1938年、学者によって核分裂という現象が発見された。それ以降、原子力が実用化されるようになった。原子力の利用方法の一つとして原子力発電が挙げられる。原子力発電は莫大なエネルギーを生み出す。一方、放射能を持った廃棄物が残ったり、チェルノブイリや福島で起こったような原子力発電所の事故があったりと、甚大な被害を及ぼすこともある。また、核兵器に使用されることもある。第二次世界大戦では原子爆弾が投下され、大きな被害をもたらした。
そんな原子力の原料としてウランという鉱山資源が用いられている。ウランが大量に埋蔵されている国の一つとして、西アフリカに位置するニジェールという国がある。ニジェールにおいてウラン採掘は国の主な産業である。しかし、ニジェールでウラン採掘を行っているのはニジェールの企業ではなくフランスの企業である。そこにはどのような事情や課題があるのだろうか。この記事ではニジェールでのウラン採掘についてみていく。

ニジェール北部の都市アーリットの大通り(写真:NigerTZai / Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0])
ニジェールについて
ニジェールの国土面積は1,267,000平方キロメートルであり、2,513万人の人々が居住している。北部の大半はサハラ砂漠が占めており、南部は半乾燥地帯であるサヘル地域に位置する。
ニジェールの歴史について簡単に説明する。現在ニジェールが位置する西アフリカは、7世紀から8世紀頃からサヘル交易(※1)と呼ばれる交易の中心地であった。この地域ではマリ帝国やソンガイ帝国等の多数の帝国が興亡を繰り返した。1890年になると、フランスが現在ニジェールの位置する地域に侵攻し、占領した。この地域はフランスの植民地となり、現在の国境線が引かれた。ニジェールは1958年にフランス共同体の自治共和国となり、1960年に独立した。独立後も1974年、1996年、2010年とクーデターが3度起こるなど政治体制が安定していない時期もあった。
次に、現在のニジェールについてみていく。世界銀行によると、2021年において人口の95.8%が1日7.5米ドル以下で暮らす貧困層であり(※2)、飢餓や干ばつが頻繁に起こっている。また、保健医療、教育の実施やインフラへのアクセスが厳しい状況となっている。
主要な産業は鉱業であり、中でもウランの採掘が主要なものとなっている。ニジェールのウランの資源量は世界全体の5%近くを占めており、世界7位である。ウランの生産量も世界全体の5%近くであり、世界6位である。北部に位置するアーリット市周辺にウラン鉱山が複数存在し、そこで採掘が行われている。ニジェールからの輸出の内の約70%をウランが占めているのだが、それは国内総生産(GDP)の約5%しか占めていない。その主要な理由のひとつは、ニジェールで採れるウランを輸出して得た利益の多くがニジェールには残らず、フランスに流れていることだと考えられる。以下ではウラン採掘におけるニジェールとフランスの関係について述べていく。

ニジェール鉱業、産業、地質学高等研究所の正面玄関にある看板(写真:Yann Fauché and Alma Mulalic / Wikimedia Commons [CC BY-SA 3.0])
ウランを巡るニジェールとフランスの関係
上記の通り、ニジェールにはフランスの植民地となっていた過去がある。フランスはニジェールを含め西アフリカ一帯を植民地化しており、フランス領西アフリカを形成した。当時、フランスはアフリカ人に対して最大2年間の強制労働を課すことができるという法律を有していた。西アフリカを植民地にしていた時代、フランスは資源も労働力も搾取していたという経緯がある。
1960年にニジェールは独立したものの、フランスの影響力が消滅したわけではなく、現在でも根強く残っている。その一例として、植民地時代に西アフリカの国々の中でCFA(アフリカ金融共同体 Communauté Financière Africaine)フランという通貨を導入しており、現在もそれを使用しているということが挙げられる。CFAフランは、交換レートがフランスで使用されているユーロに固定されていて、ニジェールの中央銀行の預金の一部をフランスに預ける義務がある。この制度上、ニジェール政府はフランスと金銭的な関わり合いを持たざるを得ない。このように、フランスはニジェールを含む西アフリカの国々に経済的な影響力を及ぼしている。
ニジェールでウランが初めて発見されたのは独立前の1957年であり、独立後の1961年にはフランスとニジェールは二国間防衛協定を結び、その一環としてフランスはニジェールのウランを優先的に利用できるようになった。
なぜフランスはニジェールのウラン採掘に介入しようとしたのだろうか。その背景として、1950年代にフランスが原子力発電を軸とした計画を立てており、その実行のためには莫大な量のウランが必要であったことが挙げられる。フランス国内だけの供給量では必要な量をまかないきれる確証がなく、またフランスの土壌から調達するには費用がかかりすぎるといった問題があった。そのため旧植民地国でありウランが豊富に存在しており、かつ採掘の費用も低いニジェールにおいて、ウランの供給を確保しようとしたのである。1973年にはオイルショック(※3)の影響もあり、原子力発電の需要が高まり、計画がいっそう推し進められることとなった。

フランスにあるトリカスタン原子力地区の様子(写真:Franck GAVARD PERRET / Wikimedia Commons [CC BY-SA 3.0])
また、発電のみではなく核兵器への利用という目的もあったと考えられる。フランスは1960年に初めての核実験を行った。2022年時点のフランスの推定核弾頭保有数は290となっている。
1976年にはフランス政府が核燃料に関する事業を行う国営企業グループであるコジェマ(COGEMA)を設立した。その後コジェマは二度、他の国有企業と合併して2001年にアレバ社(Areva)が設立された。アレバ社は民間企業ではあるもののフランス国家が資本の大半を保有している状態であった。後述するアレバ社の子会社が中心となってニジェールでのウラン採掘を推し進めた。2018年には原子力関連の子会社はオラノ(Orano)に改名した。
アレバ社の動向
ニジェールで実際にウラン採掘を行っている主要な企業について説明していく。ニジェールのアーリット市周辺の鉱山でウランの採掘を行っているソマイア社(SOMAÏR)とコミナック社(COMINAK)という企業がある。ソマイア社は露天掘りを用いて採掘を実施し、コミナック社は地下採掘という方法を用いて採掘を実施した。前述したフランスの企業であるアレバ社(現オラノ社)はソマイア社とコミナック社の株式の過半数以上を所有し、両者を子会社としており実質的な運営を行っている。この2つの鉱山からの収入は、2017年時点では数十億米ドルの規模であるアレバ社の生産の約3分の1を占めていた。しかし、2011年の日本での福島原発事故の影響によるウラン価格の暴落により採算が合わなくなったことや、資源の枯渇によりコミナック社の地下鉱山は2021年5月31日に閉鎖された。
このようにウラン採掘による収入は莫大であるのにもかかわらず、上記にも記載した通りニジェールにはその利益の大半は還元されていない。その原因はフランス企業のアレバ社とニジェールの間で結ばれたウラン採掘に関する取引内容が不均衡であるためだと考えられる。それでは、その不均衡な取引の内容を説明していく。詳細は公表されていないが、2014年までのロイヤルティ率(※4)は5.5%程度とされていた。つまり、アレバ社がウラン採掘によって得た利益の内ニジェール政府は約5.5%、アレバ社は約94.5%を得るということである。また、アレバ社の子会社であるソマイア社とコミナック社には税金の大幅な免除という税制優遇も為されており、ニジェール政府に納めていた税金が低く抑えられてきた。不当に低い金額のウランがアレバ社に流入していたという腐敗問題も問題視されている。
このような内容の取引が行われている結果、2020年においてニジェール政府のウランを含む鉱山収入が約5,000万米ドル程度(※5)であったのに対し、ウラン輸出の価値の合計がその5倍の2.5億米ドルであった。つまり、利益配分が設定し直されてからも、利益の大半は国外に流れているのが現状である。
ニジェールの健康被害
フランス企業アレバ社によるウラン鉱山の採掘に関する問題は利益の分配の問題だけではない。ニジェールにおいて多大な健康被害を及ぼしている。ウランは放射能を持っている。そのためウラン採掘では採掘を行っている労働者が被爆したり、採掘された鉱石や廃棄物が原因で引き起こされる汚染によって、周囲に居住している人々が被爆したりする危険性がある。ここではウラン鉱山の労働者に対しての健康被害と周囲に居住している人々に対しての健康被害に分けて説明する。
はじめに、ウラン鉱山の労働者に対しての健康被害に関してみていく。ウラン鉱山で労働する際は放射線による弊害の防止が必要である。しかし、ソマイア社の鉱山では、労働の際に鼻や口を保護するマスクなどの物品は与えられず過酷な環境で作業していたと元労働者は語っている。また、コミナック社の地下鉱山では1,000人以上もの労働者が地下250mの場所で採掘作業をしていたと言われている。ガスが充満しやすい地下鉱山において、安全措置が不十分な環境での労働は危険なものである。ウラン採掘に携わってきた労働者で放射能関連の病気が疑われるケースが報告されてきた。しかし、アレバ社が資金提供をしているソマイア社の病院の医者は、鉱山の元労働者にみられる病気は採掘活動や放射線とは全く関係ないと主張したという情報がある。
次に、ウラン鉱山の周囲に居住している人々に対しての健康被害についてみていく。フランスの放射線に関する独立研究情報委員会(CRIIAD)の所長は10年以上、アーリットとその周辺で用いられている飲料水の放射能を測定した。2003年から2004年の研究で、測定結果から飲料水には世界保健機関が作成した推奨安全基準の10倍から100倍の濃度のウランが含まれていることを示した。この事実に対し、アレバ社側は自然汚染の結果であると述べた。また、鉱山地域において、呼吸器系に関連する病気による死亡率はニジェール内の他の地域の2倍であると報告されている。放射線の被曝によって引き起こされる場合が多い先天性欠損症や癌等の病気の発症も増加しているとされている。以上の健康被害がウラン鉱山での採掘と無関係とは考えがたい。一方、客観的なデータは不足しているため、その関係性は確かなものではない。
また、ウランの採掘によって発生した廃棄物から生成されるラドンと呼ばれる放射性ガスは、砂漠の強風によって放射性ダストとなり拡散されている。このことにより大気や土壌が汚染され、これを周囲の人々が吸い込むことによって健康被害が引き起こされている。
フランスの思惑
ウラン採掘においてニジェールに対して不当な扱いをしている企業アレバ社(現オラノ社)の帰属国であるフランスは、このような状況にどのような態度を示しているのかをみていく。
まず、フランス政府とニジェールでのウラン採掘の関係性について説明する。フランス政府にはエネルギー資源の確保という国益がある。フランスは総発電量の内、約7割が原子力発電によるものであり、原子力発電には多くのウランが用いられている。実際、2014年時点では、ニジェールのウランはフランスの電力の50%を補うほどであった。このようにウランの採掘はフランスの企業だけの問題にとどまらず、エネルギー資源の確保という国益上の問題にも関わっている。また、フランス政府には自国の企業が潤うという利益があるとも考えられる。
フランス政府はその国益を守るために軍事介入を行ってきた。その事例の一つとして、2012年以降、マリで起こっている紛争に対してフランスが軍事介入していたということが挙げられる。マリはニジェールの隣国であり、その紛争がニジェールにも広がっていった。ニジェールの隣国であるマリへの軍事介入の背景に、ニジェールでのウラン採掘の保護という目的がどれほど含まれているのかについては意見が分かれる。しかし、その可能性をほのめかす分析もある。マリへの軍事介入後、2013年にフランス政府は自国の特殊部隊にアレバ社が運営するウラン鉱山を防衛するように命じた。その背景は広がるマリでの紛争の地に、2010年にウラン採掘が行われているアーリットで労働者7人がアルカイダの北アフリカ部隊(AQIM)によって誘拐された事件であると考えられる。

ニジェールにある軍事要塞を見下ろすフランスの兵士(写真:Thomas GOISQUE / Wikimedia Commons [CC BY-SA 3.0])
また、2022年にフランス軍がマリから撤退した後、ニジェールが1,500人のフランス兵を受け入れたり、フランスがニジェールにおいてドローンや戦闘機を使用したりするなどフランスとニジェールは軍事協力を強化している。
アレバ社への抵抗
ニジェール側もアレバ社による不当な扱いに対して何も行動をとっていないわけではない。ニジェールが行った抵抗をいくつか見ていく。
2014年に不均衡であったアレバ社とニジェール政府の取引内容の再交渉が行われた。交渉中、アレバ社がウラン鉱山の操業を一時停止するなどニジェール政府に対して圧力をかけたと思われる。このように再交渉は一筋縄ではいかなかったが、報道によると最終的にはアレバ社は多くの減税を放棄し、収益性に応じて最大12%までロイヤルティ率を引き上げることに合意したとされている。
ニジェールの人々がウランの採掘を巡りニジェール政府に対して行動を起こした事例もある。その一つとして、ニジェールの人権擁護家であるアリ・イドリッサ氏の活動が挙げられる。アリ氏はアレバ社とニジェール政府との不合理な協定を前に出て批判する等、ウラン等のニジェールでとれる天然資源の利益をニジェールの人々が享受できることを目指した運動を精力的に行っている。
正義のためのニジェール運動(MNJ)という、主にトゥアレグという遊牧民で構成される武力勢力による行動も挙げられる。MNJはウラン採掘が行われているニジェール北部で結成された団体である。MNJは武力行使を行っているという面があるため、ニジェール政府はMNJ要求を一蹴している。しかし、その要求の中には、ニジェール政府に対してウランを生産している北部にウラン採掘による利益を還元することや廃棄物による汚染を排除すること等の要求も含まれている。実際の目的は定かではないが、ウラン採掘に関してニジェール政府に対して行動をとっているとも考えられる。

マリ南部の住人とフランスの兵士(写真:TM1972 / Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0])
アレバ社とニジェールの関係の現状の改善を求めているのはニジェール側だけではない。フランス側においてもその動きは存在する。ニジェールにおけるウラン採掘の問題の改善を求める、欧州議会議員であったミシェル・リバシ氏という人物がいる。例えば、リバシ氏は2017年に欧州委員会においてニジェールで行われているウラン採掘の現状を、原子力技術者とニジェールの活動家とともに説明した。そして、欧州議会で会議を組織し、欧州委員会に事実調査を実施するように促した。また、リバシ氏をはじめとする議員達が、2020年にも同様の問題に対して働きかけている。
以上のようにニジェールで行われているウラン採掘の現状を問題視している人々はニジェールにもフランスにも存在しており、実際に行動も起こされている。
展望
この記事ではフランスの企業であるアレバ社(現オラノ社)がニジェールで行ってきたウラン採掘について、企業と国家の間の利益関係や国家間の利益関係に関する事柄から、そこで働く労働者や居住している人々に関する事柄というように幅広くみてきた。植民地時代からの影響もあり、フランス政府やフランスの企業に優位な形で交渉が為されるなどウラン採掘に関する課題は山積みである。
一方、ニジェールのウランの主な輸出先であるフランスへの依存は緩和されている。現在ニジェールは日本、ドイツ、スペインにも多くのウランを輸出している。しかし、これらの国々及びその企業も、ニジェールより優位な立場にあり、ニジェールが公平な価格で取引できるようになるとは考えにくい。
ニジェールにとって不合理な利益配分は、貧困の原因の一つとなり、貧困状態が政治的な不安定につながりかねないという問題もある。実際、2021年にクーデター未遂が起きている。これらの問題を解消するためにも、ウラン採掘の現状の改善が必要であると考えられる。ニジェール政府の動きに今後も注目していきたい。
※1 サヘル交易とは、サハラ砂漠以南の地域と地中海側の地域を結ぶ貿易のこと。主なものとしてサハラ砂漠以南の地域の金や奴隷等と地中海側の地域の布や金属製品等の交易や、サハラ砂漠地域の塩や家畜等とサハラ砂漠以南の地域の穀物や布等の交易があった。
※2 世界銀行は2021年の時点での極度の貧困ライン(1日1.9米ドル)を定めていた。それに対し、GNVでは極度の貧困ラインではなく、エシカル(倫理的)な貧困ライン(1日7.4米ドル)を採用している。ここではデータの都合上7.4ではなく7.5を使用している。詳しくはGNVの記事である「世界の貧困状況をどう読み解くのか?」を参照。
※3 オイルショックとは原油の輸出を主に行っているアラブ諸国が、戦争の影響や外交戦略により原油生産量を削減したり価格を引き上げたりしたことによって起こった経済的混乱である。1973年に起こった第一次オイルショックと1979年に起こった第二次オイルショックがある。
※4 ロイヤルティ率とは事業で得た利益のうち権利保有者に支払われる利益の割合のこと。アレバ社とニジェール政府の関係においては、アレバ社が事業主、ニジェールが権利保有者である。
※5 2020年1月1日時点での為替レートで計算を行った。約5,000万米ドルを304.55億CFAフランに換算した。約2.5億米ドルを1454.70億CFAフランに換算した。
ライター:Ryoga Kuniyoshi
グラフィック:MIKI Yuna
資源の採掘の際に、力関係の強い国に利益を搾取される例はGNVの記事でもよく見られますね。ニジェールのニュースはほとんど見たことがなかったので新鮮でした。
こんな状況、フランスの現代版帝国主義だと言えますね。
労働状況の話を見ても現代版奴隷ですね。