2023年、南極にあった世界最大の氷山が融解のため大陸から離れ始めてしまった(※1)。この氷山は4,000平方kmの大きさを誇り、これはルクセンブルクの面積の約1.5倍である。この出来事は南極での急激な気温上昇によるものだ。また気温の上昇幅は、場所によっては地球均の約5倍となっている。
深刻な環境問題を抱える南極は、厳しい自然環境のなかで存在する。しかし、世界の気候や自然を理解するにあたって重要な地域であるため、多くの国の研究対象となっている。また南極は、先住民のいない領土であり、領土をめぐった武力紛争なども起きていない。世界各国の協力により平和が続いているといえる。しかし、このような平和状態も恒常的に続くとは限らず、環境問題以外にも様々な問題が生じている。
この記事では南極の概要、世界におけるその地位について説明し、その後どのような問題が生じており、そのような状態の中、南極が今後どう変化するのか分析していく。
目次
南極の地理
南極は南極大陸、そして周辺の海や島のことを指し、厳密には南緯66.5度以下を南極圏、南緯60度以下を南極地域と呼ぶ。まずこの地域の地理条件を説明していく。南極圏は南半球の20%を占める巨大な地域であり、南極大陸だけでなく南極海も含まれる。南極大陸の面積は約1,400万平方kmであり、これはオーストラリア大陸の2倍の大きさである。南極海は約2,000万平方km である。南極大陸に最も近い国はアルゼンチンであり、その距離はおよそ1,000kmである。しかし、最も近い主要都市からは6,000kmほど離れており、人間から隔絶された土地であるといえる。
この地域の特色は気温の低さ、そしてそれに伴い全体が氷で覆われている点である。南極では気温は沿岸と内陸部で大きく異なる。沿岸部では冬にあたる7月ごろにマイナス40℃まで下がり、夏にあたる1月あたりに10℃まで上がる。一方内陸では、冬ではマイナス80℃まで下がり、夏にはマイナス30℃まで上がるという。それゆえ、南極大陸の98%は夏でも氷に覆われ、冬にはその周辺の海までも凍ってしまう。このとき南極を覆っている氷のことを氷河や氷床といい、冬に海が凍っている状態のことを海氷という。また、棚氷とよばれ、陸地の氷河や氷床が海に押し出され、海上にとどまっている状態の氷も存在する。
そして、南極は非常に乾燥しており、降雪量は1年で平均して150mmほどである。したがって、氷で覆われた風景からは想像がつかないかもしれないが、世界最大の砂漠(※2)となっている。
氷で覆われ南極はその様態から、一見、ペンギンやアザラシといった動物しか存在していないように見えるが、氷の下には多数の微生物やオキアミ、クラゲなどが存在し、豊かな生態系を形作っている。また、南極海は地球上で最も生物が多様に存在する場所の一つであるとされ、クジラなど以外にもプランクトンや微生物が大量に存在している。
南極の歴史と南極条約
南極は人間の住む場所からは遠く、厳しい自然があるため先住民も存在しないが、大陸が発見されてからは人間によって一定程度利用され、管理されるようになる。このような状況になった経緯を見ていこう。
南極大陸の存在は、1820年に初めて確認された(※3)。その後、様々な国から南極の開拓をめざす探検隊が派遣された。そして1911年、ロアルド・アムウンゼン氏が率いる探検隊が初めて南極点に到達した。そして20世紀に南極の利用価値が認識されてきたため、各国が領有権を主張し始めた。まず1908年、イギリスが最初に南極の一部の領有権を主張した。その後、1950年までに、後を追うようにニュージーランド、フランス、オーストラリア、ノルウェー、アルゼンチン、チリの合計7か国が領有権を主張するようになった。ところがそれぞれの国により領有が主張された地域の内、一部の地域が重なっており、領土紛争に陥る可能性があった。1948年には、アメリカが南極での緊張を緩和するために国連による7カ国の信託統治案を提案したり、チリが領有権の主張を5年から10年凍結する案を出したりしたが、どれも合意には至らなかった。そして1950年にアメリカが再び領有権の主張の凍結と、科学的な協力をさだめた統治案を提案したが、その提案はソ連が除外されていたため、ソ連は否定した。その後、イギリスが国際司法裁判所(ICJ)で争ったり、国連で様々な国が議論しようとしたりした。
この議論の停滞の流れが切り替わるのが1958年である。この年には、国際地球観測年(IGY)と呼ばれる南極での研究プログラムにより各国が観測基地を建設し始めた。その流れで、ソ連が海から最も遠く、到達するのが難しい場所に観測基地を作った。当時アメリカとソ連は冷戦という対立構造にあったため、アメリカはソ連のこの行動を勢力の誇示だと捉え、南極で軍事力を展開していくのではないかと懸念した。その結果、アメリカの軍部は領有権の主張をするべきだと意見し、国務省は南極で力を示すことはソ連を退けるにあたって無意味であると主張し、軍部に反対した。最終的には国務省の意見が採用され、アメリカはほかの国も交えて南極の利用について議論をすることに決定した。そしてアメリカが領有権を主張していた7カ国と、IGYに参加していた4カ国を招致し、会議を開催した。その結果、1959年に南極条約が締結された。
南極条約とは南極地域の平和的利用や研究のための協力、そして領有権の凍結などを定めた多国間条約である。1959年当初12か国(※4)が締結したが、2024年現在は56カ国が締結している。適用範囲は南極地域であるため、南緯60度以下の地域すべてに適用される。この南極条約について、以下で詳しく説明していく。
まず南極条約では第1条で南極地域の平和的利用が定められる。このため南極では軍事的活動が禁じられる。ここでいう軍事的活動とは軍事基地の建設や武器の使用を意味する。ただし、科学的目的やその他の平和的利用のために軍の設備などを用いることは可能だとされている。
第2,3条では科学探査の自由が確保され、それに対する各国の協力、そして南極で得られた研究結果の交換と自由な利用が義務付けられている。それゆえ南極では合計29か国が研究機関を置いており、合計70もの観測基地が設立されている。この29か国は南極条約協議国とされ、積極的に科学調査を行い、定期的に開かれる南極条約協議国会議において決定権を持つ。
第4条では、南極条約の発効中は南極地域において領有権の主張が凍結されるとしている。よって当初領有権を主張していた7カ国も、あらたに主張しようとする国もその主張は放棄されることとなる。これらの第1条から第4条が南極条約の代表的な条項だ。
これら以外にも南極条約には様々な規約が含まれている。その中でも大きな意義を持つものが、非核化である。というのも、南極は世界で初めて非核化が定められた地域であるからだ。南極条約において、非核化は第5条で定められており、あらゆる核爆発、そして放射性廃棄物の廃棄が禁止されている。南極条約において、当初の議論では科学調査のための核爆発は許可される予定であった。しかしアルゼンチンがすべての核爆発を禁止するべきだと主張をし始め、南半球諸国がこの主張に賛成した。アメリカはこの主張に反対していたが、ソ連が核を南極に持ち込み勢力を広げる可能性を排除するため最終的に賛成し、南極において核は完全に禁止されることとなった。
南極条約が締結されてから、南極に関する規定がいくつか制定された。その中でも1991年に調印された環境保護に関する南極条約議定書(マドリード議定書)は、南極条約には薄かった環境保護という概念を取り入れた規定である。具体的には科学調査用以外の鉱物資源の採掘を禁止し、南極で活動をする際はその活動がどれほど環境に影響するか調査することを義務付けた。ほかにも南極に生息する動植物の保護や、海洋汚染の防止などが定められた。
そのほかにも1972年に南極のアザラシ保存に関する条約(CCAS)(※5)が定められたり、1982年に南極の海洋生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)(※6)などが設立されたりして、必要に応じて南極には新たな規定や組織がつくられていったことがわかる。
南極の経済的価値、そして対立
上述したように、南極は条約により比較的平和な状態が保たれた地域である。しかし、現在では南極の経済的価値の大きさが認識され、地政学的な重要性が高まっている。では南極にはどのような経済的価値があるのだろうか。以下で述べていく。
まず、南極には鉱物資源が存在する可能性(※7)があるとされている。マドリード議定書によりこれらの鉱物資源の採掘は2048年まで禁止されているが、鉱物資源の存在を確認するための科学調査は禁止されていない。将来資源が世界で不足するとされている。現在、各国が南極に対して資源採掘の可能性を予感して南極の鉱物資源に目をつけているとみられ、実際に調査を行っている国もある。このような状態が続くと、南極の鉱物資源は各国の領有権争いのもとになる可能性が生じるだろう。
鉱物資源以外にも、南極地域には海洋資源とされる生物が豊富に存在している。それは具体的にはクジラ、アザラシ、そしてオキアミなどである。南極地域でのクジラやアザラシの捕獲はすでに19世紀後半から始まっており、人間の乱獲によって数が大きく減少したとされている。現在はCCAMLRやCCASによりこれらの生物の捕獲には制限が設けられている。また、オキアミはいろいろな動物の餌になるため食物連鎖のかなめとされている生物である。しかし、魚や動物の餌としてだけでなく、人間のための良いたんぱく源、脂質源にもなりえるため、近年の漁業において重要視されている。南極海ではオキアミが豊富に存在し、CCAMLRによる制限の中でもオキアミ漁業は行われている。漁獲量としてはノルウェーが最も高く、中国やロシアなどほかの国もこの産業を拡大していくとされる。ただ、産業をむやみに拡大すれば、オキアミの乱獲、つまり海洋資源の搾取が起き、生態系が崩れる可能性がある。
南極では有形の資源があるだけでなく様々な形で利益を得ることが可能だ。その一つがバイオプロスペクティングである。バイオプロスペクティングとは生物資源の中から、遺伝子情報を得てそれを薬品、農産物、化粧品の開発などに活かすことである。これまで未開拓であった南極にはまだ情報が得られておらず、新たに利益になりうる生物資源が存在する。従って各国や企業は、このような産業を行う可能性がある。
また、近年盛んになってきた産業として観光業があげられる。南極への観光業は1950年代後半に始まった。当初南極を訪れる人は1年で数百人ほどであったが、2022年から2023年の間には105,331人もの人が南極を観光で訪れたという。人々は南極で雄大な自然や各国の基地などを見ることを望み、南極を観光地として選ぶのだ。南極への観光に対しては制限がある。この産業は1991年に設立された国際南極旅行業協会(IAATO)によって規制され、この団体が南極への観光が安全で環境に配慮したものになるように活動している。さらに、南極へ訪れる人々は南極条約、環境保護に関する南極条約議定書(※8)、南極を訪れる人のためのガイドラインなどに従う必要があるとされている。この観光業だが、どの国が南極のどの地域で観光業を主導し、利益を得るのかという観点で対立が起きる可能性がある。
このように南極における資源や産業は、各国にとって価値のあるものとして捉えられている。そして近年、南極条約という枠組みがある中でも、南極をめぐる国際関係に緊張が走る可能性があるという指摘がある。そしてこのような状況に追随する動きも出てきている。2018年、オーストラリア政府はオーストラリアが所有するデービス基地の近くに、大規模な滑走路、そしてそれに伴うインフラ設備を建設する計画を発表した。この滑走路(※9)ができることでオーストラリアの飛行機は年中通して南極に離着陸できるようになる。さらにオーストラリアから6時間のフライトで南極に到着することが可能になる。それにより、人材や物資を南極へ派遣する際に利便性が高まり、自然研究において大きな利益を得ることができるとしている。
しかし、この動きには地政学的な戦略が背後にあると指摘されている。というのも、この計画は南極の自然環境に対しての悪影響を考えると、研究活動に対して逆効果だという見方があるからだ。さらに、滑走路の建設により、南極への移動や物資の運搬における利便性が高まるため、研究活動において利便性が高まり恩恵を受けるはずの科学者たちもこの計画に反対しているという現実がある。
このような状況でもなお、オーストラリア政府が滑走路を建設しようとするのは、研究活動を活発化させ南極で存在感を増している中国やロシアに対抗するためである可能性が指摘されている。そして、オーストラリアの目的がなんであろうと、この滑走路が建設されればほかの国が競合して滑走路のような巨大なインフラを建設する恐れがある。そうなれば、結果的に南極の自然環境が破壊されてしまう。
以上で述べたように南極では様々な資源や産業が存在する。一方でこれらの権利を各国が取り合えば、平和的利用がなされるはずの南極で対立が生まれてしまう。
環境問題により南極が受ける影響
南極では環境問題も深刻である。中でも南極は全世界に影響を与える気候変動において顕著に影響を受けている。以下では南極が抱える環境問題について説明していく。
現在、南極では温暖化により気温が上昇している。なかでも南極半島では、過去50年の間に平均気温が3℃上昇したという。冒頭でも述べたように、この上昇スピードは地球平均の5倍である。このように南極で気温の上昇するスピードが速くなるのは、南極に雪や氷が多く存在していることが原因としてあげられる。雪や氷は海や陸地よりも多くの太陽光を反射する。一方、陸地は太陽光を吸収する。氷のない大陸では、太陽光の大半が陸地に吸収されるが、南極大陸では雪や氷が多いため太陽光は反射され、地温、気温の上昇が小さくなる。だが気温が上昇して氷や雪が解けると、それらに覆われる面積が減り、太陽光にさらされる陸地が増加する。ゆえに太陽光を多く吸収するため、地温、気温がさらに上昇するという仕組みがあるのだ。また、2022年には平常時よりも39℃温度が高い熱波が観測されたという。これは地球上で観察された熱波の中で平常時との温度差が最も大きいものであった。
当然、気温が上昇すると南極の氷は溶け、減少する。これにより影響を受けるのが、南極大陸に生息する動植物だ。というのも、気温上昇によって動植物の数が減少したり増加したりして、従来の生態系のバランスが崩れてしまう。具体的には、南極に固有の動植物の65%が21世紀の終わりまでに絶滅する恐れがあるという。例えば南極固有のペンギンは、氷が減少すると繁殖に必要な環境を作るのが難しくなり、絶滅へとつながってしまう。
南極の環境は気温上昇以外にも影響を受ける。それは観光業の発達だ。南極への観光は次のような理由で環境を汚染する。南極へ上陸する際、基本的には船が使われる。その際、燃料が海に流出したり、海洋生物と衝突したりする場合がある。さらに、こういった船はブラックカーボンと呼ばれる氷の融解を促進する物質を排出するため、それらが南極への氷に付着し融解が進むとされている。また、合計数万人もの人々が南極大陸に足を踏み入れた際、貴重なコケや植物を踏んでしまいそれらが傷つけられ、動物の生態系に影響を与える例もある。このように、観光業は経済的利益を生みながらも環境破壊という損失を生み出すこともあるのだ。
南極での気候変動が世界に与える影響
南極の環境は深刻なダメージを受けている。一方、南極で発生している気候変動、つまり気温の上昇もまた、世界全体に大きな影響を与えているのだ。以下ではその影響について迫っていく。
南極での気温上昇に際し、もっとも懸念される点は南極を覆う氷が減少し、海面上昇の原因となる点である。南極地域には海氷、氷床、氷河、氷山など様々な形で氷が存在するが、気温上昇によってどれも影響を受ける。まず海氷から見ていこう。海氷とは海が凍った状態のことを指し、基本的には冬に現れる。海氷は夏には水に戻るため融解しても地球全体の海水量が増えるわけではなく、直接的に海面上昇に寄与するわけでない。しかし、海氷は陸地の氷河や氷床が溶けて海に流れ出るのを防ぐ働きがある(※10)ため、海氷の減少は海面の上昇に起因する。このような特徴を持つ海氷だが、南極では2023年にその面積が最小を記録しており、気候変動の影響が懸念されているという。
一方氷河や氷床(※11)は大陸上に雪が積もって固まって氷になったものを意味するため、それらが溶ければ海水の量が増加し、世界の海面が上昇する。南極の大半を覆う南極氷床は1,200mの厚さを持ち、この氷床すべてが溶けると、地球上の海水面は60m上昇するとされている。南極では特に西側で氷床の減少が激しく、今や人々がどれほど地球温暖化の対策を行っても、21世紀一杯は減少し続け、いずれは崩壊してしまうという。同様に、氷山は氷河から切り離され海面に浮かんでいる大きな氷のことであるため、水面上に浮かんでいる氷が融解すると海水の量が増加し、海面上昇の原因となる。
そして、海面はすでに上昇し始めており、世界に影響を及ぼしてきている。そしてその被害はたとえ海水面の上昇幅が小さくても、かなり甚大だ。具体的には土地の浸食、湿地の浸水、塩分による土壌汚染などがあげられる。また、上昇幅が大きい場合は低地の島々自体が浸水する可能性があり、いくつかの島国は存続の危機に陥ってしまう。またすでに、低地において浸水の危険があるため、「気候難民」と呼ばれる移住を強いられている人々も存在する。
南極での気温上昇は海面の上昇以外にも様々な現象を引き起こしている。まず気温上昇は海流の変化を引き起こす。現在、温室効果ガスの排出が今と同レベルで続けば、2050年代では深海水の循環が約40%遅くなるといわれている。このような海流の変化は通常であれば1,000年ほど要するものであるという事実からも、今の状況の異常性が分かる。具体的にこの循環は南極海での深層循環といわれ、南極海地中4,000m付近の、豊富に酸素と栄養分を含んだ海水が、インド洋、太平洋、大西洋へ流れ、それらの海水面へ上昇することを示す。この変化によりまず海水の栄養分の流れが大きく変化するため、世界各地で生態系は甚大な影響を受ける。それは深層循環によって運ばれる栄養を頼りにする生き物に対する、栄養分の供給が滞ってしまうからだ。
さらに、深層循環の停滞は南極の氷の減少へとつながる。なぜなら深層循環のスピードが遅くなれば、南極海の深海部の水温が上昇するからだ。それによりさらに南極の氷の融解が進む。つまり、気候変動の影響がさらに気候変動をすすめ、悪循環を生み出しているということだ。
その他にも、深層循環は南極以外の地域に気候の変化を与える。具体的には海水温の変化に伴う大気の水分量の変化や、降水帯の移動などがあげられる。
今後の展望
今まで述べてきたように、南極は平和的利用がなされていると言われながらも、対立が起こる可能性を残していたり、気候変動の影響を深刻に受けていたりと、問題が多くある地域である。このような状況がある中で、現在は南極を取り巻く南極条約やそのほかの規約、組織などにも変化が必要なのではないかという指摘がある。現在でも解決していない領土紛争がある中、武力紛争を発生させず、南極の平和的利用を可能にした南極条約は非常に効果的に働いたといえるだろう。そのためわざわざ変える必要はないという意見もある。しかし南極条約は約60年前に作られたものであり、当時南極や世界全体に影響力を及ぼしていたアクターは現在とは異なる。それゆえ新たな勢力が力を伸ばしてきたとき、今の仕組みで南極の平和的利用を守ることができる保証はないとされる。
また、現在の南極条約では環境問題の対策のための条項があまりにも少ないという指摘もある。1991年に環境保護に関する南極条約議定書が調印され、環境保護という観点は取り入れられたとはいえ、この規定も充分ではないという意見がある。
そして、南極管理の問題以前に、南極における環境や気候、そしてその仕組みなどについてはまだ解明されていないことが多く、研究をもっと進めるべきであるという見解もある。
南極条約及び環境保護に関する南極条約議定書は2048年に改定が可能になる。それまでに、改定を求める勢力はどのように台頭するのか。そして、南極の未来はどのようになっていくのだろうか。その動向を見守りたい。
※1 この氷山は1986年に南極から切り離されたが、今まで大陸から離れてはいなかった。
※2 年間降水量が250mm以下の土地は砂漠だとされる。
※3 南極大陸の存在は、1820年、イギリスのエドワード・ブランスフィールド氏、アメリカのナサニエル・パーマー氏、ロシアのフォビアン・フォン・ベリングスハウゼン氏それぞれが率いる探検隊が、南極大陸の存在を初めて確認したとされているが、3つの探検隊の内どこが最も早くにに南極を発見したのかは、発見の定義によって異なるため諸説ある。
※4 12ヵ国とはアルゼンチン、オーストラリア、ベルギー、チリ、フランス、日本、ニュージーランド、ノルウェー、南アメリカ、イギリス、アメリカ、ソ連の12か国である
※5 CCASでは、生態系を守るため南極でのいくつかの種のアザラシの捕獲や捕殺が禁止される。
※6 CCAMLRは南極の海洋生物の乱獲を防ぎ、生態系を持続可能なものにするために設立された委員会である。
※7 鉱物資源としては、鉄、銅、金、銀、モリブデンといった鉱物や海底石油などが存在するとされる。
※8 旅行者によって南極の学術的価値を損なわれたり、生態系を壊されたりしないように、旅行者たちも南極条約や環境保護に関する南極条約議定書の内容を遵守する必要がある。具体的には野生生物の保護や、研究の妨害をしないといったことが要求される。
※9 南極にはもともとオーストラリアが保有する滑走路があったが、その滑走路は離着陸が夏に限られ、さらに基地から離れていた。
※10 南極周辺の海氷は氷河などの氷を波や風といった力から守り、さらに大陸沿岸の大気を冷やし付近の温度を下げることで氷棚の融解を防いでいる。
※11 氷床は広大な氷河のことを意味するため、氷河と同じように海面上昇の原因となる。
ライター:Ayaka Takeuchi
グラフィック:Yuna Miki