2019年6月28日及び29日の2日間にわたり、先進国と新興国の主要19か国と欧州連合(EU)を合わせた20の国と地域からなるG20(Group of Twenty)の首脳会合(G20サミット)が日本・大阪で開催される。G20は経済規模が大きい国家のグループとして、金融政策や貿易についての対話を重ねてきた。現在、日本国内では初めてのサミット開催にあたりG20に注目が集まっているが、これまでG20の存在と役割、決定などが日本の国際報道で脚光を浴びることはあったのだろうか。世界での出来事を伝える役割を担う報道機関は、G20をどれほど、どのように伝えてきたのか、この記事で探る。

2018年、アルゼンチン・ブエノスアイレスサミットにて(OECD/Flickr[CC BY-NC 2.0])
G20成立の背景
そもそも、G20はどのようなグループで、どのように成立したのであろうか。そのきっかけはおよそ20年前に遡る。1997年のアジア通貨危機をはじめ、複数の金融危機が新興国で同時期に起こった。これを受け、新興国が先進国とともに経済・金融政策について考える枠組みがなかったことが問題であるとし、それまでも話し合いの場を持ってきた主要7か国・G7(Group of Seven)の提案によって、先進国と新興国を合わせた19か国とEUの蔵相ら、中央銀行の総裁らがG20として会合を開始した。1999年のことだ。以来会合は毎年開催されてきたが、リーマン・ショックに端を発する世界金融危機が起こった2008年、アメリカ合衆国のジョージ・ブッシュ大統領(当時)がこの会合を首脳レベルに引き上げ、現在のG20サミットの第1回が開催された。ここでは世界金融危機への対処方法や、同様の問題が再発するのを防ぐシステムについての話し合いが行われた。
構成国はアメリカ、アルゼンチン、イギリス、イタリア、インド、インドネシア、オーストラリア、カナダ、韓国、サウジアラビア、中国、ドイツ、トルコ、日本、フランス、ブラジル、南アフリカ、メキシコ、ロシア、そしてEU。サミットには例年これに加えいくつかの招待国や招待国際機関も参加する。招待国は、サミットの議題との関連性などから総合的に判断して決定されている。G20は、構成国のGDPを合計すると全世界の85%を占めるなど、経済分野で大きな力を持つ国々の集まりだ。第1回サミットの開催が世界金融危機を受けてのものであったことからも分かるように、議題は主に経済分野であるが、例えば2014年のオーストラリア・ブリスベンサミットではエボラ出血熱、2017年のドイツ・ハンブルクサミットではジェンダー問題についても扱われるなど、時勢に合わせ多岐に渡っている。
G20に関する日本の国際報道
では、日本の国際報道において、G20はどのように取り上げられてきたのだろうか。朝日新聞の国際面での関連記事を調査した。2014年から2018年までの5年間、本文中でG20に言及した記事は101本あった。そのうち、見出しにG20の表記を入れ、主要なテーマとしたものは12本書かれていた。そのほかの記事は参加国の動向がテーマになっており、G20については文中でその国の関連情報として短く言及されている程度であった。G20を中心に据えた記事は、1年にたったの2本程度である。その存在や活動内容はどうやらこれまでほとんど注目されてこなかったようだ。
G20に言及した記事には、どのようなテーマのものがあったか。最も多いものは二国間関係で、実に44本。米中の首脳が通商紛争の打開を目指し会談を行う、といった記事がその例で、G20は両国の首脳が次に顔を合わせる場などとして紹介されるにとどまった。その次に多かったのは21本、各国の内政について。これは例えばトルコでの国政選挙の結果を受けた市民の声を報じる記事などで、その国を紹介するための情報としてG20のメンバーであることが触れられていた。G20を中心にした記事も、その内容はサミットに参加国の首脳が欠席する、遅刻するなどと、議論の内容と関係が深いとは言えないものが目立った。
G20関連の報道に登場する国はどうか。以下は、G20の記事中に登場した国(※1)の延べ回数である。
G20に言及した101本の記事中に世界各国が登場した回数の合計は、延べ198回であった。G20サミットは招待国も合わせると20数か国のリーダーたちによって行われているはずだが、日本の国際報道で言及される国には大きな偏りがある。まず、アメリカ、中国がともに延べ回数の2割以上を占めている。記事数としては、どちらも実に4割以上に登場していることになる。2016年のサミットは中国で行われたため開催前後に中国の記述がある程度増加したと予想されるが、それを考慮してもかなりの割合である。また、上位5か国だけで全体の67%を占めており、G20のメンバーのうちEUを除いた19か国中、約半数の9か国(アルゼンチン、イタリア、インド、インドネシア、カナダ、サウジアラビア、ブラジル、南アフリカ、メキシコ)の登場回数は5年間で2回以下と、アメリカや中国の扱われ方とは大きな差がある。加えて、G7のメンバー国(アメリカ、イギリス、イタリア、カナダ、ドイツ、日本、フランス)の登場数を合計すると75本と、全体の延べ回数の4割近くに上る。
他に注目すべきは北朝鮮で、G20のメンバー国でないにも関わらず、その行動が日本に与える影響の大きさからか、例えば米中関係の記事などに両国共通の問題として多く登場した。そしてそれらの記事中でG20サミットが簡単に言及された結果、北朝鮮がG20に関する記事における登場数上位5か国となっているのだ。
こうした現状を見ると、G20に関する日本の国際報道は絶対量が少ないうえ、内容もG7のような先進国や、中国、ロシア、北朝鮮のように日本に関係の大きい国が目立つ。先進国と新興国による共同での枠組みとしてのG20の独自性が強く捉えられてはおらず、G20の存在や役割、決定などの情報も十分に伝えられているとは言えなさそうである。

2018年、アルゼンチン・ブエノスアイレスサミットにて会話を交わすロシア・プーチン大統領とフランス・マクロン大統領(President of Russia[CC BY 4.0])
報道されないG20批判
中でも報じられてこなかったのは、G20に対する批判である。その1つは、G20の存在自体に向けられたものである。2010年、カナダ・トロントでのサミット時、ノルウェー外相ヨーナス・ガール・ストーレ(当時)は、経済規模の大きな国家が明確な責任や権限を持たずに自らグループを構成したこと、国際社会の強者が全体のためでなく自国の利益を追求して世界経済に関しての議論・決定を行っていることを19世紀の国際社会に喩え、「G20は第二次世界大戦以来、最も大きな後退である」と強く非難した。
他に、多くの場で見られるのは、世界経済における公平性についてのものだ。G20サミットは第1回から金融市場の改革をテーマとして掲げてきたにもかかわらず、構成国の多くが国際社会でうまみを得ている経済大国であることもあってか、自国の大企業などに対する規制の動きを見せてこなかったのだ。また、先進国による投資や支援としての資金貸し付けに起因する低所得国の債務問題、1日あたり1.9ドル未満で生活する極度の貧困状態にある人々が4割を超える地域があるような世界の経済格差問題に対しても、取り組む姿勢を見せてこなかった。さらに、気候変動などの環境問題への対処としての再生エネルギーの十分な開発に焦点を当ててこなかったことも、批判の対象となっている。

2017年、ドイツ・ハンブルクサミット時のデモ(Uwe Hiksch/Flickr[CC BY-NC-SA 2.0])
以上のような点について、これまでに世界各国の多くの団体がG20のあり方に疑問を抱き、実際に行動を起こして批判を投げかけてきた。例えば、ドイツ・ハンブルクでサミットが行われた2017年に抗議活動を行った「G20抗議の波(G20 Waves of Protest)」と呼ばれる組合はその1つだ。環境保護を訴えるNGO・グリーンピース(Greenpeace)、貧困問題に関する活動を行う国際協力団体・オックスファムのドイツ支部(Oxfam Germany)に加えて、ドイツ国内のいくつかの政党もこれを構成した。また、2014年、オーストラリア・ブリスベンサミットの際にも、およそ2,000人がG20に抗議してデモを行った。
しかし、こうした批判やデモのほとんどは報道されていない。G20の存在意義や活動内容への批判を行ったり、上記のような世界での批判に触れたりする記事は5年間で1度も書かれていなかった。デモについては、上記のブリスベンサミットの際のデモを紹介する記事が1本書かれていたが、これもあくまでサミット開催地で経済格差の解消を訴えるデモが起こったことを伝えるのみで、G20に抗議するデモであったことは触れられていなかった。G20のあり方や活動に関する情報、批判的な視点がここまで欠けているとなると、日本の国際報道から情報を得て、G20に疑問を持ったり、批判を投げかけたりすることは難しそうである。

2018年、アルゼンチン・ブエノスアイレスサミットでの取材の様子(G20 Argentina/Wikimedia Commons[CC BY 2.0])
経済規模の大きい国家の集まりとしてのG20は、国際社会への影響力も大きいだけに諸問題への配慮が求められ、時に厳しい批判の的となってきた。しかし、これまで日本の国際報道においては、報道される絶対量が少ないだけでなく、内容もG20自体でなく数少ない大国同士の関係や動向に焦点が当てられ、疑問や批判が伝えられてこなかった。さて、続く2020年のサミット開催地は、問題も多く指摘されるサウジアラビア。現在注目を集めるサミットが日本を離れたとき、G20はまた国際報道から姿を消してしまうのだろうか。
※1 登場した国:記事中において何らかの行動をとったか、他国の何らかの行動の関係国となったことが明確に言及されている国。
ライター:Suzu Asai
グラフィック:Yow Shuning, Saki Takeuchi
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G20 に対する批判について言及した記事が「1本もない」という状況はかなりショッキングというか、呆れてしまうというか、、
メディアの報道がこのありさまでは、このサミットも、どんどん名前だけの形骸化した集まりになるのではないかと思います。
他の国での報道がまだマシだといいんですけど
G20の記事でも、結局報道されるのはいつも日本で報道されてる国ばかりですね。
G20は、経済規模の大きな国のグループで、金融問題などについて話し合うということは理解していましたが、様々な批判やデモなどの問題点は知りませんでした。
いろいろな事についての負の側面も知ることによって、私達読者は考えさせられ、本当の姿、そして自国の問題について知る事が出来ると思います。その事からGNVの存在の必要性をいつも感じています。
多くの人が読んで
筆者の言うとおり、私自身G20に関する批判の存在を全然知らず、今までその開催に疑問を持つことはなかった。
G20はお金持ちの国々が、世界のために話し合う機会であると思っていたのに、その実情は自国中心的、お金持ち中心的な議題が多く、残念な気持ちになりました。
G20の首脳サミットがとうとう明日より開催されますね。それなのに当開催国のメディアによるとりあげ方といえば内容にフォーカスしたものがあまりにも少ない点が目立ちます。G20の名前ばかりが先走って、その成果を追求しない姿勢を改める必要があると感じる記事でした。
G20を開催するためにも多くの費用や人力が費やされているのに、世界をよくするために考えようというのは表向きだけで、お金持ちの自己中心的な話し合いと知って悲しかったです。
G20やG7のようなサミットはちょっと多すぎると思わないですか?
サミットを開くには資金かなり要るのに、それに相当する効果があるのでしょうか?
開催国にとっては威厳を見せる、国力・指導力をアピールする(格好を付ける?)機会として見ているでしょう。それは他国に対しても、国内支持を得る狙いとしても考える部分はあるでしょう。赤字に終わるオリンピックもそうだが、開催することを決める政府にとっては、かかる資金より威厳を重要視しているでしょう。
途上国の債務問題に関しては、その返済を持続可能にする方針で合意されましたね
ただ、去年も一昨年も、その前も・・・いつもそのような文言を一応入れますね。具体的な対策・政策がない「方針」を書いておくことに抵抗するG20の国々は少ないでしょうね。毎年G20から出る共同声明のこれらの方針を効果的な対策に変え、実現させていっていたら、世界はいい方向に向かいますね。