2021年3月、ボリビアの前大統領、ヘアニネ・アニェス氏がテロ・扇動・陰謀の疑いでボリビア当局によって逮捕された。逮捕に先立ち、アニェス氏は自身のツイッターで、「政治的な迫害が始まった。与党の社会主義運動(MAS)党は独裁政権のやり方に戻ることを決めた」と抗議した。2020年10月まで政権を率いてきた前大統領が逮捕される事態となったボリビアでは、一体何が起こっているのだろうか。この記事では、ボリビアが抱える国内外の問題にも触れつつ、近年のボリビアの政治状況の動向や今後の課題について探っていきたい。

ボリビアの国会議事堂 (写真:Rodrigo Achá / Wikimedia Commons [CC BY 2.0])
ボリビアの歴史
ボリビアは南アメリカ大陸中央部に位置する内陸国である。15世紀後半には、現ボリビアの領土は、南米で勢力を拡大したインカ帝国に組み込まれた。インカ帝国がスペインによって征服された後の1532年から1825年にかけてはスペインによる植民地支配が行われ、大きな影響を受けてきた国でもある。また、金・銀・錫などの鉱産資源が豊富であり、1545年に現ボリビアの南東部に位置するポトシ銀山が発見されて以降、ポトシはスペイン帝国の中でも有数の経済の中心地へと発展した。17世紀半ばにはポトシの人口は約16万人に達し、当時のヨーロッパの大都市に匹敵する規模となった。しかし一方で、鉱産資源がもたらした富の大半はスペインが獲得した。また、スペインの統治下で定められたミタ制という、先住民成人男性を対象とした労働力割当制度によって多くの先住民が過酷な鉱山労働に徴集された。ミタ制の下で発生した労働者の酷使や虐待、さらには事故などによって多数の先住民が犠牲となった。継続するスペイン本国による統治に対して、スペインからの移民の子孫であるクリオーリョと呼ばれた人々の不満が高まっていった。こうした不満はやがてスペイン本国から独立しようという運動に発展し、他の中南米諸国の独立運動の機運にも乗じて、1825年、ボリビアはボリビア共和国(※1)として独立を宣言した。
独立時、ボリビアの人口は110万人ほどであり、そのうち人口の大部分を占めるおよそ3分の2以上の人々が先住民であった。一方で、人口で見れば少数派であるクリオーリョを中心とする地主や財閥などの一部の富裕層が権力を握り、貧しい先住民を支配するという身分制度をもとにした社会構造が変化することはなかった。このような社会構造は1952年にボリビア革命が行われるまで続いた。この革命によって1953年には農地改革が実施され、支配を受けてきた先住民農民層に土地分配が行われ、先住民が従属的な労働義務から解放された。
ボリビアの鉱産資源を巡っては、外資系企業の積極的な参入も見られた。世界の銀市場が衰退した1900年代からは銀に代わって錫の需要が高まり、錫はボリビアの主要輸出品となった。しかし、資本家のほとんどがボリビア人であった銀鉱業時代とは異なり、様々な国籍の資本家や外資系企業が錫鉱業に参入していった。また、冷戦中にボリビアがソ連の影響を受けることを阻止する狙いもあって、軍事・経済などにおいてアメリカの介入も見られた。具体的には、アメリカが支持する反共的な政権の下で、アメリカの支援によってボリビア軍隊の増強が図られた。また中央情報局(CIA)も軍事的に介入し、ボリビア国内における共産主義勢力や反政府組織の抑圧に協力した。経済的には、1956年に大統領に就任したエルナン・シレス・スアソ大統領政権下において、アメリカからの大規模な資金援助を受けて、国内のインフレを抑えることを目指した経済プログラムが開始された。さらに、コカの葉が盛んに栽培されるボリビアはコカイン輸出の出発地としても知られる。コカイン貿易が問題となった1980年代には、アメリカの圧力を受け、ヘリコプターからコカ畑に除草剤を散布するなど、コカイン根絶の動きが強化された。
冷戦の終結を受けて、1990年代にはアメリカの大々的な介入は減少していった。しかし、世界銀行と国際通貨基金(IMF)によって、経済を立て直すという名目で導入されたはずの構造調整プログラムの失敗の影響もあり、ボリビア経済は停滞し、貧困状況の悪化が見られた。このような状況は中南米全体で共通する傾向が見られ、 1999年にベネズエラで左派政権が誕生したことをきっかけとして、中南米全体で所得の格差の減少や貧困の改善を目指す左派政権への移行が見られるようになった。この現象はピンクタイドと呼ばれ、ボリビアでも2006年、エボ・モラレス氏による左派政権が誕生することとなる。

2006年、大統領に就任したエボ・モラレス氏 (写真:Ministério das Relações Exteriores / Flickr [CC BY-NC 2.0])
エボ・モラレス政権
近年のボリビアの政治状況は、2006年から2019年の間大統領を務めたエボ・モラレス氏なしに語ることはできない。元々コカ栽培農家であったモラレス氏は、社会主義運動(MAS)党を率い、2006年1月に初の先住民出身大統領となった。モラレス氏は、経済格差の是正やコカ生産者への規制緩和、さらには先住民の権利拡大を掲げ、新憲法制定の実現を目指したため、MAS党は国民のおよそ過半数を占める先住民から圧倒的な支持を受けた。また強烈な反米主義、反新自由主義(※2)を掲げ、天然資源による収益のボリビア国民への一層の還元を主張した。2009年1月には新憲法制定の是非を問う国民投票が実施され、その結果、先住民の権利拡大、地方分権推進、農地改革、天然資源の国家による所有等を定めた新憲法が61.4%の支持を得て、2月に発布された。
またモラレス大統領政権下では、ルイス・アルセ財務大臣の下で、炭化水素会社、通信会社、鉱業会社の国有化などの積極的な経済政策が行われた。さらに、モラレス大統領はリチウム産業の活性化も目指した。リチウムはスマートフォン、電気自動車などのリチウムイオン電池に利用され、現在世界で需要が急増している。チリ・アルゼンチン・ボリビアの交差する場所には、世界のリチウム埋蔵量の約70%が存在すると推定され、中でもボリビア領土内の埋蔵量が最も多いとされる。2018年4月にはボリビアの国営鉱山会社の社長が、年間4万トンの二酸化リチウムを生産するというプロジェクトを立ち上げ、ドイツの中小企業のグループが支援することになっていた。しかし、スペインや外資系企業に鉱産資源の利益を搾取された歴史を持つボリビアでは、国民の多くは自国のリチウム産業に外資系企業が進出することに否定的であった。モラレス大統領は一時は合意に至ったドイツ企業との契約を、大規模な国民の抗議活動を受けて破棄した。
以上のような、産業を積極的に国営化する経済政策に加え、鉱物資源の市場価格の上昇もボリビア経済発展の大きな要因となり、2016年までの10年間で一人あたりの国内総生産(GDP)は約1,000米ドルから約3,000米ドルまで増大した。また国民の5分の1が貧困から脱却するなど、持続的な経済成長が見られた。また、反新自由主義、および外国政府や国際組織による影響を避ける考えを示すモラレス政権は、国際通貨基金(IMF)の融資を一切受けなかったことも知られている。

モラレス氏の演説を聞く人々 (写真:World Bank Photo Collection / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
MAS党が先住民からの圧倒的な支持を得る一方で、新自由主義路線を支持し、それまで先住民に対して権力を発揮してきたエリート層にとってはモラレス氏の政策は好ましいものではなく、反MASの立場をとる右翼勢力やその支持者も依然存在していた。特にボリビア屈指の大都市サンタクルス市は、主要な右翼政党連合の本部が置かれるなど、右翼勢力支持者が多いことで知られている。
長きに渡って政権を握ってきたモラレス氏であったが、ボリビア憲法では大統領の任期は連続2期までと定められている。2006年に初めて大統領の任に就いたモラレス氏は、その後憲法を改定している。2014年の大統領就任の際には、新憲法下での当選回数が大統領の任期回数であると主張した。これにより、2006年からの通算では3回目の大統領就任であったにも関わらず、2009年の就任が1回目、2014年の就任が2回目であるとしていた。しかし、2019年の大統領選出馬当選を目指すには2009年の当選を1回目としても大統領の任期を2期を限度とする憲法に違反する。そこで、任期終了前の2016年2月に憲法改定の是非を問う国民投票を行い、大統領の任期のカウントを再びリセットさせて2019年の大統領選への出馬、再々戦を目指したのである。しかし、この国民投票は僅差で否決された。この国民投票の結果により、モラレス長期政権はモラレス氏の任期終了をもって終結するかのように思われた。しかし2017年9月、MAS党は最高裁判所に対し、大統領等の役職の再選禁止に係る条項は違憲であると申し立て、同年11月には最高裁判所が違憲申し立てを認める判決を下したため、モラレス大統領の無期限再選が可能となった。この出来事に対しては、明らかな権力濫用であるとした批判が相次ぎ、多くのボリビア国民がモラレス大統領に対して不信感を抱くきっかけとなった。また天然資源の市場価格が下落し、経済成長が減速したこともモラレス氏の支持率を低下させる一因となった。
激動の1年
2019年10月、大統領選挙が行われ、ボリビア最高選挙裁判所はモラレス氏の再選が確定したと発表した。しかし開票作業における選挙不正の疑惑が浮上し、先述したサンタクルス市を中心に抗議デモが行われ、デモの動きが国内全土に広がっていった。また、米州機構(OAS)が選挙監視要員や調査団をボリビアに派遣し、「重大なセキュリティー上の欠陥がある」とする報告書を公表したことも、国内のデモを加速させる要因となった。ところが、実際に選挙不正に関する証拠が出てくることはなく、後に多くの専門家が、OASの報告書は誤解を招くものだとして批判した。しかし、10月20日の選挙後から国内の抗議デモ数は急増し、11月上旬にデモの盛り上がりがピークを迎えたところで、ボリビア軍や警察からモラレス氏に対し辞職勧告が出され、モラレス氏は大統領を辞職。その後、モラレス氏は自身に逮捕状が出されたと主張し、11月12日にメキシコに、12月にはアルゼンチンへと亡命する事態となった。

ボリビアでのデモ行進の様子 (写真:Szymon Kochański / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
モラレス氏の辞職を受け、2019年11月、元上院副議長であったヘアニネ・アニェス氏が、議会で法令上必要とされる投票を経ずに暫定大統領に就任した。アニェス氏は右翼勢力出身であり、アメリカや反モラレス氏の立場をとる国民は、アニェス氏の暫定大統領就任を「民主主義の勝利である」として称賛した。一方でMAS党やモラレス氏の支持者は、モラレス氏に対する軍の行動、更にはアニェス氏が正当な手続きを踏まずに大統領となった今回の騒動はアメリカ主導のクーデターであり、法の支配が失われていると抗議した。後にアニェス大統領政権に対して、モラレス氏支持者による大規模な抗議デモも行われている。
暫定大統領となったアニェス氏が最初に行ったのはモラレス派に対する強権的な対応であった。まず検察や裁判官に圧力をかけて、モラレス氏本人や政府関係者を含む100人以上に対して、扇動罪やテロリズムの容疑で刑事捜査を行い、MAS党の勢力を徹底的に弱体化させる方針をとった。また、治安維持目的であれば国民に対する武力行使も罪に問わないとする大統領令を発した。これにより激しい抗議デモに対する武力行使が可能となった。米州人権委員会は、2019年11月11日に首都ラパス市で、15日にコチャバンバ市で、19日にエル・アルト市でそれぞれ国家治安部隊が関与した死亡事件があったと報告している。この事件では、地元民を含め、アニェス氏の暫定大統領就任への抗議者たちが犠牲になっている。このような事件を受け、アニェス氏に対して「人権侵害である」とする批判が続出し、抗議デモの動きは加速した。また2020年に入ると、新型コロナウイルスのパンデミックを政治利用し、権力を保持し続けようとしているとの批判も相次いだ。新たな大統領選挙を実施することを目的として発足したはずの暫定大統領政権は当初2020年5月3日に大統領選挙を実施する予定であったが、新型コロナウイルスのまん延を理由として二度延期し、最終的には10月18日にまでずれ込んでいた。
対外政策においてもアニェス氏は前大統領のモラレス氏と正反対の方針をとった。一つ目の例として挙げられるのはリチウム産業関連政策である。ボリビアのリチウム産業政策においては、先述したようにモラレス前大統領がドイツ企業との契約を一方的に破棄したため、外資系企業との交渉は打ち止めとなっていた。この問題に際してアニェス氏は、ドイツ企業、中国企業との交渉を開始するとの方針を示した。また、イギリスによるボリビアのリチウム産業へのすり寄りの動きも見られた。新政権発足後、イギリス大使館とイギリス企業はボリビア当局に接近し、官民でリチウム探査・開発プロジェクトに資金提供を行ったとされている。イギリス政府はリチウム電池の技術を産業戦略の優先事項としており、アニェス右派新政権に働きかけることで、ボリビアのリチウム産業の新たな戦略的パートナーとしての立場を確立したい思惑があったとみられる。

ボリビアのウユニ塩湖。世界最大規模のリチウム埋蔵量を誇るとされる。 (写真:Luca Galuzzi / Wikimedia Commons [CC BY-SA 2.5])
また二つ目の例には、2020年4月、アニェス暫定大統領政権が新型コロナウイルスのパンデミック救済資金としてIMFから34,670万米ドルの融資を受けたことが挙げられる。反新自由主義の立場から、IMFの勧告を無視した経済政策を行ったモラレス元大統領とは対照的な政策である。ここで問題となったのは、ボリビアには国が資金を借り入れる時は議会で承認されなければならないという法律が存在したにもかかわらず、アニェス大統領が議会の同意なしに融資を受けた点である。また、アニェス政権は選挙を経ずに発足した暫定政権であるにもかかわらず、国の経済モデルを一変させるような大きな決断するような権利があるのかという疑問の声も上がっていた。さらにこの融資には7%という高い金利(※3)が紐づいており、融資を受ける条件として緊縮財政を課されたことも問題であるとされた。それまで政権を担当していたMAS党は、国民の80%以上が勤務する中小企業の成長を支援する政策を行ってきたが、緊縮財政を課されたことでこれが不可能となり、結果的にIMFからの借り入れは多くの国民の生活を圧迫する形となった。このような急進的な経済政策の裏側には、暫定大統領政権のうちに以前のMAS党政権の経済モデルを崩壊させ、ボリビア経済を方針転換させたいというIMF側の思惑があったとの見方もある。
左派新政権の今後の課題
2020年10月18日、遂に大統領選挙が行われ、MAS党のルイス・アルセ氏が得票率55.1%で当選した。ボリビア国民の過半数が暫定政権の政策の賛否を問う場面で、MAS党の復権を選択したといえよう。先述したようにアルセ氏はモラレス政権において財務大臣を務め、経済の飛躍的発展に貢献した人物であり、不安定な状態にあるボリビアにおいて社会的・経済的リーダーとしての役割を期待されている。では、アルセ新大統領政権がボリビア社会の安定と今後の発展を図っていく上でどのような課題があるのだろうか。ここでは、国内問題と対外政策を含めていくつかの課題を取り上げる。

ルイス・アルセ氏の大統領就任式の様子。 (写真:ルイス・アルセ氏の大統領就任式の様子 / Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0])
まずは、MAS党のリーダーであり、元大統領のモラレス氏への対応である。亡命していたモラレス氏はMAS党政権の誕生を受けて帰国しているが、2021年3月の地方選挙ではモラレス氏が選出・任命を主導したとされるMAS党の候補者たちが軒並み苦戦を強いられるなど、国内では依然としてモラレス氏への不信感が根強く残っている。アルセ大統領は「モラレス氏が政権に関わることはない」と明言しているが、未だ党の中で影響力を保持しているモラレス氏に対し、アルセ大統領がどのように対応していくかが課題となる。
また、前大統領ヘアニネ・アニェス氏への対応とそれに係る司法問題も大きな波紋を呼んでいる。2021年3月、アニェス氏はテロ・扇動・陰謀の疑いで逮捕され、ボリビア検察当局は6か月間の公判前拘留を請求した。かねてよりMAS党は「アニェス氏とその協力国がモラレス氏を追放するクーデターを実行した」と主張しており、この主張を受けて当局が逮捕に踏み切った形である。これに対しアニェス氏の所属政党は、クーデターがあったという事実はなく、政治的迫害が開始されたとして政府を非難した。ボリビアではアニェス政権時代にも政府の圧力によってモラレス政権のメンバーに対する刑事捜査が行われるなど、司法が政権に迎合する傾向がある。アルセ大統領は10月の選挙当選直後に、自分の政権下では検察や裁判官に圧力をかけないことを明らかにし、11月には司法制度の独立を図る改革案を作成する専門家委員会を設置していた。しかし今回のアニェス前大統領逮捕により、その言葉と行動の信憑性は疑わしいものとなっている。司法の独立性を保つために、司法制度のさらなる改革が必須である。

ルイス・アルセ大統領 (写真:OECD Development Centre / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
ボリビアの天然資源の開発をめぐる方針も課題となっている。リチウム産業関連では、ドイツ企業との交渉が難航している。アルセ大統領はリチウム産業の発展には外資系企業の協力が不可欠であるとの考えを示し、交渉に前向きな姿勢を保っている。しかし、外資系企業との提携について世論の支持を得るには、利益分配において外資系企業とボリビア側とが公平な条件となるように調整し、ボリビア側の利益を最大化する必要がある。そのためアルセ大統領は2018年のモラレス元大統領時代に破棄となった契約の更なる条件見直しを行っている。また、天然ガスも輸出しているボリビアだが、ブラジルやアルゼンチンへの輸出が近年減少していることも経済成長への歯止めをかけている。さらに新型コロナウイルスの感染拡大の影響でボリビア経済は感染拡大前の状況と比較して6%縮小し、数万人の国民が再び貧困状態に陥ったとの予測もあり、以前のような経済成長を成し遂げるのは容易ではない。リチウムをはじめとする豊富な天然資源を活かし、より一層の経済成長を遂げていくためには、外資系企業とのさらなる交渉が必要となってくる。
アニェス政権下におけるIMFからの資金借り入れ問題も深刻化していた。アルセ大統領は、2020年のIMFからの借り入れが契機となって、今後のボリビア経済へ長期的にIMFが介入したり、IMFによる条件が国民の生活を圧迫したりするリスクを重く受け止めていた。アルセ大統領の意向を受け、ボリビア中央銀行は2021年2月、アニェス政権時代に借り入れた融資額に金利を加えた総額35,150万米ドルをIMFに一括返済した。高い金利の影響もあり、全体として約470万ドルの経済的損失を生んだが、ボリビアは再びIMFから独立することを選択した。この事件の影響によって、以前にも増してIMFへの拒否反応を強めていくことが予想されるMAS党政権がどのような経済政策を打ち出していくのかが注目される。
まとめ
社会的に脆弱な立場に立たされやすい先住民が人口の半分を占めているボリビアでは、格差是正や貧困改善政策を実行するMAS党政権は今後も多くの国民からの支持を集める可能性が高い。しかし、上述のように課題は山積みであり、右翼政党支持者の多いサンタクルス市などの諸地域では2020年10月の選挙が正当に行われたかどうかの監査を求めるデモが行われるなど、未だ国内の政治状況が安定したとは言えない。このような状況を改善するためには、政治プロセスを透明化させ、国民が信頼できるような政治体制を確立した上で、格差の減少に努め、二極化している国内の政治情勢を緩和していくことが求められる。約1年間にわたる暫定政権を経て、ようやく新政権が発足したボリビア。政治的にも経済的にもまだまだ不安定な状況が続くボリビアの行方に今後も注目していきたい。
※1 南アメリカ大陸5ヵ国をスペインからの独立に導いたシモン・ボリバルはボリビアの独立にも尽力し、ボリバルの名にちなんで、新たな独立国はボリーバル共和国と名付けられた。また2009年、モラレス政権下において新憲法が制定されたことに伴い、国名を「ボリビア多民族国」に変更した。
※2 新自由主義とは、規制緩和を行い、政府の市場への介入を最小限にし、経済を市場の自由競争の結果に委ねるという考え方。
※3 ラテンアメリカ開発銀行(CAF)の金利は2%
ライター:Seiya Iwata
グラフィック:Hikaru Kato
ボリビアについて歴史とともにとても詳しい情報が書かれていて、すごく勉強になりました。今後もボリビアの動向についてみていきたいと思いました。
ボリビア政権とリチウム産業の今後が気になります。リチウムの需要がますます高まると思うので、注目したいです。