今日、アフリカの砂漠化問題がいっそう深刻化している。大陸面積の3分の2が砂漠地帯・乾燥地帯であるアフリカは、土壌劣化や干ばつによる影響を受けやすい。かつて生産性があり豊かだった土地の46%が今や劣化し、それによりアフリカ大陸の約65%の住民生活が危険にさらされており、2015年には2,000万人以上が食糧難に陥る事態となった。そのアフリカの中でもとりわけ砂漠化の影響が懸念されているのが、サヘル地域である。サヘルはアフリカ大陸のサハラ砂漠の南部に東西に広がる帯状の地域で、南の熱帯アフリカと北のサハラ砂漠の境を帯(ベルト)のように横断している。気候は半乾燥で、降雨量が少なく、土壌も肥沃ではないため、農業に適さない。

藁を運ぶ農民たち (マリ) 。写真:Ferdinand Reus ( CC BY-SA 2.0 )
こうした状況下でも、サヘルに住む人々は収入の大半を農業に頼っているため、生活が困窮し、飢えや栄養失調に苦しむ事態となっているのだ。実際、保健・教育・所得の3つの側面で人間開発の達成度を表す指標「人間開発指数」では、2015年(188カ国中)で、ニジェール188位、エチオピア186位、チャド185位、ブルキナファソ183位、マリ179位、エチオピア174位などとなっており、サヘルの国々の開発の遅れは明らかだ。また、サヘル帯は「飢餓ベルト」と呼ばれ、その地域に位置する国々の多くが食糧難に陥っている。例えば、チャドではサヘル帯に住む人口の約半数(200万人)が飢えに苦しみ、その4分の1が食料援助を必要としていると報告されている。
さらに懸念されるのが、サヘルの人口急増である。世界的に見てもサヘルは人口増加が著しく、現在約1億人である人口は、2050年には3億5,000万人に達するとされている。そうなれば、食料や天然資源の需要は増える一方であるが、逆に砂漠化により肥沃な土地は減り続けるため、将来的には、森林や草原のさらなる消失、住民の生活の荒廃といったリスクに繋がってしまう。
そうした中、サハラ砂漠の拡大を食い止めるべく、「巨大な緑の壁(The Great Green Wall)」プロジェクトが発足した。2007年にアフリカ連合(AU)により採択された同プロジェクトは、サヘルに位置する11か国(ジブチ、エリトリア、エチオピア、スーダン、チャド、ニジェール、ナイジェリア、マリ、ブルキナファソ、モーリタニア、セネガル)が共同でサハラ砂漠の南端に植林することで、砂漠の南進を防ぐとともに、サヘル地域における干ばつや食糧不足、貧困といった問題にも対処していくことなどを目標としている。この「巨大な緑の壁」は、アフリカ北部の西海岸に位置するセネガルから東海岸に位置するジブチまで約8,000km伸びており、それを植林帯として繋ぐ計画だ。21カ国のアフリカの国々をはじめ、世界銀行やフランス政府などが協力し、2015年12月のパリ協定で合意した国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)では40億ドルが拠出されることとなった。最終的な目標として、2030年までにアフリカの5,000万ヘクタールの土地の回復、2,000万人への安定的な食糧供給、35万の雇用の創出、さらには年間約2億5,000万トンもの二酸化炭素の吸収などが掲げられている。「巨大な緑の壁」とは、サヘル地域における諸問題にとどまらず、地球規模での温暖化対策にも取り組むことを目指す一大プロジェクトなのである。
AUや世界銀行といったサポーターの支援もあり、少しずつ成果も現れている。このプロジェクトを担う組織の担当者によると、今日までに「巨大な緑の壁」の約15%の植林が進み、サヘル地域の約400万ヘクタールの土地が回復した。例えば、セネガルでは1,100万本を植林したことによりかつて500万ヘクタールだった荒地が徐々に回復しており、エチオピアでは1,500万ヘクタールの土地が回復した。また、ナイジェリアの地方では2万人の仕事が創出された。
しかし、砂漠地帯の緑化は容易な作業とはいえず、「巨大な緑の壁」の取り組みが真に効果的なものであるかについては、疑問が出てきた。例えば、一部の科学者の間で、降雨量が増えているため、サハラ砂漠は拡大しているどころか縮小し始めているという意見がある。また、住民の生活が困窮する原因としては、気候変動などの気候的要因以外に、過剰な開発、持続的に土地管理ができていないことといった人為的要因があり、必ずしもサハラ砂漠の拡大が要因ではないとの見方も出ている。特にサヘルでは、住民に土地の管理能力が低い故に、新しく植林された80%の木が2ヶ月のうちに枯れてしまったとの報告もある。
さらに、アフリカの砂漠地帯における土壌劣化の原因の大部分は過放牧であるといわれており、特に過放牧や薪炭材の過剰摂取が多いナイジェリアでは、数年後には土地や社会経済のほとんどが崩壊してしまうことが懸念されるほど、過放牧が大きな問題となっている。
こうした状況下で植林をする、つまり「巨大な緑の壁」をつくること自体、無駄な取り組みであるかもしれない。もっと地域や村レベルで、効率的かつ持続的に可能な取り組みがあるのではないか。
最近では、「巨大な緑の壁」ではなく、代替案によって砂漠化に対処する動きが出てきた。例えば、ニジェールは最貧国の一つでありながら、農民たちは広大な乾燥地帯を蘇らせようと、わずかな予算でも刷新的な方法で取り組んでおり、事実、成果を生み出している。ここで使われている方法は、植物や木の根を復活させたり、土を半月型に掘って水を貯めるといった、ニジェールの土地に根付いた自然なやり方だ。実際に、洪水で退廃してしまった木々は数年かけて回復し、しかも今日でも状態が保たれている。こうしたやり方は、500万ヘクタールの土地と、2億本もの木々の回復をもたらしているのだ。この取り組みが今後も続けば、一年間で生産可能な穀物は50万トン増加し、250万人の人々に食事が行き届くといわれている。

アボカドの苗木を植える住民 たち(エチオピア)。写真:Trees ForTheFuture ( CC BY 2.0 )
こうした農民主体の自然再生運動に「巨大な緑の壁」プログラムのパートナーが注目し、その独自のやり方を同プログラムにも適応させようとする動きが出てきている。今、「巨大な緑の壁」が、再定義されようとしているのだ。巨大な森林の壁を築くのではなく、それぞれの地域の自然環境や農民の暮らしに適した緑化運動を寄せ集めたような、いわばパッチワークのようなやり方で、砂漠化に歯止めをかけ、サヘルの土地に大きな緑が戻ることが望まれている。それには、地域のコミュニティーが主体となり、湿地、農地、放牧地などそれぞれの土地を持続的に管理できる仕組みを模索しなければならない。低いコストで、それぞれの土地に根付いたやり方で、砂漠化問題に持続可能に取り組む必要があるのだ。
多くのサポーターからの協力のもと莫大な拠出金で植林帯を築く「巨大な緑の壁」プログラムと、各々の地域住民がそれぞれの土地に根ざした形で行う緑化に向けた地道な取り組み、どちらも目指す目標は同じである。「巨大な緑の壁」がより柔軟なアプローチへと転換し、その都度やり方を適応させていくことができれば、サヘルの将来の姿は、現在とは異なるものへと変化していくのではないだろうか。

コンピエンガ県 (ブルキナファソ)。写真:Breezy Baldwin ( CC BY-NC-ND 2.0 )
ライター:Kyoko Kuwahara
グラフィック:Kamil Hamidov
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300 300 80 のブロックで600mlです
植える種の下に埋めて植物の育成の手助けが出来ないでしょうか?
砂漠緑化の育成で YouTubeに保水実験の様子がアップしてるので見て下さい