2013年12月、ウルグアイでは大麻(※1)の使用と商品化を合法化した。その決定に一部の国民は反対を唱え、それまでの国際的合意にも反していたため、物議を醸し出すこともあった。この決定により、ウルグアイは歴史上初めて大麻の使用を認めた国となり、その後他国にも同様の道を切り開くこととなった。この合法化はウルグアイにおいてどのように始まり進展し、採択後自国にどんな影響があったのかを、この記事で検証してみることとする。

カンナビス・サティバ(大麻草)(写真:Lode Van de Velde / PublicDomainPictures.net [CC0 1.0])
決定
ウルグアイは昔から麻薬の使用について他国ほど特に厳しくはない。文民・軍事独裁政権時代のウルグアイ(※2)では、麻薬密売は犯罪とみなされていながらも、個人的な使用であれば少量の不法薬物を所有することは犯罪とされなかった。このため、法の下、大麻使用者が少量を所有できる状況にはあったが、合法的に手に入れる方法はなかった。
状況が変わったのは、2012年ウルグアイ議会の与党、拡大戦線のホセ・ムヒカ大統領が、政府の直接管理のもと大麻草の自宅栽培のみならず、公に直接販売することを認める法律を承認する意向を発表した時である。当時の担当部署は、麻薬密売人からの収入を取り上げることとなる合法化はウルグアイの治安がよくなると主張していた。さらに、質が保証された大麻を国民が合法的に製造もしくは取得できるようになれば、安全面や健康面としてもよい効果が期待できるであろうと思われていたのである。そして、この法案のもと、二つの継続的矛盾に終止符をうてるだろうとその当時考えられた。第一に、販売は不法でありながらも、大麻の所有が合法であるという事実。第二に大麻より中毒性があり有害なアルコール、たばこが結局のところ合法である一方、大麻は違法であったという事実である。
この政策はウルグアイ内外からすぐさま批判を受けた。当初国民の過半数が法案に反対だった。健康上の問題(特に若者において)や、薬物使用による暴力と犯罪の増加の可能性についての懸念が生じた。また、オランダのように外国からの観光客が大麻使用のためにウルグアイを訪れることも憂慮された。国際的見地からもウルグアイは批判にさらされ、国際麻薬統制委員会(INCB)(※3)によると新法は国際条約に違反していると主張した。それにもかかわらず、ウルグアイは決定を妥当とし、この法案が政府の主要な義務である国民の人権保護に貢献すると反論した。
議論が続くなか、ウルグアイ政府は2013年12月についに大麻の使用を合法化する法律を承認した。この法律には3つの異なる方式で大麻草の栽培と使用の規制が検討された。使用の際は以下の方式のひとつのみが選択可能である:
1)販売: 月に40グラムまで個人で取得可能
2)大麻クラブ: 15-45人のグループで年間最大480グラムまで大麻草を栽培しそれぞれに配布することが可能。それ以上は担当局に提出。
3)大麻の自宅栽培: 個人で6つの雌株まで栽培可能。大麻クラブの場合、認められた年度につき480グラムまで個人が生産可能。
外国からの観光客が大麻使用のために訪れる懸念を払しょくする方法として、ウルグアイ国民のみが上記3つの方式のひとつに登録できるとした。つまり、外国人はウルグアイで合法的に大麻を取得できなかった。その他の制限、例えば大麻使用の影響での運転や職場での使用を禁じるなどについても規定した。さらに様々な方式や使用を規制し、政府内のさまざまな機関が連携を取れるため、大麻規制管理研究所(IRCCA)が設立され、消費者の登録手続きも行った。
運用
初期の議論や新法に一部の国民が反対であったにもかかわらず、国民の日常生活に実際の影響を与えなかったせいか、公に大きな問題とならなかったようだ。この法案を推し進めた政党、拡大戦線が次の2014年の総選挙で勝利したことでもこのことが確認でき、2013年以降この問題に関する公の関心は薄れていると調査でも示されている。

ホセ・ムヒカ元大統領(写真:Frente a Aratiri / Flickr [CC BY-SA 2.0])
技術的な問題の解決や官僚政治的側面に時間をかけて展開したため、法案の完全な運用には何年もかかった。政府は2014年に大麻クラブや大麻草の自宅栽培の登録を開始し新しい規制の運用を始めた。警察などにおいて新法の詳細に対する理解が不足していた部分もあり、雄株と雌株の違いから誤って拘束されるなど、さまざまな問題も起こった。しかし、そういった問題も次第に回数が減っていった。2020年2月現在、登録ユーザーは薬局の利用者40,563人、個人の自宅栽培8,141人、158の大麻クラブとその4,690人の会員がいる。
薬局を通して国民へ直接供給を実施するには時間を要した。大麻を製造し、最終消費者へ販売する薬局への流通を担当する二つの企業を、政府が選定することで、2015年にようやく実現した。その2つの企業とは国際大麻株式会社(ICC)とシンバイオシス だった。製造は2016年に開始したが、IRCCAが消費者の登録・検証方法をまだ精査中だったこと、またシンバイオシスが製造した最初の大麻の中に政府の技術要件を満たしていないものがあったことから、店頭での販売が遅れた。2017年7月、やっと登録ユーザーが薬局で大麻を合法的に購入できるようになった。
しかし、ひとにぎりの店舗を除いて、薬局では大麻関連製品を販売することはできないというさらなる困難に直面した。ウルグアイの薬局の多くはアメリカの銀行に依存、もしくはアメリカの銀行に依存するウルグアイの銀行に依存していた。これらのアメリカ企業側では大麻を含む薬物の商業化に関するあらゆる活動に関わることは 国の政策に反すると主張した。そこで大麻を販売する薬局は、現金主義の商売に変えるか、それとも店舗での大麻の販売をやめるかを選択するという立場に追いやられた。このことで製品を置くまたは地域での流通を担当する店舗数は次第に限られていった。2018年6月現在、ウルグアイの19県のうち11県に大麻を提供する薬局がなく、本稿執筆中の現在、店舗で大麻を提供するのは17店舗のみであり、政府は需要を満たすため調剤薬局を作ることを検討している。
同時に大麻販売の場所の数が少ないだけでなく、合法的製造が2社に限られているため、政府の要件を満たすという点から問題があった。そのため行程の遅れが生じ、需要を満たす供給が足りず、製品を購入しようとする顧客が列をなすという結果になった。需要に応えるため、2019年に政府は追加で3社を選定し医薬品流通のために嗜好用大麻の製造を認可した。

ウルグアイで販売されている大麻(5g)(写真:maurirope / Wikimedia [CC BY-SA 4.0])
これまでの影響
大麻の合法化による影響を、犯罪、消費、経済、大麻観光の側面からとらえ考察する。
犯罪については、大麻は犯罪行為に結びつく多くの要因のひとつであるだけでなく、影響が必ずしも直接的ではないため、大麻の使用と犯罪傾向の直接の関係を認めるのは難しい。しかし、2016年と2017年に国全体の犯罪率が下がったことは注目された。法案によるよい影響の証拠として法案の賛成者たちはすぐさまこれを利用した。しかし、2018年と2019年には犯罪率が上がった。それに応じ、エドアルド・ボナミ内務大臣たちは、大麻合法化による犯罪資金の減少によりギャングやマフィアの暴力的対立が激化したことも一因と述べた。ウルグアイ大統領府ホアン・アンドレ・ロバロ事務総長は不法な収入の損失は1年半で1,000万米ドルにのぼると推測した。ウルグアイの薬物委員会の報告によると2014年大麻使用者の58%は不法に薬物を取得していたが、2018年にその数は18%に減少した。このことは大麻が闇から合法的な市場へ動いたということを示している。
大麻の合法化に関するもう一つの懸念は、若者における使用率がより高くなり、初めて使用する年齢が早まるのではないかということだった。しかし、中学生の薬物使用に関する第7回全国調査ではその大麻使用率について変動はなかった。さらに国民全体の薬物使用に関する第8回全国調査では、初めて大麻を使用した平均年齢は2011年の18歳ごろから2018年の20歳と上がっていた。この傾向は大麻よりも、個人の健康や社会への害が大きいとされているアルコールやたばことは対象的である。2018年現在、ウルグアイの中学生の72%が飲酒の経験があり、20%が大麻を使用したことがあるとされる。ウルグアイ人の飲酒開始平均年齢は16.8歳である。
経済的影響については、内需により闇市場から収入を国に移行できただけでなく、大麻の製造工程に関連した雇用も生み出した。さらに、多国籍企業がウルグアイ国民だけでなく、国外の医療用に使用するためウルグアイでの大麻栽培に興味を示している。そうなると雇用をもっと生みだすとも考えられ、ウルグアイの経済にとって更なる収入となる。
最後の側面として大麻観光を見てみよう。法案はウルグアイ国民向けに合法化したものであり、観光客は除外されていた。しかし、現行の法案で網羅されなかった方法で、合法的に製造された大麻が観光客に販売されるような新しいグレーエリアができあがったりもしている。大麻使用や商業化の規制に関する細かい規則がこれからも作られ、この状況を解決するため政府はさらなる手段を講じるだろう。

ウルグアイの国会議事堂(写真:Gabboe / Wikimedia [CC BY-SA 3.0])
総体的に考えると、ウルグアイの経験は国レベルでの大麻規制においては世界で初めての実験であり、継続的に規制を修正しながら時間をかけて運用した事例と言えるだろう。今のところ、社会全体に実害が増加したという証拠はみあたらない。消費者は製品をより安全に合法的に取得し、担当局が問題を回避するため厳重な警戒を行い、企業や政府は利益を得る。大麻の合法化が成功と呼べるかどうかは時間の経過と政府が今後どのように運用を調整していくかにかかっている。成功とされれば、世界の他の地域での同様の法案が推し進められるであろう。
※1 三省堂 『大辞林 第三版』によると、大麻とは「アサの葉や花穂を乾燥したもの。また、その樹脂。喫煙すると開放感などの精神作用を生ずる」。医薬、嗜好、信仰上の理由で利用されることがある。マリファナ、ハシシ、ハシッシュとも呼ばれている。
※2 「文民・軍事」とは国家のトップが文民の軍という意味であり、事実上権力をもたない。
※3 INCBは国連薬物条約の実施を監督する。 これらの条約により、大麻などの薬物は医療もしくは科学的目的にのみ製造、流通されると定める。
ライター:Elisabet Vergara Velasco
翻訳:Saya Miura
グラフィック:Saki Takeuchi
大麻の合法化イコール失敗というイメージだったため、ウルグアイの事例は意外だった。今後の動向に注目したいと思います。