紛争や人権侵害、貧困や経済危機。これらは全てアフガニスタンで現在起きている問題だ。タリバンが復権してからこれらの問題は深刻さを増しているが、実はこれはタリバンだけの問題ではない。事態を悪化させてきた背景には、アメリカをはじめとした他国の影響もある。振り返るとアフガニスタンは、他国の戦争や介入に巻き込まれ、その影響を強く受けてきた。19世紀にはイギリスとロシアの争いの舞台となっていた。20世紀末にはソビエト連合(ソ連)のアフガニスタン侵攻、さらに21世紀に入るとアメリカの軍事介入を受けるなど、大国に翻弄されてきた。
アフガニスタンが掲げている問題は国内外から様々な要因があるが、この記事ではそんなアフガニスタンの現状について、食糧危機をはじめとした人道危機や、女性への人権侵害などの観点から探る。

紛争で荒廃した町と男性(写真:Carpetblogger/Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
アフガニスタンの歴史
ここでは前提としてアフガニスタンの歴史を簡単に振り返りたい。近代以前、現在のアフガニスタンにあたる地域は、アケメネス朝やササン朝、モンゴル帝国など様々なアジア国家の支配・影響下にあった。19世紀の帝国主義の時代に入ると、ヨーロッパの植民地獲得競争に巻き込まれることになる。ロシアが南へ支配を拡大しようと、現在のアフガニスタンの地域に侵攻する。その当時南アジアを中心に植民地を有しており、同様に北側へと領土を拡大していたイギリスと衝突し、グレートゲームと呼ばれる抗争に突入する。その結果アフガニスタンは1880年からイギリスの支配下に置かれる。
1919年に独立した後、アフガニスタン情勢は一時的に安定する。新たな王ザヒール・シャー氏により近代化政策がすすめられ、同盟を組んだソ連の支援を受けながら少しずつ安定に向かっていた。一方でそれを快く思わない勢力も存在しており、1978年頃から国内の保守的なイスラム教徒のグループは当時のアフガニスタン政府に対するゲリラ攻撃を行うなどしていた。この内乱の動きが広まり、アフガニスタンの不安定で、クーデターが発生している状況を見たソ連は、1979年にアフガニスタンに侵攻した。これに対して国内外から集まったイスラム系武装勢力が、サウジアラビアやアメリカといった国の支援を受けて対抗し、東西冷戦にも巻き込まれることになる。
1989年まで続いたこの占領により、アフガニスタンは大打撃を受けた。ソ連軍の撤退後も国内では武力衝突が相次ぐ状態が続いていた。そんな中荒廃したアフガニスタンに、自身の支配のもとで安定を取り戻そうと結成されたのがタリバンである。元々は神学の学生らによって結成された組織であったが、パキスタンの支援を受けるなどし、アフガニスタンの都市を次々に奪取し、1996年には首都カブールを制圧した。タリバンの支配中は、厳格なイスラム法による様々な生活上のルールを課していた。特に女性の就労や学習を制限するなど、人権を抑圧する政策を行っていた。一方この時、タリバンによって北部に追いやられた旧政権のメンバーを含む勢力が、アフガニスタン北部地域で北部同盟という武装勢力を結成する。
しかしタリバン政権も長くは続かなかった。2001年のアメリカでの9.11同時多発テロ事件の後、アメリカはその首謀グループとされるアルカイダを撲滅しようと、アフガニスタンに侵攻し、アルカイダを擁護しているとしてタリバンへの攻撃も開始する。北大西洋条約機構(NATO)を中心とする多国籍軍の攻撃を受け、2001年12月にタリバン政権は崩壊した。それまでタリバンに対抗していた北部同盟も多国籍軍の支援を受けて権力の座を奪還し、アメリカの監視の下で新政権に移行した。
タリバン政権が崩壊したことで、駐在するアメリカ軍に依存する状況の中でも、それまでの人権を抑圧する政策の多くは解除された。その一方タリバンは徐々にアフガニスタンにも勢力を回復させていた。背景の1つとして、政府軍の腐敗により外部からの侵入が容易であったことが挙げられる 。また2014年にNATO軍が撤退したことで、国内に空白が生じていたことも理由の一つだ。その他にも、この期間の政府はアメリカという外部勢力によって設置されたもので、そこで腐敗が蔓延していたことで国民の不満が溜まり、タリバンへの支持につながったという背景にある。2020年2月にタリバンはアメリカと合意を結び、タリバンが今後テロに関与しないことを条件にアメリカ軍を撤退させることを決定した。その合意に基づいて2021年8月にはアメリカ軍が完全に撤退したことで、アフガニスタン軍が短期間で崩壊したところでタリバンがカブールを制圧し、同月に政権の座に就いた。

カブールでのタリバンの戦闘員の様子(写真:Callum Darragh / Wikimedia Commons [CC0 1.0])
タリバン新政権の統治
2021年から復活したタリバンだが、それはどのような組織で、周辺諸国とどのような関係性にあるのだろうか。タリバンはアフガニスタンの支配地域を合計34の地域に分け、それぞれに首長を任命する形で統治している。また中央政府では教育、軍事などの18部門の委員会を設置し各部門に幹部を任命するという、省庁のような組織を形成して国家を形成している。また政策の面では支持母体であるパシュトゥン人の影響が大きい。パシュトゥン人はアフガニスタン人口の約4割を占める集団で、タリバンの政策も彼らの思想や主張に影響を受けている。
続いて復権したタリバンと各国との関係を見ていきたい。はじめは周辺の国々との関係だ。まず隣国パキスタンは従来からタリバンとは密接な関係にあり、資金面での援助を行ってきた。またウズベキスタン、カザフスタン、トルクメニスタン、キルギスといった周辺の国々も、アフガニスタンは貿易面で重要な取引相手であることから国交を継続させている。一方でパキスタンとの対立にアフガニスタンとの関係が左右されるインドは、タリバン政権成立直後は関係を絶っていたが、前政権との関係が強かったこともあり、現在はその関係を見直す動きを見せている。
続いてヨーロッパ諸国との関係だ。ヨーロッパ連合(EU)はタリバンの女性差別政策に対するものとして経済制裁を課している。制裁による貿易の制限から、国内の経済は深刻なダメージを受けている状況だ。また特筆すべきはアメリカとの関係である。2021年8月に、アメリカのジョー・バイデン大統領が、アメリカの銀行に保管されていたアフガニスタン中央銀行の資産およそ70億米ドルを凍結した。しかし2022年8月に資産の凍結を解除すると、その資産を勝手に分割し使用すると発表した。半分は9.11同時多発テロの被害者遺族の支援に使用され、もう片方はアフガニスタンの「人道支援」に使用するという。しかし後者はタリバン政府を介さずに提供するということで、結果的にアメリカが没収したままで、アフガニスタンの人々には届いていない。このことが、アフガニスタンの更なる人道危機にもつながることになる。

アメリカ大使館に貼られたタリバンの旗(写真:AhmadElhan / Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0])
また国際連合もタリバン政権には基本的に厳しい立場をとっている。国連安全保障理事会はタリバンに関係する個人や組織に対して制裁を課しており、2022年12月にそれらを継続すると決定した。しかしその一方で、アフガニスタン国内に対する人道支援は例外的に認めることをタリバン政権復活後に決めている。
深刻な人道危機
以上のような経緯で再びタリバンの政権下にあるアフガニスタンだが、現在人々の暮らしは危機的状況に陥っている。第一に挙げられるのは食糧不足だ。2022年8月時点では90%もの国民が十分な食事を得られていないとされている。さらにその中でも600万人以上が深刻な飢餓状態の寸前に陥っているという。また最新のデータで2023年4月~10月において1,530万人もの人々が食料不安に陥るという予測があり、状況は今でも深刻だ。また経済も危機的状況で、アフガニスタンではタリバンの復権以降、50万人もの人々が職を失ったとされている。
このような状況に陥った背景には一体何があるのだろうか。1つが自然災害による農作物の不作である。アフガニスタンは干ばつの被害に苦しんでおり、2021年12月時点で国土の約80%にまで及んでいた。2023年8月時点でも事態は一向に改善されていないという。また2022年には洪水により国土の3分の1が被害を受け、農作物や生活インフラにダメージが生じた。

アフガニスタンの干ばつの様子(写真:UNHCR/ACNUR Américas / Flickr [CC BY-NC-SA 2.0])
また外国からの十分な支援が受けられていないことも重要な要因の1つだ。2021年にタリバンが政権を握って以来、欧米諸国をはじめ多くの高所得国が政府への経済援助を停止した。またタリバン政権以降、世界食糧機関(WFP)に対するドナーからの資金提供が減少し、支援額が減少に追い込まれている。これもタリバン復権後に多くの人が経済的に苦しむ理由の1つとなっている。
最後に挙げられるのが、アフガニスタン中央銀行が十分に機能していないことだ。背景にはアメリカ政府が行った政策がある。前述したアメリカの政策により、アフガニスタンが持つはずだった資金をアメリカが所持したままの状態になっている。このことで、アフガニスタンは資金不足から経済安定政策をとることができなくなった。さらに紙幣の供給不足からインフレが発生し、労働者へ十分な給与も払えない状態となり、街に困窮者があふれる結果となった。このアメリカの政策1つで、多くのアフガニスタンの人々の生活が苦しめられているのである。
また、かつてアフガニスタンの主要な産業であったケシの生産が、それらが麻薬の原料であることから大幅に減少していることも経済状況を悪化させる要因となっている。ケシは乾燥した土地でも栽培しやすく、かつてはアフガニスタンのGDPの9~14%をも占める重要な産業であった。しかし2022年以降、タリバンの方針により、ケシの生産量が90%以上も減らされた。アヘンは基本的に輸出されるものであり、周辺諸国との貿易にも響く為、ケシ農家にとどまらず、アフガニスタン全体の経済を冷え込ませる要因となった。

アフガニスタンで栽培されるケシ(写真:United Nations Photo / Frickr [CC BY-NC-ND 2.0 ])
加えてタリバンの人権侵害により、自ら国内情勢を悪化させている側面もある。女性が雇用を制限されたことで、家計の収入が減少し、経済にも悪影響が及んでいる。女性の雇用を制限したことで生じる経済損失は10億米ドルにものぼるとタリバンの復活後は言われていた。次の章では、このように経済にも悪影響を及ぼすタリバンの女性差別の政策について見ていく。
女性への人権侵害
国内の経済や外交に悪影響を及ぼしてきたタリバンの人権侵害の政策は、どのようなものだろうか。政権に復活した直後から、タリバンは女性の様々な権利を制限する方向へと再び舵を切っていった。2022年1月には、女性の中等教育への進学を禁止すると宣言。さらに2022年12月からは大学への女性の立ち入りが禁止された。2023年からは6年間の初等教育を除いたすべての高等教育を女性が受けられないことになり、2023年8月現在もその制限は続いている。タリバンの復活からわずか1年程度で、アフガニスタンは女性が教育すら受けられない国へと逆戻りしてしまった。

屋外で授業を受けるアフガニスタンの女子生徒達(写真: United Nations Photo / Frickr [CC BY-NC-ND 2.0 ])
また教育以外の面でも女性の権利は厳しく制限されている。生活面においては、女性は常時顔を布で覆うように強制され、男性の付き添いなしで75kmを超える移動をすることも政府により禁止された。職業についても選択の自由がなくなった。医者やジャーナリストをはじめとした専門職に女性が就くことは制限され、家事労働や農作業などの一部の職にしか就けない状態となった。また非営利機関(NPO)で女性が働くことも許されておらず、NPOでの労働力が不足することから支援機関の業務が滞っており、食糧不足の悪化にも繋がっている。このように、タリバンの政策によって多くの女性が職を失ったことで、多くの家庭が十分な収入を得られず食糧不足や貧困にさらなる拍車をかけている。
情勢の変化とこれからの展望
ここまでアフガニスタンの社会・政治・外交の情勢を見てきた。様々な面で危機的状況に置かれており、その背景にはタリバンだけでなく、大国から軍事介入や干渉を受けてきた歴史もある。そして近年タリバンと諸外国の関係においてはいくつか変化が見られた。1つはアメリカとの関係だ。2023年8月にアメリカとタリバンが制裁の緩和に関する交渉をカタールで行った。これがきっかけで欧米諸国との関係が改善し、人道危機に終わりが見える可能性もある。また新しいアクターとしてあるのが中国の存在だ。2023年2月に、中国がアフガニスタンでの石油採掘に投資を行う計画があると報じられており、中国も新たなアクターとしてアフガニスタン情勢に影響を及ぼす可能性もある。

2020年にカタール・ドーハにおけるアメリカとタリバンとの間の合意が成立した調印式(写真: U.S. Department of State / Frickr [United States Government work])
国際関係は日々変化している一方、人道危機は依然厳しい状況が続く。食料不足に関連して、最近では大量のバッタが発生し、作物を破壊していることが報告されている。バッタは小麦や豆類などあらゆる作物を食い荒らし、農家の家計に甚大な影響をもたらすと共に、食糧不足をさらに加速させることが予想される。
また人権侵害に関して、女性用の美容院をタリバンが閉鎖するという報道があった。理由はイスラム教の教えに反するからだとしているが、この制限によって女性の職業選択の幅がさらに狭まり、雇用や経済状況にも悪影響が及ぶ可能性がある。
さらに2023年1月には、タリバンの権力者の中で対立が生じ、組織が分裂する恐れがあるという報道もある。政権内の権力者の1人であるシラジュディン・ハッカーニ氏が、タリバンの最高権力者とされる人物を批判しているともとれるような発言を公の場で行ったことがきっかけだ。政権内の不安定な情勢により、今アフガニスタンが抱えている問題がさらに深刻化するかもしれない。
このような状況がアフガニスタンにどのような変化をもたらすことになるか、これからも目が離せない。
ライター:Takumi Kuriyama
グラフィック:Mayu Nakata
タリバンの女性差別反対とか西側の意見はもう十分です。そりゃ西側はタリバン政権が上手くいってないように見せたいでしょう。アフガン国民が何を思っているかが大切、私はそう思います。