中央アジアのトルクメニスタン政府は今年、新憲法を採択する見込みである。ベルディムハメドフ大統領が委員長を努める委員会が発表した草案では、大統領の任期が5年間から7年間に延長され、大統領候補の年齢制限(現在の憲法では70歳)も廃止されて、大統領の権力をさらに固める新憲法となる。議会は形式的には年内に承認する見通しである。
ソ連崩壊によって1991年に独立したトルクメニスタンの初代大統領のニヤゾフ大統領は個人崇拝を基軸に強権的に国家を支配した。政治・言論の自由を厳しく抑圧し、自身が終身大統領を務めるとも決定した。首都などに自身の巨大な銅像も建立した。さらに、数多くの奇妙な政策も打ち出した。オペラ、バレエ、録音された音楽の放送、インターネットの利用を禁じ、「月」や「曜日」を自分の家族の名前などに改名した。2005年には、首都以外での病院の閉鎖を命じた。

ニヤゾフ前大統領の銅像(写真:Velirina / Shutterstock.com)
2006年にニヤゾフが病死し、病院閉鎖の政策を実施する立場にあった当時保健大臣のベルディムハメドフが大統領に就任した。問題視されていたニヤゾフ前大統領が導入した極端な政策を解除し、ニヤゾフに対する個人崇拝も解体しはじめた。しかし、自身に対する新たな個人崇拝の傾向が見られるようになり、2015年にはベルディムハメドフ大統領の巨大な銅像が首都に建てられた。

ベルディムハメドフ大統領(写真:Deepspace / Shutterstock.com)
政治・言論に対する厳しい抑圧は依然として強い。毎年、世界各国民主主義の達成度をはかり、ランキングするエコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)(2015年)によると、トルクメニスタンは「独裁主義政権」であり、167ヶ国中、最下位に近い162位となっていた。NGOヒューマンライツウォッチは、トルクメニスタンの人権上の現状を「悲惨」なものと見なしており、数多くの拷問、強制失踪などの被害が確認されている。
しかし、トルクメニスタンにおける民主主義や人権問題をめぐり諸外国の政府からの目立った注目も批判もほとんど見受けられない。欧州(EU)はトルクメニスタンとの貿易協定に向けて、人権上の改善の条件を取り除き交渉を進めている。日本の安倍総理大臣は2015年にトルクメニスタンを訪問し、日本企業のさらなる進出のための協定を結んだ。

カスピ海の石油掘削装置 By www.dragonoil.com. [CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons
その背景には、トルクメニスタンが所有する豊富な天然ガスと石油があると言える。GDPの半分以上はエネルギー産業から得ており、特に天然ガスに関しては、世界の埋蔵量の9.3%を占め、世界第4位となっている。内陸国であるトルクメニスタンからの天然ガスと石油を運び出すルートも多くの国から注目され、取り合いになっている。トルクメニスタン政府との良好な関係を保つことによって、諸外国が資源へのアクセスやインフラ等の関連事業に参入する機会を確保できるという計算が働いているであろう。
2009年に中国をつなげるパイプラインが完成され、輸出先として中国はロシアとイランを上回るようになった。また、トルクメニスタンを東西に横断しカスピ海につなぐパイプラインが2015年に完成され、2019年までに欧州にもガスが届くようになる予定である。さらに、アフガニスタン、パキスタン、インドをつなげるパイプラインの建設も2016年から本格的に進められている。
諸外国の関心は経済的な戦略だけではなく、軍事的なものもある。2001年から続いているアフガニスタン戦争には隣国のトルクメニスタンがアメリカの後方支援の拠点のひとつとして空軍の給油役割を果たしてきた。アシガバート首都の空港にアメリカの空軍が駐留しており、基地が提供される可能性もあるとされている。
隣国のカザフスタンとウズベキスタンも石油、天然ガスとその他の鉱物資源が豊富であるが、トルクメニスタンと同じように、民主主義、人権において深刻な問題を抱えている。ウズベキスタンでは2005年に国軍による虐殺で700人以上が殺害されたとされている。2016年9月に独裁政権を長年維持したカリモフ大統領が病死したが、政治環境が改善されるかは不明である。中央アジア全体に於いて、天然資源のしがらみがある限り、民主主義と人権の現状の改善を諸外国政府が本格的に促すことは考えにくい。
トルクメニスタンは鎖国的な側面が強く、ジャーナリストが入国し、報道活動を行う事は困難ではあるが、現状を改善するには利害関係のない第三者の目を向けることが重要であろう。
ライター:Virgil Hawkins
グラフィック:JT-FSD