2021年8月、ザンビアで劇的な政権交代が行われた。最大の野党、国家開発統一党（UPND）のハカインデ・ヒチレマ氏が6回目の出馬でついに、当時現職大統領として出馬した愛国戦線（PF）のエドガー・ルング氏に100万票以上の差をつけて勝利したのである。
アフリカの多くの国で与党が再選を繰り返す中、ザンビアは1990年代以来、民主的な政権交代が複数回かなっている国である。しかしその民主的な政治の裏には、鉱物資源に頼る経済や深刻な貧困問題が存在する。またコロナ禍で多くのアフリカの経済が打撃を受ける中、2020年11月にはザンビアもその影響を受けて債務不履行に陥った。ザンビアが抱える経済問題の背景には何が潜んでいるのだろうか。本記事では、歴史的背景とともに経済の状況について詳しく取り上げていく。
ハカインデ・ヒチレマ氏の大統領就任式（写真：ChaloNiZambia / Wikimedia Commons [CC-BY-SA-4.0]）
独立前の歴史的背景
現在のザンビアの領域とその周辺では、古くから様々な民族や王国が形成されてきた。数10万年以上前からバトワやコイサンと呼ばれる狩猟採集民が長く居住していたが、15から19世紀にかけて、主に現在のコンゴ民主共和国南部やアンゴラ北部から鉄や家畜を持つバントゥー系民族（※1）が多く流入し、先住民は追いやられたり吸収されたりした。そして時間とともに様々な民族グループや王国等の政治組織に発展していくこととなる。主要な王国として現在のコンゴ民主共和国からザンビア東部にたどり着いたチェワ王国、北部ムウェル湖周辺の肥沃な土壌を支配したルンダ王国、北の中央部に展開していたベンバ王国、南部のザンベジ川沿いで肥沃な土地を持っていたロジ王国（別名バロツェ王国）が存在していた。このように多様な王国などが存在していた歴史的背景もあり、現在ザンビアには73もの異なる民族グループや言語グループが存在する。
その後、世界に蔓延していた奴隷貿易がこの地域にも打撃を与えていくこととなる。アフリカ海岸付近から始まったこの貿易では、多くの人々が捕らえられ、奴隷としてヨーロッパや南米アメリカ、アラブ諸国へ「売買」された。1700年代後半、ザンビア東部などの内陸部にもついに奴隷貿易が広がっていった。奴隷を求める側の勢力は民族間の対立を利用して、ライバルグループから奴隷を狩るよう仕向けるなどし、民族間での争いや紛争が多発するようになった。その後、19世紀には世界的に奴隷貿易が禁じられていき、植民地化とともに奴隷貿易は終焉することになる。
1889年、現在の南アフリカに拠点を持っていた植民地政治家セシル・ローズ氏は、イギリス南アフリカ会社（BSAC）を設立した。翌年以降、南部アフリカから金などの鉱物資源を求め、準軍事的な組織を用いて北へと進出し、その土地の鉱物資源を採掘し始めた。現在のザンビアとジンバブエにあたる地域は、ローズ氏の名をとってローデシアと名付けられ、それぞれ北ローデシア、南ローデシアとしてイギリスの植民地となった。当時、ベルギーの国王が中央アフリカを占領し、コンゴと北ローデシアとの境目ができたため、イギリス系勢力は南アフリカからコンゴまでの南部アフリカ地域を手中に収め、南北に分けて植民地経営を行った。またポルトガルは以前から、現在のザンビアの東西にある地域を海岸付近から徐々に内陸に進出していき、植民地化していた。このようなポルトガルによる支配を受けていた、現在のモザンビークとアンゴラにあたる地域は、北ローデシアを東西で挟む形で植民地の境界線ができた。
このようなヨーロッパ勢力によって、もともと存在していた王国が新たな境界線により分断され、植民地化の過程で国境線が引かれた。BSACは北ローデシアを東西に分け、西北ローデシア（バロツェ王国）と東北ローデシアとして支配していた。BSACの管理下におかれたこれらの地域は、1899年と1900年にそれぞれイギリスの保護領となった。1900年以降、この二つの地域は植民地支配の一環として現地の人々に自給自足の生活をやめさせ、鉱山での労働力を確保するためにも、鉱山などの労働でしか得られない現金が必要となる税金を課した。
そして、西北ローデシアと東北ローデシアは1911年に統一され、1924年には北ローデシアがBSACから引き継がれて正式にイギリスの植民地となった。1953年には現在のザンビアにあたる北ローデシアと現在のジンバブエにあたる南ローデシア、現在のマラウイにあたるニヤサランドがイギリス系勢力によって連邦化された。連邦政府は北ローデシアの教育や農業などの政策をほとんど行わなかったり、イギリスからの入植者が集中していた南ローデシアを優遇する政策を取ったりしたため、1950年代後半から連邦政府はうまく機能しなくなっていた。
この時期から北ローデシアでは植民地支配に対する抵抗が強まっていき、独立へと向かうこととなる。1958年にケネス・カウンダ氏による統一国家独立党（UNIP）が結成され、イギリスがアフリカの各植民地から撤退し始めた時期とも合わさって、1963年に連邦が崩壊した。北ローデシアでは、植民地時代に東北ローデシアとして支配されていたザンビア東部に権力が集中していたが、独立への流れの中、西部のバロツェ王国とも協定を結んだ。1964年10月、ザンビア共和国として独立するとともに、北ローデシアの政府首相であったカウンダ大統領が初代大統領として就任した。
植民地からの解放を示すモニュメント（写真：Virgil Hawkins）
独立後のザンビア
UNIPはザンビア独立後、1964年から1991年までの長期間にわたり、政権を握ることとなる。1972年、カウンダ氏がUNIP以外のすべての政党を禁止し、ザンビアは一党制の国家となった。UNIPが唯一の合法的な政党であったため、選挙は行われるが投票できる党は1つしかないという事態が発生し、他の政治勢力を抑えていった。これに伴ってザンビア政府は権威主義に走ることとなる。国内で政権を批判するものや政敵に対しては大統領が裁判なしで拘束するなどの措置をとった。強権的な政治に発展していったものの、多民族国家を統治するためにカウンダ氏は「1つのザンビア、1つの国（One Zambia One Nation）」のスローガンを掲げ、民族間の政治的バランスをとるという信念を徹底して貫いていた。
カウンダ氏は周辺諸国の解放にも目を向けていた。自国のみならず、植民地からの独立をまだ成し遂げていない南部アフリカ諸国の独立運動の支援に尽力した。例えば、1975年までポルトガルに支配されたモザンビークやアンゴラの解放運動を支援していた。また南ローデシアの白人統治に抵抗する勢力を支援し（※2）、南アフリカのアパルトヘイト政策に抵抗していたアフリカ民族会議（ANC）の本部をザンビアの首都ルサカに受け入れるなどした。
経済面において、ザンビアは独立当初比較的安定した成長を見せていた。植民地として支配された間、イギリスがザンビアの鉱物資源などを搾取していたが、1国として独立を果たすと、ザンビアのあらゆる資源・財源をザンビアのために使用できるようになった。1964年から1970年にかけて銅価格が上昇したことも相まって、銅資源が豊富なザンビア経済は急成長する。銅資源による財源を用いて病院や大学を建てるなど、さまざまな社会サービスが発展していった。しかし1970年半ばから1980年頃、銅価格が暴落したことでインフレが急速に進み、ザンビア経済は悪化へと転ずる。
1983年にアメリカを訪問するケネス・カウンダ氏（写真：A1C William M. Firaneck）
多党制による民主主義
経済の停滞と独裁政権への市民の不満が高まっていたことを受け、1991年8月にカウンダ政権は一党制を廃止し、多党制の選挙を認めた。1991年10月には、新たな多党制での大統領選挙を実施し、カウンダ政権に代わって、ザンビア労働組合会議の代表であり、多党制民主化運動（MMD）のフレデリック・チルバ氏が勝利した。当時経済が落ち込んでおり、財政破綻していた国営企業もあったため、チルバ氏は鉱山企業などの大規模で生産性の低い企業の多くを民営化した。しかしここにも問題はあった。民営化で外資系企業に鉱山の採掘権を譲る過程で、政府関係者が外資系企業などから賄賂を受け取り、外資系企業に極めて有利な条件での採掘権の付与が行われたのだ。これによりザンビアの財政は持ち直すどころか、鉱物資源という富が外に流出するシステムができてしまった。
民営化などの一連の動きもあり新政権の問題が注目されると、他の政党が台頭するようになった。このような中、国家開発のための統一党（UPND）という新党が1996年に誕生した。アンダーソン・マゾカ氏率いるUPNDは2001年の選挙で与党MMDに僅差で敗れた。一方で2002年にはマイケル・サタ氏が愛国戦線（PF）を結成し、急速に成長していった。2006年には、ハカインデ・ヒチレマ氏がUPND党首に選ばれ奮闘するも、2011年の大統領選挙でPFのサタ氏は与党MDDに勝利を収めた。
サタ氏の任期中にPFは大きく成長したものの、失業率の軽減や社会経済政策の改善など選挙公約として掲げられていた一部の事項が実現されなかったことで国民の不満が高まっていた。現役中のサタ氏が死亡したことで、2015年に選挙が行われ、PFのエドガー・ルング氏が大統領に就任した。ルング政権は既存の道路の改良や学校の建設など多くのインフラ整備を行った。しかしその一方で銅価格の低迷などによって経済は悪化し、2020年の新型コロナウイルスの流行でさらにザンビア経済に悪影響を及ぼしている。
そして2021年8月に行われた大統領選挙で、PFのルング氏が38%（181万4,201票）の得票率であるのに対し、UPNDのヒチレマ氏が57%（281万1,757票）の得票率で勝利した。UPNDにとって過去5回にわたる大統領選失敗後の勝利であった。
ザンビアの国会議事堂（写真：Virgil Hawkins）
ザンビアの鉱物資源
このようにザンビアでは政権交代を繰り返してきたが、常にその背景にあったのが経済上の課題といっても過言ではない。ザンビアは深刻な貧困問題を抱えており、人口の92％がエシカルな（倫理的な）貧困線である1日7.4米ドル以下で生活している（※3）。現在、ザンビア経済を支えているのが銅やコバルトを中心とする鉱物資源であるが、ザンビアで暮らす人々は実際にどれほどその恩恵を受けられているのだろうか。
1990年代から鉱山の民営化が進んだことにより採掘権が外資系企業に有利な条件で譲られた問題を背景に、現在もザンビアは、外資系企業に対する課税などを通じて鉱物資源の恩恵を受けることにも難航している。鉱物を採掘する外資系企業は、鉱山使用税（ロイヤルティ）や法人税などの他の税金を払う義務があるが、外資系企業の参入なしには鉱山開発を行えないことを逆手にとり、外資系企業が交渉などを通じて極端に低い税率を求めてきた。例えば、鉱山が民営化された当初、鉱物資源のロイヤルティが0.6%に設定された。その上、様々な税金免除の措置も与えられ、鉱山からの税収が極めて低かった。その後、法改正が繰り返されてきたが、ロイヤルティを引き上げようとすると採掘に関わる企業から強い抵抗に直面するということが繰り返されてきた。2021年現在では、ロイヤルティは銅の価格に合わせて、5.5％から10％の間に変わる仕組みになっている。
また、そもそも設定されている税率が低いために税収が低くなってしまう問題に加えて、不正行為による利益移転の問題もある。タックスヘイブンと、それを通じて行われる不法資本流出の問題である。鉱山会社は税率の低いタックスヘイブンに構える関連会社に低い価格で銅を「販売」するという形をとることで、ザンビアで納める税金を少なくすることができる。法律に触れることが少なくないが、秘匿性の高いタックスヘイブンの仕組みを通すことで取り締まることが極めて難しくなる。こうした租税回避や脱税、免税措置などでザンビアが毎年30億米ドルの税収を失っていると推測する調査もある。
2018年、ザンビアでは鉱業部門における企業の租税回避行為を減少させるために、外資系企業がすべての関連当事者取引を文書化し、証明しなければならないという規則を定めた。企業の利益移転による不法資本流出を防ぐことが目的である。また、ザンビアでは鉱山会社などの関連会社に対して、二者間で取引が行われた場合の想定価格である独立企業間価格の使用を要求している。ザンビアがこのような問題を阻止するために用いているツールは、既に損失した税収の一部を回収できたという事例も報告されている。
ザンビアのンチャンガ銅山（写真：BlueSalo / Wikimedia Commons [CC-BY-SA-3.0]）
さらにザンビア各地の鉱山では汚染問題も発生している。例えば、2021年1月にはヴェダンタ社所有の銅山により地域の水源が汚染され、その影響を受けた周辺地域の住民が訴訟を起こした。約20年にわたって、銅山から出た有害物質は地域の水源を汚染し続け、人々の生活や環境を侵害していたのである。2,500人以上の地域住民が鉱山会社を相手取って訴訟を起こした。国内の環境汚染の責任に対して具体的な取り決めがないことも、このような汚染が長く放置されていたことの背景として考えられる。
ザンビアの経済状況と債務問題
ザンビアでは鉱物資源が経済を支えているため、世界の鉱物資源の需要に応じて、鉱山産業だけではなく経済全体が大きく影響を受けてしまう。例えば、1970年代半ばにオイルショックで世界の経済が停滞し、主要輸出品である銅の価格が下落した。銅価格の低迷が続いたことにより、ザンビアは徐々に増大する債務を抱えることとなる。1990年代半ばには、一人当たりの対外債務がおよそ8.74米ドルと世界で最も高い水準となった。1990年代以降、中国の経済成長が進むなどしたため銅の市場価格が上がり、ザンビアでも経済成長が見られた。2003年以降、経済の好転とともにザンビアの財政状況も改善したため、年間債務の減少が見られた。しかしそれまでに積みあがったザンビアの債務は膨大であり、2005年4月に世界銀行が38億米ドルの債務救済政策を実行して、ザンビア債務の50％以上を帳消しにした。
2008年頃リーマンショックで世界規模の金融危機が発生し、多方面の資産価格の暴落により世界経済が縮小した。これにより銅の需要が下がった結果銅価格が暴落し、再度ザンビア経済に影響を与えることとなる。2005年の救済政策以降、ザンビアでは2008年を契機に再び債務が積みあがっていき、2020年3月には商品価格の低迷や新型コロナウイルスの流行などにより、経済が打撃を受けた。2020年6月時点で国内外の公的債務は約270億米ドルに及び、そのうち168.6億米ドルは国外保有であった。対外債務についてはその4分の１が、中国企業がザンビア企業と秘密裏に取引して保有したものであり、ザンビアは現在中国企業に対して約30億米ドルの債務を負っている。そして2020年11月、対外債務残高の対GDP比は100％を超え、ザンビアはアフリカで初めて債務不履行に陥った国となった。
銅山で働く人々（写真：Virgil Hawkins）
財政問題の解消へ？
2021年8月に当選を果たしたヒチレマ氏は、債務やコロナ禍で低迷した経済状況を引き継いだが、彼に対する期待が高まっている。債務問題を最重要課題とし、国民に雇用とより良い生活をもたらす経済の回復のためには大胆な行動が必要であると述べている。ヒチレマ大統領は複数のビジネスを所有・運営する実業家であり、ザンビアに持続可能な財政基盤を築き、ザンビアに投資してくれる人との関係を築く意欲を示している。また、ザンビア政府は財政再建のために財政赤字を削減し、復興支援を受けるための国際通貨基金（IMF）の融資プログラムに参加している。しかし、IMFのプログラムはあくまでも一時的な救済措置にしかならない。さらに、IMFは過去にザンビア政府に対して出費削減などの条件を課しており債務が削減されたものの、保健医療や教育などの公共サービスの出費が削減され、貧困が助長された。現在、IMFはそのような一方的な条件を突き付けてはいないという見解もあるが、現時点ではIMFは十分に現状を見通せていないともいえる。
ここまで見てきたように、ザンビアは豊富な鉱物資源を有する一方で、様々な理由でその恩恵を十分に受けていない。その結果、定期的な政権交代が行われている一方で経済は不安定で、深刻な貧困問題を抱え続けている。鉱物資源の価格の変動や国外に流出する資本の大きさなどの問題が積み重なっており、ザンビアの債務が少しずつ減ったとしても、完全な経済問題の解決まではまだ遠いだろう。
今後、成長の兆しがある観光業や農業にさらに力を入れつつも、外資系企業に対して自国の富と産業を守り抜くことができるかどうかが課題となるだろう。しかし、タックスヘイブンに対する世界的な税制度の改革などザンビア政府のコントロール外の問題も多く存在する。2021年に就任したヒチレマ大統領がこれからどのような政策を行い、ザンビアの経済を復興していくのか注目が高まる。
※1 紀元前2千年頃から15世紀にかけて、西アフリカ南部からアフリカ大陸の中央部、東部、南部へと人々が徐々に移動し始めた。これをバントゥー大移動と言い、この結果、現在アフリカの広範囲でバントゥー系言語が話されている。
※2 植民地時代に南ローデシアを支配していた現地政府は、脱植民地化を避けるために、人種に基づいた支配を維持しながら、イギリスからの一方的な独立宣言を行い、白人統治を続けていた。そして、独立戦争の末その支配は1979年に終結した。
※3 GNVでは世界銀行が定める極度の貧困ライン（1日1.9米ドル）ではなく、エシカル（倫理的）な貧困ライン（1日7.4米ドル）を採用している。詳しくはGNVの記事「世界の貧困状況をどう読み解くのか？」参照。
ライター：Mei Hatanaka
グラフィック：Yosif Ayanski
