ヨーロッパというと何を思い浮かべるだろう。おいしい食べ物、人気の旅行先といったイメージが強いだろうか。しかしニュースとしてヨーロッパを見るとどうだろう。政治問題や経済問題、最近ではイギリスのEU(欧州連合)離脱やユーロ危機、難民問題や様々なテロ、また軍事関連のニュースもよく目にし、ロシアとヨーロッパの対立のようなネガティブなイメージも多いかもしれない。
このようなヨーロッパのイメージは、普段我々が見る報道から影響を受けていることも多いだろう。日本における国際報道を地域ごとで見ると、アジアや北米、ヨーロッパに比べてアフリカや中南米は大陸全体の報道量が少ないといった格差がある。このように世界全体で見ると比較的報道されているヨーロッパだが、どういった国々がどのように報道されているのだろうか?
報道されるヨーロッパ
今回、日本の大手新聞によるヨーロッパに対する3年間の報道を調査してみた(※1)。下図は、2015年から2017年の3年間の朝日新聞・読売新聞・毎日新聞の国際報道(文字数)の合計(※3)を地域別に表したものである(※2)。3年間でヨーロッパは全体の報道量の約21%であり、常に地域別上位3位に入るぐらいには報道されている。世界的にみてもメディアに注目されている地域だといってよいだろう。
次に、この3年間のヨーロッパ各国の報道量ランキングを見てみよう。同じ期間のヨーロッパ各国の報道量のランキング(文字数)を示したものである。ヨーロッパの54の国や地域の内、上位4か国で全体の70%以上、さらに上位10か国では全体の90%以上を占めている。そのうちロシア・フランス・イギリス・ドイツの上位4か国で人口・GDP(国内総生産)共に全体の約半分を占める(上位10か国だと人口74%、GDP76%)。
1位のロシアは3年間常に上位に入っており、日本を含める周辺国との対外関係や軍事行動を中心に様々な報道がなされている。3年間のロシアの報道の中で約23%が日本がらみの内容であり、そのうち領土問題に関するものが30%以上を占めている。ロシアの報道の関連国として日本のほかにはアメリカが多く見られる。特に2017年にトランプが就任して以降は米大統領選のロシア介入疑惑が目立って報道されている。その他にはシリア紛争やウクライナ問題、対トルコ政策など軍事関連のニュースが慢性的に多く報道されている。また、2017年に北朝鮮のミサイル問題が始まってからは北朝鮮の制裁など北朝鮮に対する軍事政策の報道も多い。
2位のフランスは、EUを中心とする周辺国との政治問題や国内選挙、国際サミット等の政治関連や経済情勢など慢性的に報道されているが、2015・2016年のテロによってその報道量が大きく伸びている。フランスにおけるテロに関する報道は全体の約3割にも上り、複数の場所で複数に渡ってテロが起こっていることもその原因だろうが、テロの後も2017年の9月までほぼ毎月途切れることなくテロやその後の様子に関する報道が続いている。

イギリス・マンチェスターでのEU離脱の抗議デモ (写真:Ilovetheeu /Wikimedia commons[CC BY-SA 4.0])
3位のイギリスはEU離脱に関するものがその報道の大半を占めているものの、政治・経済・文化に関する報道が慢性的になされている。特に2016年6月のEU離脱を問う国民投票以降は全体の約30%と大半がEU離脱とその影響を受ける政治・経済問題に関する報道である。その他にも2017年のロンドンでのテロ、また王室に関するニュースも多く見られる。
4位のドイツも近年は難民問題に関する報道が目につくものの、選挙や対外政策など政治の動向が慢性的に報道されている。難民問題の報道は約10%、その他にもフォルクスワーゲンの不正、旅客機墜落事故、2016年12月のベルリンでのテロ、2017年の総選挙などその時々で目につくものは多いが、全体的にまんべんなく報道がなされているといった印象を受ける。
5位以降の報道内容も見ていこう。5位のギリシャは経済危機やその改革・支援、7位のウクライナはその紛争と対ロシア情勢、8位のスペインはカタルーニャ問題、9位のベルギーはパリの同時多発テロ関連や2016年のベルギーでのテロ、10位のオランダは2017年の総選挙関連がその報道の多くを占めている。6位のイタリアは比較的広く報道されているが、ローマ法王の動向やイタリアサミット、2016年の地震が目立ってみられる。また、11位以下の中位層は、オーストリアやスイス、ハンガリーやポーランドなどの国々も入っている。
報道されないヨーロッパ
ここからは報道されていないヨーロッパの国々を見ていきたい。同時期において、ヨーロッパ諸国の中で約8割の国の報道量がヨーロッパ全体のそれの1%を切っており、アンドラやサンマリノ、リヒテンシュタインなど3年間で1度も報道されていない国もある。これらの国はあまり重要ではない国と言ってよいのだろうか。
ヨーロッパに位置する旧ソ連構成国であるエストニア、ラトビア、リトアニア、ウクライナ、ベラルーシ、モルドバの6か国を例に見てみよう。これらの中で紛争を抱えているウクライナについては比較的報道されているが、3年間のこれら6か国の報道量(文字数)は、合計でヨーロッパ全体のたったの3%である。ウクライナを除く5か国に至ってはその合計でヨーロッパ全体のたった0.2%である。また、旧ソ連国の最大国であるロシアと比べると、人口は6か国合計でロシアの43%あるのに対し、報道量はロシアに関する報道の17%に満たない。

NATO副事務総長リトアニア訪問 (写真:NATO North Atlantic Treaty Organization /Flickr [CC BY-NC-ND 2.0] )
ウクライナを除く上記の旧ソ連構成国5か国の中で1番の小国、GDPが最も小さいモルドバはその報道量がヨーロッパ全体の0.03%である。全部で11件の報道記事の内その約半分がロシアがらみの内容だ。5か国の中で報道量が最多なのがベラルーシ、反対に最も報道量が少ない国がラトビアとなっており、ラトビアに関する記事はバルト3国全体に関するものを除き3件しかない。バルト3国についてはNATO(北大西洋条約機構)関連のニュースが多く報道されている。
他の例を挙げて見てみよう。福祉や教育制度が有名で、国連が発表する幸福度ランキング、先進国指数(IDI)ランキングでも例年上位に入り、日本からの旅行先としても人気の高い北欧。世界有数の先進国でもありそれなりに報道量も多いのかと思いきやそうではない。北欧5か国(デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、アイスランド)の3年間の合計報道量は、ヨーロッパ全体の2%に満たない。

マケドニアの国境で立ち往生する難民 (写真:Steve Evans /Flickr [CC BY-NC 2.0] )
バルカン半島はどうだろうか。ギリシャ、アルバニア、ブルガリア、マケドニア、セルビア、モンテネグロ、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボの9か国の内ギリシャはヨーロッパ全体の約6%の報道量があり、全体の5位にランクインしている。しかしその他の8か国はいずれもヨーロッパ全体の0.2%で、合計しても全体の1%に満たない。その内容は、例えば、モンテネグロは全部で8件の報道があるがその半分はNATOに加盟したというものである。また8か国の中で最も報道量の少ないのはアルバニアで、2015年日本に大使館が新設されたという日本がらみの記事1件のみだ。反対に最も報道量が多いのはマケドニアであったが、その約半分が難民や銃撃事件等のネガティブなニュースである。
報道される国とされない国
このように報道される国とされない国にはどのような違いがあるのだろうか。一つは上にも挙げたように新聞社の支局が置かれているかどうかが影響していると考えられる。上位4か国はいずれも、3社全ての新聞社の総局もしくは支局が置かれており、置かれていないところと比べて取材・報道がしやすいと思われる。3位のイギリスにおいてはその首都ロンドンに新聞社3社ともヨーロッパ総局を置いており、ヨーロッパ報道の中心となっている。報道の反対に北欧及び中欧、東欧には支局がなく、それが報道量の少なさに影響を与えていると考えられるだろう。
また、GDPの大きさや人口の多さもその国が重視される要因の一つだと考えられる。実際にロシアはヨーロッパで最も人口の多い大国であり、続くフランス・イギリス・ドイツはヨーロッパのGDP上位3か国に位置している。ドイツはヨーロッパの中で最もGDPが高く、日本との貿易量も多く政治的関わりも強いといったことが影響していると考えられる。GDPの大きい国はよく発展しており世界的に大きな影響力を持つ「重要な」国と考えられるのだろうか。そして人口の多い国は豊富な労働経済力を持つ「大きな」国とみなされるのだろうか。しかし、例に挙げた旧ソ連6か国はロシアと比べ、人口が43%なのに対し報道量はたったの17%である。しかしながら中には例外もある。今回5位のギリシャは、ヨーロッパの中ではGDPも人口も決して多いわけではないが、報道量は非常に多かった。これは、ヨーロッパ全体に影響を与えうる問題として2016年の経済危機が大きく取り上げられているからだ。このようにGDPや人口が多くなくても、世界的ビッグニュースが起これば報道量が大きく伸びる場合もある。

ギリシャ危機の際の暴動 (写真:Insociableblog /Flickr [CC BY-NC-SA 2.0] )
さらに、物理的に距離の近い国、また政治的・経済的に日本と関わりが強い国は日本での報道が多くなると考えられる。普段から日本と継続的に濃い関係を続けている国に対して、日本に視点を置いたときその報道の重要性が高いと判断されてしまうのかもしれない。ロシアがそのいい例だろう。ロシアは日本の隣に位置し、北方領土問題など日本との強い政治的・経済的な関わりが続いている。4位のドイツも日本との貿易量が多く政治的関係も深く長いなどの理由からも毎年報道量が上位に入っていると考えられる。
ヨーロッパ報道はこのままでよいのだろうか。ヨーロッパとは、決してロシアやフランス、イギリス、ドイツといった大国だけのことではないのだ。小さな国であっても場合によってはヨーロッパに、世界に影響することがある。普段から報道のない国のことをきちんと理解することは出来ない。今後、ヨーロッパに対する包括的な理解を促すような、もっとバランスの取れたヨーロッパ報道がなされることを期待したい。

モルドバの自然 (写真:Aliona /Pixabay [CC0 1.0] )
ライター:Saeka Inaka
※1 各社のオンラインデータベースを参照した。国際報道記事の定義については「GNVデータ分析方法【PDF】」を参照。
※2 地域は、UNSD(United Nations Statistics Division、国連統計部)の基準に従い、アジア、アフリカ、オセアニア、ヨーロッパ、北米、中南米の6地域に分けた。
※3 文字数のカウント方法はGNV独自の基準による。
日頃からGNVを読んで、東アジアや欧米ばかり報道されていて、アフリカや中米の報道が極めて少ないことを学んでいましたが、ヨーロッパ内の報道のバランスについては考えていませんでした。けれども、今回の記事でヨーロッパの全ての国が報道されているとは決して限らず、ヨーロッパの中でも報道に偏りがみられることに気づかされました。大きな枠組みにとらわれず、個別に批判的に分析することが大切ですね。
2番目のグラフは、別なものと入れ替わっていませんか?
日本メディアの国際報道は、米国、中国、朝鮮半島でほぼ占められていて、テロや政変や災害でもない限り、あとの地域はおまけのような扱いです。
お返事が遅くなってすみません。2番目のグラフについてのご指摘ありがとうございます。その通りです。修正致しました。