ハンガリーの調査報道機関である、オンラインジャーナリストポータルであるアートラーツォー(Átlátszó:透明性)は、同国のメディアをめぐる最新の変化についての大規模な調査を実施した。そして2022年8月、アートラーツォーは調査結果に関する記事を発表した。そこでは、ハンガリーの首相であるヴィクトル・オルバーン氏の、メディアに対する影響力が次第に増大していること、そして、政府を支持するメディアの集権化度合いを批判している。
これに対し、2023年1月4日13時46分、19もの著名なオンラインニュースポータルが一斉に、アートラーツォーを批判する同内容の記事を掲載した。その後も、アートラーツォーとその編集長に対する誹謗中傷が、数週間にわたって継続して行われた。内容としては、彼らがハンガリーに対する反逆行為や、外国の利益のために働いており、国家安全のリスクとして対抗しなければならない、というものである。これは、ハンガリーのメディアの多くが中央集権的な特徴を持ち、現政権に好意的である状況をそのまま表わしているように思われる。
さて、ハンガリーのメディアは、このような状況に至るまでに、どのような経緯を辿ったのであろうか。どのようなステップを経て、この国のメディアは現在のような状態になったのだろうか。この記事では、ハンガリーのメディアの歴史と、現状を取り巻く問題を探っていく。

ハンガリーの放送局のマイク(写真: Pxfuel [Terms of use])
ハンガリーの歴史
ハンガリーは、1,000年以上前から続く複雑な歴史を持つ国である。ハンガリー人は最初、9世紀後半にカルパチア盆地に定住し、西暦1000年ごろには強大な王国を築いていた。
当初は繁栄を極め、ハンガリーは周辺地域の中でも際立つ大国として、ヨーロッパの政治や文化において大きな役割を果たした。しかし、16世紀半ばのオスマン帝国による征服により、その勢いは下火となった。1699年にオスマン帝国の占領が終わると、ハンガリーは約200年間独立を維持したが、その後再び支配を受け、最初はオーストリア・ハンガリー帝国の一部として、その後、ハプスブルク君主国内の王国として統治された。19世紀にはハンガリー民族主義が台頭し、ハプスブルク家に対して、より自由な自治を求め、結果的に、第一次世界大戦末期の1918年にハンガリー独立共和国の樹立を成し遂げた。
第二次世界大戦後は、ハンガリーはソ連の支配下となり、1949年には共産主義国家となった。そして、ソ連と密接な関係にあったハンガリー社会主義労働者党が国を統治していた。この時期に農業・工業の集団化や中央計画経済の確立など、経済・社会が大きく変化した。1956年に共産党政権に対する民衆蜂起が起こったが、ソ連軍によって鎮圧され失敗に終わった。それから1991年のソ連崩壊まで、ハンガリーでは、さらに過酷な弾圧と孤立の時代が続いた。
しかしソビエト連邦が弱まるにつれて、1990年に初めての自由選挙が実施されるなど、ハンガリーは民主的な資本主義体へとに移行した。ソ連統治時代、ハンガリーは「最も幸せな兵舎(※1)」と呼ばれ、西側諸国は、旧ソ連圏の国々の中でも、ハンガリーが自分たちの勢力圏に入ることを期待していた。ハンガリーは、1999年に北大西洋条約機構(NATO)、2004年に欧州連合(EU)に加盟し、欧米諸国に接近する姿勢を見せた。しかし、自由市場経済への移行にあたって課題がなかったわけではない。中央計画経済から市場経済への移行は、すなわち、国有企業の民営化、産業の規制緩和、市場ベースの価格設定の導入を意味している。そのため、初期は高インフレを起こし、1990年代には多額の対外債務を抱えることとなった。1995年には、その債務は国内総生産(GDP)の80%近くに達し、このことは、将来の政策に影響を与えている。
ハンガリーのニュースメディア
このような歴史から見ても明らかであるように、ハンガリーは約1,000年の歴史の中で様々な弾圧を受けており、また近年でも政治的な混乱が続いている。このことは、ハンガリーのニュースメディアのあり方に影響を与えているのである。19世紀以降、ハンガリーを支配する外国政府は、ハンガリーにおける報道の自由を厳しく制限した。ソ連の影響を受けた共産主義政府は、メディアについて、共産主義のイデオロギーを広める上で、国内での異論や反対意見の出現を防ぐための重要な道具とみなしていた。
しかし、ハンガリーでは、1991年のソビエト連邦崩壊より前の1989年から変化は起こっていた。ソ連による検閲を廃止することで、表現の自由を含む基本的人権を保障する新憲法が制定されたのである。しかし、それと同時に商業広告が導入され、これによりメディアは、視聴者の注目を集め、収入を得なければならないという新たな圧力を受けるようになる。これが、よりエンターテインメント志向の考え方にシフトさせ、ハンガリーのジャーナリズムの質が損なわれることとなった。
1996年に、メディアに関する法律が導入され、より大きなメディア多元主義を促進する枠組みが誕生した。この法律では、ラジオとテレビの放送局に対するライセンス獲得の要件、所有権の集中に対する制限、コンテンツに関する規則が導入されている。また、政府から独立した新しい規制機関である国家ラジオ・テレビ委員会(ORTT)が設立され、放送の監視と新しいメディアへのライセンス付与を担当することになった。またこの法律は、ハンガリーのテレビとラジオの両方に公共放送のシステムを確立し、質の高い番組を提供することを義務付けた。
オルバーン政権の台頭
ヴィクトル・オルバーン首相はフィデス党(※2)の党首であり、1998年に政権を獲得し、2002年まで任期を1期務めた。オルバーン首相は任期中、経済成長の促進を目的とした減税や民営化、ハンガリーの文化や歴史の振興に焦点を当てた一連の民族主義的な取り組みなどの政策を実行した。これらは多くの議論を呼ぶものではあったが、当初は持続的な経済成長と失業率の低下をもたらすなど、成功を収めた。 一方、その社会政策には懸念もあった。特に、少数民族(主にロマとユダヤ人のコミュニティ)の扱いや、メディアと市民の自由に対するアプローチについて論争があった。

ヴィクトル・オルバーン首相(写真:European People's Party / Flickr [CC BY 2.0])
ハンガリーの政治が二極化し(※3)、野党への投票率が低い状態の中、フィデス党は2002年の選挙で敗北した。しかし、第1次オルバーン政権は、間違いなくハンガリーの大きな変化と変革の時期であり、この先もハンガリーが変化し続けるための土台を作った。そして、2010年にフィデス党は政権に復帰した。
2015年には、IS(イスラム国)が台頭し、武力紛争から逃れたイラクとシリアからの難民がヨーロッパに大量に押し寄せた。これは「難民危機」として知られているものである。国境管理、EU加盟国の難民受け入れ責任、危機対応におけるEUの役割などの議論を加熱させ、2010年代の欧州政治における大きな争点のひとつとなった。
オルバーン氏率いるハンガリー政府は、この問題に対して強気な姿勢を示し、難民の受け入れに断固反対した。同政権がとった最も顕著な行動として挙げられるのは、2015年に、難民や移民の流入を阻止することを目的として、同国南部のセルビアとの国境沿いにフェンスを建設し、この行動はEUの西側諸国の強い批判の的になった。
ハンガリー政府がとった姿勢は、EUが提案する難民割り当て制度(※4)に明確に反対するものであった。ハンガリーは、同国と同様の姿勢をとる他のヴィシェラード・グループ(V4)諸国(※5)と緊密な関係を築き、EUが難民割り当て制度を強制的に課そうとするのは権力の濫用であると表明した。この姿勢は、フィデス党が加盟していたキリスト教民主主義の欧州人民党(EPP)(※6)との対立を招き、民主的価値と法の支配に反するフィデス党の取り組みに対する懸念を理由に、2019年にフィデス党の加盟停止という結果に至った。

ハンガリー・セルビアの国境線で建てられたフェンス(Bőr Benedek / Wikimedia Commons [CC BY 2.0])
EUがハンガリーに対して難民割り当て制度などを導入したことに対し、フィデス政権は「ストップ・ブリュッセル」キャンペーンを開始した。これは2015年から始まった、長きにわたって行われている運動であり、特に2017年5月の欧州議会選挙前に活発化し、看板やパンフレットやテレビCMなどの広告が全国に出回った。それらには、政府の反難民政策に関する一連の誘導ともとれる質問と提案が書かれていた。また、国境における締め出しを厳しく行わない国の状況が悪化していることを示すデータも多数掲載され、難民の受け入れがいかに国にとって危険なものであるかを示唆した。
このキャンペーンは、野党や国際的な市民団体からの批判を浴びた。また、ハンガリーはEUの資金を受け取り、それを使用していながらも、同時にEU政策に反対しており、一方では、国民が直面している他の問題から目をそらすために世論を操作しようとしているという批判も受けた。 独立したメディアや市民社会組織への攻撃も、メディアの自由や情報環境全体に対する攻撃と見なされていた。
結論としては、フィデス政権は2010年代後半の難民危機に関して、EUの意向に逆らうというリスクの高い道を歩んでいた。しかし、2018年の選挙ではフィデス党は全体の3分の2の票を獲得し、これより数年間は連立政権を組むことなく国民投票を通過させることができ、ハンガリーにおける政権への対抗は極めて困難となるなど、政権にとって有利に働いたようだ。
メディアに対する政府からの圧力
2010年、オルバーン氏率いる政府は、ハンガリーメディア法を制定した。この法律は、物議を醸した。具体的には、ハンガリーのメディア産業を規制することを目的としていたため、報道の自由を制限する可能性があり、透明性に欠けるとして多くの人から批判されたのである。

記事をまとめるジャーナリスト(写真:European Parliament / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0] )
この法律の主な規定は以下の通りである。1)ORTTに代わって、ハンガリーのメディア産業の規制を監督する国家メディア・情報通信庁(NMHH)を設立し、NMHHは、法律違反が発覚したメディアに対し、罰金やその他の制裁を課す権限を持つ。2)すべてのメディアがメディア評議会(※7)に登録され、所有権と資金源に関するすべての情報を開示する必要がある。 3)メディア機関が放送できるコンテンツを規則する。4)特定のコンテンツを禁止する一方で、他のものに関しては割当を設け、表示できるコンテンツの一部を定義する。5)国家安全保障に関する報道など、特定のケースでジャーナリストに情報源の開示を義務付ける。これら5つである。
この法律の導入を受け、ハンガリーのメディア産業に対する政府の支配力が強すぎるため、反対意見を抑圧し、報道の自由を制限するために利用される可能性があると批判する者もいた。 メディア評議会は、その透明性の欠如や、政府からの独立性が十分でないことでも批判されている。コンテンツの規制や、ライセンスや周波数の付与、メディアの所有権に関する基準やルールが明確に定義されていないことも問題視された。法律はその権限をNMHHに与えており、政府によるトップダウンの直接的な干渉を容易にする恐れがあると指摘された。
これらの批判にもかかわらず、ハンガリー政府はこの法律を擁護し、メディア産業が責任と透明性をもって運営されることを保証するために必要なものであると主張した。 最終的にこの法律は、2016年にメディア評議会に関連する部分で改訂され、2021年には「反小児性愛者」法を導入する機会に再び改訂された。
2021年3月4日、ハンガリーのメディア規制機関NMHHは、LGTBQ(※8)の家族に対する認知度と受容を高めることを目的とした広告をテレビで放送したRTL ハンガリーメディアグループに対して法的手続きを行った。同テレビ局は、ハンガリーに残存する、政府から独立した大手テレビ局のひとつである。規制当局は、視聴者からの苦情に基づき、RTLに対して正式な手続きを開始したと主張している。2020年12月に初めて放映されたこの広告は、LGBTQのカップルや個人が、オンラインに投稿された同性愛嫌悪のメッセージに反応する様子を映し出している 。この広告は、ハンガリーにおけるジェンダー平等を促進し、同性愛嫌悪に取り組むための大きな運動のひとつとなるはずであった。最終的にメディア評議会と裁判所は、RTLに対し、およそ4万ユーロ相当の罰金を課した。
2021年のRTLに対する法的措置の後、新たなメディア規制法が作られた。ハンガリーでは、子どもの安全と自然な発達を守ることを目的として「反小児性愛者法」が成立した。 この法律もまた物議を醸したものであり、内容としては、児童虐待や児童ポルノを取り締まることを目的としており、小児性愛者に対する罰則を強化し、児童虐待の被害者の保護を強化する条項が含まれていた。問題は、この法律にLGBTQコミュニティをターゲットにしていると見られる条項も含まれていたことである。この法律改訂により、メディアや18歳未満の未成年者が目にする可能性のある広告において、同性愛やトランスジェンダーに関する描写が基本的に禁止されたのである。

ハンガリーのメディア法の改訂を批判する欧州議会議員(European Parliament / Wikimedia Commons [CC BY 2.0])
この法律はEUからも非難され、EUはこの問題に関し、ハンガリーに対して法的措置をとった。しかし、ハンガリー政府は改訂案を擁護し、政府が出資する一連の広告に用いて、EUを再び批判した。
また、欧州評議会の人権委員は2021年に報告書「ハンガリーにおける表現の自由とメディアの自由に関する覚書」を発表した。ここでは、政府が管理するメディア規制当局がメディアの多元性や表現の自由に与える影響や、反難民プロパガンダを推進していることへの懸念を表明している。
メディアに対する政府の圧力は、法律や規制によるものだけではない。2022年6月には、EU諸国に勤務するハンガリーの外交官が、ハンガリー人ジャーナリストの国外メディア訪問を監視していることも明らかになった。 この監視は、ジャーナリストだけでなく、ジャーナリストに関連する機関についても及んでおり、特にフィデス政権に批判的な意見を表明している外国メディアには注意が払われていた。データはハンガリーに送り返されており、その一部は後にメディア「ディレクト36(Direkt36)」が入手し、明らかにしている。現在、監視が秘密裏に行われたことを示す証拠は無いが、政府の協働性と外交サービスの悪用には注目が必要とされている。
以上、紹介した法律などをまとめると、ハンガリー政府はメディアをコントロールするためにあからさまな検閲を行ってはいないが、ジャーナリストや報道室への圧力をゆっくりと、しかしながら着実に高めていったといえる。
メディアの自由に対する所有権の課題
ハンガリーのメディアは、政府からの圧力だけでなく、メディアの所有者の変化という課題にも直面した。これは、ハンガリーのメディア企業の大半を徐々に買収した者であり、かつオルバーン首相の個人的な友人である1人の人物と大きく関係している。その人物はローレンス・ミーサーロシュ氏(Lőrinc Mészáros)であり、彼は、長期間かつ多段階のプロセスを踏んで多くのメディア企業を買収していった。

フォーブズ紙に掲載されているローレンス・ミーサーロシュ氏(写真:László Bence Gergely)
ミーサーロシュ氏のメディア帝国は、2015年にたった1つのメディア企業しか所有していなかったのが、2022年には340以上のメディア企業を支配するまでに成長した。これらのメディアの多くは、政府のプロパガンダの道具として機能していると非難されており、報道される内容は、政府の政策を支持する方向に大きく傾斜している 。このため様々な意味で、ハンガリーのメディア多元主義は2014年以降、著しく悪化しているといえる。
ミーサーロシュ氏の権力拡大は急速なものであり、2010年以降、エネルギー分野や建設会社、メディアなどの企業を買収してきた。彼のメディア帝国の台頭は、ハンガリー最大の商業テレビチャンネルの一つであるTV2を比較的安く買収した2014年にさかのぼる。当時、TV2は財政的に苦境に立たされていたため、本来の価値の何分の一かの金額で売れたことは必然であるといえよう。
TV2の買収後、彼は地方の新聞社やラジオ局をいくつか買収し、保有するメディアはさらに増大した。現在、彼はハンガリー国内で約200の新聞社や雑誌社を所有している。これは、ハンガリーの新聞の60~70%に相当し、地方紙においては100%である。これらのメディア企業のほとんどは、ミーサーロシュ氏の所有するメディア複合企業(※9)の1つであるメディアワークス・ハンガリー・ズルト(以下メディアワークス)に属している。その後、2019年には、メディアワークスは自主的に、フィデス政権が創設したメディア評議会の監督下に置かれている。つまり、この国の新聞の大部分は、現政権に密接に関係する人々によって監督されていることを意味するのである。
ここから、ハンガリー政府がハンガリーの世論を形成するにあたって、間接的なメディアコントロールとプロパガンダをどのように利用したのか、そのパターンを伺うことができる。このプロセスは、ミーサーロシュ氏によるハンガリーのメディア企業の大規模な買収に始まり、その後の数年間でより強力なものとなった。
このグラフは、ハンガリーにおける各報道機関の、政府に対する姿勢の時間的変化を観察したものである。メディアワークスによる買収後、ハンガリーの地方紙は全て政府寄りなものへと変化した。地方紙に加え、政府寄りのメディアがラジオ市場や国内の日刊紙を支配するようになり、対して、政府から独立しているメディアは依然としてオンラインニュースポータルや週刊誌市場の多数を占めている。
印刷メディアの買収により、ミーサーロシュ氏は野党寄りの人気日刊紙ニープサバドシャーグ紙(Népszabadság)を含むハンガリーのいくつかの著名な新聞を所有することになった。しかし、2016年の買収直後、ニープサバドシャーグ紙は突然閉鎖され、政府がメディアにおける批判的な声を封じようとしているとの非難を浴びることになった。閉鎖は、同紙の所有者であるメディアワークスが発表したもので、閉鎖の理由として財務上の損失を挙げた。同紙の従業員には、同日、廃刊の知らせがあったが、依然としてメディアワークスのスタッフとして扱われていたため、守秘義務を負うこととなった。この廃刊は、ハンガリー国内で抗議運動を巻き起こし、国際的な非難を浴びた。
政府寄りのメディアはインターネット上にも進出している。かつて独立系メディアであったオンラインメディアプラットフォーム「インデックス」でも、所有者の交代によって、むしろ政府との結びつきが強くなり、地方紙と同様な段階を踏んでいる。2020年7月、インデックスの親会社であるインダメディアの株式の過半数が、ミーサーロシュ氏と関係を持つ企業に買収された。このうち後者の買収について、社員たちは、このメディアの独立性を脅かすものであると考えている。主要なジャーナリストの中には、抗議を目的としてインデックスを辞職した者もおり、インデックスに残ったスタッフたちは、独立したジャーナリズムに専念し続けることを表明し、新たな経営陣に対し、編集の自由を尊重することを求める公開書簡を発表した。
しかしながら、2020年9月、インデックスの取締役会が政府寄りのメンバーに交代し、むしろ同社のメディアとしての独立性に対する懸念がさらに高まる結果となった。この動きはすなわち、ハンガリーにおける報道の自由がさらに損なわれることを意味し、最終的には、ハンガリーの民主主義にさえ影響を及ぼす、という批判がなされている。

ハンガリーのオンラインニュースポータル、インデックス(写真:Virgil Hawkins)
元記者の話によると、検閲だけでなく、自己検閲も次第に行われるようになったようだ。報道の中心は、公共性のある中立的な話題から、政府による政策の成果に関する報道へと変化していった。編集長の賛同を得られないとみた話題は、ジャーナリストはもはや取り上げなくなった。
間接的ではあるものの、政府が多くのメディアを明らかに支配しているため、切り込み方には多様性がなく、多くのメディアが、ハンガリー政府の反難民・反EUの姿勢を宣伝し、難民や移民のことを、国家の安全や文化的アイデンティティに対する脅威としてしばしば描写している。こうした変化を受け、欧州議会は、2018年に採択した決議にて、ハンガリーにおけるメディアの自由と多元性が組織的に脅かされていること、および政府がメディアを利用して反難民・反移民のプロパガンダを流していることに懸念を表している。
ハンガリーでのメディア帝国の拡大に加え、ミーサーロシュ氏のメディア帝国がハンガリーだけでなく近隣諸国でも、ハンガリー政府の利益を促進するために利用され、その影響はジャーナリズムの独立性を脅かし、経済・政治工作によって、メディアの多様性を侵食しているという主張が表面化した(※10)。
2019年、ミーサーロシュ氏はクロアチアの新聞グループ、ハンザ・メディア(Hanza Media)の株式の過半数を取得し、国外メディアへの拡大を前進させた。この買収により、彼はクロアチアの著名な新聞社数社を支配することとなり、さらにそこに中央ヨーロッパ出版メディア財団(KESMA)が加わり、同国の新聞社数社とオンラインニュースポータルを取得している。
ミーサーロシュ氏は、ルーマニア、スロバキアでも、彼の子会社がいくつかの地元紙やポータルの株式の過半数を取得している。フィデス党と密接な関係にある複合企業と、それを取り巻く投資家たちの動きは、懸念を呼んでいる。

ハンガリーのメディアが主催するEU市民権に関する討論(euranet_plus / Flickr [CC BY-SA 2.0])
まとめ
当記事のまとめに移ろう。メディアへの規制やその他の政府主導の圧力が今日のハンガリーにおける報道の自由を損なうことにつながったと言えよう。しかし、現在の中央集権的なメディア状況を形成している最も大きな原因は、現政権と密接な関係にある個人によるメディア買収なのである。
現状を分析するに、ハンガリーのメディア事情はこの10年で大きく変化した。具体的には、政府はメディアを中央集権化し、政府から独立したジャーナリズムを抑圧する方向へと舵を切った。しかしながら、独立系メディアは完全に消滅したわけではなく、ハンガリー国内には、重要な問題を報道する独立系メディアが数多く存在している。そして、彼らの報道の自由を守り、かつ自由なジャーナリズムを支援している市民団体が、ハンガリーの報道に大きく貢献している。
※1 「最も幸福 」: 当時のハンガリーは、最も容易に海外旅行を行うことができ、欧米の製品や文化に最も早く触れることができたため、ソ連圏の国々の中で最も高い生活水準を持っていた。「兵舎」: 一党独裁体制で個人の自由がない状態を指す。
※2 フィデス(Fidesz):ハンガリーの中道右派政党。Fiatal Demokraták Szövetsége(フィデス=ハンガリー市民同盟)の頭文字を取ったものである。現在はFidesz-Magyar Polgári Szövetség(フィデス=ハンガリー市民同盟)となっている。
※3 ハンガリーでは、政党間で拮抗して対立していた。左派と右派で対立しており、敗者は政策決定における影響力を持つことができなかった。
※4 人口とGDPで計算される計算式に基づき、EUの加盟国に対し、一定数の難民を受け入れることを義務付けた制度。
※5 ヴィシェグラード・グループ(V4):チェコ共和国、ハンガリー、ポーランド、スロバキアの4カ国による文化・政治同盟。
※6 キリスト教・民主主義政党によって設立された多国籍組織。その政策は、同じくキリスト教・民主主義政党であるフィデス党の初期政策と一致する。
※7 NMHHの支援を受ける規制機関。NMHHのトップの任命によって構成される。
※8 LGBTQとは、レズビアン(lesbian)、ゲイ(gay)、バイセクシャル(bisexual)、トランスジェンダー(transgender)、クィア(queer) の頭文字をとったもの。
※9 ミーサーロシュ氏の所有する会社と密接な関係を持つ独立企業であり、2016年に国内の地方紙をすべて買収したのち、買収された。
※10 ルーマニアとスロバキアでは、子会社が複数の地元新聞社やポータルサイトの株式の過半数を取得している。
ライター:László Bence Gergely
翻訳: Ikumu Nakamura
グラフィック:Haruka Gonno