サハラ砂漠のおよそ1.2% (335×335km) の面積でソーラー発電を行うと、世界全体の電力が賄える。あくまで可能性の話ではあるが、実際に北アフリカでソーラー発電事業が世界に新たな希望を生み出そうとしている。火力発電が助長する気候変動や原子力発電の危険性が叫ばれる中で、ソーラー発電は電力不足の解消だけでなく温室効果ガス排出量の削減にも繋がる。そして砂漠という降水率が低く、かつ日差しの強い広大な土地はソーラー発電に非常に適しているのである。
既に北アフリカではいくつかの大きなソーラー発電プロジェクトが進行中であり、生み出された電力はその地域で使用されている。ヨーロッパへの電力輸出も見込まれており、まだまだ障壁はあるものの今後北アフリカ諸国が電力事業界を牽引していくこともあり得るだろう。しかし、これを「新植民地政策の始まり」だと糾弾する声も存在する。果たして、北アフリカでのソーラー発電は未来への希望となるのか。それとも先進国による資源の搾取という過去の繰り返しになるのか。

アルジェリアの砂漠 (写真:Max Pixel [CC0 1.0])
北アフリカで注目される太陽熱発電とは
ソーラー発電には、太陽光発電と太陽熱発電という主に二種類の発電方法が存在する。太陽光発電 ( 以後 PV : Photovoltaic ) は、太陽光パネルで太陽の光エネルギーを直接電気に変換する発電方法で、一般住宅の屋根に設置されるなど小規模に利用されることも少なくない。
一方太陽熱発電は、集光型太陽熱発電 ( 以後 CSP : Concentrating Solar Power ) と呼ばれ(※1)、ミラーやレンズなどの集熱装置で太陽光を集め、その太陽熱で蒸気タービンを回し電気を生み出す。一気に大量の電力を生み出すことが可能なためPVより発電効率が大幅に高い。またCSPの顕著な特徴は、その需要呼応性である。本来、太陽が必要なソーラー発電では夜間の電力需要に対応することはできない。しかし太陽熱発電では、溶融塩やセラミック、コンクリートなどを用いた微熱蓄熱システムを利用することで、その熱エネルギーを蓄え夜間の発電も可能にする。一例として、モロッコの発電プラントでは7.8時間にわたって熱エネルギーを蓄えることができる。採用する技術により蓄熱時間に差はあるものの、需要の変化に合わせ安定した電力供給を行える点がCSPの大きな強みである。
北アフリカでは、様々なソーラー発電が行われているが、本記事では、CSP事業に特化して紹介する。下図では、4種類のCSP(※2)の発電方式のうち主要なパラボリックトラフ型と近年注目を集めるタワー型の2種類の仕組みを図示している。

Office of Energy Efficiency & Renewable Energy(米国)の データを元に作成
CSPには大量の熱エネルギーを集める必要性から、広大かつ直射日光の強い土地が適しており、限られた地域でしか実用化には至っていない。雲やガス、塵に遮られず直接地上まで届く太陽光が必要で、直射日射量 ( DNI : Direct Normal Irradiation ) が2,000 kWh/m2/year ( キロワット時毎/平方メートル/毎年 ) を記録する地域が適する。この条件に当てはまるのが砂漠地帯やサバナ地帯であり、サハラ砂漠が広がる北アフリカも含まれる。チュニジアのエネルギー開発事業会社テゥヌール ( TuNur Ltd )(※3)によると、サハラ砂漠では中央ヨーロッパの2倍にも及ぶ太陽エネルギーを得ることができるという。一方で、砂や塵が集熱パネルに溜まり発熱効率を落としてしまうため、高頻度の洗浄が必要となる。これに対し、洗浄時に使用する水を大幅に節減できる技術開発が進んでいる。
またCSPのひとつの課題に、使用される水量の多さがあった。蒸気の冷却・パネルの清掃のために水を使用するが、そのほとんどが冷却段階で利用される(上図の復水器に相当)。従来この冷却に用いられていた水冷式復水器 ( WCC : Wet-Cooled Condenser ) では大量の水が消費され、賦存水量の乏しい砂漠地帯では、貯水池の建設や遠隔地からの水輸送が必要だった。そこで近年採用が拡大しているのが空冷式復水器 ( ACC : Air-Cooled Condenser ) であり、水の消費量をWCCの13分の1に抑えることができる。導入コストがWCCより5~10%高いACCであるが、世界の水不足の深刻化と技術開発によるコストダウンに伴い需要の高まりが予想される。今後ACCの導入が進めば、発電時における水の使用量という観点からも環境に優しい発電方法となるだろう。

太陽熱発電(CSP)施設、エジプト (写真:Green Prophet /Flickr [ CC BY 2.0 ])
北アフリカにおけるソーラー発電の現状
アルジェリア・エジプト・チュニジア・モロッコのサハラ砂漠周辺諸国におけるCSP事業の進捗状況をいくつか紹介する。
アルジェリアでは現在比較的小規模な25MW (メガワット) のCSPプラントが操業中だ。2011年に「再生可能エネルギーとエネルギー効率化プログラム」が発表され政府は積極的に再生可能エネルギーへの転換を目指している。当時1%にも満たなかった、総エネルギー発電量に占める再生可能エネルギー (ソーラー+風力+水力) の割合を2030年までに27%まで引き上げる目標を掲げた。
エジプトでも、2011年に最初のCSPプラントが操業開始に至り、現在新たなCSP事業が計画中である。2020年までに再生可能エネルギーだけで20%の電力を賄う予定だが、目標達成の目処は立っていない。チュニジアは今日までPV事業に注力しており、現時点でCSPプラントを有していないが、テゥヌール (TuNur) プロジェクトという大規模なCSPプロジェクトが構想段階にある。
再生可能エネルギーの増加目標に遅れをとる国が多い中、北アフリカで最もCSP事業の実用化が進んでいるのがモロッコである。世界最大級のCSP複合施設を建設するヌール (Noor) プロジェクトがワルザザート (Ouarzazate) で進行中だ。モロッコ有数の観光都市ワルザザートは、サハラ砂漠の北西端に位置する。その完成が間近であり一部運用が開始されている同発電施設はⅠ~Ⅳ の全ての建設が完了すると580MWの電力を生み出す見込みだ。これにより110万人 (モロッコ総人口の3% ) に電力を供給できるという。
ヌールプロジェクトにより、モロッコの石油依存量を2,500万トン、二酸化炭素排出量を76万トン (2014年排出量の約1.2% ) 毎年削減できる見込みである。モロッコ政府は2030年までにその電力の52% (6GW) を再生可能エネルギーで賄う計画で、2017年時点では34%の電力を再生可能エネルギーで生み出すことに成功している。
北アフリカでのソーラー発電計画の障壁
導入メリットが大きく需要が高いCSP事業であるが、障壁も数多く存在する。
・砂漠特有の問題
砂漠ならではの困難として、炎天下での過酷な建設作業が挙げられる。また利用可能な水資源に限界があるため、プラント建設にあたって採用できる技術や設計が限られている。その他にも先に述べたように、砂や塵の影響によるメンテナンス作業の増加など砂漠地帯特有の課題がいくつか存在する。
・電力輸送方法
電力輸送網の設置も障壁となる。大陸間で送電する場合、海底に電力消耗率の低いケーブルを建設する必要があり、高度な技術が要される。そもそも北アフリカが発電地として大きく注目されたのは、北アフリカ・中東地域でのソーラー発電や風力発電による電力を、ヨーロッパに輸送する構想が動き出したときであった。ヨーロッパを中心に多くの企業を巻き込んだ計画だったが、電力輸送の複雑さから計画は進展を見せず失敗に終わった。しかし最近、その計画が再燃しており、下図のようにチュニジアからマルタやイタリアを経由する送電網の設置が検討されている。一方で北アフリカからサハラ以南への送電網のインフラ開発は不十分で、整備が進んでいないのが現状である。
・コスト面
PVと比較すると相対的に高い設置コストや、発展途中の新技術であるがゆえに実験的なものとして捉えられやすいという側面が、政府や銀行がCSP事業への投資を躊躇する要因となる。しかし近年、急速な技術進歩によりその導入コストは減少している。これまで高い発電効率をもつ反面、そのランニングコストの高さがネックであったタワー型のCSPは、主流であるパラボリックトラフ型よりコストを低くすることに成功した。
クォーツアフリカ (Quartz Africa) によると電力部門への投資は2015~2040年の間に毎年334億~630憶米ドル必要だが、過去10年間のアフリカ電力部門への平均年間支出は120億米ドルにとどまっている。結果として、低い電力普及率や高い電気代をもたらしており、財政的余裕のないアフリカ諸国にとって世界銀行や他国による開発投資が必須である。今後も十分な資金を集められるかがCSPの成功のカギとなるだろう。
・情勢の不安定さ
ヨーロッパでは北アフリカに電力を依存することを不安視する声もある。未だに情勢が安定していない地域が電力事業に与える影響に、危惧をいだいているためだ。現在CSP事業は行われていないが、リビアではカダフィ政権崩壊後、政権を争う二大勢力と点在する民兵や武装勢力の影響でいまだ不安定な情勢が続く。またエジプトでは、シナイ半島で武装勢力と政府軍が衝突しテロ行為が起こっている。アルジェリアでは2013年、天然ガス精製プラントがテロ襲撃を受けた。プラントは多くの外国人勤務者が集まる場としてテロ攻撃の対象になったのである。
・周辺国との関係性
送電に関しては技術面だけでなく、近隣国や経由国との関係性も重要である。しかし、隣接するアルジェリアとモロッコは西サハラ問題に端を発し1994年から国境の封鎖が続いている。またモロッコが、対立の原因である西サハラでソーラー発電事業を開始した。これはモロッコにより不法に占有されている地域であり、そこで生み出される電力が国際市場でどのように扱われるのかが注目される。

アルジェリアとモロッコの国境 (写真:Magharebia /Flickr [ CC BY 2.0 ])
だが、このような技術・コスト・政治情勢などの障壁は、発電事業に常に付きまとう問題であり、CSPだけに限ったものではないとも言える。また技術やコスト面の改善を中心に開発がなされており、着実に発展の途を辿っていることは否定できないだろう。
ヨーロッパ主導の裏で優先順位の低いアフリカ
北アフリカ諸国はこの産業を新たな経済成長の機会と捉え、ヨーロッパへの電力輸出を計画している。チュニジアではソーラー発電で得た電力の5~10%のみが国内供給に回される予定である。現在世界全体の電力普及率は87.4% (2016年時点) であり、北アフリカ諸国を含めほとんどの国の電化率が90%を超えている。そうした中、サハラ以南アフリカの電力普及率は35% (2012年時点) と、その低さが際立っている。しかし、ヨーロッパ企業がソーラープロジェクトの協賛である上にアフリカ内より高値で取引されるため、ヨーロッパ諸国への輸出が優先される形となっている。
またこれを「新植民地化」であるとして批判の声も上がっている。北アフリカでのCSPプラント建設では、多くの場合、投資の大部分はヨーロッパが担い、そのエンジニアや装置はヨーロッパから送り込まれている。となれば、経済的な力関係から価格や利益の配分設定の主導権を握り、安価で生産物を買うことが可能である。結果的に北アフリカの資源により生み出された富の大半がヨーロッパに流れるという現在の新植民地主義と同じ構図を招くことが懸念される。一方でチュニジアではソーラープロジェクトにより700の現地企業がサプライチェーンとなり、2万人分の雇用が創出される見込みである。現地の経済に好影響をもたらすのも事実であり、一概にその是非を判断することは難しいだろう。

CSPの集光ミラー (写真:Green Prophet /Flickr [ CC BY 2.0 ])
今後に注目
現在アフリカでは3人に2人 (6億人) が電気を使わずに生活する。それがアフリカの人々に困難を強いており、結果として経済成長の妨げとなっている。北アフリカにおけるCSPは、この状況を打破するポテンシャルをもつだけでなく、今後予想される世界的な人口増加による電力不足の解消にも寄与する可能性を秘めているだろう。しかし現段階では、北アフリカで生み出される電力は、サハラ以南アフリカではなくヨーロッパに向かおうとしている。
世界規模で見たとき、我々は今、深刻な環境破壊とそれに伴う異常気象を目の当たりにし、これまでの産業構造を見直す必要に迫られている。温室効果ガスの削減を初め、将来的な化石燃料の枯渇などいくつもの問題を解決しうるソーラー発電。アフリカのみならず、世界を照らす光として事業が展開していくことに期待したい。
ライター:Mizuki Nakai
グラフィック:Kamil Hamidov, Hinako Hosokawa
※1 太陽熱発電はSTE : solar thermal electricityと表記されることもあるため、引用元でSTEと記載されているものもCSPとして紹介する。
※2 4種類の発電方法は以下の通りである。
1)パラボリックトラフ型 : 製造コストが低いが、発電効率が悪い。
2) リニア・フレネル型 : 設置場所が狭くても導入可能であるが、製造コストが高い。
3) タワー型・ビームダウン型 : 発電効率が高いが、高度な技術と高いランニングコストを要する。
4) ディッシュ型 : 形状がシンプルで製造コストが低いが、発電量が小さい。
※3 テゥヌール : 北アフリカ・ヨーロッパ間のソーラー発電事業を行う。
いつも楽しく読ませていただいてます。不毛の砂漠にこんな使い方があったとは、目から鱗です。アフリカでのソーラー発電が今直面している地球の危機を救うための光になるかも知れないという結び。感動しました。
夜でも発電できる太陽熱発電すごく画期的だと思いました。
課題も多く存在しますが、環境に配慮しながら電力需要を満たしながら現地の経済にも好影響を与える砂漠でのソーラー発電プロジェクトが成功することを願いたいです。
日本はまだまだ環境保護や再生エネルギーに対する議論がまだまだ活発ではない印象があります。こうした他国の動きについてももっと知ることで、もっと深く考えて議論し行動していきたいです。
“サハラ砂漠のおよそ1.2% (335×335km) の面積でソーラー発電を行うと、世界全体の電力が賄える” 最初の一文がとてもキャッチーですね。純粋に驚きました。情勢の不安定さや隣接国との関係性等の懸念点はあるものの、世界の安定的なエネルギー共有に向けて当事業が今後発展して欲しいです。
“サハラ砂漠のおよそ1.2% (335×335km) の面積でソーラー発電を行うと、世界全体の電力が賄える” 最初の一文がとてもキャッチーですね。純粋に驚きました。情勢の不安定さや隣接国との関係性等の懸念点はあるものの、世界の安定的なエネルギー共有に向けて当事業が今後発展して欲しいです。
熱エネルギーの活用は考えてみれば当たり前かもしれませんが、これまでの太陽光発電のイメージを覆されました。「新・植民地主義」という表現がありましたが、どうなのでしょう。いわゆる先進国が自国に必要なものを安価で手に入れられる構図…という点で理解はできますが、記事にもある通り、議論の余地は大きいと思います。
面白いですね!新しい発見がたくさんある記事でした!
僕が将来実現させます