最悪の気候変動を回避するには、わずか3年しか我々には残されていない。
2017年6月、地球温暖化の現状に対しこのような研究結果が発表された。残された猶予期間は3年、この研究結果に人々は実際に危機感を抱くのだろうか。気候変動は何十年、何百年の長期間で少しずつ進行する現象であるため、状況が切迫していることを認識しづらい。そこで重要となるのがメディアの報道である。我々一般市民にとって主要な情報源であるメディアは温暖化や気候変動に関して、何を、どれほど、伝えてきたのか。
気候変動の現状
産業革命以前から1.5-2℃以上地球の平均気温が上昇したとき、地球は最悪の気候変動を迎える、というのが科学界の通説となっている。海面は上昇し、干ばつや洪水は増え、猛暑や壊滅的な嵐の発生、海水の酸性化に繋がると言われている。その結果、生態系へも被害が及び、世界規模で食料不足に陥ることも予想される。また、分岐点となる1.5℃と2℃との差も大きく、上昇値を極力1.5℃にとどめることが重要だとされている。
しかし現実には、2016年時点で既に産業革命前とされる1720-1800年と比べて、平均気温は1℃以上上昇している。その上昇に歯止めは利かないまま、2014年から3年連続で地球の平均気温は最高値を更新し続けている。同時に、異常気象を始めとする気候変動も猛烈な勢いで進行している。米国の航空宇宙局(NASA)の発表しているデータから一部を抜粋すると、
・異常気象
低温が原因となる異常気象が減少する一方で、高温が原因となる異常気象は増加。また豪雨の発生件数も大幅に増加。
・海面上昇
20世紀の海面上昇は約20㎝、対してこの20年間での海面上昇は約40㎝。
・氷床の縮小
2002年~2006年、グリーンランドでは150~250㎢、2002~2005年、南極では152㎢の氷床が喪失。北極の海氷やアルプスの氷河もこの数十年で急速に減少。
・海洋酸性化
二酸化炭素排出量の増加により、産業革命以降、海水表面の酸性化が約30%進行。
(詳細なグラフの参照はNASAのホームページへ)

今後も、異常気象の多発が予想される 写真:Zacarias Pereira da Mata/ Shutterstock.com
これら数値の変化だけでは漠然としており、実害が生じている実感がないかもしれない。だが太平洋諸島は、いち早く深刻な被害を受けている。ソロモン諸島だけで既に5つの島が水没した。
また、世界保健機関(WHO)は、「気候変動の影響で、2030年から2050年の間に、25万人/年もの死亡者が付加的に発生する」との推定結果を発表している。つまり気候変動の影響が我々の身に振りかかるのは、決して遠い未来の話ではないのだ。
気候変動に対する意識の変化から30年
世界はこの事態にどのような対策を行ってきたのか。1985年、フィラッハで開催された気候変動に関する学術的な国際会議をきっかけに、気候変動問題への認識と危機感が国際的に広がった。その後1988年、気候変動に関する最新の科学的な研究成果の報告を目的に「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が設立された。そして1990 年、IPCC は最初の報告書で、地球温暖化問題に対処するための国際的な条約の必要性を指摘した。この動きを背景に、1992 年6 月リオデジャネイロで開かれた「環境と開発に関する国際連合会議(地球サミット)」にて、世界190 カ国以上が加盟する国連気候変動枠組条約が採択された。以降、1995年から同条約に基づき、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)が毎年開催されている。

COP21(2015)でパリ協定の締結国代表者 写真:Presidencia de la República Mexicana( CC BY-SA 2.0 )
そして1997年、COP3(第3回国連気候変動枠組条約締約国会議)にて京都議定書が採択された。歴史上初めて、拘束力のある温室効果ガス削減目標を定めた合意であった。しかし拘束力のある目標の対象となるのは、先進国だけだった。
また、京都議定書は2008~2012年を対象期間としていたため、続きとなる2013年以降の削減目標を定める合意が必要となった。そこで2009年デンマークでのCOP15内で、ポスト京都議定書となる合意について積極的に話し合われた。しかし各国の主張に折り合いがつかず、期待されたような目標を設定しての合意は形成できなかった。
だが2015年12月パリで開催されたCOP21を転換点に、ようやく、先進国・途上国の両方に削減目標を課す合意がまとまった。しかしその後、協調体制に水を差すようにして2017年6月、トランプ米大統領が正式にパリ協定からの脱退を宣言した。
過去30年間の気候変動に関する報道量の推移
高まる世界的な危機感の中で、日本では、報道量はどのように変化しているのだろう。日本の大手新聞社3社(毎日新聞・朝日新聞・読売新聞)の過去30年間の気候変動に関する記事を年毎に集計し、その報道の特徴をみていく。
3社ともほぼ同様の報道量・推移を見せた。そして年によって報道量は大きく増減している。
なぜこれほど記事数が年によって異なるのか。まず、気候変動による脅威が認知され始めた1990年頃から報道量は一気に増加した。1992年には先に述べたように、地球サミットが開催され国連気候変動枠組条約が採択されている。1997年にはCOP3における京都議定書の採択があり、開催が日本であったことも大幅な増加の要因と見られる。また2001年には米国の京都議定書からの離脱表明があった。そして京都議定書の効力発生に必要な国数の批准が揃い、ようやく条約として成立したのが2005年だった。これらの動きは報道対象になりやすかったと推測できる。
2007年からの報道量の増加は、ポスト京都議定書を取り決めることが2007年に決定された影響が大きいのであろう。先進国だけでなく途上国にも目標を課すことや、米国や中国の参加も期待され、国際的に気候変動問題に対する気運の高まりを受けたと考えられる。しかし2009年12月のCOP15で、期待に沿う国際条約を作ることは失敗に終わり、その熱が冷め、報道量も大きく減少したと考えられる。また2011年の東日本大震災の影響で、日本では火力発電が増加した。気候変動よりもエネルギー源の確保が優先されたことが報道にも影響を与え、報道量がさらに減少したと考えられる。その後2015年のパリ協定採択で報道量は一定程度増えたものの、近年は増加傾向にあるとは言えない。
このように日本では、国際的な議定書や協定といった政治的な動きがある時に、極端に報道が集中する傾向にある。その一方で、IPCCは気候変動についての科学的知見や、必要な対策を執らなかった場合の被害想定結果などを提供しているが、報道量への実質的な影響はあまり見られない。
気候変動報道はCOPで増えるのか
先ほどの報道量の増減は、本当にCOPや協定による影響なのだろうか。毎日新聞の2015、2016年における「環境報道の量」、さらにその中で「温暖化や気候変動に関する報道量」を月毎に記事数を集計し、より詳細に報道量を見ていく。
まず報道量の盛り上がりを見ると、COP21が開催された2015年12月の記事数が圧倒的に多い。またCOP21の開幕にむけて秋頃から徐々に報道量が上昇する傾向が見受けられた。翌年COP22が行われたのは、2016年に記事が最も多かった11月であった。4、9、10月も記事数が他の月より多いが、パリ協定の署名や批准、発行に関するものの影響だった。裏を返せば大きな国際会議や協定が無ければ、気候変動に関する報道はほとんど為されていないと言える。
また環境報道を全般的に調べると、そのほとんどが気候変動に関するものに限られている。気候変動以外にも、生態系の破壊、大気・水質汚染、ゴミの廃棄問題など重要な環境問題は多く存在するにも関わらず、これらの問題に関する報道はほとんど行われていなかった。
環境問題の現状より政策
2015、2016年の環境報道に関する記事の内容を、「現状とそれが引き起こしている被害」に重きを置いているものと「各国政府関係者の発言、決断、国際会議などの環境問題対策」に重きを置いているものの2つに分類した。結果、4分の3以上もの記事が現状にフォーカスするものではなく、政策を主に取り上げていた。
95%以上の確率で、地球温暖化は20世紀半ばからの人間活動によるものだ、という研究結果が存在する。事態には世界中の企業や個人の活動の改善も重要であるのに、国際会議のみが大きくフォーカスされると、政治家だけで気候変動が解決されるかのような印象を受けやすい。
確かに、COPや各種協定などの政治的ニュースは、気候変動などの文字を目にする機会を増やす。だが、世界各地の気候変動の厳しい現実を知ることなしに、人々が危機感を抱くことは難しいだろう。政策の動きに左右されず、実情を常に報道することで、政策を促す一般市民からの機動力に繋げる必要があるのではないだろうか。

気候変動を引き起こしている人間活動への注目は? 写真:Nickolay Khoroshkov/ Shutterstock.com
ライター:Mizuki Nakai
グラフィック:Aki Horino