現在、アフリカには何カ国存在するのか、ご存じだろうか。国連加盟国は54カ国、つい先日モロッコの加盟を認めたアフリカ連合(AU)の加盟国は55カ国である。どういうことか。鍵になってくるのが、アフリカ北西部に位置する“西サハラ”である。西サハラは、人口567,000人、面積252,120平方キロメートルのモロッコの南に位置する地域である。西サハラは、国連の加盟国ではない。しかし、西サハラは、AUには国家として加盟している。このように、国連などとAUとでは、見方によってアフリカにある国の数が変わってくる。

西サハラの風景 (SHUKASAMI/shutterstock.com)
なぜ、このような現状となっているのか。これには西サハラの歴史が関係している。1975年、スペインは植民地であった西サハラからの撤退を準備していた。しかし、スペインは西サハラの自治権を認めることなく、モロッコとモーリタニアと3者で秘密の条約を結び、西サハラ北部をモロッコ、南部をモーリタニアが分割統治することとなった。これに対して、西サハラの独立のためにポリサリオ戦線が生まれ、ポリサリオ戦線が双方と武力闘争を開始した。その後、ポリサリオ戦線はモーリタニアと停戦協定を締結し、モーリタニアが南部の領有権を放棄したが、モロッコがその地域を含めて併合したことで、よりいっそうモロッコとポリサリオ戦線は対立した。1991年になってようやく、国連の仲介で両者は和平合意を結び、西サハラの独立を住民投票によって決定することになった。しかし、モロッコ側が大量のモロッコ人を西サハラに移住させていたことによる、投票権を持つ西サハラ住民の定義を巡る問題で、いまだに住民投票は実施されていない。
国際司法裁判所(ICJ)や国連法務部など、国連による法律上の見解では、「西サハラはモロッコのものではない」ということだ。また、国連総会でも、西サハラは非植民地化の対象となっている。しかし、実際モロッコは約2,700kmにも及ぶ巨大な“砂の壁” を作り、西サハラの領土の3分の2程度を自国として占領している。また、モロッコは砂の壁の周りには地雷などをたくさん埋めており、世界一長い地雷原だとされている。
モロッコでは、漁業や鉱物資源が国民経済にとって重要な位置を占めている。モロッコの漁業は、10万人以上のモロッコ人が雇われているほどの主要外貨獲得産業である。そしてモロッコはアフリカ最大の魚市場でもある。一方、鉱業は世界第1位の埋蔵量を誇るリン酸塩を中心としている。鉱物資源はアトラス山脈の断層地帯に集中しており、アトラス山脈の造山活動によるものだと考えられている。では、これら漁業や鉱物資源はモロッコだけで生産されているのだろうか。モロッコが占領している西サハラには海岸があり、モロッコが生産している漁業の55%は西サハラの海からとっているとされている。リン酸塩鉱山も含まれている。そして実は、埋蔵量としては、西サハラは世界第2位であり、モロッコのリンの生産量の10%は西サハラの鉱山によるものだと言われている。
モロッコの漁業において、貿易相手国もこの問題とは無関係ではない。例えば、漁業においてモロッコの最大の貿易相手国であるアメリカや日本は、この問題に大きく関与しているといえる。日本は、タコなどに関してモロッコからの最大の輸入国であり、日本が輸入している冷凍タコの約7割はモロッコから来ている。上記のことを踏まえると、西サハラの水域からのタコも含まれているはずだが、店頭に並んでいるタコのパッケージには「西サハラ産」ではなく、「モロッコ産」としか表記されていない。
鉱物資源の場合でも同じことが言える。鉱物資源において、モロッコの最大の貿易相手国はインドであり、その後中国、カナダと続く。漁業においてと同じく、インドなどでも「西サハラ産」のリン酸塩を「モロッコ産」というように表示されている。
漁業協定を締結したEUも貿易相手国であるアメリカと日本もモロッコの占領を黙認、結果的に助長させているといえる。鉱物資源においては、インドや中国がその役割を担ってしまっている。モロッコは1996年にEUと締結されたFTAは2000年に発効しており、EUはモロッコ最大の貿易相手である。そして、EUは2015年のモロッコの貿易額において55.7%を占め、モロッコの輸出額においては61%を占めている。国単位で見れば、フランスがモロッコ最大の貿易相手国であり、スペインがこれに続く。2国ともやはりEUの中心的な国である。また、モロッコは地理上、アフリカからヨーロッパへの移民・難民の通り道である。EUの立場からすると、モロッコは移住防止の重要な鍵を握っているということになる。以上のような観点から、EUはモロッコと友好的な関係でありたいということがわかり、これまで西サハラの問題について意図的に無視してきたことにも合点がいく。
しかし、ついに昨年(2016年)12月21日に欧州司法裁判所(ECJ)がこの問題に対する判決を下した。判決の結果は、西サハラにはEUとモロッコの間の貿易協定が適用されないということだった。 モロッコは西サハラ以南の製品を含め、漁業製品などをEUに輸出していたわけであるから、 ECJの判断は貿易だけでなく、政治的にも大きな影響を及ぼすだろう。
今回の判決によって、モロッコは外交面において今後重要な決断を下さなければならないことは明白だ。モロッコは最も重要な輸出市場との関係を損なう可能性がある。西サハラの占領について問題視していない大きな貿易相手に重点をシフトしていく可能性も考えられる。また、モロッコはAUに復活することになったが、どのような進展があるのだろうか。そして、これまで曖昧にされてきた西サハラの領有問題について、はっきりと貿易上否定されてしまった今、モロッコがこれからどう対応していくのか。EUの判決は、アメリカや日本のような国際法上の西サハラの立場を尊重していない国々への影響があるのか。このように、今後も関心し続けなければならない問題は数多い。
ライター:Sota Kamei
グラフィック:Mai Ishikawa
モロッコの反応が少し見えてきました。昨日、アフリカからの500人の移民・難民が一斉に、モロッコとスペイン領(アフリカ大陸にあるセウタ)との間のフェンスを乗り越え、「ヨーロッパ」に入りました。モロッコはヨーロッパに流れる移民・難民がさらに増える可能性があると言っています。西サハラに関するECJの判決への反発として、ヨーロッパに圧力をかけるために、モロッコが意図的に許している可能性が高いです。
http://www.dw.com/en/hundreds-of-migrants-storm-spains-ceuta-clashing-with-police/a-37602343
勉強になりました。