全世界には、およそ11億人の喫煙者がいる。また、喫煙者の半分は、たばこが原因で死んでしまうという。今日、たばこは、健康を蝕む大きな原因だ。しかし、世界でたばこが引き起こす問題は健康被害だけでない。今回は、世界の様々なたばこ問題を見ていき、それらが報道されているかどうか確かめよう。

大量の使用済みたばこ(写真:PxHere)
たばこに関する基礎知識
本題へ移る前に、たばこの基礎情報を確認しよう。たばこの原料は、ナス科タバコ属の植物だ。FAO(国連食糧農業機関)の統計によると、2016年時点で、葉タバコは、6,664,238トン生産されている。主な生産国は以下のグラフの通りだ。生産量は、中国がとびぬけている。トップ10には、アジアが4か国、アフリカが3か国、南北アメリカが3か国ランクインしている。一方で、輸出量は、ブラジルが最も多い。さらに、生産量に対する輸出量の割合は、ジンバブエやアルゼンチンが9割以上となっている。
FAO(国連食糧農業機関)の統計をもとに作成
葉タバコは、様々な国の農家によって作られている。それを加工し、たばことして販売しているメーカーは寡占化が進んでいる。2016年時点で、5つのたばこメーカーが、世界市場の約80%を占めている。5社とは、中国国家烟草公司(中国)、フィリップモリス(アメリカ)、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(イギリス)、インペリアル・タバコ(イギリス)、JT(日本たばこ産業)だ。中国国家烟草公司は、国営企業であり、そのほとんどが中国国内での販売である。そのため、実際には、それ以外の4社がグローバルにシェアを獲得している。
たばこによる健康問題
たばこの問題と聞いて、一番に思いつくのは、健康問題ではないだろうか。WHO(世界保健機構)によると、たばこは、一年で700万人以上を殺している。そのうち、約89万人は、受動喫煙が原因で亡くなっている。たばこの煙には、有害物質が多数含まれている。その結果、肺がんや咽頭がんなどの多くのがんや心血管疾患、脳血管疾患等、様々な病気を引き起こす。また、人が吸うたばこには葉タバコ以外にも599もの添加物がメーカーによって追加されており、中毒性を高める働きをしていると思われるものも少なくない。
現在では、従来の紙巻きたばこに代わり、電子たばこを利用している人が増えている。その理由は、電子たばこは、従来のたばこより害が少ないと言われているからだ。実際、発がん性物質の数は従来のものより少なく、受動喫煙者への影響も少ないという報告がある。しかし、長期的な身体への影響はまだ不明な点が多い。最近の研究では、電子たばこの蒸気が免疫細胞を破壊する可能性があることが明らかになった。
タバコ畑で健康と教育の機会を奪われる子どもたち
たばこによって健康的な生活が失われているのは、喫煙者とその周りにいる人々だけではない。生産者もまた、被害者なのだ。その根底にあるのは、貧困の問題だ。大手たばこメーカーが葉タバコを仕入れるとき、収穫した葉タバコの出来を評価し、値段をつけるというシステムがある。つまり、タバコの葉を買う側が生産農家に対して支払う額を決めるのだ。この構造は、生産者に対する搾取につながる。大手メーカーが価格を低く設定するため、生産農家たちは十分な収入を得ることができない。そうして、生活に困窮する農家たちは、自分の子どもたちを畑仕事に動員せざるを得ないのだ。

マラウィの首都リロングウェにおける葉タバコのオークション(写真: Guillaume Kroll/Flickr [ CC BY-NC-ND 2.0])
タバコ畑での児童労働は、深刻な問題である。子どもたちの労働環境はとても危険だ。タバコ畑で働いている子どもの多くは、吐き気、頭痛、めまいなどの症状に悩まされている。こうした生産者の症状は、生葉タバコ病と呼ばれている。皮膚からニコチンを吸収するため、急性ニコチン中毒になってしまうのだ。また、青年期の子どもたちが長期間ニコチンにさらされていると、脳の発達に悪い影響が出る恐れがあるという報告もある。葉タバコ生産者は、年齢を問わず、こうした体調不良に直面しているが、か弱い子どもへの悪影響は特に深刻だ。
また、児童労働は、子どもたちの教育の機会も奪う。タバコ畑で働かないといけないため、学校にいけない子がいる。そして、生産国の中には、教育が受けられないために、搾取と貧困から抜け出せない貧困国もある。その一つがマラウィだ。
マラウィは、タバコの輸出で国の経済を支えている。98%以上の低価格の葉タバコを先進国に輸出し、そのほとんどの行き先が、フィリップモリス、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ、JTインターナショナル(※1)だ。こうしたタバコの売り上げが、国の収入の70%を占めている。このような国の経済状況から、安いタバコを大量生産するために、子どもたちは労働を強いられている。この状況に対して、マラウィ政府は、児童労働を禁止する国際条約に署名するなど、児童労働を解決しようとしている。大手のたばこメーカー各社は、児童労働をなくすための基金に寄付しているというが、根底にある貧困構造を改善しなければ、問題は解決しないだろう。実際のところ、ILO(国際労働機関)によると、タバコ畑での児童労働は減るどころか、増えている。
市場開拓?狙われたのは…
たばこ業界は、新たな市場を開拓しようと奔走している。その新しいターゲットとは、学校に通う子どもたちだ。22か国以上で行われた調査によると、学校の近くでたばこが販売されたり、宣伝されたりしていることが分かった。学校近くの売店には、お菓子やジュースの近くなど、子どもの目につきやすい場所にたばこやたばこの広告が置かれている。インドネシアでは、校門から見えるところに、たばこブランドの巨大なバナー広告がある店が連なっている。そのうちのある店の店主によると、たばこ会社の人が、バナーと1カートンのたばこを無料で提供したそうだ。このような状況では、若者の喫煙につながる危険性が大いにある。

インドの学校におけるたばこ反対キャンペーンのようす(写真:Justicekurup/Wikimedia commons [CC BY-SA 3.0])
また、アフリカや中東などの発展途上国も新たな市場として目をつけられている。先進国では、たばこ規制が進んでおり、喫煙者は減少傾向にある。しかし、途上国では、たばこメーカーが様々な手段を使ってたばこ規制を阻止しようとしているのだ。例えば、ブリティッシュ・アメリカン・タバコがケニア、ブルンジ、ルワンダ、コモロ諸島の政治家や官僚に賄賂を渡していたという内部告発があった。また、2018年の8月、南アフリカでたばこ規制法を強化する法案が提出された。そのことに対して、JTインターナショナルは、Facebook やラジオ広告や看板などを使って、法案に反対するキャンペーンを実施した。

南アフリカのたばこ規制法強化に反対するJTインターナショナルの看板「喫煙して刑務所行きになったらどうする?」(写真:Virgil Hawkins)
たばこメーカーの訴訟問題
先述したように、たばこ規制を強化している国が増えている。これに対し、たばこメーカーは、規制を緩和させるため、様々な国で、訴訟を起こしている。2011年、フィリップモリスは、オーストラリアのパッケージ規制に対して法的措置をとった。このパッケージ規制とは、すべてのたばこパッケージからブランドのロゴマークを撤廃し、代わりに健康被害を警告する写真を載せることを命じるものだ。香港に拠点を置くフィリップモリス・アジアは、この規制がオーストラリアと香港の2か国協定に違反するとして法的措置をとったが、2015年に、オーストラリア側が勝利した。また、2010年、フィリップモリスは、ウルグアイの厳格なたばこ規制法により経済的な損失を被ったとして、損害賠償を求めた。2016年に、世界銀行の仲裁裁判所である投資紛争解決国際センターは、フィリップモリスの要求を退け、反対に、裁判費用など700万ドルをウルグアイに補償するよう命令した。そのほかにも、タイがパッケージ規制を導入することに対して、JTインターナショナルが訴訟を起こしたりしている。さらに、貧困国に対しては、訴訟をちらつかせて、たばこ規制法の導入を断念させようという動きもある。金と時間のかかる裁判は、貧困国にとって大きな負担となる。たばこメーカーはその点を利用し、圧力をかけているのだ。
紛争地域とたばこ
紛争地域では、たばこが武装勢力の資金源となっている。北アフリカでは、たばこの密輸額が10億ドルにものぼるという。これによって、例えば、イスラム過激派のグループ、イスラーム・マグリブ諸国のアル=カーイダ機構とその関連武力勢力が多額の資金を得ている。これらの地域では、たばこの密輸はそれほど深刻に捉えられておらず、規制が甘い。そのため、武装勢力や過激派グループは、低リスクで密輸できるのだ。
紛争地域で問題となるのは、密輸だけではない。たばこメーカーによる紛争地域への不正輸出もしばしば問題になる。2011年、JTインターナショナルがシリアのアサド大統領のいとこの企業と国営企業にたばこを輸出し、制裁違反の疑いがあるとして、EUの調査を受けた。JTは、違反事実はないと否定している。
たばこに関する報道量
ここまで、たばこに関する様々な問題を見てきたが、これらは日本で報道されているのだろうか。大手全国紙3社(朝日、毎日、読売)を対象とし、2008年8月から2018年7月の10年間のたばこに関する国際報道の文字数を調べた(※2)。10年間の報道量は、73,895文字だった。記事数でいうと、各社が世界のたばこ問題について新聞に掲載しているのは、平均して年間5記事にも満たない。
それでは、少ない報道量の中、どのような観点から報道されているのだろうか。下のグラフは、たばこに関する報道量を分野別で表したものである(※3)。
最も報道されていたのは、国家やWHO(世界保健機構)による規制政策についてである。その中には、イギリスやエジプトのパッケージ規制などが取り上げられていた。次に多かったのが、社会情勢についてである。イギリスやオーストリアで、禁煙化により経営状況が変化している飲食店の話など、禁煙に対する社会の反応という内容が目立った。3番目に多かったのは児童労働だが、毎日新聞が特集記事として一度取り上げただけだった。その次の個人の喫煙禁煙習慣とは、オバマ前大統領の禁煙など、著名人の喫煙や禁煙について報じられたものだ。その次の企業の買収・統合に関しては、ほとんどがJTの海外企業買収についての報道だ。事件・裁判の項目では、JTによるシリアへの輸出やカナダへの密輸に関する内容が報道されていた。最後の若者の喫煙とは、喫煙者の低年齢化が問題視されているという内容だ。
結果として、たばこメーカーの問題行動というのはほとんど報道されていなかった。唯一、JTがシリアへの制裁違反を犯した疑いのみ報道されていた。なぜ、そのほかの問題は10年で一度も報じられなかったのだろうか。考えられる理由の一つとして、貧困国と国際報道の関係が挙げられる。日本の国際報道の傾向として、貧困国に関する報道量は少ない。しかし、今回取り上げたような問題は、主に貧困国で起こっているため、報道されにくいのかもしれない。また、たばこメーカーが新聞広告を出している場合、彼らを批判する内容の記事を掲載することは難しいのかもしれない。このことは、新聞以外にも当てはまる。JTは、現在、2つの大手報道番組のスポンサーになっている。テレビ朝日系列の報道ステーションとTBS系列のNEWS 23だ。JTが報道番組のスポンサーになっている以上、たばこが世界で引き起こしている問題を伝えることは困難だと思われる。
しかしながら、報道することで、たばこに関する発展した議論を促すことができる。最終的に、世界中のたばこによる害を減らすことにつながるのではないだろうか。

アヴィアーノ米空軍基地にて、禁煙キャンペーンの小包を配るボランティア(写真:Senior Airman Taylor Marr/ U.S. Air Force photo)
※1 JTインターナショナルは、JTの海外事業子会社。
※2 見出しに、「たばこ、禁煙、喫煙、葉巻、シガレット」のいずれかの文字列が含まれている記事で、発生場所が海外であるものを対象とした。
※3 基本的に一つの分野に分類しているが、一つに絞れない場合2つまで分類する。
ライター:Miho Horinouchi
グラフィック:Miho Horinouchi
JTなどが実施している児童労働関連のCSRはどう考えてもただのアリバイ作りに過ぎないでしょう。
JTの利益は葉タバコを作る貧しい農民の搾取にかかっているから、
本格的に児童労働を撲滅する方向に力を入れるわけにはいかないでしょう。
貧しい国に対してたばこ規制を強引にやめさせようとしている行動も本当に汚い。
このような記事をもっと広めないと。
たばこに関するGNVの最新記事はこちら→
「脱たばこを目指して:ヨルダン」:
//globalnewsview.org/archives/13382
タバコはナスカの植物だから体にいい