朝、食卓の上に食事とともに置かれた新聞。朝の出勤ラッシュの電車の中で新聞を折りながらニュースに目を通す人たち。そんな光景を見る機会が減る今、ニュースを読む媒体は新聞からスマートフォンに移り変わっている。「新聞通信調査会」がとったアンケートによると2018年、ニュースをスマホで読む人の割合が71.4%となり、新聞の68.5%を超えた。朝日新聞が紙とデジタルの「ハイブリッド型メディア」を謳うなど新聞各社がデジタル版を展開し始めていることからも情報を手に入れる媒体にスマホが台頭してきているのが分かる。スマホで情報を提供する会社は各報道機関のデータを収集して提供する「ニュースアグリゲーター」として人々に情報を発信する。各報道機関の情報をスマホで見ることができる利便性から情報提供メディアとしてのスマホは発展を遂げてきた。
そんな中、国内外でその勢力を拡大しているアプリがスマートニュースである。2012年発足ながら2018年に行われたアンケートによると主に利用されているポータル系ニュースアプリで3位(※1)、モバイルニュースの満足度で1位を獲得している。しかしこのようなニュースアプリを通じて入手する情報は従来型のメディアと比べてどう増えてきているのだろうか。例えば、グローバル化が進み、報道がデジタル化し、スマホから世界に関する情報は以前に比べて手に入れやすくなっているはずだが、国際報道はどう変わってきているのだろうか。スマートニュースは「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」というミッションを掲げ、アプリには「朝一分で世界のニュースをチェック」と謳われており、世界が強調されているが、実際はどんな国際報道を行っているのだろうか。この記事ではスマートニュースとその国際報道について取り上げていく。

スマホ向けアプリ スマートニュース (写真:Yoshinao Araki)
スマートニュースの基本情報
スマートニュースを配信しているスマートニュース株式会社は2012年6月に株式会社ゴクロとして発足し、2013年10月にスマートニュース株式会社となった。最初はツイッターをソフトが巡回し内容を収集して話題となっている情報をパーソナライズして届けることに特化したクロウズネストというサービスから始まり、それを2012年12月に大衆に向けて方向転換してできたのがスマートニュースなのである。スマートニュースは全国5紙(朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞、産経新聞)、地方13紙のニュースメディアと連携し、インターネット上で話題になったニュースを配信、アプリ上で読めるようになっているスマホ向けのアプリである。2014年10月にはアメリカにも進出し、2019年には日本とアメリカで合わせて4,000万ダウンロードを突破した。
スマートニュースでは、提供する記事を選ぶにあたって以下の手順を踏んでいる。まず、インターネット上で固有のURLについてユーザーがクリックして読む、ブックマークに登録するなどのアクションを起こしている情報を集める。次にそれらの情報が何語で書かれているかとどのジャンルの情報なのかを判別する。そして同じ情報のみが収集される重複を防ぎつつ、情報に多様性を出すために似たような情報を消していく。最後にスマートニュースで配信した時のユーザーの反応などによって注目度判定をする。この時のユーザーの反応とは情報をタップしただけなのか、それともじっくり読んだのかといった行動を集めて判断されている。このような自動化された手順(アルゴリズム)にのっとって表示されるニュースが選ばれ、その中からトップニュースとして約8件が表示され、国際、エンタメ、スポーツ等のジャンル別にも情報が選ばれ、タブといわれるタグのような場所にまとめられている。その他にもユーザーの閲覧履歴から「あなたへのおすすめ」がピックアップされる。

スマートニュースのホームページ (写真:Yoshinao Araki)
スマートニュースの特徴としてはまず「速さ」と「便利さ」があげられる。タッチパネルをタッチした時に次のページに移動する速さや、電波が届かない場所でも読めるのはとても便利だと評価されている。チャンネル機能もスマートニュースの特徴だ。好きなジャンル、好きなメディアを追加することでそのチャンネルのニュースに絞って見ることができる。最後にアメリカで人気急上昇の一因となった特徴が「フィルターバブル」への対策である。フィルターバブルとはインターネットで、利用者が好ましいと思う情報ばかりが選択的に提示されることにより、思想的に社会から孤立するさまを表す言葉でアメリカでは2016年の大統領選で大きな問題となった。この状況を打開するためにスマートニュースが取り入れたのがポリティカルバランジングアルゴリズムだ。このアルゴリズムによりあらかじめユーザーの特徴や思想に寄せた記事だけを選別することなく、複眼的に様々な思想からの政治ニュースを見ることができるのである。
スマートニュースと国際報道
では、世界を発信することをミッションに掲げるスマートニュースはどれだけ国際報道に力を入れているのだろうか。2019年1月から6月までのスマートニュースの記事の中で国際報道を中心に収集してみた(※2)。
その日に約8件選ばれるトップニュースの中の国際報道の割合は11.2%であり贔屓目に見ても多いとは言えない。大手三社(朝日、毎日、読売新聞2017年)の平均が11.6%であることと比べても新聞と同じ割合にとどまっている。また、トップニュースに表示される国際報道の記事によって報道されている国を地域別にまとめると、アジアが41.5%、北米が28.6%、ヨーロッパが20.0%と私たちが新聞やテレビでよく目にする中国、朝鮮半島、アメリカ、西ヨーロッパが属する地域の報道量が多い一方で南米が3.8%、オセアニアが3.0%、アフリカが1.5%と新聞やテレビであまり目にしない地域の報道量は極端に少ない。新聞やテレビで見られる国際報道の偏りがスマートニュースにもみられると言える。
では国際にだけジャンルを絞ってニュースを並べている国際タブに限定してみたらどうだろう。
国際のジャンルに興味を持つ人が集まる国際タブのなかでも地域別の割合はアフリカや中南米、オセアニアをすべて合わせても8.5%とスマートニュースのトップニュースや新聞の国際面のような大きな偏りがある。また、アメリカ、中国、イギリス、ロシア、フランスの報道量上位5か国で全報道の46.9%を占めていることからも極端な偏りがあると言える。国際のジャンルに興味を持つ人の中にはほかのメディアが取り上げていない国のニュースを知りたい人も一定数いるだろうが、そのような国を取り上げている記事は少ない。これでは世界の一部を断片的にしか知ることができず、世界全体を包括的に見ることができない。「世界」を伝えるとミッションに掲げているのにもかかわらず、この状況になってしまっているのはなぜなのだろうか。
国際報道の偏りの原因と解決への可能性
スマートニュースは「世界中の良質な情報を必要な人に送り続ける」をミッションに掲げているが、国際報道の絶対量は少なく、その少ない情報量の中でも地域の大きな偏りが見受けられ、世界中のニュースを人々に届けられているとは言い難い。その原因としてまず、挙げられるのがスマートニュースに取材能力がないことである。スマートニュースはアグリゲーターの一つであり、既存の情報を収集するだけであるため既存のメディアの偏りをそのまま反映してしまうのである。
次に大きな原因として考えられるのが記事収集のアルゴリズムにある。先にも述べた情報収集の手順の中に注目度判定がある。人々がどんな情報を欲したのか、どんな情報を熱心に読んだのかなどをもとに情報を取捨選択する注目度判定だが、注目度を判定基準にすると、「おもしろそう」なものなどと、若干センセーショナリズムな内容の記事が優先され、世界をまんべんなく伝えることが難しくなってしまう。また、これまでの従来型のメディアで報道されなかった地域の国際報道は人々の関心が薄いと判断されるため、注目度的に、国際報道もその中での多くの地域が選出されない状況が生まれるのである。もう一つ、言語判定も国際報道の地域の偏りを生む原因として考えられる。言語判定は記事が書かれている言語を判別するものだが、今日本版のスマートニュースに載っているのが日本語の記事である以上、日本で必要としている記事は日本語で書かれていると判断されていると考えられる。つまり日本語以外の記事ははじかれている。そうすると国際報道が少なく、報道される地域の偏りがあるところから記事を選定してしまう。
では、この現状を改善することはできないのだろうか。確かにスマートニュースの元となっているニュースの材料とアルゴリズムが今のままでは国際報道の乏しさと偏りをなくすことは難しいかもしれないが、スマートニュースはこの国際報道をより豊かに変える可能性を秘めている。この記事では2つの可能性について紹介する。
1つ目はアルゴリズムに工夫を加えることである。スマートニュースの特徴としてポリティカルバランシングアルゴリズムを挙げたが、政治的な思想の偏りを取り除くアルゴリズムが採用されているなら、国際報道に関する偏りをなくすためのアルゴリズムを導入することも可能ではないのだろうか。「世界」を発信するとアピールするのであれば、注目度ばかりで判定するのではなくより世界を多く知ってもらうためにバランスよく報道することが大事であろう。
2つ目はスマートニュースの展開力である。スマートニュースは現在150か国にサービスを提供している。つまり各国で配信されたニュースを集めているのである。日本以外から発信されたニュースの一部でも日本語でも読めるようにすれば、様々な国のニュースを読むことができるようになるだろう。ただしこれには各国の言語を日本語に翻訳する必要があるため今の状況では膨大な費用がかかるという難点がある。だが、徐々に導入すればスマホアプリは新聞とは比べ物にならないレベルの広さの情報をカバーできる。スマートニュースが世界中のニュースを届ける日を楽しみにしたい。
※1 第1位は「Yahoo!Japan/Yahoo!ニュース」、第2位は「グノシー」。
※2 1日に1度集計。トップニュースまでのニュースを収集。国際タブに関しては上から5件を収集。国際報道かどうか、どの国、地域の報道かを記録。米中関係など2か国が同時に表示されているときは0.5として記録。
ライター:Yoshinao Araki
グラフィック:Yoshinao Araki
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国際報道の少なさに驚きました。インターネットにしか出来ない工夫を期待したいですね。
どこでもいつでも見れるスマホでの国際ニュースの割合が、新聞より少ない事に驚きました。報道が、より身近に簡単に見られる方法が進んでいる現代ほど、グローバルな世界に自分がいる事を実感できたらと思います。GNVのような質の高いニュースを望みます。