世界のプラスチックごみは年約3億トンを超えている。海のごみの80%がプラスチックであり、その多くは建設業や産業施設、海岸や埋め立て地など陸上から流れ出てきているものである。食品容器や包装はその陸上のごみの31.7%を占めており、これらはポリ袋とともに海のごみの大部分を占めていて大きな問題になっている。
しかし、このプラスチック問題はいつから意識されるようになったのだろうか。意識するきっかけを作る主要なアクターとしてメディアが挙げられるが、プラスチック問題はどのように報道されてきたのか?今回の記事ではそれらについて詳しく見ていきたい。

海に浮かぶポリ袋(写真:Ben Mierement/ NOAA NOS(ret.))
プラスチックのごみ問題
そもそもプラスチック問題が発生する原因として、その化学構造が挙げられる。プラスチックは化学的に非常に安定した構造であるため、一度作られたら最後、腐ることはなく、分解することが非常に難しい。腐りもせず、かと言って人為的に適切な分解処理が十分でないにも関わらず、過剰包装や使い捨てのプラスチック製品があまりにも多く市場に出回ってしまっているのが現状だ。たとえば、コンビニエンスストアでは雑誌や飲み物、お弁当をそれぞれ別のレジ袋に入れている。しかし、何枚も使い捨てられる利便性の陰で地球の空気は汚れ、海は汚染され、気候変動は進んでいる。ただ、レジ袋は安価な製品であるため店側にレジ袋のリサイクルや削減のインセンティブがなく、消費者もいざ買い物をするとなると環境問題よりも利便性を優先してしまう。レジ袋はプラスチックゴミのごく一部に過ぎないが、このようにプラスチック製品を大量に生産してほんの数分間だけ使って捨ててしまう社会が出来上がってしまっているのだ。
全体的な量以外に、海に流れ出たプラスチックも問題を引き起こしている。海に流れ出たプラスチックを海鳥や魚などの海洋生物が誤って飲み込んで窒息死している。海のプラスチックごみは少なくとも世界の267種の生物に影響を与えている。そのなかで、カメの全種のうち86%、海鳥は44%も含まれているのだ。最近では、インドネシア中部スラウェシ島の海岸に流れ着いたマッコウクジラの胃の中からポリ袋25枚やカップ115個、ペットボトル4本、サンダル2個、ロープなど計5.9キログラムのプラごみが見つかった。
また近年特に問題視されているのはマイクロプラスチックの問題である。マイクロプラスチックとは5mm以下のプラスチックの破片のことである。 川や風によって海に流れ出てきたプラスチックのうち、海辺に打ちあげられることがなかったり、生き物に食べられたもの以外は最終的に波や紫外線によって細かく砕かれる。しかし、自然には分解されないためプラスチックの組織はそのまま残される。プラスチックは海中に溶け込んでいるポリ塩化ビフェニルなど有害物質を吸収する性質があるとされている。マイクロプラスチックはプランクトンにも取り込まれてプランクトンを食べる魚やほかの生物に摂取されてしまう。プランクトンは食物連鎖の根幹をなすため、生物濃縮の結果、今後、人間の健康にも被害の出る恐れがある。さらに、一般市民の腸内からマイクロプラスチックが見つかっており、英国に住む市民は毎年平均で7万片のマイクロプラスチックを消費しているという報告結果もある。マイクロプラスチックは海水に含まれているだけでなく、ペットボトルのミネラルウォーターや水道からも発見されている。

回収された大量のプラごみ(写真:Walter Parenteau/Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
プラスチック問題への対策について
次にプラスチックの引き起こす諸問題への対策がどのようなものであるか見ていきたい。先進国で発生した多くのプラスチックごみは、リサイクルのために中国などの発展途上国に輸出される。しかし、リサイクルとして集められたプラスチックのほとんどが汚染物質や排水に関する環境規定の低い国に送られ、技術の低い家族経営の施設などで再処理されている。実際、欧米など世界中から集められた廃プラスチック輸出量の56%を中国が受け入れていた。しかしこれらの問題などから、中国政府は2017年末より国内の環境対策として廃プラの輸入禁止を実施し始めた。この政策転換により、欧米諸国や日本は廃プラの行き場を失った。新たな輸出国として東南アジアに大量の廃プラが輸出されて廃プラの不法焼却が行われたり、先進国での国内の処分価格が上昇している。
アフリカにも深刻なプラスチック問題がある。アフリカでは計画外の都市化の進行のため、多くの地域がそうであるように、ごみの管理が追い付かないという課題に直面している。排水路や道路にごみが溜まって環境や健康に影響を与えているのだ。こうした現状を受け、ごみ廃棄問題への対策としてアフリカのルワンダ、ケニアなどいくつかの国ではポリ袋を禁止している。表向きはいい政策のように思われるであろう。しかし、ポリ袋の代替品となる紙や布の使用も環境の観点からそれほど大きな効果をもたらさず、ごみ処理の全般的な改善が求められている。単にポリ袋を廃止するだけで解決されるとは限らない難しい問題だがポリ袋禁止以外の対策もルワンダなどで少しずつ歩みを進めてきている。

2018年6月5日にルワンダで行われた世界環境デーのイベントの様子
(写真:RWANDA ENVIRONMENT MANAGEMENT AUTHORITY REMA /Flickr [CC BY 2.0])
一方インドでの政策は効果的なものがある。2017年の夏、州政府のもとスティトワ・サガラム(海をきれいにする)というキャンペーンが開始された。これは、網に引っかかったプラスチックごみをそのまま海に戻していた漁師がプラスチックを回収して海岸に戻すように訓練するという内容のものである。こうして集められたプラスチックはインドの道路の原材料としてアスファルトに混ぜて再利用される。34,000km以上がこのプラスチック道路でできており、道路1㎞ごとに100万枚のポリ袋が使われている。この道路はインドの猛暑に耐えうる性質があるうえ、コストも従来の道路より8%低くなるため人気が高まっているのだ。
廃プラスチック問題を解決するために技術的な開発を行っているところもある。2014年に中国の北京航空航天大学はプラスチックを食べる蛾の幼虫の消化器官から発見されたバクテリアはポリエチレンを劣化させることを発見した。また、カナダのブリティッシュコロンビア大学の学生は普通の細菌の80倍の速さでプラスチックを水と二酸化炭素に分解するバイオセレクションという方法を開発した。さらに廃プラスチックを化石燃料の原材料として精製する方法を模索している研究機関もある。
プラスチック問題に関する報道量
上記のようにプラスチックの問題が長年大きな問題として理解されており、改善策の模索も前から動いている。しかしメディアによってどのように報道されてきたのだろうか。ひとつの例として毎日新聞で2013年から2018年まで過去6年間に取り上げられたプラスチック問題の報道を分析した。
2013年から2017年の報道量は合計して9,329字(13件)で非常に少ない。そのうち、マイクロプラスチックやプラスチックごみの漂流など海のプラスチック問題に関する記事が8,217字(10件)、環境に優しいプラスチックの研究・開発の記事が1,112字(3件)であった。基本的に全ての報道をこの2つのどちらかに大別できた。したがって、報道が着目していた観点に偏りが見られことがわかる。プラスチックごみの67.6%をプラスチック製の容器包装が占めているのに対して、プラスチックの使用量とそれらがごみとなったときの処理などをメインに扱った記事は少なく、プラスチックごみ問題の原因を突き詰めるという点に関する記事が乏しい。日本が関係する記事は3,683字で、およそ39%を占める。
2018年になると、プラスチックへの注目度が急増した。たった1年未満で、過去5年分の報道量の3倍以上にのぼる。2018年(10月まで)の報道量は43,765字(50件)。2013年から2017年の記事同様、海のプラスチック問題に関する記事が一番多いが、ポリ袋やストローなどプラスチックごみの削減の記事が増えている。プラスチックごみの廃棄問題においてポリ袋やストローなどの使用を減らす対策は多く取り上げられているものの、ポリ袋やストロー以外のプラスチック問題や、リサイクル促進に関する記事はほとんど見られない。
2017年以前と比べると2018年のプラスチックに関する記事は大幅に増えている。なぜ、ここまで増えたのだろうか。これには2018年6月に行われた主要7カ国首脳会議(G7サミット)が関係していると思われる。G7サミットでは日本と米国を除く欧州4カ国と欧州連合(EU)がプラスチックごみ対策に関する「海洋プラスチック憲章」に賛同したことがニュースとなった。2018年でも6月に行われたG7サミット以前ではプラスチック問題については872字しかない。G7サミット以後に中国の廃プラスチックの禁輸に関する記事が3件(4,061字)あるが、そもそも中国が禁輸の方針を定めたのは2017年末のことであり、その時点では中国の禁輸に関する記事はひとつもなかった。最初に中国の禁輸に関して報じられるのはG7サミット後のことである。ほかにも2016年にフランスが世界で最初にプラスチック製のカップ、皿、ナイフ・フォーク・スプーンなど食器類の流通禁止を決定したことなどの海外の政策に関する記事はG7サミット以前には見られない。環境汚染に関する記事がほとんどを占めている。しかし、一転してG7サミット後は海外のプラスチックに関する記事が増え、G7サミット前の2013年から2018年の6月までには取り扱われていないが、G7サミット後は17件(19,204字)も海外の対策について報じられており、法案や対策に関する記事が大幅に増えている。
2018年のプラスチック問題に関する記事のうち、日本が関係する記事は合計で15,471字あった。プラスチック問題に関する記事の2018年全体のおよそ35%を占めている。2013年から2017年までは39%だったことから、海外への視点がわずかながらも広がっている。
2018年のプラスチック報道における大きな特徴はストロー廃止に関する記事がたくさんみられたことだ。2018年のストロー廃止に関する記事は6,542字である。7月9日、アメリカの世界規模で展開するコーヒーチェーン店スターバックスがストロー廃止を発表した。ストローのかわりにストローを使わずに飲み物を飲めるふたや紙製のストローの導入をする予定だ。スターバックスのストロー廃止のあとに続いてストロー廃止を発表する会社もある。しかし、ストローはあくまでも同社が使用しているプラ製品の一つであり、ふたの工夫だけではプラスチック削減にはほとんどつながらず、地球のプラスチック問題解決に貢献する本質的な対策にはならない。また、報道によってはプラスチック問題に注目しているというよりも、世界的に有名な企業であるスターバックスのストロー廃止について注目しているようにも捉えられる。世界中で報道されるため、報道が結果的に企業の宣伝にはなるが、より広いプラスチック問題の削減につながるかについては疑問が残る。2018年の記事のうち、ごみ削減の規制や法案に関する記事は3,507字あったが、多くの記事が海の汚染問題に関連づけて報道されていて、ストロー以外の大きな原因となる使い捨て製品が多すぎることや日本の過剰包装を端的に批判している記事はほとんどなかった。報道においてプラスチック製品の廃止より前に日常生活からプラスチックの使用量を減らしていくことが軽視されているように思われる。

スターバックスの飲み物(写真:Daisuke Matsumura/Flickr [CC BY-NC 2.0])
最近プラスチック問題に対する報道は増えてきているが、ここまで大きく報道されるようになったのは2018年G7サミットでプラスチック問題が注目を浴びた後のことである。それまでの報道ではプラスチック問題はほとんど問題視されておらず、大国の政府のトップの判断を待ってから注目に値するかどうか決めているような様子だ。報道されるようになったといえども報道されている内容は本当に環境のためとなっているのだろうか。メディアは本来、政府に問題提起する役割を担うはずであるが、もし、G7サミットで問題にされなかったらこのプラスチック問題は日の目を浴びることがなかったのかもしれないと考えると、報道には改善の余地が大きいのではないか。持続可能な地球を守るためには、プラスチックの生産量、使用方法、処理方法に関しては大きな改革が必要である。報道は権力者や大企業のリードを追うのではなく、この極めて重要な問題の本質を地球規模で、包括的に捉え伝えてもらうことを期待したい。
ライター:Shiori Tomohara
グラフィック:Shiori Tomohara
ヨーロッパでは日本のコンビニのようにレジ袋をばら撒いておらず、再利用できる厚手の袋やオリジナルの布トートバックが売られており、常にエコバッグを持つのが習慣づいていました。日本でもレジ袋の無料配布をやめるスーパーがここ最近すごく増えた印象です。いざ無くなればそれが当たり前になり慣れていくものだと思うのでもっと厳しく削減してもいいと思います。
インドの道路への再利用の例、おもしろく画期的ですね!!
プラスチック問題がそれ自体にもその報道にも非常に大きな問題を孕んでいることに驚きました。
自分の生活の中でプラスチックの使い方を見直そうと思いましたが、このようにこの記事を読んでコンシャスになる人が増えることがプラ問題とその報道に関する問題の軽減につながるのではないかと思います。
実際に人間の排泄物からマイクロプラスチックが検出されたという研究結果も最近出ていますね(https://www.businessinsider.jp/post-177973)。
大量生産大量消費がもたらす弊害について一人ひとりが意識し、少しずつ行動を変えていくのは重要ですが、そうした状況の実現のために報道が果たすことのできる役割は大きいと思います。
プラスチックの使用量を減らそうという世界的な動きが素晴らしいものであるのは間違いないですが、報道を通して事態を眺めてみると、主体が有名企業であるからか問題への貢献度合いに比べて報道量が過度に多かったり、問題の本質的な原因は報道されていなかったりと、考えるべきことが沢山浮かび上がりますね。
ただ、社会課題の解決のために一歩目を大々的に取り上げ、人々の認知や活動を促すことは社会にとってプラスであると思うので、プラスチック問題もこれからの流れを見ながら、自身としても削減のために日々の中で工夫ができたらと思います。
プラスチックに関する問題が重要視されてきていると言っても、日本ではなかなかレジ袋廃止には至っていないと感じます。
2018年になって急に報道量が伸びる、などのばらつきのせいで、人々の危機意識が定着しない気がしました。
インド道路への活用方法が面白いです。
世界のこのような事例を見ると、日本の企業や政府はもっとプラスチック問題を真剣に捉えるべきではないかと思いました。
2018年がここまで顕著に報道量が増加しているということにおどろきました。ガストや大戸屋でもたしかにプラスチックの「ストロー」ばかりが廃止されているように思います。
インドの政策、実用的でおもしろいと思いました。
プラスチックの排出量を減らすことはもちろんですが、もっと多様な再利用方法が生まれたらもっといいのかなと思いました。
日本でも最近スーパーでレジ袋を配布しないところも増えてきているけれども、インドのように使ったプラスチックの利用方法も考える必要があると思いました。2018年になって急に報道量が増えているが、今プラスチックが問題になり始めたわけではないのでG7などの出来事がなくても世界的な問題として報道していくべきだと思います。
プラスティック問題は、
いくら使っても環境にはそんな影響ないよ!っていう意見がずっとあって、
ほかの国もこういう意見は強いのかな?と気になりました。
日本では日常に溶け込みすぎて、目にしないところでも大量に消費されているんだろうな、、と思います。
ストローやプラスチック製品を製造している業者が急に悪者にされて戸惑っているというような趣旨の記事も以前目にしました。
プラスチック製品の禁止を訴えるだけでなく、並行してそのような関係者たちのために何らかの対策も立てられるべきだなと感じました。