2022年4月16日、アフリカ西部、ブルキナファソにあるペルコア鉱山で8人の鉱山労働者が浸水によって閉じ込められ、その後２ヶ月弱の捜索ののち、8人全員が死亡した状態で発見されるという事件が起きた。彼らは、鉱山内の避難所にたどり着くことができなかったのだ。実は、この事件が起きたペルコア鉱山は、カナダの鉱山会社トラヴァリ・マイニングよって操業されている。そして、この会社は緊急事態への対応と安全措置の怠りについての厳しい批判に直面しているのだ。
現在、カナダの鉱山会社は世界中で多くの鉱山を操業している。その一方で、さまざまな問題を抱えているのだ。この記事では、そのようなカナダの鉱山会社にまつわる問題について探っていく。
カナダの鉱物生産量1位の金（写真： hamiltonleen / [ Pixabay License ]）
カナダの鉱山事情
カナダは天然資源が豊富な国であり、2020年の名目GDPのうち11.5%を占めている。そのため、鉱業は国内の主要産業となっており、2020年のカナダ国内での鉱物生産額は343億米ドル（※1）となっている。続いて、カナダ国内の鉱物生産量上位５品目を見てみると、金、鉄鉱石、カリ（炭酸カリウム）、銅、石炭となっている。金の生産額は２位の鉄鉱石より３倍以上多く、実際に、カナダの鉱山会社の収益上位40社のうち、23社が金鉱を操業する鉱山会社である。世界で見ても、カナダの金生産額は5位となっている。
次に、カナダの鉱山会社の世界での状況を見ていく。カナダの鉱山会社の世界進出は凄まじく、カナダが本部である鉱山会社は、世界の鉱山会社の約75％（※2）を占める。そして、2020年現在、97カ国の鉱山で活動しており、カナダの鉱山会社の全体の鉱山資産である2,734億米ドルのうちカナダ国外の鉱山資産鉱山資産は1,882億米ドルを占めている。すなわち、カナダの鉱山会社が得ている利益のうち、国外から得ている利益は約70％にのぼるのだ。地域ごとの鉱山資産を見てみると、カナダを除く南北アメリカが最も多く1,254億ドル、次いでアフリカが365億米ドルとなっている。国ごとでみると、上位3カ国は、アメリカ（21%）、チリ（11%）、パナマ（8%）になっている。
Natural Resources Canadaのデータを元に作成
では、なぜカナダの鉱山会社がこれほど世界の鉱山産業を独占しているのだろうか。その理由として、カナダの法律と政策が鉱山会社にとって非常に恩恵が多いものであることが挙げられる。規制が緩く企業監視のような制度がないだけでなく、税金に関しても多くの優遇措置が存在しているのだ。その結果、国内企業が力を持つだけでなく、国外からも多くの企業が集まってくる。企業が集まることで探鉱・採掘技術も集結され向上することで相乗効果が生まれ、その結果、世界の鉱山会社のハブとなってきたのだ。こうして、カナダは国内の豊富な天然資源を利用して鉱業を発展させているだけでなく、世界中の鉱山・鉱物生産も操ることで莫大な富を得ており、世界の鉱山産業の大部分を占めている。
しかし、このような世界進出と同時に、鉱山会社は自分達の利益を最大化することの代償に、いくつかの問題を生み出している。カナダの鉱山会社が抱える問題として大きく３つ挙げられる。富の搾取、労働者への人権侵害、環境汚染である。
富の搾取
1つ目は、富の搾取である。上で述べたように、カナダは世界各国で多くの鉱山を操業している。そもそも、なぜこれらの国々がカナダの鉱山会社を受け入れるのだろうか。低所得国は特に、資本と技術の限界によって、採掘できる資源が限られている。そこで、資本や技術が豊かな外資系企業を受け入れる代わりに、採掘された鉱山から得られた富の一部（これをロイヤリティという）と法人税などを鉱山がある現地国に納めてもらうことで、外資系鉱山会社と現地国の双方が利益を得られるようになっているのである。しかし、鉱山業界では、このロイヤリティが低く設定されていること多く、さらには納めるべき税金も納めていないことがある。つまり、実際のところは現地には十分にお金が入ってきておらず、外資系の鉱山会社が利益を独占していることが多く、資源を保有する国から鉱山を運営する外資系企業の元へ資本流出が起こっている。
ナミビアのロッシュ・ピナ鉱山（操業はトラヴァリ・マイニング社）（写真： Hp.Baumeler / Wikimedia Commons [ CC BY-SA 4.0 ]）
ここで、不法資本流出の仕組みについて少し述べておく。不法資本流出については、かつてのGNVの記事でも取り上げられているので参考にしていただきたい。まず不法資本流出とは、富が本来あるべきところにあらず、不法な形で他国に流れてしまうことであるが、貿易においては鉱物が採掘されるところから輸出される過程で起こることが多い。国外で活動する際に、不法な方法を用いて現地に対する納税額を抑えるのである。代表的な方法としては、採掘・生産にかかったコストを高く見せたり、輸出の際に鉱物資源の価格を低く見せたりすることで、利益を実際より低く見せて納税額を抑える方法がある。そのような価格操作を隠す手段としてタックスヘイブンが利用されることが多い。タックスヘイブンについても過去のGNVの記事でも取り上げられている。
例えば、カナダに本社を置く鉱山会社であるファースト・クアンタム・ミネラルズ（FQM）は、鉱山活動の資金の捻出に、グループ会社内のローンを利用しているが、高利子を通じて鉱山の操業で得た利益を移転させたり、タックスヘイブンを利用させたりすることで価格操作を行い、納税額を低くしていたのだ。
さらには、鉱山がある現地政府だけでなく、カナダ政府にも税金が収められていないケースもある。カナダの鉱山会社シルバー・ウィートンは、法人税がかからないケイマン諸島にある完全子会社シルバー・ウィートン（ケイマン）株式会社を通して、鉱山会社に対して融資を行い、その見返りに鉱物資源を受け取ることで利益を得ている。この子会社の活動実態はカナダであるにも関わらず、ケイマン諸島のペーパーカンパニーを通じて活動しているためウィートン社は税金をカナダに納めていない。
また、合法的な手段で税金逃れを行っているケースもある。例えば、カナダのエンジニア会社SNCラバランは、モーリシャス諸島におく子会社SNCラバラン・モーリシャス株式会社を通して、2012年にセネガルで鉱山の処理場を建設した。2004年にセネガルとモーリシャスとの間で結ばれた条約を利用すると、合法的な方法で大幅な節税を行えるからである。企業側は減税を目的にモーリシャス諸島の子会社を利用したわけではないと主張しているが、真相は定かでない。
労働者への人権侵害
2つ目の問題は、労働者への人権侵害である。カナダの鉱山会社が利益を最大化するために、本来現地に還元されるはずの利益を独占してしまっているのは上で述べた通りだ。しかし、同時に、利益をより得るために、過度なコスト削減にも取り組んでいる。そこでは現地政府が決める安全対策や報酬に関する緩い労働条件を利用して、安全な操業のための費用や人件費を大きく削減していることが多い。
例えば、冒頭に述べたブルキナファソのペルコア鉱山の例は、安全措置の怠りが原因となった事故の一つである。8人を鉱山内に閉じ込めることになった要因は、豪雨による洪水の発生であるが、洪水が発生した要因は事故の数日前のダイナマイトの使用であると考えられている。ダイナマイトの使用によって鉱山の地盤が弱くなっており、地面が崩壊しやすくなっていたのだ。状況を鑑みると災害の発生は想定できたはずであるが、鉱山会社は災害への準備を怠っていたと考えられる。これは安全性への配慮の欠如だと考えられるだろう。
ザンビアのカンサンシ鉱山で働く労働者たち（操業はFQM社）（写真： Utenriksdepartementet UD / Flickr [ CC BY-SA 2.0 ]））
また、報酬の低さや強制労働が原因である事件の一つとして、エリトリアのビシャ鉱山での労働状態に関する問題がある。カナダの鉱山会社ネブサン・リソーシズは、エリトリアにおける徴兵制による強制労働の蔓延を利用して、労働者を奴隷のように働かせていたとされている。現地労働者は、月給約30米ドルで、ひどい労働環境のもと１日に何時間も働かされ、病気になってしまっても休暇を与えられなかったと主張しているのだ。
このような、鉱山会社が自らの利益のために行うコスト削減によって、現地の労働者が危険と隣り合わせで働かなければならなかったり、人道的とは到底思われないような環境で働かなければならなかったりする状況に陥っている事例が複数報告されている。
また、企業が鉱山を開発・操業をするにあたって、鉱山付近の住人と鉱山会社が衝突することもある。そのようなケースにおいて、現地政府や警察は鉱山会社の活動を保護するため過剰な対応をしていることがあるのだ。例えば、タンザニアのノースマラ鉱山では、2016年に、数年間で現地警察が鉱山付近の住民計65人を殺害し、さらに計270人を負傷させたことが明らかにされた。また、当鉱山の警備員によって引き起こされた死亡事件も複数発生したともされている。原因は、鉱山廃棄物からのわずかな金を求めて鉱山内に侵入する人と彼らの侵入を禁止しようとする鉱山警察との間の散発的な衝突である。このノースマラ鉱山はカナダのバリック・ゴールド社の子会社によって運営されている。そして、この会社は警察の行動に加担していたと言われているのだ。これに対し、カナダ政府と当企業は、この事件はこの鉱山と、そこに不法侵入する地元住民との長きにわたる衝突の結果であるとし、虐待への関与を否定している。
ラテンアメリカの鉱山では、鉱山開発反対者に対して多くの殺害や虐待が行われており、正義と企業の説明責任についての事業（JCAP）によると2000年から2015年の間には、ラテンアメリカの14カ国にあるカナダの鉱山会社が操業する鉱山で44人の死亡、403人の負傷が確認されている。これは確認されている人数のみであり、氷山の一角だとされている。これらの事件において、事件に関わっているカナダの鉱山会社は28社にのぼると報告されている。カナダの企業は全ての事件で直接的に関与している訳ではなく、殺人・負傷を行った主体と共謀をおこなっていたり、人権侵害を生み出す状況を作りだしていたりすることもあるのだ。カナダの企業はこれらの事件について、死者に関しては総数の24.2％、負傷者に関しては12.3%のみ報告しているようだ。
周辺地域への環境汚染
3つ目の問題は環境汚染である。カナダの鉱山会社は、採掘事業を通して現地に深刻な環境問題を引き起こしているのだ。例えば、ラテンアメリカでは、ペルー北部にあるラグナス・ノルテ鉱山付近で環境問題が発生している。米州人権委員会（IACHR）は、この鉱山が、深刻な汚染問題を周辺の川の源流に引き起こし、周辺の収穫物や牧場に影響を及ぼしていると報告されている。これに対して、この鉱山を運営するカナダのバリック・ゴールド社は、この汚染は現地で自然発生する鉱化によるものであり、自身の鉱山とは無関係であると主張している。
モーリタニアにあるタジアスト露天掘り鉱山（操業はキンロス・ゴールド社）（写真： Kinross Gold Corporation / Flickr [ CC BY-SA 2.0]）
また、カナダの鉱山会社ゴールド・コープが操業するグアテマラのマーリン鉱山が、大規模な水質汚濁を引き起こしたと報告されている。周辺の河川に鉄やアルミニウムといった重金属が含まれており、さらに河川周辺の住民の尿中にもそのような重金属が通常より多く含まれていることが判明しているのだ。
また、アフリカでも同様に採掘事業やその計画によって、環境に危険が及んでいる。アフリカでは、主要金属鉱山の約44%が自然保護区内、もしくは10km圏内に存在しており、保護区内に直接影響を及ぼすことが懸念されているのだ。
このような鉱山による環境汚染については、過去のGNVの記事でも取り上げられている。
問題の背景
では、このようなカナダの鉱山会社が抱える問題の背景には、どのようなことが存在しているのだろうか。一つはカナダと鉱山が存在する国の二国間の法律の問題である。まず、カナダから見ていく。カナダは、国外展開する企業を多く抱えており、カナダ政府は国内外で活動する鉱山会社の広汎な保護を行なっているにも関わらず、カナダ企業が国外で人権侵害や環境破壊を規制する十分な法律を持っていない。さらには国外で起こったそのような問題について企業に十分に説明させる法律もないのだ。
次に、鉱業が行われる国の法律の特徴を見ていく。カナダの鉱山会社が鉱山を操業している国の多くは、民主主義の体制がしっかりと確立できておらず、人権問題や汚職といった問題に対しても法の支配が比較的弱い国が多い。また、説明責任が十分に存在しないことが多い。このように、カナダとカナダの鉱山会社を受け入れている国々の法制度の欠陥によって、カナダの鉱山会社は数々の問題を引き起こし、さらにはそれらに対しカナダ政府は目を瞑っているのだ。
また、カナダ政府とカナダの企業が鉱山を保有する国との力関係も問題の一つである。カナダの鉱山会社が鉱山を操業している国のほとんどは、カナダよりも低所得の国であるため、カナダ政府と相手国政府の間に不平等な国家間の権力関係が存在する。そして、そのような関係のおかげで、カナダの企業だけでなくカナダ政府も経済的利益を得ることができる。そのため、カナダ政府は、環境や労働状態、地域社会の利益を保護するために拘束力のある国際条約を確立しようと働きかけず、ましてやカナダ国内の企業が国外で活動する際の、強力な規制をかけようとはしないのだ。また、現地政府も、カナダの政府と同様に、カナダの鉱山会社に対して強い規制をかけようとしない。その理由の一つに天然資源部門における腐敗や賄賂の蔓延が挙げられる。天然資源の利益は、政府関係者にとって支配しやすく、独占しやすい。そして、特に、資源に依存する経済では汚職を受け入れることによる経済的な代償が少なく、さらに政府関係者自身も賄賂から利益を得られることがある。そのため、自らの利益のために、カナダの鉱山会社の利益大きくなるように働くのだ。
ネバタ州のラウンド・マウンテン金鉱山（操業はキンロス・ゴールド社）（写真： Uncle Kick-Kick / Wikimedia Commons [ CC BY-SA 2.0 ]）
さらには、カナダは世界の多く国々と国外投資促進および保護協定（FIPA）と呼ばれる協定を締結している。この協定は、企業が締結国において活動するとき、企業が利益を追求することを妨げる政策を相手国が制定した際に、相手国政府を訴える権利を与える、というものである。このことによって、例えばカナダが操業する鉱山がある現地政府が、上で挙げたような問題を解決するために、経済や環境についての政策の民主的な決定をしたとしても、それに反発するカナダ企業や投資家が法廷で訴えることができる。協定の内容は、両国ともに同じ権利を与えられるものであるが、アフリカの国々でカナダに投資をする企業はほとんど存在しないため、実情は不公平な条約である。このように、FIPAはカナダの鉱山会社を保護するための設計になっているのだ。
解決に向けて
このように、カナダの鉱山会社が引き起こしている問題は数多くある。では、これらの問題は解決に向かっているのだろうか。改善が見られるものとして、越境した法的措置が挙げられる。カナダ国内においても、カナダが鉱山労働者のような外国人原告とカナダ企業が関わる裁判を行うようになったことは、鉱山企業の透明性と明確性の点で一歩前進したと、カナダの鉱業に政策分野で影響を与えるカナダ鉱業協会は主張している。実際に、カナダの企業が、自らが操業する鉱山で起こった人権問題について責任を問われるケースは増えてきている。
例えば、上で述べたエリトリアの鉱山における強制労働については、現地労働者のエリトリア人3人によって、2014年にカナダの法廷で訴えられた。これは、カナダが国外の鉱山で引き起こした人権問題について、カナダの法廷に持ち込まれた初めての例である。結果として、カナダの企業ネブサンの、虐待の否定と現地エリトリアを訴訟の場としようという主張は却下され、エリトリア人の原告とカナダ企業は和解に至った。
他にも、2007年に、グアテマラのフェニックス鉱山で、カナダの企業ハドベイ・ミネラルズが鉱山操業のために強制立ち退きをさせるための手段の一つとして現地警察・兵士・警備員によって行われたとされている集団輪姦に関して、2011年、ハドベイ・ミネラル社はグアテマラ人女性11人によってカナダの法廷で訴えられた。2013年、裁判所がハドベイ・ミネラル社による訴訟棄却申請を却下したことで、グアテマラ人女性の勝利が確定した。しかし、人権侵害を受けている個人が、遠く離れたカナダの法廷に持ち込み、巨大な資産を持った鉱山会社を相手に訴訟を起こすということは、極めて困難なことであり、多くの被害者にとっては不可能に近いことである。ましてや、裁判において勝利することは、例外的なものにしかならないだろう。
ドミニカ共和国のメディナ大統領がバリック・ゴールド社の副社長やカナダ駐在大使に迎えられる様子（写真： Gobierno Danilo Medina / Flickr [ CC BY-NC-ND 2.0]）
カナダの鉱業協会はまた、鉱山事業に対する透明性をもたらすための積極的な企業努力を行う国が増えてきているとも主張している。
しかし、このように、個々の人権問題について訴えられることはあったり、個々の企業が改善を目指して動き出したりすることはあったりするものの、個人が人権問題についてカナダの法廷で訴えることは多くの場合で難しく、企業努力も個々の企業レベルでとどまっており、拘束力もない。また、鉱山会社が引き起こしている問題は、資本流出、人権問題、環境問題といった、広範囲にわたるものが多く、個々の企業で包括的な対策をするのは困難である。ゆえに、カナダ、資源を保有する国、そして国際レベルでの法制度の改革により企業の説明責任及び犯罪に対する処罰を強化する、問題の改善策だけでなく予防策についても整備する、といった包括的で根本的な解決法を模索することが急務である。
※1 以下全て米ドル表記。参考文献でカナダドル表記である時は2020年の平均為替レート1CAD=0.7462 USDに基づいて米ドルに換算。
※2 S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスによると約半数という見解もある。
ライター：Yuna Nakahigashi
グラフィック：Yudai Sekiguchi
