気温上昇、異常気象、海面上昇など、気候変動が地球に与える影響は、年々深刻さを増している。2022年はエネルギー分野での二酸化炭素排出量が過去最高であり、2023年は地球温暖化加速の影響でこれまでで最も暑い年になる可能性が懸念されている。また、ブラジルやヒマラヤ山脈、東アフリカで発生しているような気象災害は、気候変動の影響を受けてさらに増加・悪化すると指摘されている。
しかし、その深刻さと見合った量の報道がなされているとは言い難い。気候変動についての報道が少ないことの影響は、人々の気候変動に対する危機感を醸成できないだけではない。企業や政府が気候変動を真剣に行っているか否かが報道で検証されないため、企業や政府が気候変動に取り組む動機が発生しなくなってしまう。そうして有効な対策が取られない間にも、気候危機は加速していく。
このような報道の現状に危機感を持ち、2019年に複数の報道機関が共同で立ち上げたのが、「気候報道を今」(Covering Climate Now)という国際運動である。2023年6月現在、世界各地から500以上の報道機関が参加しており、GNVも設立当初からパートナー機関として参加している。
2023年6月27日から7月1日の間、「気候報道を今」では、設立以来6回目となる「気候報道ウィーク」という運動が行われている。「気候報道ウィーク」とは、「気候報道を今」に参加しているパートナー機関が、各自の報道の著作権を解除し、報道機関同士で記事を共有して、気候についての報道量を集中的に増やすキャンペーンである。今回のテーマは「食料と水」。気候変動に起因する災害や気温上昇、海面上昇が世界の食料システムに与える影響や、反対に、非常に多くの温室効果ガスを排出する食料生産とその消費行動が環境に与える影響などが取り上げられている。
GNVもこの「気候報道ウィーク」の活動に参加し、今回は2つのパートナー機関の記事を翻訳して発信する。1つ目は、ニュースサイト「エオス(American Geophysical Union & Eos Magazine)」から、メギー・ロドリゲス氏の「2100年までに食料生産によって地球温暖化がさらに1℃進む可能性がある」である。こちらの記事では、二酸化炭素以外の地球温暖化ガスの特性や食料生産が地球に及ぼす影響について説明している。2つ目は、「センティエント・メディア(Sentient Media)」から、ビョルン・オラフソン氏の「解説:なぜ牛肉は地球にとって悪いものなのか?」である。こちらの記事では、牛肉の生産過程で、環境に対してどのような悪影響が生まれているかを解説している。

干ばつのなか、井戸で水を汲もうとするケニア・マルサビット郡の人々(写真:ILRI / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
2100年までに食料生産によって地球温暖化がさらに1℃進む可能性がある
《エオス(American Geophysical Union & Eos Magazine)の翻訳記事、メギー・ロドリゲス氏(Meghie Rodrigues)著(※1)》
新しい研究では、農業からの温室効果ガスの排出について解き明かし、我々が食べている食品がどのように地球を熱しているかを示している。
食料生産によって、温室効果ガスが大気中に放出される。新しい研究によると、21世紀末までに、食卓に食品を運ぶという過程が原因で、すでに温暖化している地球がさらにもう1℃温暖化する可能性があることが明らかになった。産業革命以来、これまでに観測されている1.1℃の上昇と合わせると、パリ協定で定められた目標である、温暖化を1.5℃に抑えるための努力が妨げられるおそれがある。
ネイチャー・クライメート・チェンジ(Nature Climate Change)に掲載された研究では、我々が食べている様々な食品に温室効果ガスの値札が付けられている。この分析では、世界人口が排出量を削減するために取るべき措置が強調されている。
炭素のみならず食料も負担となっている
農業は、現在の地球温暖化の傾向の約15%を占めている。例えば、新しい土地での伐採、化学肥料の使用、農場によるエネルギーの利用、牛のゲップなどによって、大気中に温室効果ガスが放出される。農業生産はそれ自身だけで世界が1年間に排出するメタンのほぼ半分、亜酸化窒素の3分の2、二酸化炭素の3%を占めている、と指摘されている。これらの温室効果ガスは、熱吸収能力や大気中での残留性が異なっている。
畜産や米の生産の際に大部分が排出されるメタンは、二酸化炭素の100倍以上の熱を吸収しうる。しかし、二酸化炭素が大気中に何百年も存在するのに対し、メタンはわずか10年ほどしか存在しない。メタンは強力な一方、短命な温室効果ガスである。化学肥料から排出される亜酸化窒素は、メタンよりもさらに強力で、長期にわたって残存する。亜酸化窒素は二酸化炭素の250倍もの熱を吸収し、大気中に1世紀ほど存在し続ける。
この新しい研究には参加していないが、イギリスのオックスフォード大学の生物学者で気象予報士のジョン・リンチ氏は、ガスの効果をより簡単に報告できる方法である二酸化炭素換算での表記で排出量を報告する研究もある、と述べている。リンチ氏によると、気候モデルに基づく研究では、各温室効果ガスの寄与について明らかにしなければならないが、小規模の研究(例えば、農業システムからの排出量を考慮した研究)では、二酸化炭素換算での表記を用いてデータを簡略化する傾向があるという。
コロンビア大学のラモント・ドハティ地球観測所の気候科学者で研究の代表者であるキャサリン・イヴァノヴィッチ氏は、食料生産の気候への影響に関するこれまでの研究では、汚染物質を二酸化炭素換算のみで測定することにより、排出量の変化を考慮できておらず、これらのガスが長期的に与える実際の影響を軽視していた、と述べている。
食料生産全般におけるこれらの違いを考慮するため、イヴァノヴィッチ氏らは、100本以上の研究のデータを用いて、94種類の食品から生み出される各温室効果ガスの排出量を分離した。また、171カ国における人口増加と食料消費に関する5つの異なる予測に基づいて、ガスごとの年間排出量を算出した。そして、そのデータを簡略化された地球規模の気候モデルに適用し、これら5つの排出シナリオが大気中の温度変化に与える影響を予測した。
この分析によると、我々が現在の消費行動を維持した場合、世界の現在の温暖化レベルが約1℃上昇すると予想されている。最もその上昇に寄与している食品は、メタンを多く排出する食品である赤身肉、乳製品、米である。これらの食品を合算すると、予測される食品関連の温暖化の75%を占めることになる。
「結果がこれまでの研究とよく合致している」のは驚きだった、とイヴァノヴィッチ氏は語った。「新しい手法を取ったとしても、それによって得られた結果が私たちがこれまで持っていた理解とよく一致することが分かり、満足している。」
この結果に限界がないわけではない。現在の食料消費レベルを維持するシナリオでは、土地利用や気候変動がどのように将来の食料生産に影響を与えるのかを考慮していない、とイヴァノヴィッチ氏は言う。加えて、一部の作物が将来、特定の場所で生育可能かどうかということは、食料生産に影響を及ぼすが、この研究ではこのことを考慮していない、とも彼女は述べた。
したがって、食料の影響で温暖化が1℃進むというのは、過大評価されている可能性があるとイヴァノヴィッチ氏は指摘している。その一方で、イヴァノヴィッチ氏はこうも付け加えた。「反芻動物やより広範な動物性食品に対する世界的な需要は次の世紀に劇的に増加すると予測されており、この事実からすると私たちの結果は過小評価したものであると考えられるだろう。」
変革は可能だ
「通常、気候変動に対する食料システムの寄与に関する報告や論文が発表されると、様々な温室効果ガスが二酸化炭素換算での排出量で報告される」とリンチ氏は言う。しかし、イヴァノヴィッチ氏らが行ったように、それぞれのガスの影響を明らかにすることで、食生活やメタン排出を減らすような牛の飼育方法への転換などの技術の変化の影響を科学者が把握しやすくなる、と彼は語った。
著者らは、小売店レベルでの食品廃棄物の削減、生産方法の改善、健康的な食生活の大規模な導入などの温暖化緩和策を検討し、これらの戦略を組み合わせることで、温暖化の増加を55%削減できることを明らかにした。イヴァノヴィッチ氏は、「意味のある変革をもたらすためには、これらの行動が連動していく必要がある」と述べている。
変革は「難しいものではあるが、可能だ。時間のかかるものである。」とアナ・マリア・ロボゲレロ氏(※2)は言う。「私たちが必要とする変革に関しては、政策がその鍵を握っている。」
解説:なぜ牛肉は地球にとって悪いものなのか?
《センティエント・メディア(Sentient Media)の翻訳記事、ビョルン・オラフソン(Björn Ólafsson)氏著(※3)》
肉食が地球に悪いというのは、もはやニュースではない。次々と発表される研究によって、食料システムからどれほどの汚染が発生しているのかが確認されている。肉や乳製品からの排出量が、地球全体の温室効果ガス排出量の約14%を占めている。

スーパーマーケットの棚に所狭しと並ぶ乳製品(写真:Frankie Fouganthin / Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0])
それだけでなく、我々地球人は消費する牛肉の量についての問題に取り組まなければ、温暖化を1.5℃以下に抑えるというパリ協定の目標を達成することは不可能である。達成できないのである。
しかし、どういうわけか、消費者にはこのようなメッセージは伝わっていない。パデュー大学の研究者が2023年1月に行った調査によると、肉食を減らすことが環境に良いという考え方には、現在、回答者のうちたった46%しか同意しておらず、この数字は「史上最低」であるということが分かった。おそらく、なぜ牛肉が環境に悪いかについて明確に説明することが必要とされている。実際のところ、その理由はいくつかあるが、最も簡潔に言えば、ゲップと土地という二語に尽きる。
牛の生物学
牛は、「反芻動物」と呼ばれる動物のカテゴリーに属している。反芻亜目には、ヤギ、ヒツジ、キリン、シカ、バッファローなどが含まれている。反芻動物は草を食べ、蹄を持ち、気候への排出として重要なポイントである食物を消化するための4つの胃袋を持っている。
この胃の中で、マジックが起こるのである。草はルーメンと呼ばれる第一胃に入り、そこで食物が発酵され、分解され始める。しばらくすると牛は食物を一部吐き出し(ここで吐き出された食物を「食い戻し」と言う)、さらに噛むことで細胞の分解を早めていく。その後、食物は他の3つの胃に流れ込み、そこで微生物によって消化される。
腸内での発酵プロセスのおかげで、反芻動物は人間が消化できない(もしくは、少なくとも消化したくない)あらゆる種類の粗飼料を食べることができる。これは牛にとっては吉報であるが、同時に落とし穴でもあり、この過程でメタンという有害な副産物が発生してしまう。

反芻動物の一種である牛(写真:Ekta.Varia / pxhere [CC0 1.0])
メタンは非常に強力な温室効果ガスであり、大気中に放出されたあとの最初の20年間で、二酸化炭素の80倍もの温暖化をもたらすといわれている。メタンは二酸化炭素よりも早く拡散、分解されるが、分解されるまでの間、二酸化炭素より大きなダメージを与えている。
牛は、その独特な生態のために、このように危険なメタンを大量に生み出している。1頭の牛が1日に排出するメタンの量は、最大500リットルにも及ぶ。今日、畜産業全体では、年間15億もの牛が飼育されており、牛からのメタン排出は、現実の気候問題となっている。実は、メタンは大気中に2番目に多く存在する温室効果ガスである。メタン全体の40%は農業に由来するものであり、家畜の生産はメタン全体の32%を占めている。
幸いなことに、メタンはその特性として、二酸化炭素に比べて大気中での存在期間が比較的短いというものがあり、この性質のおかげで気候変動への対策を行う上で、強力なチャンスが生まれている。メタンの排出量を大幅に削減すれば、排出量削減という点でその効果をすぐに実感できる。また、その分、気候への悪影響がより強固な地域に対処するための時間を確保することができるようになる。
土地利用について理解する
メタン排出量を削減する方法の説明に入る前に、気候変動を引き起こす、牛肉生産のもう1つの側面である土地利用について理解することが重要である。
世界の農地の実に77%が家畜の飼育に使われている。データで見る私たちの世界(Our World in Data)の分析によると、牛肉とラム肉の生産には、たんぱく質1グラムあたり、他のどのたんぱく質よりも多くの土地が必要である。
問題は、無限の農地があるわけではないのにもかかわらず、あたかもそれが存在するかのように我々が振る舞っていることにある。地球の人口が増えるにつれ、農家はより多くの食料を生産するために事業を拡大する羽目になっている。2000年から2019年の間に、世界の農地は9%拡大した、とサイエンス誌(Science)は報告している。熱帯雨林や草原は農地の拡大がまさに最も多く起こっている場所であり、そこでの農地の拡大が気候に与える損失には、特に大きな痛みが伴っている。
その理由を探っていこう。ブラジルのチキタノ熱帯雨林やセラードのような森林地帯は、地球が炭素を隔離ないしは貯蔵し、大気中に排出しないようにしている炭素の貯留層として重要である。つまり、このような森林地帯は気候変動対策として組み込まれているようなもので、自然ベースの気候変動対策と呼ばれることもある。
そのため、このような森林地帯で伐採を行った場合、ある程度の排出を考慮する必要がある。まず、その土地に蓄えられていた炭素が放出される。それ以外に、その後毎年、伐採された土地が炭素を溜め込む能力を失っていくという損失もある。

ブラジルのロンドニア州で行われている森林破壊(写真:Planet Labs, Inc. / Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0])
大局的にみると、排出量は増え続ける一方、森林伐採によって農地や牧場になった土地の炭素を貯留する能力には、もはや期待できない。研究者が炭素機会費用と呼ぶこの損失によって、牛肉に関連する排出量はさらに増加するのである。
一方、土地の喪失が逆転する可能性も非常に大きい。もし全世界が動物ベースの農業から植物ベースの農業に転換すれば、30億ヘクタール以上もの土地を取り戻すことができる。この数字を概観してみると、10億ヘクタールとはブラジルの大きさに近しく、これにメキシコ、カナダ、アメリカ全土を足し合わせると、30億ヘクタールとほぼ同等になる。
生態や地質が異なるため、この土地のすべてが人間に適した植物ベースの農業に変換できるわけではなく、それこそがポイントである。人間のための食料を栽培するために必要なのは、ほんの一部の土地なのである。残りの土地は炭素を蓄えるために自然に返還することができ、生物多様性の維持のために必要な生息地としても機能することは言うまでもない。2022年の研究によると、裕福な国が動物ベースから植物ベースに農業を切り替えた場合、排出量を60%以上削減したうえで、約1億トンの炭素を隔離することができると指摘されている。
あなたにできること:植物が豊富な食事に転換する
考慮しなければならないのは、気候変動に影響を与える排出だけではない。牧場経営によって、次のパンデミックのリスクと可能性が高められ、抗生物質が乱用され(※4)、世界で年間3億頭の牛が殺され、労働者は肉体的および精神的なトラウマを負うことになる。また、牧場経営固有の非効率性のために、戦争やパンデミックのような危機の際、インフレやサプライチェーンの崩壊が起こりやすいことは言うまでもない。
このような影響の存在こそ、食肉が気候に与える影響について一般の人々の理解を深めることが非常に重要になる理由である。最も強力な気候変動対策の1つとして、肉、特に赤身肉の消費量を減らして、植物が豊富な食事に転換することが挙げられる。

ヴィーガン料理(写真:Jabiz Raisdana / Flickr [CC BY-NC 2.0])
プロジェクト・ドローダウン(Project Drawdown)の分析によると、このような食生活の変化と食品廃棄物の抑制によって、世界の排出量の12.4%を減らすことができる。
もっと素晴らしいことに、集団行動に参加することで、個人の選択のパワーを増幅させることができるのである。自分の街のプラントベース条約(Plant Based Treaty)に参加したり、地元の活動家グループと交流したり、畜産の代表者と話し合いを持ったりすることを検討してみてもよいだろう。
※1 この記事はGNVがパートナー組織として参加する「気候報道を今」(Covering Climate Now)の同じくパートナー組織であるエオス(American Geophysical Union & Eos Magazine)のメギー・ロドリゲス氏(Meghie Rodrigues)の記事「Food Production Could Add 1°C of Global Warming by 2100」を翻訳したものである。この場を借りて記事を提供してくれたエオスとロドリゲス氏にお礼を申し上げる。
※2 ロボゲレロ氏は、国際農業研究協議グループ(CGIAR)の気候変動、農業、食料安全保障に関する研究プログラムのグローバル政策研究責任者である。
※3 この記事はGNVがパートナー組織として参加する「気候報道を今」(Covering Climate Now)の同じくパートナー組織であるセンティエント・メディア(Sentient Media)のビョルン・オラフソン氏(Björn Ólafsson)の記事「Explainer: Why Is Beef Bad for the Planet?」を翻訳したものである。この場を借りて記事を提供してくれたセンティエント・メディアとオラフソン氏にお礼を申し上げる。
※4 家畜の生産効率を向上するため、抗生物質が多用されるという問題がある。そのようにして生産される食品を食べることで、大量の抗生物質を摂取してしまう。
ライター:
Meghie Rodrigues
Björn Ólafsson
翻訳:Ayane Ishida
興味深い記事でした。
牛がメタンを排出するのは生理的現象なので、牛の存在を批判しているようにも受け取られるリスクはありますが、
我々大衆に分かりやすいプロモーションをこうして掲げるのは、ひとつ進展かもしれないですね。
気候関係でよく言われるのはCO2ですが、食料生産も影響してるんですね
あと、アメリカの大規模企業農業の肉牛飼育はちょっと不衛生だと聞きます。
畜産の過程そのものがこれほど環境に作用しているのですね。生産の段階でこれだけ問題が起こっているのに、我々はそれと併せて食料の廃棄量も減らせていないので、なんだか問題が倍々になっているような気がしました。
牛の地球温暖化に対する影響や、牧場経営による様々な悪影響というものがいかに大きいのか理解することができました。実際このことはあまり周知されてはいないと感じます。多くの人が食糧生産の影響、プラントベース条約などの集団行動が行われていることなどについて知っていくことが重要だと思いました。