私たちの生活は様々な天然資源と結びついて成り立っている。その中でも鉱物資源は幅広い分野で活用されている。1984年から2015年までのデータを見ると、世界の鉱物資源の採掘量の過半数は発展途上国もしくは後発発展途上国と呼ばれる地域に集中している。さらに、不安定、もしくは非常に不安定な政治基盤であるとされている国で過半数の鉱物資源が採掘されている一方で、近年ではこれらの地域での採掘量の割合が増加傾向にある。鉱物資源は発展途上国、後発発展途上国にとって貧困から抜け出すための収入をもたらす富となりうるが、鉱物資源を保有する発展途上国、後発発展途上国には現在でも日1.9ドル以下で暮らす絶対的貧困と呼ばれる状態の人々が暮らしている。豊富な資源の保有にもかかわらずこれらの国々やそこに暮らす人々が十分な利益を享受できていない背景にはどのような問題が隠されているのだろうか。

写真: Anna Vaczi / Shutterstock.com
鉱山使用税にまつわる問題
先に述べたように、鉱物資源開発が行われている国の多くは発展途上国、後発発展途上国である。これらの国では鉱山開発にかかる莫大な資金を調達することが難しいため、資金潤沢な外国企業を誘致する。外国企業は特定の地域で採掘する権利を得て、採掘された鉱物を商品として国外で販売することができる代わりに、場合によって鉱山使用税(ロイヤリティ)と呼ばれる税を鉱山保有国に支払う義務がある。鉱山使用税の税率は鉱山採掘からもたらされた収益率で決められることもあるが、多くの場合は採掘された鉱物の量や価値で決められている。
鉱山使用税の税率が上がれば政府が税収として得られる金額が増え、開発や社会保障の充実などに充てることができる。他方、企業にとってはより多くの税を払うこととなり、企業の利益は減少する。そのため鉱山使用税が極端に高く外国企業が利益を生み出せない状況になれば、企業はその国での鉱山採掘を行う動機が減ったり、より利益が得やすい国へ移ったりする。そうなると、たとえ鉱山があっても採掘を行うアクターがいなくなるため鉱山保有国の税収が減ることとなる。しかし、鉱山使用税の税率は外国企業が支払うその他様々な税との兼ね合いで決められるため、一概に適正な税率というものを決めにくい。現状では発展途上国が外国企業の参入なしには鉱山開発を行えないことを逆手にとって、たとえ現状の鉱山使用税の税率が適正もしくは極端に低くても、企業側から鉱山保有国へ鉱山使用税の引き下げや、引き上げ反対への圧力がかけられているケースも少なくない。
例えば銅の生産国で知られるアフリカのザンビア共和国では、2010年と2011年の銅の総生産額がそれぞれ57億米ドル、72億米ドルであったにもかかわらず、企業の銅生産に関わる税の支払いは総額でそれぞれ7.8億米ドル、15億米ドルにとどまった。その後、ザンビア政府は銅山使用税を20%に引き上げる法案を提出したが企業側の反対や大統領の交代などの理由から、銅鉱山使用税は露天採掘の場合で9%、坑内採掘の場合で6%に固定されることとなった。つまり鉱山使用税だけに限れば、採掘された銅の価値のうち9割以上が外資系企業の手に渡っているとも言える。

ザンビアの銅鉱山 写真: Virgil Hawkins
合法、非合法な方法で行われる節税・脱税の問題
外国企業がある国で鉱山開発をする場合に支払わなければいけない税には、鉱山使用税の他にも法人税や、商品の輸出入に関わる税金などがある。しかし、これらの税に関して大幅な減税が行われ、鉱山保有国が自国に存在する鉱物資源から十分に利益を享受できない場合がある。
例えばアフリカのニジェール共和国でウラン採掘を行っているフランスのアレバ社(Areva)は同国とのとりかわしにより、関税、VAT(付加価値税)、鉱山採掘に用いられる燃料に対する税金が免除され、加えてアレバ社のニジェール共和国での全体収益のうち20%は法人税の税率換算の際に考慮しないと決められている。2013年に行われたアレバ社とニジェールの交渉により、新たな契約では鉱山使用税の引き上げなど部分的な改善が見られたものの、未だ問題は多い。近年、アレバ社はウラン採鉱による収入を低く見積もるために、ニジェールとの再交渉でウランの価格引き下げを行なった。その結果、2014年と2015年のアレバ社のニジェールでのウラン生産量はほとんど変わらないにもかかわらず、2015年にアレバ社がニジェールに対して支払った鉱山使用税は2014年と比較して1500万ユーロ(日本円に換算しておよそ20億円)少なかった。
上記のような合法な方法を用いた“節税”だけでなく、税金逃避国(タックスヘイブン)などを用いた租税回避、収益を少なく見積もる脱税のケースも少なくない。これらのケースでは、鉱物資源採掘を行なった外国企業は採掘された鉱物資源を国外の顧客に売る前に、税率が低いタックスヘイブンに構える関連企業へ市場相場よりはるかに安い価格で販売する。そこから顧客へと商品を転売することで、商品の収益を少なく見積もることができ、企業は収益にかかる税金や関税などの義務から巧妙に逃れている。GNVでは過去に租税回避に関する問題を詳しく取り上げている。また、関連してボリビアでのケースについても取り上げている。
なぜ鉱山保有国が外国企業との間で不利な条件の取り決めをかわしてしまうのか。それには鉱山保有国の多くが発展途上国、後発発展途上国であるということが深く関係している。発展途上国では自国の資源を開発するにあたり、経験豊富な外国企業を参入させたい。契約交渉において外国企業は、鉱山保有国よりも開発資金をはるかに豊富に持っており、鉱山開発に関する知識も豊富であるばかりでなく、潤沢な資金を用いて優れた交渉術を持った弁護士を複数用いて有利に交渉を進めることができる。その結果発展途上国の多くは交渉において、外国企業が有利になるような条件を飲まざるを得ない状況にある。
タックスヘイブンを用いた脱税を防げない理由として、国際的な条約や法整備が進んでいないことが原因として挙げられる。2015年に開催された国連開発資金国際会議では発展途上国が提案した税金問題に関する国際機関の設立が先進国によって阻まれただけでなく、今ある国連の税に関する専門家委員会の強化を求める声すら退けられた。

第3回国連開発資金国際会議(FfD3) 写真: UNECA (CC BY-ND 2.0)
上記のような租税回避行動、極端な免税を可能にする背景には、外国企業と鉱山保有国で契約が取り交わされる際の透明性の問題があることがわかっている。例えば、ミャンマーでは石油、ガス、鉱物などの開発に対する秘密主義と汚職が市民の利益享受を阻んできた。ミャンマー政府は天然資源採掘に関わるアクター間の利害衝突を避けるために、長い間天然資源採掘を行なっている企業の詳細な情報を公開してこなかった。これらの情報が隠されることで、企業の不法行為や汚職政治家との癒着などがわかりにくくなり、天然資源採掘で得られた利益がどのような契約に基づき、どのように企業と国の間で配分されたのかなどを隠すことが可能になる。この状況を改善するために、ミャンマー政府は天然資源採掘を行う企業と政府の間の透明性を向上させることを約束している。
これはミャンマーだけの動きではない。採取産業透明性イニシアティブ(EITI:The Extractive Industries Transparency Initiative)という、資源採掘産業における、企業の活動から資源保有国への資金の流れなどに対する透明性と、説明責任の向上のための多国間協力の枠組みが設けられている。ここには先に述べた、ザンビア、ニジェール、ミャンマーを含めた52カ国が加盟している。アフガニスタンなどではEITIの基準に法り採掘産業やそれに関わる企業に関する調査報告をまとめるなどの成果が出始めている。
利益が社会に還元されにくい
鉱物資源採掘は様々な経済効果をもたらし周辺住民にその利益を還元することが期待されている。例えば、鉱物資源採掘企業が支払う税金や、インフラストラクチャーなどの生活の基盤作り、雇用の創出などがその一例として挙げられる。しかしながら、鉱物資源開発はその性質上、裕福なものがより裕福になることで、経済が活性化され貧困層へも富が配分されるという、いわゆるトリクルダウン方式の社会への利益の還元が他の産業ほど期待できない。鉱山は周辺のコミュニティから孤立した場所にあることが多く、鉱山内には生活に必要な施設などが揃っている。よって鉱山で働く労働者は鉱山外に出て消費をする必要があまりない。さらに、鉱山開発の機械化や使用される特殊な重機がほとんどの場合輸入されることなども雇用や産業を産み出しにくい原因となっている。このような特性を踏まえ、利益の再分配や鉱山開発によってもたらされた住民や環境への影響に対する保証も、鉱山開発企業に求められる責任となる。
鉱山保有国政府関係者による汚職も発展途上国が鉱物資源開発から十分に利益を受け、その恩恵を市民に還元することを阻んでいる。特定の政治家が賄賂を受け取ったりするなどの癒着の問題は、鉱山開発企業の入札の際や契約交渉の段階、再交渉など複数の場面で起こっている。

ボリビアの鉱山 写真: Rafal Cichawa / Shutterstock.com
環境破壊などによる地元住民への影響の問題
これまでに見てきたような、鉱山保有国と外国企業との関係性だけが経済発展を阻む要因ではない。鉱山採掘に伴う環境破壊や、利益をめぐる紛争も鉱山保有国にとっては大きな問題となっている。コンゴ民主共和国では銅とコバルトの採掘による環境汚染が問題となっている。汚染物質はコンゴ川の流れに乗って広がり、コンゴ国内の各地で呼吸器疾患や先天性の身体欠損などの影響を及ぼしている。パプアニューギニアの銅鉱山で活動をしていたリオ・ティント社(Rio Tinto)は紛争などの影響から四半世紀あまりの間、採掘活動を行っていなかったが2016年に採掘途中の鉱山を残したまま撤退を決定した。跡地には鉱山採掘による影響で酸が河川に流出しており、生活の基盤として河川を利用している現地住民たちは移動を余儀なくされている。
発展途上国の多くは環境法などの整備が十分に整っておらず、外国企業にとっては守らなければならない規制が少ないため活動がしやすい。これらの鉱山開発に伴う悪徳な活動が、本来利益を享受できるはずの発展途上国の市民から利益を奪うだけでなく、健康被害などを引き起こしている。
鉱物資源を持つ発展途上国、後発発展途上国は豊かになれる可能性を秘めつつも、外国企業との関係の中でその機会を失ってきた。その自覚の有無は別として、日々鉱物資源の恩恵を受けて暮らしている人々にとってこの問題は無関係なものではない。同じ地球に暮らす市民として、私たちはこの問題にどのように向き合っていくべきだろうか。

アマゾン熱帯雨林を通る石油のパイプライン 写真: Dr Morley Read / Shutterstock.com
ライター: Azusa Iwane