2023年5月19日~21日の3日間にわたって、G7(Group of 7)サミット(主要国首脳会議)が日本の広島で開催される。G7とは、アメリカ、イギリス、イタリア、カナダ、ドイツ、日本、フランスの7カ国及び欧州連合(EU)のそれぞれの首脳が集まって毎年開かれる国際会議であり、「世界経済、地域情勢、様々な地球規模問題を始めとするその時々の国際社会における重要な課題」について話し合うことを目的として掲げている。そして2023年、そのG7サミットが日本で開催されるということで、日本でその注目度は高まっている。
だが、世界ではG7に対し、世界全体が抱える問題の解決を目指すのではなく、参加国自身の利益を追求し、自身の権力と影響力を維持するための集まりと主張するなど、様々な疑問が挙げられている。
しかし、こうした疑問を含め、日本では一体どれほどG7の実態が報道されているのだろうか。この記事では、G7の存在とそれが抱える問題について目を向けると共に、G7に関する報道を探り、考察していく。

2023年4月16日から18日に日本の長野県軽井沢で開催されたG7外相会合の様子(UK Government / Flickr [CC BY 2.0])
G7の沿革
そもそも、G7はどのような経緯で発足したのだろうか。そのきっかけは、1970年代にまで遡る。この年代では、1973年の第一次石油危機など、世界中に大きな影響を与える出来事が多発した。その状況下で、自身たちが抱える問題に対処するため、西側の国々の間で、首脳レベルでの経済、政治、エネルギーなどについて、政策協調の議論の場が必要であるという声が上がった。そうした理由から、1975年、当時のフランス大統領であるジスカール・デスタン氏の提案により、アメリカ、イギリス、イタリア、ドイツ、日本、フランスの6カ国の首脳がフランスのランブイエ城に集まり、第1回サミット(G6)が行われた。そこでは石油危機や金融危機、不況からの脱却について話し合われた。また、それと同時に今後の経済問題に対処するため、毎年集まって政策などについて話し合う場の重要性が再認識され、以降は各国が持ち回りで議長国を務めるようになった。
翌1976年の第2回からはカナダが参加するようになり、以降はG7と呼ばれるようになった。また、冷戦が終結しソ連が崩壊した後の1991年からサミットの枠外でロシアとも会合を開くようになり、その後ロシアは徐々にG7の会議にも参加するようになった。そして1997年になるとロシアは全日程に参加するようになった。翌1998年から2014年の間はG7にロシアを加えた8カ国が集まって毎年会議が開かれることとなり、G8と呼ばれるようになった。しかし、2014年、ロシアがウクライナのクリミア半島に侵攻したことを受け、ロシア以外の7か国で緊急でG7が開かれ、そこでロシアのG8への参加資格を停止する決定がなされ、それ以降はロシア以外の7か国で再びG7として会議が開かれている。
G7の報道量
では、ここからはどのようにG7について報道がされているのか、実際のデータをもとに見ていく。まずは報道量の推移を見ていただきたい。これは、1993年〜2022年の30年間で、朝日新聞の記事の見出しに「G7(G8)」もしくは「主要国首脳会議(先進国首脳会議)」が入った記事の数を調査し、年ごとに表したものである。また、年の横に書いている地名は、その年のサミット開催地である。このグラフから見える報道の特徴として、ここでは3つ挙げる。
まず、1つ目の特徴として挙げられるのは、日本での開催の年になると報道量が他の年より大きく増えることである。その報道を詳しく見ると、日本での開催の場合はサミットの会場やその準備などが多く報道されている。日本での開催の場合は国内での出来事として、国内での関心が比較的に高く、長期取材も可能ということもあり、報道量が多いと考えられる。
2つ目の特徴は、21世紀に入ってからG7に関する報道量が減少した傾向がみられることだ。1990年代は軒並み毎年100記事ほどあった報道が、2000年以降は明らかに減少し、毎年の平均がおよそ50記事程度になっている。また、日本での開催の年でも、1993年や2000年は300記事以上あったのが2008年は243記事になり、2016年は121記事となるなど、大きく減少している。この背景には、そもそも日本の新聞での報道の量、そしてその中でも国際報道の量が21世紀に入ってから減少しているという側面があると考えられる。
ただ、2020年の記事数は30件に減少したものの、翌2021年と2022年の直近2年は記事数が100件弱と若干増加している。これは世界規模で新型コロナウイルスが流行し、G7各国の対応に注目が集まったことに加え、2年振りの開催となったことが関連していると言えよう。また、翌2022年は本会議とは別に緊急でG7会議が行われ、年2回の開催(※1)となったことで注目が集まり、この2年間は報道量が増加したと考えられる。
そして、3つ目の特徴は、開催地が日本以外の場合、それほど大きくG7に関する報道量に差が見られない、ということである。言い換えると、G7において重大な出来事が発生しても、その報道量に変化が見られないということである。例えば、ロシアのクリミア侵攻を受け、ロシアがG8への参加資格が停止された2014年においても、その年のG7(G8)に関する報道量は増加しておらず、21世紀全体の傾向と同じく少ないままであった(※2)。
G7の報道の内容
次に、日本のG7の報道は具体的にどのような内容となっているのかを見ていく。こちらと以下の2つのグラフは、2017年〜2019年の3年間(※3)のG7に関する報道を、その主体となっている国およびテーマごとに分類し、表したものである。全体のうち、半分ほどはG7の会議自体を報道し、特定の国に焦点を当てていなかった。そして、特定の国に関する記事で見ると、日本とアメリカがその半分を占め、残りの国があとの半分を占めるという結果となった。日本とアメリカが約15件ずつ報道されているのに対し、ドイツやイタリアなど他のG7の国々が各国5件以下であることをみると、日米に報道が比較的集中していることが分かる。
次に、報道の内容をテーマ別に見ていく。政治と経済の話題がおよそ30件弱ずつで共に多く、次いで軍事が9件、環境が4件という結果となった。例えば、アメリカのドナルド・トランプ大統領(当時)の保護主義に起因するG7でのアメリカの孤立についてもこの時期に多く報道されていた。アメリカが貿易や通商において自国の保護を全面に押し出し、他のG7の国々との協調を拒んだため、議論が進まず、実質G7が機能不全に陥っていたのである。そして、このアメリカの孤立が、政治・経済のテーマが最多となった要因だと考えられる。軍事については、北朝鮮の軍事演習に関するものやシリアに関する記事が多くを占めていた。
このように、G7の報道を様々な角度で見ていくと、開催地や国、そして内容によっても報道の量に差が見られる事が分かる。
何の集まり?
では、今度はG7自体の問題についても見ていく。まず1つ目の問題として、G7の参加国の参加基準、そしてその代表性の問題を挙げることができる。G7は、紹介したとおり1975年に世界の様々な問題を多国間で議論するために経済力の強い西側諸国の集まりから始まった。かつては世界全体のGDPのうち最大で70%をG7の国々が占めていた。しかし、21世紀に入るとその割合は低下し、2021年時点ではその割合は30%にまで低下している。
それに対し、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの経済成長著しい5カ国で構成されるBRICSのGDPは大きく成長し、世界全体で占める割合も増え、2023年にはG7よりも多くの割合を占めるようになった、というデータさえある。また、国別のGDPを見ても、例えば中国は2010年に日本を抜いて以降アメリカに次ぐ世界2位となり、またインドも2015年にイタリアのGDPを上回り、2022年にはフランスやイタリア、カナダを上回って6位にランクインし、イタリアやカナダよりおよそ1.5倍多いなど大きな差をつけている。

BRICS各国の首脳たち(MEAphotogallery / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
そんな中で、G7のメンバーはロシア以外どの国も新たに加入することなく、ずっと固定のメンバーとなっている。G7は「主要国」の首脳の会議とされているが、果たしてその「主要国」の基準はいかなるものなのだろうか。経済力主要国がポイントになるなら、GDPで見ると世界2位の中国や6位のインドがメンバー外なのに対しその2ヶ国よりGDPが相対的に低いイタリアやカナダはメンバーに入っていることの説明が付かない。さらに、G7の国々が全て民主主義国家であることから民主主義も一つのポイントであるとすれば、中国が入っていないことはまだ理解できるが、G7と同様に民主主義国家であるインドがメンバー外であることの説明にはならない。
ただ、インドや中国は過去に議長国の判断で招待され、その年のG7に参加する招待国としてG7に参加したことが何度かある。だが、正式なメンバーにはなっていない。また、G7を拡大しようとする動きが無いわけではない。2020年にその年の議長国アメリカのトランプ大統領によって韓国、オーストラリア、インドをG7のメンバーにする提案が、翌2021年にはその年の議長国イギリスのボリス・ジョンソン首相が韓国、オーストラリア、インドをメンバーに加える提案をしたが、両年の提案とも他のG7の国々の反対によって実現することはなかった。
G7という存在は、経済力や民主主義が基準に基づいた「主要国」ではなく、西側諸国のみの「主要国」の集まりとなっているのだろうか。

2022年のG7に参加するインドのナレンドラ・モディ首相(中央)とイギリスのボリス・ジョンソン首相(左)(Number 10 / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
G7の影響力
2つ目に問題として挙げられるのは、G7が持つ影響力についてである。G7では経済や政治、国際情勢など様々な課題について話し合うとされているが、その議題や結論がG7各国に利益を及ぼすものが多々ある、というものである。そして、そのようにしてまとまった結論がG20などの他の国際的な集まりにも影響し、他の国がその結論に続いていく、という状況になるのだ。その一例が、法人税に関するものである。事の発端は、2021年6月のG7財務相会議で、企業の本所在地がどこにあるかに関わらず、最低15%の法人税を企業に課すことが合意されたことだ(※4)。そして、この合意は翌月の7月にイタリアで行われたG20においても議題としてあげられ、中国やロシア、インドといったG20の国々も大きく影響を受ける事態となり、最終的にはG20の参加国全てが同様の法人税の協定に合意することとなった。
そして、その3ヶ月後の2021年10月には130の国と地域が同様の協定への合意を迫られ、最終的に合意したことが発表された。
このように、G7内での決定が世界全体に影響を与え、G7からG20、そしてそれ以外の様々な世界の国々と議題が引き継がれるトップダウン型の構図ができあがっているのである。つまり、国連の総会や経済社会理事会など全世界の国が民主的に参加するような場ではなく、経済力の強い西側7カ国の話し合いの場での取り決めが全世界にも適用されたのである。

記者からの質問に答えるイギリスのリシ・スナク現首相(HM Treasury / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
また、その影響力は日本のメディアに対しても大きい。G7で取り上げられた問題をメディアは注目し、その結果として報道量が大きく増えた例がいくつもあった。その中でも大きな例が、海洋プラスチックに関するものである。2018年のカナダでのサミットで、プラスチックゴミの問題が議題にあげられ、アメリカと日本を除く5カ国にプラスチックによる海洋汚染問題への対応を促す海洋プラスチック憲章が発行された。このG7サミットがきっかけとなり、それまで日本ではほとんど報道されていなかったプラスチックに関する問題が注目されるようになり、2017年以前と比べると大幅に報道量が増加したのだ。
さらに、アフリカの貧困についてもG7がきっかけで日本のメディアに注目された例として挙げられる。2005年のG7サミットでは、アフリカの貧困、債務問題が主要なテーマとされ、大きな注目を集めた。そして、それはメディアも同様であり、この年のアフリカの貧困に関する報道の量は大きく増加したのだ。しかし、この問題はサミットが行われた当時には大きく報道されたものの、その後問題自体は解決していないのに報道量が激減している。このように、今はG7で取り上げられたことをきっかけとしてメディアが課題に注目しているが、これは本来のメディアの姿とは異なるのではないだろうか。本来ならメディアは、社会が抱える問題を取り上げ、その問題に注目を集めることで行政や国家に改善、改革を働きかけるという役割が求められてきた。今はこの順序が逆になり、メディアがエリートな国や組織を追う傾向がここでも見られている。
G7に対するデモ
経済力のある西側諸国で構成され、自身の利益を追求しながら世界に大きな影響力を及ぼすG7に対し、市民社会などで不満がたまり、その結果G7に対するデモも数多く起こっている。特に激しかったのは、2001年にイタリアのジェノバで行われたサミットへの反対デモである。このデモは、グローバル化や資本主義のあり方に不満を持つ集団によって、サミット会場であるイタリアの都市ジェノバで行われ、デモ隊はおよそ20万人に及ぶ大規模なものとなった。そして、このデモ隊は機動隊と衝突し、そこで多数の負傷者を出す事態となった。また、デモに参加していたある23歳の青年が射殺されるなど、G7に対するデモとして初めての死者を出す事態にもなった。
また、2015年にドイツで行われた反G7デモも大規模なものであった。このデモでは、G7各国に対し貧困や気候変動などの問題の解決を求めたものであり、数千人の群衆が集まった。このデモでも、デモ隊と機動隊の衝突が起こり、機動隊が催涙スプレーなどを使用し、多数の負傷者を出す事態となった。さらに、同じくドイツでG7が開催された2022年にも、ロシアのウクライナ侵攻への不安と化石燃料からのエネルギー転換を訴えるデモが起こっており、およそ4,000人の群衆がミュンヘンへと集まった。

2022年のドイツでのデモの様子(cmpact / Flickr [CC BY-NC 2.0])
メディアは問題点を報じているのか
では、このような問題を抱えるG7についてメディアは報じているのか、そして問題提起をしているのか、について見ていこう。2013年~2022年の10年間で、朝日新聞の社説でG7について見出しもしくは本文でG7について言及しているものを調査した。その結果分かったことは、まず社説でG7への批判や問題提起を主要テーマとするものは11件あった。テーマ別に見ると、2017~2018年にかけてのG7でのアメリカの孤立に触れるものが3件と最多で(※5)、これらのみが特定の国に言及する社説となっていた。そして、その他の社説ではG7の存在意義や権威が薄れていると警鐘を鳴らすものばかりであった(※6)。しかし、先程触れたインドなどのGDPが多い民主国家のG7への参加など、代表性について、あるいは議題の妥当性などについて論じるものは0であった。
また、G7と同様の経済規模にまで発展してきたBRICSを主要テーマにした記事の報道量も同様に朝日新聞の記事を調査したところ、2013年〜2022年の10年間でわずか29記事となっており、G7報道の10分の1以下となっている。中には1年間で一つもBRICSに関して報道されていない年もあり、BRICSが未だ大きくは報道されていないということが分かる。
さらに、G7に対するデモについてもどれほど報道されているか調査したところ、過去15年で記事の主要テーマとして報道されていた記事は一つも無かった(※7)。
今後のG7のありかた
さて、これまで日本のG7報道の現状を様々な角度から見てきた。現状は、開催地や国によって報道量に差があり、そもそもG7に関する報道量が全体的に大きく減少している。またG7に関する多くの問題点についてもあまり問題提起を行っておらず、報じられることもあまりない状況となっている。元から西側諸国の利益を追求するために作られたこの組織は、世界における影響力を失いつつある。全世界で共通となる問題が増える中、全世界が代表されているよりも、民主的な場での議論が求められている今、「主要国首脳会議」という名称も含め、メディアがG7関連報道とその意義を見つめ直す時期が来たのではないだろうか。
【G20の報道と実態についてはこちらへ】
※1 ロシアのウクライナ侵攻を受け、2022年の本会議とは別にベルギーで緊急のG7会議が開かれた。また、過去には2014年にロシアのクリミア地方の侵攻を受け、6月の本会議とは別にオランダにて同様の緊急G7会議が開かれている。そのため、2014年と2022年の2年のみ、年2回G7が開催された。
※2 今回は見出しにG7(主要国首脳会議)と入っているものを調査しているため、他の記事で、見出しには入っていなくとも本文では言及されていた可能性は否めない。
※3 ロシアによる軍事侵攻や新型コロナウイルスの流行などの突出した議題となりうるものがなく、G7の会議が3年間通常開催されているため、この3年間を抜き出して調査している。
※4 これは、企業に製品やサービスを提供している国で法人税を支払わせ、世界各国の法人税率引き下げ競争に歯止めをかける目的で決定され、アマゾン(Amazon)やグーグル(Google)といった多国籍企業が影響を受けることとなった。
※5 こちらも見出しにG7のデモやBRICSキーワードが入っているものを調査しているため、他の記事の本文において言及されている可能性も否めない。
※6 「孤立する米国 G7の真価が問われる」(2018年6月6日)
「G6プラス1 米国の独善が招く苦悩」(2018年6月12日)
「G7サミット 多国間協調の理念守れ」(2019年8月28日)
※7 「G8と世界 課題を並べるだけでは」(2013年6月20日)
「G7の役割 普遍の価値観を説け」(2014年3月26日)
「G7の意義 共生の道探る再出発を」(2014年6月7日)
「持続する世界 G7の決意が問われる」(2016年5月26日)
「G7サミット 価値を守る責務今なお」(2017年5月29日)
「G7の協調 コロナ対応が試金石だ」(2021年2月23日)
「G7サミット 信頼回復へ宣言実行を」(2021年6月15日)
「G7首脳会議 秩序維持へ重責自覚を」(2022年6月30日)
※7 こちらも見出しにG7のデモやBRICSキーワードが入っているものを調査しているため、他の記事の本文において言及されている可能性も否めない。
ライター:Yudai Sekiguchi
グラフィック:Yudai Sekiguchi
私は広島出身なので、今回のG7開催に対する県民の期待の高まりや市内のピリピリした雰囲気についてよく聞くのですが、今回のG7の会議で何かしらの成果が出てほしいと思う一方で、少数の国だけで決定が為されている現状はこれから変化していくべきだと感じました。
G7、主要7ヵ国という名前そのものが偉そうだ。自分で「主要」とかゆっちゃうのはずくないんかな?ぷはっ
タイムリーな話題ですね。今後のG7の動きと併せて必見だと思います。