近年デジタル化や 若者の新聞、テレビ離れがすすみ、人々が情報収集ツールとして新たにインターネットやスマートフォンを利用する傾向が増えてきた。 しかし、スマートフォンの利用については、連絡手段やゲームなどさまざまな利用目的があり、ニュースアプリを利用している人は3割程度となっている。積極的にニュースを求める人が比較的に少ない中、多くの人がLINE、Twitter、Facebookなどのソーシャルメディア(SNS)アプリを通じてニュースを得ている傾向が見られている。
しかし、これらのSNSアプリが提供する報道では、世界はどのように伝えられているのだろうか?今回は日本で利用率がもっとも高いSNSアプリ、LINEが提供するLINE NEWSに着目し、その国際報道を探る。
LINE NEWSは、自ら報道活動をせずに、複数の新聞や通信社などの従来型のメディアからの報道をまとめて提供する仕組みとなっている。また、そのニュースをさらに絞り、朝昼夕に8個ずつ(※1)記事がLINE NEWS DIGESTという形で配信している。LINEによると、このDIGESTは、「編集部が厳選し“知っておくべき・話題になっているニュース”」となっている。 今回はLINE NEWS DIGESTを分析することにした。
国際報道の割合
それではLINE NEWS DIGESTにおける国際報道について見ていこう。今回は2017年の5月1日から2017年12月31日までの期間で分析を行った。4月中旬以前のデータはアクセスできなかったため、1年ではなく、8ヶ月の分析となっている。
まず全記事のなかの国際報道の割合を見てみよう。下図は全記事数に対する国際報道の記事数の割合を示したものである(※2)。
結果、LINE NEWS DIGESTの国際報道の8.3%であり、日本関連の国際報道を除くと7.8%であった。日本関連の国際報道とは日米関係に関する報道など、国際報道として分類するが、日本に関するものをさす。2016年度の新聞の国際報道全体の数値(朝日:11.7%、毎日:11.0%、読売:11.0%、いずれも日本関連の国際報道を含む)と比較しても、同じ期間ではないので一概には言えないが、LINE NEWS DIGESTは国際報道が少ないことが分かる。
地域別国際報道量
次に世界の地域別の国際報道量を見てみよう(※3)。下図がその結果である。
報道割合の多い順は、アジア、北米、ヨーロッパ、中南米、アフリカ、オセアニアであり、見ての通りアジア40.9%と圧倒的な割合を占めている。続いて北アメリカ、ヨーロッパといった先進地域の割合が多い。なんとこのアジア・北米・ヨーロッパの3つの地域だけで全国際報道量の90%を占めている。それに対し中南米・アフリカ・オセアニアの報道量の合計はたったの5.6%に過ぎない。新聞(大手全国紙3社の国際報道の文字数の合計)における地域別の割合と比較すると、割合の多い順に2016年はアジア46.5%、北米22.5%、ヨーロッパ17.6%、中南米3.8%、アフリカ2.1%、オセアニア0.5%であり時期が違うので比較しきれないが、概ねLINE NEWS DIGESTと新聞の傾向は同じである。
では次はもっと詳しく国別の報道量について見ていこう。
報道量上位10ヵ国
LINE NEWS DIGESTの国際報道の中で、報道量の多かった上位10ヵ国を示したのが下図である。右端の数値は国際報道の中でも日本と関連のある国際報道の量を示したものである。
アメリカに関する報道の量が極めて多いことが見て取れる。LINE NEWS DIGESTにおける国際報道のうち実に28%がアメリカに関するものである。その他を見てみると、アメリカに続いて北朝鮮(18. 7%)、イギリス(8.4%)、韓国、フランス、中国と東アジア諸国とヨーロッパ諸国である。なんと上位3か国だけで55.1%と半数を超え、上位10か国の合計は全体の報道量の75.0%を占めている。一方、2016年度の新聞における報道量の多かった上位10ヵ国はアメリカ、中国、韓国、北朝鮮、イギリス、ロシア、シリア、トルコ、台湾、フランスであった。2015年はアメリカ、中国、フランス、韓国、ロシア、ギリシャ、シリア、ドイツ、ミャンマー、イギリスの順番であった。テロやクーデター未遂、選挙などによって一時的に報道量が伸びたトルコ、台湾、ミャンマーなどを除けば概ね例年同じような国ばかりである。
さて2017年はどのような出来事が注目されただろうか。アメリカではトランプ氏やアメリカ政権の言動に関心が集中していた。その他米イージス艦との接触事故やパリ協定離脱などに関連する記事も目についた。また北朝鮮のミサイル発射についての報道も多く、それをめぐる各国の対応や首脳会談、国連安保理の対応についても注目が集まった。イギリスではロンドンでテロや住宅火災が起こったため、大々的に取り上げられていた。フランスは大統領選関連の記事が多かった。このように上位10か国は日本の安全保障上重要視されている国や、先進国ばかりで、それらの国で起こった軍事関連の出来事やテロの情報、選挙について多く報道されている。
では上位10か国に入っていない中南米やアフリカ、オセアニアではどのような出来事がニュースになっているのだろうか。中南米地域の報道15記事のうち9記事がメキシコに関するもので、全て地震に関するものであった。またアフリカに関する9記事のうちテロ関連は4記事であった。このようにただでさえ、報道が少ない地域にも関わらず、その大部分が大きな災害があったり、テロが起こった国に偏ってしまって多くの国には注目が向くことがないようだ。
分析を終えて
充実した国際報道を妨げるものとしては、紙面や放送時間の制約が挙げられるが、オンラインによる発信は従来のメディアよりもコストが安く、制限もないのでより多くのニュースを取り上げることができるようになった。これによって、国際報道の量を増やし、偏りも小さくするチャンスとも考えられる。しかし実際のところ、LINE NEWS DIGESTをはじめとするオンラインによる発信も従来のメディアから記事を選んできているため、新聞と同様、国際報道の割合は少なく、報道されても報道される地域、国に偏りが同じように残っている。
ニュースを積極的に求めていない人が増えている問題も以前として大きいものの、LINE NEWS DIGESTはLINEという連絡手段のついでにニュースを確認できるため、手軽で多くの人に利用され、世の中での存在感を増している。しかし、オンラインニュースに移っていっても現状だと、人々の知る世界も偏ったものになってしまう恐れがある。国際報道のあり方についての再検討を求めたい。
※1 写真入りの大きな記事が1つ、写真入りの中ぐらいの記事が1~2個、見出しだけの記事が5つという構成になっている。
※2 各社のオンラインデータベースを参照した。国際報道記事の定義についてはGNVデータ分析方法【PDF】を参照。
※3 地域は、UNSD(United Nations Statistics Division、国連統計部)の基準に従い、アジア、アフリカ、オセアニア、ヨーロッパ、北米、中南米の6地域に分けた。
ライター:Sayaka Ninomiya
グラフィック:Sayaka Ninomiya