2016年12月21日、西アフリカのガンビア。ヤヒヤ・ジャメ前大統領が、彼への惜しむ声とそれを上回る罵声を背に、赤道ギニアへ亡命した。1994年から22年続いた長期政権にピリオドが打たれたのだ。彼は、野党候補バロウに敗れた大統領選挙の結果を拒否し、任期満了の期間を過ぎても政権の座を譲らなかった。結果として彼がルール違反でとどまっていたのは、3日。この無血権限移譲には、軍事介入を示唆した西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)が関わっている。ガンビアを囲むセネガル軍がECOWAS介入の一環として国境を越えた直後に、ジャメ氏は退陣を発表した。アダマ・バロウ新大統領はしばらくの間、ジャメ氏を警戒するためにECOWAS部隊の駐在を要求している。
ガンビアでのこの政権交代が取りざたされる背景には、アフリカの多くの国で今なお続く、長期政権がある。多くの国では選挙が行われ、国民から選ばれた代表者が政治を行っている。ただこれが、必ずしも「民主主義」を表すものとはいえないのだ。一人の大統領が長期にわたり政権を握り続けたり、政党が長らく変わっていなかったり、アフリカの民主主義の多くは、中央集権型で、一度権力を持つとその構造を外部から崩すのは難しい。
例えば、与党が野党の自由な政治活動を事実上不可能にする場合がある。国際人権保護団体アムネスティインターナショナルによると、ウガンダでは2016年の選挙期間中、警察が対立候補を含む活動家を武力で妨害し、政治的な集会も規制されていたという。強力な野党がいなければ、政党も政治のリーダーにとって脅威に感じるものは何もない。また、たとえ対立候補に票が集まったとしても、その結果を握りつぶせるのも大統領である。ルワンダでは、民主的に行われたはずの選挙が「操作」されたのではないかとの疑いも大きい。
同一人物が権力の座に就き続けることが法によって正当化されている国もある。ムガベ大統領(ジンバブエ)、ンゲマ大統領(赤道ギニア)、ドス・サントス大統領(アンゴラ)らはそれぞれ国の憲法を改正し、彼らが35年以上政権を担うことを「合憲」としている。
どうして彼らはこれほど長く国のリーダーであり続けたいのだろうか。政権が交代すると、大統領だけではなく、アドバイザーをはじめとする関係者の立場や影響力は瞬く間に失われる。大統領と相互依存の関係にある幹部や支持者が権力や金銭的な利益に固執し、周囲の体制が固まっているのだ。また、政権交代後の新しいリーダーに、在職中の汚職や人権侵害を訴追されることへの恐れも、大統領職への固執の理由にあげられよう。

赤道ギニアで開かれたアフリカ連合サミットBy 赤道ギニア大使館 [CC-BY-ND-2.0], via Flickr
しかし、同じアフリカでも民主的な選挙を経て権力移譲に成功している国もある。アラブの春の影響を受けてザンビアでは2011年、20年ぶりに与党が交代。セネガルでは2000年、2012年と平和的な政権交代が実現されている。市民による社会的な運動や、国家から独立した報道機関が民主的な選挙に大きく貢献した。
コンゴ民主共和国では、ジョセフ・カビラ大統領が2016年の任期を終えてなお政権に居座っていたことから、抗議が頻発。計50人以上の死者が出た。これを受けて彼は、2017年の次回選挙後に大統領を辞任することを宣言。その選挙が行われれば、1960年の独立以来初の平和的な権力移譲が期待される。
また、2017年2月、37年続いたアンゴラのドス・サントス大統領は次の選挙への不出馬を宣言。1975年からドス・サントスの親類による政治が続いていたアンゴラで、2017年は民主化への第一歩の年となりそうだ。しかし彼は、野党を抑えたまま現国防相を後任の大統領候補として自ら指名し、女性ではアフリカ最大の資産を持つ娘を国営石油会社のトップに任命しており、退職後のアンゴラの権力体制をすでに固めている。
ガンビアの無血政権移譲は、ガンビアの小さな国土、周囲の国々のリーダーがどこも野党出身であることなど、地理的な要因が成功のカギと言われている。超国家組織の軍事力で揺さぶる方法が、いつでもどこでも正しい手段とは言えないだろう。しかし、アフリカでの民主的な政権が増えれば増えるほど、組織的に他の国の民主化への圧力となることは期待できる。2017年、ガンビア、コンゴ民主共和国、アンゴラを筆頭に、“アフリカの春”が来るのだろうか。
ライター:Shiori Yamashita
グラフィック:Hiro Kijima