととして、PKOで派遣されている兵士が犯罪をしてしまうといった現状がある。国連の調査で、2014から2015年にかけて、中央アフリカ共和国でPKO兵士の41人が性的虐待・搾取に関っていたことがわかった。報道によると、女性や未成年さえもその対象になり、服や食料と引き換えにそうした虐待が行われていたという。また、ジュネーブに拠点を置く研究機関「スモール・アームス・サーヴェイ」(Small Arms Survey)はその報告書において、2013年南スーダンでの国連のミッションが、ベンティーウという町で反政府勢力に武器を渡す行為を行ったと非難した。こういった行為は、PKOで多数発生しているわけではなく稀なケースではあるが、派遣されている現場でPKOのイメージを大きく損なってしまうことに繋がると言える。
最後に、現場で起こる障壁の一つとして言語や文化の違いも存在する。派遣国の言葉及び文化が理解できないと、コミュニケーションに多かれ少なかれ支障をきたすのは想像に難くない。しかし、ここにはジレンマが存在する。それは、言語や文化が理解しやすい方がよいと言って、近隣の国から兵力を多く派遣すると、自国の利益と密接に関わってきてしまい、公平・中立な活動がしにくくなってしまう可能性があるからだ。反対に、あまり利益が絡まないどこか遠い国から兵力が派遣されると、一見公平・中立性が担保されているように感じられるが、前述の通り、言語や文化、慣習などへの理解が浅くスムーズなコミュニケーションが取りにくいことで、業務に影響が出てしまうことがある。

マリでミッション中のルワンダのPKO兵士(写真:United Nations Photo / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
国連PKO以外の平和活動
国連主導のPKOは様々な課題や制約の中アフリカで幅広く活動しているが、平和活動を行っているのはこのようなPKOだけではない。近年は、アフリカの地域組織の平和活動への貢献が顕著だ。これは、先に述べたように、アフリカに地域化の傾向が表れてきていることと関係する。アフリカ全体をカバーする地域組織であるAUを始め、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)、中部アフリカ諸国経済共同体(ECCAS)、南部アフリカ開発共同体(SADC)などと、アフリカの中でもより範囲を限定した地域組織が活躍しており、場合によってはPKOとコラボレーションをしたり、同時に個別に行動をしたりすることもあれば、ミッションを引き渡したり引き継いだりして活動することもある。国連とAUが共同で行なっている規模の大きいPKOとして、国連アフリカ連合ダルフール派遣団(UNAMID)があるが、これは国連とAUのハイブリッド型のミッションである。UNAMIDは2017年より情勢の改善を理由に規模を縮小したが、このようにアフリカの地域組織はアフリカでの平和活動への貢献が大きく、しばしばPKOと協力して活動している。
これまで、アフリカにおけるPKO活動についての現状や様々な要因が関連する政治的・現場での課題についてみてきた。自国の利益が絡まないPKO活動に消極的になる国が多く、政治的なサポートが不足している中でPKOは活動している。しかし、そのような状況で本来の役目を果たせないばかりか、それに付随して起こる問題も多く、国連への不信感が高まってしまうこともある。だがそれと同時に、PKOは紛争解決ができるようにつくられたものではなく、あくまでも、政治的な解決策がとられるまでに安定を確保することがPKOの役目なのである。PKOはどういう役割を果たすべきで、より良いPKOの形はどのようなものなのか、模索し続けることが重要であるとともに、世界からの注目を集め、資金・兵力の提供、その他のサポートが滞りなく行われることが必要であろう。

中央アフリカ共和国でのミッションに携わるPKO兵士(写真:United Nations Photo / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
※1 以下の正式名称は記事での登場順に掲載している。
国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO: United Nations Organization Stabilization Mission in the Democratic Republic of the Congo)
国連休戦監視機構(UNTSO: United Nations Truce Supervision Organization)
第2次国連ソマリア活動(UNOSOM II: United Nations Operation in Somalia II)
国連ルワンダ支援団(UNAMIR: United Nations Assistance Mission for Rwanda)
国連シエラレオネ派遣団(UNAMSIL: United Nations Mission in Sierra Leone)
国連コンゴ民主共和国ミッション(MONUC: United Nations Organization Mission in the Democratic Republic of the Congo)
アフリカ統一機構 (OAU: Organization of African Unity)
アフリカ連合(AU: African Union)
和平履行部隊(IFOR: Implementation Force)
コソボ治安維持部隊(KFOR: Kosovo Force)
西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS: Economic Community of West African States)
中部アフリカ諸国経済共同体(ECCAS: Economic Community of Central African States)
南部アフリカ開発共同体(SADC: Southern African Development Community)
国連アフリカ連合ダルフール派遣団(UNAMID: African Union / United Nations Hybrid Operation in Darfur)
ライター:Natsumi Motoura
グラフィック:Saki Takeuchi, Yow Shuning
PKO兵士提供にはアフリカの国々が多いとは知りませんでした。
アメリカなどの高所得国はよく戦争をしているイメージですが、実際に国連のPKOでは兵士を出さず、お金だけだすのはなんだか皮肉です。
PKOの兵士はどこから派遣されているのか気になっていたので知れてよかったです。それがアフリカからの派遣が多いのは驚きでした。
また、高所得国がニューヨークで決定を下すにも関わらず、PKOの兵士に高所得国からの派遣が少ないのは違和感を思えました。