2003年、アメリカがイラクに侵攻及び占領した際、アメリカ政府の近くで政策研究や政策提言を行っていたシンクタンクとその研究員たちがいた。その大半は、中東地域の秩序を大きく揺るがしかねないこの戦争を支持していた。また、アフガニスタンでは、2001年の侵攻以降20年間軍事介入を続けていたアメリカ政府が2021年に撤退に向かうと、大半のシンクタンクはそれに対して反対の立場をとった。これは2つの事例に過ぎないが、このようにアメリカのシンクタンクは、他国での戦争を支持する傾向にあると指摘されている。また、ある調査によると、アメリカで最も影響力のある25のシンクタンクのうち、約半数は軍需産業から資金を得ている。他国での戦争を支持する傾向にあるアメリカのシンクタンクの多くが、軍需産業と関係を持っているというのは、単なる偶然なのだろうか。
シンクタンクとは、各国で研究と政策、あるいは知識と権力をつなぐ存在だと言われている。アメリカを起源としてされ、欧米諸国を中心に普及してきており、最近では中国やロシアなども力を伸ばしてきている。しかし、中ロなどのシンクタンクは政府のコントロールから抜け出せていないと指摘される。
では、西側諸国など、自国の政府から一定の「独立性」が確保されているはずのシンクタンクは、本当に政府からの距離が取れているのか。この記事では、シンクタンクが軍事や安全保障の分野において政府や軍需産業とどのように影響し合っているのかを探る。

アメリカのブルッキングス研究所のイベントで対談する同研究所の研究員と米軍関係者(写真:ResoluteSupportMedia / Flickr [CC BY 2.0])
軍産複合体
冒頭で触れたように、軍事・安全保障政策においては、政府と研究機関の関係も注目に値するが、それ以前に、政府と産業の関係も重要な要素だと言えよう。そこで、シンクタンクの役割について考える前に、まずは「軍産複合体」について確認しておきたい。
「軍産複合体」とは、軍需産業やその他の産業、軍や政府との密接なつながりを指す概念である。武器メーカーなどの軍需産業は、武力紛争や国家間対立など安全保障上の危機を好む傾向にある。武器が売れるほど、または新兵器開発及び製造委託があるほど、会社としての利益につながるためだ。また、紛争や対立がない場合でも、武器購入や開発が行われる。しかし、軍需産業は武器メーカーだけの関心事項ではない。例えば、軍艦製造には大量の鉄が必要であり、戦闘機には様々な電子部品が使用される。また、軍の運営には大量の石油も必要となる。さらに、軍関連の施設の建設から軍人の軍服や食事まで、多方面で民営化が進んでいる。非常に多くの業界が、軍の予算増加や武器の輸出で収益を得ることになるのだ。
各国の軍事予算は国民の税金が支えるものであり、国民が膨大な軍事予算に納得するとは限らない。しかし、意思決定する政治家さえ説得できれば、軍事予算は増やすことができる。そのため、軍需産業関連企業は政府に働きかけるロビー活動や政治家への選挙献金に莫大な資金を投入している。例えば、アメリカの軍需産業は過去20年であわせて25億米ドル、選挙献金に2,850万米ドルをロビー活動に使用している。
また、軍需産業が、政府関係者に巨額の賄賂を渡し、政府による兵器の売買を取り決める場合もある。過去に暴かれた欧米諸国の武器メーカーのサウジアラビアや南アフリカでのスキャンダルなどが有名である。さらに、欧米諸国などでは退役軍人がその後のキャリアを軍需産業に移し、軍での経験やネットワークを武器の営業に役立てることもあれば、軍需産業の関係者が政府機関の職員に転職することもあるなど、軍と軍需産業との間では相互に有益な人材が行き来している。この状態はしばしば「回転ドア」に例えられる。
結果的に、各国政府は、不要もしくは機能性の低い兵器を不当に高い金額で購入または開発を進め、軍事予算が増えていくのである。

F-35戦闘機の製造工場。アメリカ(写真:Robert Sullivan / Flickr [Public Domain Mark 1.0])
アメリカに関していえば、いわゆる「平時」であろうと、軍事予算はほとんど減らず、長期的にみると常に上昇している。例えば、冷戦の終結とソ連崩壊で、ソ連という大きな脅威が消失したことで、アメリカでは軍事予算が減少し始めたが、その際、危機感をあらわにした大手武器メーカーの関係者は北大西洋条約機構(NATO)を拡大に向かわせるため各国政府に強く働きかけた。NATO拡大によって中央ヨーロッパや東ヨーロッパ市場の開拓が可能となり、武器メーカーにとっての「危機」は回避された。
2022年にロシアが再びウクライナに侵攻したことも事例のひとつとなろう。前述のNATO拡大もロシアの侵攻の背景にあるこの紛争は、各国の軍需産業にとっての「大当たり」となった。武器メーカーの中には、株主に向けて、今後は利益は期待できるといったメッセージを発信をしているものも報告されている。また、イスラエルの大手新聞社は、記事の中で、ウクライナ戦争の「勝者」はイスラエルの武器メーカーだという主張を展開した。欧米諸国や日本などの政府は、軍事予算(※1)の大幅増をすでに決めている、もしくは検討している。さらに、アメリカはウクライナに対して400億米ドルを上回る支援額を発表しており、その半分以上は軍事支援で主にアメリカの武器メーカーに流れる資金となる。なお、2021年に国連を通された全世界の人道危機への全世界からの緊急支援の総額は約200億米ドルであった。
しかし、ウクライナ侵攻において巨大な喪失を負い侵攻が大きく進まないロシアの戦況に鑑みると、この戦争でロシアの強さよりも弱さが示され、ロシアはもはや脅威ではないという結論にたどり着いてもおかしくない。つまり、各国が軍事予算を増やす必要性があるどころか、減らしても問題はないことが示されたという見方ができる。もっとも、ロシアの核兵器の脅威は軍事・安全保障政策を検討するうえでひとつの重要な要素ではある。他方、核兵器に対する軍事的解決策が存在するとは言い難い。「核抑止」という戦略が挙げられることが多いが、これは核兵器を保持している国がお互いに核兵器を使用することで生じる壊滅的な状況を回避するために核兵器を使用すること自体を思い留める、いわゆる相互確証破壊(MAD)の原理に基づいている。しかし、核抑止が核兵器に対する軍事的解決策として効果的ではないと多くの専門家に指摘されている。たとえ効果的だったとしても、それは国家が、罪のない人々の生命を10万、もしくは100万単位で奪う覚悟を持たなければならず、そうした意味で核兵器保有そのものがテロ行為に該当するともいえよう。
紛争の展望として、武器メーカーの役員からアメリカの国防長官に転職したロイド・オースティン氏は、ウクライナ戦争への関与の目的はロシアを弱めることだと認め、紛争の長期化を促しているようだ。ウクライナ戦争においては、ロシアのウクライナ侵攻が開始してから4か月以上が経過しても、平和的解決に向けた本格的な外交努力がみられない。こうした状況の背景には、各国政府と軍需産業との密接な関係が影響しているともいえるのではないか。

アメリカのロイド・オースティン国防長官と、IISSのジョン・チプマン最高責任者(写真:VoidWanderer / Flickr [CC BY 2.0])
軍備強化と強硬外交を促すシンクタンク
では、シンクタンクはこういった軍産複合体とどのようにつながっているのか。実はシンクタンクの多くは、政府・軍もしくは軍需産業の見解を復唱もしくは増幅しているように捉えることできることが決して少なくない。
まず、各国のシンクタンクからは、各国の軍事予算増加の必要性を指摘する内容の報告書が多く発表されている。アメリカでは、新アメリカ安全保障センター(CNAS)やランド研究所(RAND Corporation)などのシンクタンクが、常に同国の軍事予算の増加や軍備強化を促していることが指摘されている。また、ドイツ国際安全保障研究所(SWP)は、ドイツが国際政治分野においてリーダーシップをとるべきだと主張しつつ、軍事能力を強め、必要に応じて武力行使も行うべきだとする政策を提言する2013年の報告書も挙げられる。日本でも、国内の外交・安全保障系シンクタンクのトップとされる日本国際問題研究所は、戦略年次報告(2021年)の中で、日本政府の方針に沿う形で、軍事費をGDP 比2%以上へ引き上げを支持している。与党・自民党は2021年の衆議院議員選挙で、NATOにならい対GDP比2%を目指すと公約していた。
シンクタンクが発信する正式な組織的な見解以外にも、シンクタンクに所属する影響力のある研究者が個別にメディアなどを通じて、軍事予算の増加を度々呼びかけることもある。例えば、アメリカの軍事予算増加に関するニューヨークタイムズ紙の記事(2017年)では、米軍の資金不足問題を指摘する戦略国際問題研究所(CSIS)のアナリストの見解が引用されている。当時のアメリカの軍事予算は群を抜いており、世界の軍事予算の36%を占めていた。日本においても、2021年に日本経済新聞に掲載されたインタビュー記事や毎日新聞電子版の寄稿記事の中で、笹川平和財団の研究員が日本の軍事費引き上げを呼びかけている。
シンクタンクは、軍事予算の増加を直接促さなくても、結果的に増加につながるような国際問題を強調する場合もある。例えば、冷戦終結直後からNATO拡大を支持していた武器メーカーに加え、ランド研究所といったアメリカのシンクタンクも、ワークショップや研究活動などを通じてNATO拡大を促していた。

ランド研究所の本部。アメリカ、カリフォルニア州(写真:Coolcaesar / Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0])
シンクタンクが、他国による脅威を強調したり、不安を煽ったりする場合も少なくない。例えば、2002年のイギリスの国際戦略研究所(IISS)の報告書では、当時のイラクは生物兵器及び化学兵器を多量を所有している可能性が高く、核兵器も数ヶ月以内に完成させることもできるだろうと推測した。実際にはイラクはいずれも所持していなかった。日本では、2022年現在、中国や北朝鮮による攻撃に備え、核シェアリングや核保有を促す論調を発信するシンクタンクも少なくない。自衛のための核保有の「選択肢を排除すべきではない」といった主張が掲載された日本国際フォーラム主催の「e-論壇」への投稿記事(2022年)がその一例である。
また、イスラエルの国家安全保障研究所(INSS)の2020年戦略的評価年次報告では、イランの「脅威」が強調され、イスラエルが大規模な戦争に直面する可能性が高まっているという主張が掲載された。別のイスラエルのシンクタンクであるベギン・サダト戦略研究センター(BESA)はIS(イスラム国)勢力の撲滅に反対する報告書を2016年に発表した。ISは、イスラエルが敵視するシリア、イランなどに「役立つ道具」だと主張する内容である。
シンクタンクが、事実を歪曲して他国による脅威を強調することも少なくない。例えば、アメリカの戦争研究所(ISW)は、ウクライナ戦争の情勢分析や見解がメディアで度々使われるシンクタンクであるが、ISWの分析にはバイアスがみられ、客観的な事実の把握を妨げているとの指摘がある。また、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)がオーストラリアに対する「脅威」として中国を度々取り上げ、中国に対する強硬な姿勢を促しているが、中国研究に多くの誤りや根拠のない主張があると指摘されている。
例外はあるものの、このように、いずれの国においても政府やメディアに一定の影響力を持つシンクタンクやその研究員は、他国による脅威を強調し、軍事力強化を促す傾向にある。

アメリカ軍によって爆破される民家。イラク(写真:Sergeant James McCauley / Wikimedia Commons [CC BY 2.0])
構造的問題:シンクタンクの財源
なぜシンクタンクとその研究員の多くが、国家の軍事力強化を促すのか。その原因を理解するには、シンクタンクの構造上の特徴を探る必要がある。シンクタンクには様々な種類がある。まず、設立時などに想定された役割によって、その方針や活動が異なる。例えばシンクタンクのモデルには、大学のように研究活動をするものの学生がいない機関、政府などのために委託研究を行う機関、アドボカシーを行う機関といったものが挙げられる。シンクタンクがこの中のいずれかひとつだけの役割に絞られるとは限らず、複数の役割を組み合わせて活動していることも少なくない。また、所属や提携先、権力からどれほど離れているのかによって分類化することもできる。政府出資が中心となっているもの、あるいは政府や政党と提携しているもの、企業出資で成り立っているもの、大学に所属するもの、市民社会の一環で作られている非営利団体などである。
いずれのモデルであろうと、その財源が、組織の方針や活動を理解するためひとつの鍵となろう。シンクタンクの多くは財源を正確に公開しておらず、公開情報から十分な情報を入手することは容易ではない(※2)。しかし、公開情報の中から、軍や軍需産業から流入している資金規模がみえてくる。例えば、2014〜2019年に最も影響力のあるとされる50のアメリカのシンクタンクは、米軍と他の安全保障関連政府機関や軍需産業から少なくとも10億米ドルの資金を受け取っていたことが2020年の調査で明らかになった。
政府や軍需産業、そしてシンクタンクの資金的つながりは、さらに具体的なレベルでもみられる。例えば、アメリカのCNASは戦場における軍事請負企業(民間軍事会社)を高く評価する報告書を2009年に発表したが、同時期に複数の民間軍事会社から資金を得ていた例がある。また同シンクタンクはボーイング社やロッキード・マーティン社から資金を受け取りながら、これらの企業への融資を促す報告書を2019年に発表していたことも判明している。
こうした資金的関係は、一国内にとどまらず国境を超える。例えば、イギリスのIISSは活動の財源を公表していないが、その予算の少なくとも4分の1はバーレーン政府から流入しているともいわれており、これがイエメンや湾岸諸国に関する研究に影響を与えているという指摘がある。サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールなど他の湾岸諸国も、自国への論調や政策に影響を与えようと、複数のアメリカやイギリスのシンクタンクに資金提供をしている。台湾も同様に、中国への政策などをめぐり、アメリカのシンクタンクに資金提供している。中国も他の国のシンクタンクに資金提供し始めているが、現時点で、その規模は比較的に少ない。

バーレーンの出資で行われたIISS主催のアメリカの中東政策に関する会議で演説するジェームズ・マティス米国防長官(当時)(写真:U.S. Secretary of Defense / Flickr [CC BY 2.0])
政府がシンクタンクに資金提供するメリットは様々だが、大半は、自らが掲げる政策や予算配分に対し議会や国民の支持を獲得することにあるだろう。政府からの「独立」の立場をとっているように見えるシンクタンクによる「研究」が、政府の政策案の必要性を裏付け、政府の正当性を高める。軍需産業を担う企業もまた、政府に働きかけるためにシンクタンクに資金提供する場合があると考えられる。自社開発・製造の兵器の必要性や有用性を主張する際にシンクタンクがその主張を後押しすれば、やがて兵器の採用や開発のための融資の意思決定に関わる政府関係者の耳に届く可能性がある。兵器の販売に直結していない場合でも、政府関係者とのコネクションが増えるだけでも価値があるようだ。
そうした中、シンクタンクは、財源を安定・増加させるために政府や軍事関連会社から資金を得る必要があり、そのために求められる研究活動を行い、政府や軍事関連会社の意向に沿った見解や分析を発表する傾向にあると考えられる。
構造的問題:シンクタンクの人材
財源の他に、シンクタンクが採用する人材からも組織の方針や利害関係が垣間見える。政府・軍と軍需産業と同じように、政府・軍とシンクタンクとの間の人材の流れは「回転ドア」に例えられる。シンクタンクで政策について研究・助言を行う研究員は政府にとって即戦力になり、行政に転職する研究員も多い。国によっては野党が与党に変わると、新与党と関係が深いシンクタンクで「待機」していた研究員が政府に吸い込まれていく傾向もみられる。アメリカでは共和党にも民主党 でもみられるパターンである。
逆に、シンクタンクは元政府関係者や退役軍人の受け皿にもなる。例えば、アメリカ、ドイツ、日本などでは、安全保障問題を扱うシンクタンクの役員には退役軍人や元自衛官の姿が多くみられる。またシンクタンクに現役軍人などの出向も行われることもある。

日米安全保障に関する会議で登壇するCSIS、日本国際問題研究の関係者(写真:CSIS / Flickr [CC BY-NC-SA 2.0])
またシンクタンクは、セミナーや研究会の開催、報告書などの刊行といった研究活動を通じて外部組織とのネットワーキングを行い、現役の役人や元政府関係者、国内外の軍人や自衛隊員、軍需産業の関係者、大学教員などと協力・連携する。例えば日本では、2022年に笹川平和財団は台湾海峡有事に関する書籍を刊行しているが、その大半の著者は自衛隊に所属していた経歴を持ち、なかには現職で武器メーカーの顧問などの肩書を持つ者もいる。
シンクタンクの「回転ドア」は、シンクタンクにとっても様々なメリットをもたらす。シンクタンクの研究員が政府のポストに転職すると政府とのつながりが強まり、その政策に影響を与えることができる可能性が高まる。また、政府や軍でキャリアを積み上げてきた人をシンクタンクの職員として採用することで、政府・軍とのつながりも強まり、ネットワークの拡大が見込める。現役の政府・軍の関係者へのアクセスが増え、研究プロジェクトなどを通じた資金調達にも役立つ。
しかし、政府と一定の距離を置いているはずのシンクタンクから、政府や軍需産業が好む研究成果が生まれるという状態は、シンクタンク内で研究員の研究が抑圧され自由な発言ができない結果とは考えにくい。自国の軍事力強化や他国に対し強硬な姿勢をとる必要性を強調する個々の研究員は、シンクタンクに所属する前から同じ見解を持ち、それが自国にとっての賢明な政策だと信じ込んでいるという可能性が高い。シンクタンク側も、採用段階でクライアントやドナーの求める研究事業を、能力的にも思想的にも果たせる人材かどうかをまず見極めるだろう。同時にシンクタンク内で誰にプロジェクトを任せられるのか、誰を昇進させるのかといった決断などにおいても、研究者の持つ思想が考慮されるだろう。権力は思想を同じくする有能な人材を歓迎し、一方権力が集中しているところに群がる人々はそこに浸透している思想に同化されていく。
軍産・シンクタンク複合体を超えて
これまで見てきたように、世界では、戦争と平和、安全保障上の問題において政府・軍、軍需産業、シンクタンクが影響し合い、ひとつの複合体となっている傾向がある。他のアクターもこの仕組みに関係している。シンクタンクでは、組織の研究活動に適した大学教員などに声がけし、客員研究員や研究プロジェクトのメンバーに任命するケースも多い。
報道機関もまた、シンクタンクとの関係が深い。メディアが提供する情報や主張を裏付けるためにシンクタンクの研究員の見解を引用したり、インタビュー記事や寄稿記事など、その見解が前面に出される場合もある。客観的な事実を追求しているはずのメディアにとって、政府や軍需産業に近いシンクタンクとその研究員から得る見解は、様々なバイアスや利害が関わっている可能性が高く、本来なら過度に研究員の見解に頼るべきではないだろう。しかし、例外が極稀にみられるものの、報道機関がシンクタンクの研究員の見解を紹介する際、「このシンクタンクは政府・軍需産業から資金提供を受けている」などの注意書きを入れることはほとんどない。単に客観的な「専門家の見解」として鵜呑みにし、報道しているのが現状である。

武器見本市に展示されるミサイル。ウクライナ(写真:VoidWanderer / Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0])
アメリカでは、このように「軍産複合体」や「軍産・シンクタンク複合体」の枠を超えて拡大するネットワークのことを、一部では「軍産・議会・諜報・メディア・アカデミア・シンクタンク複合体」(MICIMATT)と呼ぶ。「軍産プロパガンダ複合体」とも言う。
呼び方はどうであれ、世界の軍事・安全保障を取り巻くステークホルダー間には、国際関係における問題や紛争に対して、脅威を強調し、対立の増幅と軍事力強化を促す「生態系」が存在すると言えよう。それはステークホルダー間で示し合わせたり権力によって言論が統制された環境というより、金銭的なインセンティブを含み、様々な組織の様々な利害が絡み合って成り立っている環境だ。その中でのシンクタンクの存在は、決して小さいものではない。
※1 戦後日本は、憲法のもと「専守防衛」の立場をとっており、保持する部隊を国防軍や軍隊と呼ばず自衛隊としている。そのため日本政府は、一般的な軍事予算を「防衛予算」としているが、当該予算は、自衛隊員の給与や戦闘機、軍艦、戦車等の軍事装備の購入やメンテナンスなどに使われていることから、他国の軍事予算の使途と同様であることから、本記事では防衛予算は事実上の軍事予算であるとみなし、アメリカなど他国の表記を統一して「軍事予算」と表記している。
※2 例えば、日本国際問題研究所のウェブサイトでは「研究所概要」のページの一番下に「組織・財源」の項目があるが、他の文章より小さなフォントで「財源は政府その他からの調査委託契約収入、会員からの会費収入、出版物収入及び特別の助成収入を主体とする事業収入からなっています」とだけ書かれている。「情報公開資料」のページから各年の予算書を確認すると、財源の大部分は国庫助成金であることがわかるが、その他の受託収益などの財源はどこから得られているのか不明である。イギリス、カナダ、オーストラリアなどのシンクタンクでも財源に関する公開情報が大きく不足していることも指摘されている。アメリカのシンクタンクについては、ウェブサイトからドナーとおおよその助成金の規模をみることができるものもあるが、正確な財源に関する情報は明記されていない場合が多い。
ライター:Virgil Hawkins
軍産複合体は良くないものだと思いました。同時にその背景には構造的原因があり、改善が難しそうだと感じました。なぜなら構造は年月をかけて構築されたものだからです。
組織名に「平和」を入れながら、武器メーカーの関係者とコラボして書籍を刊行する笹川「平和」財団はすごい。
そろそろ「平和」を促進するふりをあきらめ、組織名を変更しよう!