2021年10月31日、スコットランドで国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開幕した。COP26における主な争点は、気温上昇を産業革命時と比較して1.5℃以内に抑えるという目標を達成するための政策や気候変動対策のための資金支出などである。しかし、このうちの気温上昇の抑制目標を達成するためには2030年までに排出量を55%削減する必要がある。すべての主要排出国における排出量削減のための政策が実施されれば目標に近づくが、達成には至らず気温上昇の抑制は難しい状況だと言えるだろう。
こうした気候変動の深刻度に見合った報道をメディアが出来ていないことを危惧し、こうした状況を改善しようと「気候報道を今(Covering Climate Now)」という国際運動が行われている。これは気候変動に関する報道量を増やし、その質の改善を目指そうとする運動であり、世界各地からパートナー機関として460以上の報道機関が参加している。GNVもこの運動に参加しており、気候報道について積極的に発信をしている。
GNVはこれまでも何度か気候報道についての分析を行ってきたが、今回の記事では気候報道の量をふまえた上で、どの地域、またどんなテーマが注目されているかを探っていく。

COP26で演説をする国連事務総長アントニオ・グテーレス氏(写真:COP26 / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
2018年から2020年にかけて起こった気候変動に関連する出来事
今回の報道調査は、毎日新聞の報道を対象に行った。期間は2018年から2020年の3年間だ。そこでまずこの期間中に起こった気候変動に関する重要な出来事について少し振り返ってみよう。気候変動の進行状況や、気候変動によって引き起こされた被害、またそれに対する対策と、気候変動に対する市民の動きに関して以下で振り返っていく。
まず気候変動の進行について、この現象の原因の一つである二酸化炭素の排出量が増え続けており、2020年には地球の気温は観測史上2番目の暖かさを記録した。2019年の気温も史上3番目の暖かさとなっている。また世界の平均水位も最高記録を更新し、年々海面が上昇し続けている。
次に気候変動による大きな被害について、期間中に世界各地でその規模が気候変動と関連付けられる災害が発生し被害を及ぼしている。2019年には特に北極圏やその周辺で火災の数が劇的に増加した。また東アフリカ地域における大雨と洪水やフィリピン・ベトナムを襲った台風、インドとバングラデシュに上陸した大規模なサイクロン も大きな被害を及ぼした。さらにグリーンランドにおける記録的な氷の融解など、気候変動による被害は多くの地域で報告されている。

2020年5月ウガンダで起きた洪水の様子(写真:Climate Centre / Flickr [CC BY-NC 2.0])
こうした気候変動への対策の一つとして、COP会議を挙げることが出来る。2019年に開催されたCOP25では、温室効果ガスの排出量削減のための項目について合意が出来ず、2030年までの目標見直しも延期となった。またCOPの他に2019年に国連によって気候行動サミットが開催され、気候変動対策について話し合われた。サミットでは、参加した国によって気候変動対策の必要性の再確認や温室効果ガス排出量正味ゼロの実現の約束などが行われた。
気候変動に関連する市民運動の活発化も見られた。2019年9月に気候変動に対する抗議としては史上最大のデモが発生した。このデモは世界各地で連携して同時に行われ、計400万人が参加したと推定されている。このデモ活動を企画した複数の団体の中で「未来のための金曜日」という団体が特に目立っていた。これは若者を中心に気候変動対策を求めて各地で活動を行う組織で、スウェーデンの活動家であるグレタ・トゥーンベリ氏が毎週金曜にストライキを行う活動を始めたことが、このスローガンの由来となっている。
以上、気候変動に関する出来事を簡単に振り返ってみたが、これらの出来事をメディアはどれだけ報道できているのだろうか。
気候報道の実態
今回は、毎日新聞を対象に2018年から2020年の間にかけて気候変動に関するワードを見出しに含む報道の量を調査した(※1)。期間中に報道された該当記事は計315件で、これは平均して月にわずか約9件しか報道されていないことを意味する。また、期間によって報道量に大きな差があることがわかった。
3年間の記事数は、2018年が96件、2019年が154件、2020年が65件で、2019年の報道量が2020年に比べて約2.5倍の量であった。月別の記事数を見てみると、数が多い2018年12月と2019年12月はどちらもCOPが開催されていた時期で、内容もCOPに関する記事が多かった。また、2019年の報道量の多さの要因の一つとして、気候変動対策を訴える活動家であるトゥーンベリ氏の影響が挙げられる。彼女が2019年の国連の気候行動サミットで行ったスピーチは世界的に話題となり、日本の報道機関でも多く取り上げられた。2019年中に彼女に関する記事は計18件あった。対して2020年の報道量が少ないのは、新型コロナウイルスの報道が大きく増加したことでその他の話題についての報道が激減したことが主な原因であると考えられる。
次に報道の対象を国内外に分け、まず国内に関する報道量がどれほどの割合を占めているかをみてみる。日本における新聞やテレビを含む全報道のうち約9割は国内報道であることがわかっている。しかし、気候変動は日本にとどまらない国境を越えたグローバルな問題である。日本のメディアはこのグローバルな問題を、世界的な視野で捉えられているのだろうか。調査の結果、日本が関連している記事の数は計119件で、これは全体の約38%であった。世界的な視野で捉えられているものもあるが、やはり日本との関連の話題が多くの割合を占めている。
気候変動に関する国内報道でどのようなことが報じられているのか、記事の内容(※2)をみてみると、気候変動の対策に関する記事が51.9件、影響が39.3件、会議が10.1件、活動が5.6件となった。対策については、気候変動対策に関する法案についての記事が多かった。また台風や大雨への対策も報道されていた。日本の二酸化炭素排出量は世界で5番目に多い。しかし、日本の二酸化炭素排出量を減らす対策に関する記事は3年間を通じてわずか7件だった。影響に関する記事については、日本に上陸した台風や降雨量を気候変動の影響として報道している記事が多かった。会議に関する記事の大部分はCOPにおける日本の立場や言動についての記事だったが、国内における政府の会議についての記事もいくつか存在した。また、活動についての記事の多くは気候変動対策を求めた国内におけるデモ活動に関するものだった。
気候問題に関する国際報道
では次に、気候報道の約62%に当たる国際報道についてみてみよう。日本を除くと最も多かったのが世界全体に関する記事で57.5件となった。並んで国際機関についての記事も多く55.2件という結果だった。これらは、気候変動が国境を越えたグローバルな問題であることを示していると言える。世界全体に関する記事の多くは排出量や気温上昇、湿地の消失などを世界的な問題として取り上げている記事だった。また国際機関に関しては、COPなどの気候変動対策に関連する会議で国際機関が登場するためだと考えられる。
世界の各地域に関する報道量を見てみると、北米が31.2件、ヨーロッパが26.5件、アジアが7.6件、中南米が6.8件、オセアニアが3.0件、中東が1.0件、そしてアフリカが0.7件という結果となった。北米は1件を除いてその他はアメリカであり、ヨーロッパの報道地域は比較的ばらつきがあった。ヨーロッパ地域で最も報道量が多かったのはイギリスだが、記事数は5.1件で、その他の国も突出して報道量が多い国はなかった。驚くべきは、北米とヨーロッパ以外の地域に関する報道量が軒並み少なかったことだろう。特に、日本と地理的に距離が近いにも関わらずアジアの報道量はわずか7.6件しかなかった。アジアの中で報道が多かったのは中国で報道量は3.2件だった。国際報道全体で見るとアジアに関する記事は4割程度あるのに対して、気候報道における割合は非常に低いという事実は注目すべき点だ。また中南米においてはブラジルの記事数が中南米の約半分を占めていた。アフリカに関する記事は3年間でたった2つの記事しか存在しなかった。
また、気候変動の原因となる二酸化炭素等を主に排出している高所得国とその影響を大きく受ける低所得国(※3)とに分けて見てみると、北米・ヨーロッパなどの高所得国に関する記事数は62.9件あるのに対して、アフリカなど低所得国に関する記事数は9.5件でその割合は全気候報道のうち5%にも満たなかった。これは国際報道全体の傾向とも共通する部分があり、気候報道だけでなく国際報道全体として抱える課題とも言えるだろう。
次に報道内容に目を向けてみよう。気候報道のうち全国際報道の内容は、会議に関する記事が55.9件、対策が52.1件、影響が27.2件、活動が21.4件だった。国際会議に関する記事が多かったのが大きな特徴と言える。中でもCOPに関する記事が大部分を占めており、その中で気候変動対策について言及している記事も多かった。また世界全体としての対策や数値目標に関する記事が多く、各国の具体的な対策に焦点を当てた記事は少なかった。活動は、トゥーンベリ氏の影響によるデモ活動に関する記事が中心で、デモやその他の組織化された大規模な運動を報道しているというよりも、トゥーンベリ氏という個人に焦点を当てた記事が多かった。

イギリスのラットクリフにある発電所の様子(写真:MaltaGC / Wikimedia [CC BY-SA 4.0])
また二酸化炭素等の排出量に関して、排出量の割合が大きい国を取り上げて具体的な排出量削減必要量について言及した記事はほとんどなかった。二酸化炭素の排出量に関しては、中国やインドなどアジア地域が大きな割合を占めているのにもかかわらず、排出量を問題視するような記事は無かった。また世界で2番目に排出量が多い米国に関する報道内容は、選挙の争点として気候変動が取り上げられていたり企業が取り組んでいる対策を取り上げていたりしている記事が多く、ここでも排出量を問題視する内容の記事はほとんどなかった。加えて、2019年の国連気候行動サミットにおける国連事務総長による排出量削減の呼びかけも言及した記事は無かった。
対して気候変動の被害を受ける低所得国に関する記事の内容は、ブラジルの森林破壊に関する記事が数件あったが、それ以外に具体的な被害に触れた記事はあまり見られず、国際会議などで対策を求めるような内容の記事が主だった。また、本記事の冒頭で紹介した2018年から2020年にかけての気候変動に関する出来事に関する記事も、報道数はゼロでなかったものの非常に少なかった。森林火災に関する記事は2件、グリーンランドにおける氷床の融解に関する記事は3件あったが、大規模な大雨・洪水は報道されていなかった。
なぜ報道量に偏りが生じるのか
では、こうした気候報道の傾向は何が原因なのだろうか。そもそも気候変動に関する報道量が少ない要因として、気候変動がイベント的ではなく継続的な問題であることが考えられる。注目を集めるような大きな出来事やトゥーンベリ氏のような個人などはメディアにとって取り上げやすい。一方で気候変動は長い期間をかけて起こっているという特徴があるためメディアにとって報道しづらく、結果的に報道量が少なくなってしまっているのではないだろうか。また気候変動と特定の異常気象などの災害とを科学的根拠によって結びつけることが難しく報道しづらい側面もあると指摘するジャーナリストもいる。

アメリカのピッツバーグで開催されたデモ活動の様子(写真:Mark Dixon / Flickr [CC BY 2.0])
地域差に目を向けてみると、気候報道においても国際報道全般としても低所得国に関する報道が少ない要因として、普段から国際報道において低所得国についての報道の優先順位が低いことが挙げられる。そして報道の優先順位が低いため、報道機関が低所得国に配置している国外支局の数は少なく、より報道される機会が減ってしまっている。結果、高所得国に報道量が集中してしまう。
では気候報道における内容の傾向をどう説明するのか。気候変動に関する国際報道において、国際会議に関する記事が最も多かった。これは世界の課題それ自体よりもそれに対する政治的エリートの言動に注目する日本のメディアの特徴が原因として考えられる。気候変動が継続的問題であるという特徴とも相まって、高所得国や大国の代表による言動が取り上げられることが多かった。アメリカの大統領の動きや大国の政治的エリートが集まるCOPが注目され、記事数が多かったことからもこの特徴が読み取れる。逆に低所得国における気候変動の被害など、大国の政治的エリートが積極的に動かない問題に関する報道は少ない。
気候報道を分析して
今回気候報道を分析してみて、現状の報道は人類の存在すら脅かす危機に見合っているとは到底言えないことが分かった。気候変動によって引き起こされる被害は毎年増していくにも関わらず、全体に占める割合は少なく、報道された記事も地域的な偏りが非常に大きい。気候変動の原因となる二酸化炭素等を排出している高所得国と、その被害を受けている低所得国の報道量にも大きな差があることがわかった。この傾向は国際報道にも通ずるところがあり、気候報道に限らず国際報道全体の問題とも言える。また、気候変動による被害に関する記事が少なく、高所得国や大国の政治的エリートの言動を取り上げた記事が多くなっているのも特徴的だった。このような報道の現状では、気候変動について人々が俯瞰的に現状に沿った認識をすることは難しいだろう。メディアがこれらの問題を認識し報道機関として十分に役割を果たしていくことを期待したい。
※1 調査は、「毎日新聞 マイ索」を利用し、2018年から2020年の間で見出しに「気候変動」、「COP」、「温暖化」を含むもののうち、「東京朝刊」・「東京夕刊」を対象に行った。地域分類は、1つの記事を1として、記事に関連する国の数で1を割ってカウントした(例:1つの記事にアメリカと日本が関連していた場合、それぞれ0.5件とする)。
※2 内容の分類は、気候変動対策に関わるものを「対策」、台風や大雨、海面・気温上昇など気候変動による影響に関するものを「影響」、COPなど気候変動についての話し合いに関するものを「会議」、デモなど気候変動に関する運動を「活動」、それ以外を「その他」として分類した。
※3 富裕層と貧困層とで気候変動の引き起こす問題に対応する能力が異なり、分離が発生することを「気候アパルトヘイト」と言う。気候変動の被害の差だけでなく、分離により経済格差が広がることも問題とされている。
ライター:Hisahiro Furukawa
グラフィック:Hisahiro Furukawa