これまでGNVはNews Viewで日本における国際報道を分析し、その傾向を見出してきた。2015年の日本における国際報道を分析した記事では、日本における国際報道の量が他のジャンルや諸外国に比べて少ないことや、日本との関わりが深い国が多く報道される一方で貧困国に関する報道が少ないといった報道の偏りが明らかになった。このような傾向は、ますますグローバル化が進みヒト・カネ・モノ・情報の移動が活発な国際情勢の中で、いったいどのような変化を見せるであろうか。今回は2016年の日本における国際報道を分析し、その傾向を調べることにした。
国際報道の割合(2016)
まず2016年における国際報道の割合を見てみよう。下図は朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の各新聞社の全記事数に対する国際報道の記事数の割合を示したものである(※1)。
結果は、朝日:11.7%、毎日:11.0%、読売:11.0%であり、3社とも国際報道の割合はほとんど同じである。これは2015年の数値(朝日:10.0%、毎日:9.3%、読売:8.9%)からやや増加していることが分かる。実際3社とも2016年において、国際報道の割合だけでなく国際報道の記事数自体も2015年より増加している。国際報道の増加は我々が世界の理解を深めるのに役立つため、これは重要なことだ。ここでこの数値を他の数値と比較してみよう。例えば娯楽の1つであるスポーツ記事を取り上げてみる。(過去の記事でも取り上げた。)2016年のスポーツ記事の割合は朝日:24.1%、毎日:23.7%、読売:19.5%、であり、国際報道の割合の2倍ほど、そして全記事数の約5分の1から約4分の1もあるのだ。そしてこのスポーツ記事の割合も2015年の数値とほぼ同じである。国際報道の割合が実際どれほどのものであるかお分かりいただけただろう。
地域別国際報道量(2016)
次に世界の地域別の国際報道量を見てみよう(※2)。ここでは2016年における朝日・毎日・読売の3社の国際報道量(文字数)を足し合わせ、地域別に国際報道の割合を調べた(※3)。下図がその結果である。
報道割合の多い順は、アジア、北米、ヨーロッパ、中南米、アフリカ、オセアニアであり、見ての通りアジアが46.5%と圧倒的な割合を占めている。続いて北アメリカ、ヨーロッパといった先進地域の割合が多い。なんとこのアジア・北米・ヨーロッパの3つの地域だけで全国際報道量の86.5%も占めている。それに対し中南米・アフリカ・オセアニアの報道量の合計はたったの6.4%(2015年も6.4%で同じ)である。2015年の数値を見てみると、割合の多い順にアジア:47.9%、ヨーロッパ:23.7%、北米:14.0%、アフリカ:3.4%、中南米:2.1%、オセアニア0.9%であり、2016年と2015年の地域別報道割合には違いが見られる。2016年の数値と2015年の数値を比べると、北米の報道割合が大きく増加した一方、ヨーロッパの割合がかなり減少して順位が入れ替わった。これと同様のことが中南米とアフリカに関しても言える。文字数でもう少し詳しく見てみると、北米の増加量は1.8倍、中南米の増加量は2倍もある。一方でヨーロッパは約20%、アフリカは約30%、オセアニアは約45%も報道量を減らした。ちなみにアジアの割合がやや減少しているが、実は文字数で見たアジアの報道量は2015年から約10%ほど増加している。
2016年の国際報道においてはアジア・北米・中南米の報道量が増加し、その他の地域は報道量が減ったが、これを国別で見ることで2015年と比較した報道量の増減がより詳しく分かる。そこで国別の報道量について見てみよう。
報道量上位10ヵ国(2016)
2016年の国際報道の中で、報道量の多かった上位10ヵ国を示したのが下図である。右端の数値は国際報道の中でも日本と関連のある報道の量を示したものである。
アメリカに関する報道の量が極めて多いことが見て取れる。2015年と比較してアメリカの報道量は約116万字も増加しており、2015年の倍近くにのぼる。その他を見てみると、アメリカに続くのは中国、韓国、北朝鮮と東アジア諸国だ。そして2015年に10位であったイギリスが5位に順位を上げている。また北朝鮮・トルコ・台湾以外の7ヵ国は、2015年にもトップ10入りを果たしている。
さて2016年はどのような出来事が注目されただろうか。アメリカでは波乱万丈な大統領選に多大な関心が寄せられた。なんとアメリカ関連の報道に関し、朝日・毎日・読売の3社の記事の見出しに「大統領選」の文字が含まれる記事だけでも、総文字数は約80万字もあり、アメリカ関連の報道量の約30%を占める。また2015年におけるアメリカの報道量からの増加分の約70%に相当する。他の国に目を向けてみると、イギリスでは国民投票によるEU離脱決定に関し、大きな議論が巻き起こった。北朝鮮は初の水爆実験を発表したり弾道ミサイルなどを多数発射したことで国際社会から非難を浴びるとともに、制裁強化など各国の北朝鮮への姿勢が注目された。トルコではテロのほか軍による大規模なクーデター未遂が注目の的となり、多数報道された。台湾では総統選が行われ、民進党の蔡英文氏が総統に就任し、政権交代や女性初の総統就任が大きな話題となった。
見ての通り上位10ヵ国に入っているのは、欧米の先進諸国や日本と地理的に近い東アジア諸国、他には諸勢力による凄惨な紛争が続く中東地域の国である。そしてこれら10ヵ国だけで、全体の約6割の報道量を占める。一方で中南米・アフリカ・オセアニアの国は上位10ヵ国の中に一つも含まれていない。これらの傾向は2015年とほとんど同じである。
では中南米・アフリカ・オセアニア国々の報道量はどれくらいであろうか。これらの地域の中で一番報道量の多い国はリオデジャネイロオリンピックが開かれたブラジルであり、全体での報道量の順位は11位であった。なんとブラジルの報道量は2015年と比較して約4.6倍になり、ブラジルだけで中南米の報道量の約40%を占めている。そして朝日・毎日・読売の3社の記事の見出しに「五輪」の文字が含まれる記事の報道量(文字数)は、ブラジル関連の報道の約40%にのぼる。またアフリカでは日本の陸上自衛隊が国連平和維持活動(PKO)を行っていた南スーダンが一番報道されており、アフリカの報道の約25%を占めた。しかし南スーダン自体についての報道ではなく、陸上自衛隊のPKOに関連した報道が多数を占めている。オセアニアではオーストラリアに関する報道が圧倒的に多く、オセアニアの報道量の約70%を占める。2016年に両院の同時総選挙が行われ、注目された。ここから分かる通り、これらの地域はただでさえ報道量が少ないにもかかわらず、注目を浴びる国がその地域の報道の圧倒的多数を占めていることだ。それぞれの地域には数十もの国が存在しているが、多くの国はほとんど報道されていないのだ。国際報道においてこれらの地域についての情報は少ないのだが、我々はこれらの地域に対して理解を深められているであろうか。
分析を終えて
2016年の国際報道の傾向は2015年と概ね同じであった。国際報道の量はやや増加したとはいえ、その増加の大部分は大統領選に伴うアメリカ関連の報道が占めていた。依然として国際報道の量は少なく、報道される国や地域が大きく偏っているという事実は何ら変わっていないのだ。確かに日本と関わりの深い国を多く取り上げたり、注目すべき出来事が起きた場合にその出来事を頻繁に取り上げるのは理解できる。しかし、ただでさえ国際報道の量は少なく、国や地域による報道量の偏りも大きいのに、さらにある特定の出来事を多く取り上げてしまうと、報道のバランスは崩壊する。特に2016年には選挙やオリンピックという格好の報道ネタがあり、この傾向を助長した。報道量が少ない上に報道が大きく偏ると、その情報の受け手が認識する「世界」も非常に狭く偏ったものになる恐れがある。言うまでもなくグローバル化が進む現代において世界に対する理解は不可欠であり、現状の偏った情報に基づいた我々の世界に対する理解は、真に理解と呼べるものではないだろう。果たして今後も日本における国際報道の傾向は変わらないままなのだろうか。今回の分析でこのような危機感がさらに強まった。日本における国際報道が客観的かつ包括的に世界を反映するよう変化することを期待し、今後も継続して分析していく。
※1 各社のオンラインデータベースを参照した。国際報道記事の定義については「GNVデータ分析方法【PDF】を参照。
※2 地域は、UNSD(United Nations Statistics Division、国連統計部)の基準に従い、アジア、アフリカ、オセアニア、ヨーロッパ、北米、中南米の6地域に分けた。
※3 文字数のカウント方法はGNV独自の基準による。
ライター:Taihei Toda
グラフィック:Taihei Toda