固定電話の時代から携帯電話が生まれ、スマートフォンが生まれ、ここ数十年でわたし達の通信手段は刻々と変わってきた。特にスマートフォンが誕生してからは、単なるコミュニケーション手段としてではなく、膨大でマルチなサービスが楽しめるもととして手のひらに収まっている。世界中で同じようにこのような変化が起きていると思えば、それはそうでもない。アフリカに目を向けてみると。そこでのモバイルの利用は他の場所とは一味違う道を辿ってきたようだ。例えば先進地域で電子マネー化が進んでいるけれど、アフリカではそれはとうの昔の話。人々の生活に密着する形で発展してきたアフリカでのモバイル利用、そのこれまでと未来に迫る。

携帯電話を使う人々 ウガンダ(Ken Banks/Flickr) (CC BY 2.0)
固定電話はなし。「モバイルオンリー」
下のような地図を一度は見たことがあるかもしれない。明かりが多く灯っている場所もあれば、そうでない場所もある。多くの農業従事者があちらこちらへ散らばって暮らしていたり、貧困が人々に蔓延していたりする広大なアフリカの土地で、電気を各家に通すのは簡単ではない。事実、サハラ以南で日常的に電気を使った生活を送るのは3人に一人で、そこに含まれない6億900万人が取り残されている。その状況化で各家庭に線を引く固定電話が普及するはずがなかった。

夜に宇宙から見た地球 (PROIIP Photo Archive/flickr) (CC BY-NC 2.0)
そこで2000年あたりから有線の電話を飛び越えて登場したのが携帯電話だ。通信のために一軒一軒線を通すよりも、一定程度の広さの地域に一つアンテナを立てる方が遥かに簡単なのだ。しかも例え自分の家に電気が通って無くても、電気がある親戚友達の家、街の「充電屋さん」で充電をすれば良い。ソーラー発電による充電も開発されて来た。こうして電話番号でメッセージをやり取りするSMSを中心に、シンプルな機能を備えたフィーチャーフォンが急激に普及した。しかし、使い方はメールだけではない。SMSを土台にした様々なサービスが人々に根付き、生活に変化をもたらしてきた様子を紹介する。
テキストメールだけではない、携帯電話を利用したサービス
- 電子マネー
昨今、電子マネー化が世界中で進んでいる。2006年から2016年にかけて、電子マネーサービスは世界で7つから277つに増えている。驚くことに、277のうち半数がアフリカのサブサハラ地域で誕生したもので、全世界のアクティブユーザー1億7,000万人の中でサブサハラでのアクティブユーザーが1億人を占める。
アフリカでの電子マネーの潮流は、2007年にケニアで誕生したモバイル送金サービス、M-Pesaがもたらした影響が大きい。開始から爆発的な広まりを見せ、2016年にはアカウント数が全成人人口の90%に登った。これによって、メールを送るのと同じ感覚で金銭のやりとりができ、通信料や店での支払い、遠くの知人や取引先への送金も全てM-Pesaで事足りる。世界の他地域は現金からクレジット、電子マネーへと進展してきたが、銀行口座の開設が進まなかったアフリカでは、クレジットカードを通らず電子マネーに移行した。今やケニアのGDPの約半分が電子マネーによるもので、その経済効果は計り知れない。2%のケニアの家庭は単にM-Pesaへのアクセスを獲得したために貧困から抜け出したという研究結果さえあるのだ。

M-Pesaを利用する人々 (Institute for Money, Technology and Financial Inclusion (IMTFI)/flickr) (CC BY-SA 2.0)
- 農業
農業は、今もアフリカ経済を支える主要な産業だ。総収入は1,000億米ドルを上回る。ここに携帯電話を利用したサービスが投入されることによって、アフリカの農業従事者を多方面からサポートしている。まず、必要な情報をリアルタイムで受け取れるサービスが多数誕生した。ケニアのM-FarmやカメルーンのAgro-Hubなどがそうだ。天候や市場の作物価格をSMSで通知したり、農家同士が自由な情報交換を行えるプラットフォームを提供している。また、作物や家畜の健康状態などについて専門家のアドバイスを受けられるサービスもある。ケニアのi-cow、ガーナのCocoa Link、ナイジェリア等9カ国で使用されているEsokoなど、その地域で盛んな産業に合わせて有益な情報が得られるようサービスが展開されている。
住む地域が拡散している農業従事者に必要な情報を提供するこれらのサービスに加え、モバイルを利用した保険システムも開発されてきた。農業が盛んなのにも関わらず、アフリカでの農業保険加入者は世界の他地域と比べて極めて少ない。その中で例えばケニアのKilimo Salamaは、農家が種を購入する際に種の値段に少しを上乗せすることによって、自然災害などで作物がだめになった場合の収入を保証するサービスを始めた。やりとりはSMSでのメール、そしてM-Pesaを通して支払いが行われる。この保険は規模小さな農家でも加入することができるため、彼らが事業を拡大しようとした時のリスクを軽減し挑戦を後押しすることで、低収入と投資への消極性、それに続く低収入という貧困の負の連鎖を断ち切る一つの後押しをしている。

携帯電話を使う農業従事者 ケニア (CC BY-SA 2.0)
3.医療
携帯端末を利用して人々の健康を高める「モバイルヘルス」が今世界中で注目されているが、アフリカもその例外ではない。ガーナを始め、南アフリカやエチオピア、マリで遠隔医療が広まっている。田舎の病院を都市の医療機関と携帯電話もしくはインターネットで繋ぐことによって、医療インフラが整っていない場所に住む人々にもある程度のサービスを行き届かせることができる。ケニア発のMaisha Medsは東アフリカの小さな病院や薬局をターゲットとして、経営マネジメントをサポートし、必要な治療や薬の処方を行えるようにしている。また、ガーナのmPedigreeなど、薬が正しいものかや消費期限切れではないかをチェックできるサービスもある。これにより、薬剤師や患者がニセの薬を手にするリスクを減らすことができるのだ。
スマートフォンへ持ち替え進む 地域格差が課題
フィーチャーフォンがアフリカ社会にもたらした変革は他にも挙げればきりがないが、今スマートフォンへと持ち替えが着々と進んでいる。各方面でインターネットを利用したサービスも増えつつある。例えば農業であれば, Plantixは、作物の写真を投稿するだけで問題を診断するといった、より高度なサポートを農家に提供しているし、医療面ではMedX eHealth Centerがオンラインの医療サービスのプラットフォームを提供している。
アフリカでのスマホを使った通信は、2020年には全通信の60%近くになる見込みだ。これは僅か10年間で15倍の急成長で、2020年の世界平均の見込み66%の数字とも近づいてくる。ただ、現時点(2017年)で携帯電話の使用者自体、アフリカの人口の半数に留まる。使用者の増加率も徐々に落ち着きを見せてきており、2010-2015間で11%だったのが2015-2020間では6%に落ち着く見込みだ。エジプトやケニア、南アフリカといった、テクノロジーの先進地域で広まった後、反対に普及が困難な地域が取り残されていく状況が見える。
アフリカでの通信は、今後も着実に発展していけるのか。「インターネットへのアクセスは基本的人権の一つだ。」こう主張するFacebookのマーク・ザッカーバーグ氏は、アフリカでのネット環境整備に向けて無料のインターネットサービス「Free Basics」を展開している。しかし、Facebookを中心にしたサイトへアクセスのため、Facebookが不透明な情報統制をしているとして批判の目も強い。また、政府によるネット統制の動きもあり、SNSがアラブの春など革命を促進したという見方から、インターネットの影響力を脅威に感じた政府が、選挙前に携帯電話やインターネットのプロバイダーなどを停止させることさえある。人々の生活と密に関わって発展してきたアフリカの「モバイルオンリー」のコミュニケーションだが、スマホへと移行が進むに当たって、政府や大企業に左右されない自由なネット環境はこれからどう整備されていくのだろう。そして誰もがその恩恵を受けられる日はいつ、訪れるのだろうか。

スマートフォンで遊ぶ子ども (Oscar Carrascosa Martinez/Shutterstock.com)
ライター:Miho Kono