2023年、毎年6月から11月まで続くハリケーンシーズンの間に、カリブ海地域は7つのハリケーンを含む20もの勢力の強い嵐に襲われ甚大な被害に見舞われた。このような事態に際し、米国海洋大気庁(NOAA)専門家は、2023年のハリケーンシーズンを、記録上最も激動の1年と呼んでいる。
カリブ海地域のハリケーン被害が拡大した原因として挙げられるのが気候変動により大西洋の海水温が非常に高まっていたことである。こうした気候変動を引き起こす地球温暖化の要因は二酸化炭素などの温室効果ガスである。人間は様々な活動を通じて温室効果ガスを排出するが、そのなかでも高所得層による排出は特に大きい。そして、カリブ海地域は普段から排出量の多い大富豪が集まる世界有数の場所である。しかし、同時に貧困が顕著な地域でもある。そこにある格差は気候変動以外の様々な問題の原因にもなっている。そこで今回は、世界の富裕層の行動に翻弄されるカリブ海地域の現状と課題に迫っていく。
目次
世界で広がる格差
カリブ海における格差について述べる前に、まず世界全体での格差を捉えてみよう。世界の貧困と不正の根絶という目標を掲げてイギリスを拠点に活動する非政府組織(NGO)であるオックスファム・インターナショナルの格差に関する報告書によると、2018年の間に世界人口のうち資産が下位50%の38億人の資産は11%減少したのに対し、合計10億米ドル以上の資産を持つ億万長者達の富は毎日25億米ドルというペースで増えていた。さらに、2019年時点でその38億人の資産合計は、上位の富豪たった26人の資産合計と等しいとされていた。
さらに2020年から起こった新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界的に経済格差は広がっている。実際にオックスファム・インターナショナルの格差に関する報告書の2024年版では、2020年以降の期間で世界の最も裕福な5人の資産は倍増し、10億米ドル以上の資産を持つビリオネアたちは3兆3,000億米ドル豊かになったとされている。
こうして富裕層の資産が増えていく一方で、パンデミックは世界の貧困も同時に加速させた。2022年の世界銀行の調査によると、世界における経済格差は1945年以来最大となった。事実、2021年時点で世界の所得分布で下位40%にあたる人々の平均所得はパンデミック前の予測よりも6.7%低く、2019年から2021年までの間に2.2%減少している。また、2020年以降世界で50億人以上がより貧しくなったという報告もある。
カリブ海の歴史・概要
今まで世界の貧困問題を見てきたが、カリブ海地域は世界でも特に貧困問題が深刻な地域の1つである。では、そのカリブ海はいったいどのような地域であるのか。そもそも、カリブ海は中米と北米の間に位置する大西洋で2番目に大きい約270万平方キロメートルの辺境海である。カリブ海地域には13の主権国や17のカリブ海地域以外の国の領土が含まれており、キューバやイスパニョーラ島などの大きな島もあるが小さい島々も合わせると約7,000もの島が点在している。
次に、カリブ海地域の気候を見ていく。年中温暖な熱帯地に含まれるカリブ海地域の気候は、海流や山の標高、貿易風の変化を大きく受ける。また、この地域ではハリケーンシーズンが6月から11月まで続き、8月から9月の間にピークを迎える。
さらに、カリブ海地域の経済的側面に目を向ける。この地域では観光業が経済の重要な部分を占めている。サンゴ礁やマングローブの森林が存在し、豊かな自然的特徴を持つカリブ海諸島ではビーチやそこでのダイビングを目的に主に北アメリカ大陸諸国から多くの観光客が訪れる。世界の主要なリゾート地が多く集まっている場所であり、地域外からの富裕層に人気の移住先にもなっている。
次にカリブ海地域の歴史について見ていく。この地域には、元々多くの島においてタイノ人やシボネイ人などと言われる先住民族が居住していた。しかし、15世紀頃からスペインやイギリス、フランス、オランダなどのヨーロッパ諸国が進出し、サトウキビなどを栽培するプランテーション経営が急速に広まり、現地人に加えてアフリカから奴隷として強制移住させられた多くの人々が過酷な労働を強いられ、またその過程で疫病により現地人のほとんどが亡くなった。
やがて、カリブ海地域はヨーロッパ諸国の植民地となった。しかし、19世紀になると奴隷による反乱が増え、プランテーション・システムは衰退していった。また、それと同時にヨーロッパ諸国の植民地支配にも陰りが見え始め、20世紀中頃までに多くの島国が独立を果たした。
しかし、イギリス領であるケイマン諸島やタークス・カイコス諸島、アメリカ領であるプエルトリコ、オランダ領のキュラソー島などの17もの地域が現在も欧米諸国の国外領土として残っている。これらの国外領土が独立せずに残っている理由はいくつか挙げられる。まず、本国にとってカリブ海地域は軍基地やタックスヘイブンとしての利用がしやすいことである。その他に、国外領土側にも本国からの経済的援助が得られるというメリットがあること、国外領土の住民の多くを占める本国出身者の本国への帰属意識の高さなどが挙げられる。加えて、現在も植民地化した国に経済的に依存している領土もある。このように、未だに数多くの欧米諸国の領土が残っている地域は世界でも稀である。
カリブ海での格差と地域外出身の富裕層
世界で貧困の拡大が問題となっている中、カリブ海地域もその例外ではない。この地域は大きな貧困層を抱える地域であり、ドミニカ共和国やジャマイカ、セントルシアでは人口の約3割、ハイチでは約9割がエシカルな貧困ライン(※1)以下の生活を送っている。
また、こうした貧困問題によってカリブ海の国や領土では多くの社会問題が起こっている。まず、挙げられるのは失業率の高さである。例えば世界銀行のデータによると2022年時点の失業率は、セントビンセント・グレナディーン諸島では19%、セントルシアでは17.4%、ハイチでは14.8%であり、この3国は世界で最も失業率の高い30カ国の中に入っている。さらに、新型コロナウイルスのパンデミックにより経済活動と雇用の大部分を占めていた観光業が大きく衰退し、雇用が減少した国・領土が少なくない。
さらに、犯罪の増加も問題となっている。カリブ海の国や領土は腐敗が目立つ政府や脆弱な経済により情勢が不安定な場所もあり、失業した人の中には貧困から仕事以外での収入を求めるようになって犯罪に手を染めるようになる人もいる。さらに、カリブ海地域はコカインなどの麻薬の南米にある生産地と消費される北米の中継点にもなっており、麻薬貿易関連の犯罪問題も抱えている。
さらに貧困により、カリブ海地域では子どもたちの教育の機会へのアクセスが制限されているため、教育水準が低い状態にあるという課題もある。セントルシアでは、2012年時点で富裕層の96%が初等教育を終えているのに対して貧困層は62%しか卒業できていない。また、2020年のドミニカ共和国では、15歳の生徒のうち、最貧困層で数学の最低習熟度を達成している生徒の人数は、最富裕層の生徒で達成している人数に対して20%未満だというデータもある。
一方で、カリブ海地域には貧困層だけでなく世界的に見ても影響力を持つ富裕層も存在する。2019年の時点でカリブ海地域には1,100人以上の100万米ドル以上の資産を持つミリオネアが存在し、その数は年々増えている。さらに、2021年のフォーブス誌の億万長者リストによると、カリブ海地域には8人もの億万長者がいる。しかし、その中の誰一人としてカリブ海地域の出身者はいない。2022年になると新たにカリブ海出身者2人が億万長者リストに登録されたが、それでも依然として地域外出身者の占める割合は高い。そして、これらの億万長者を含めた富豪たちの行動が上で述べたような貧困に関連する社会問題の悪化に繋がっている側面も見られている。
世界の億万長者にはその莫大な資産を利用して土地を入手しているものがいる。その中にはカリブ海の島をまるごと個人的に購入している者も存在する。例えば、音楽産業や航空産業などで事業を展開するヴァージン・グループの創設者であるリチャード・ブランソン氏は英領ヴァージン諸島の無人島を個人的に複数購入している。
そのようなカリブ海の島を所有する富豪はお金の力を利用して現地の規制や法制度に影響を与えることができる。その中には現地の法まで逃れてしまう場合もある。例えば、投資家のジェフェリー・エプスタイン氏はアメリカ領のヴァージン諸島のうちの2つの島を買い取って所有していた。彼はこの島に未成年の少女を連れ込み性的搾取や性的人身売買を行っていた。この一連の事件からエプスタイン氏が所有していた島は「小児性愛者島」などと呼ばれた。最終的に彼は逮捕・起訴されたが、20年という長期間に渡っての彼の犯罪を可能にしたのは、エプスタイン氏が行っていた政治献金による政治への影響力だとされている。
また、現地出身の政治家や有力者による汚職の問題もある(※2)。贈収賄や汚職の疑惑がかけられた英領タークス・カイコス諸島の首相であるマイケル・ミシック氏や元国際サッカー連盟(FIFA)副会長であり、トリニダード・トバゴ前政権の国家安全保障大臣を務めていたジャック・ワーナー氏がその事例となる。
しかし、格差の問題はカリブ海に住むこのような大富豪や権力者の行動だけからみられるわけではない。経済を支える観光業からもみられる。例えば、休暇や観光でやってくる富裕層向けのリゾート開発によって現地の漁業活動が制限されている事例もある。ジャマイカでは海岸のリゾート開発のためのホテル建設が頻発し、プライベート・ビーチが増加したことにより、現地住民が海岸のわずか1%にしかアクセスできていないとされている。これにより島国であるジャマイカにとっての重要産業である漁業に悪影響が出ている。実際に、リゾート開発の開始前には自宅から徒歩10分で海岸へ出ることが出来た漁師が、ホテル建設によって海岸が閉鎖されたことで毎日漁のために片道約10kmの距離を海まで通わなければならなくなったという証言もある。この影響によりジャマイカでは多くの失業者やホームレスが出ている。
富裕層の節税・脱税
また、カリブ海地域内でみられる節税や脱税問題には世界各地の企業や富豪も絡んでいる。カリブ海には、特にイギリス領においてタックスヘイブンとされる領土が多い。まず、そもそもタックスヘイブンとは外国企業に対しての課税を行っていない、または税率が極めて低い国や地域(※3)のことを指す。また、タックスヘイブンの地域は現地で設立された企業とその所有者についての情報の公開を制限しているため秘匿性が保証されているという特徴がある。
カリブ海のタックスヘイブンを利用する世界各地の企業や富豪たちの多くは、タックスヘイブンに法人登録はあるものの、事業活動や営業活動の実態が見られない会社であるペーパーカンパニーを立ち上げる。そこでは、自らの企業の利益を移転させることによる富豪たちの節税・脱税問題が多く発覚している。それらの移転された利益の内の多くの富がカリブ海を経由するだけであるが、前述した利点を求めてカリブ海の領土を拠点とする富豪が存在するのだ。タックスヘイブンの法律や制度の抜け穴を用いて租税を回避することは合法といえるが、その秘匿性などを利用して脱税やマネーロンダリングを行うことは違法となる。
前述したとおり、カリブ海はタックスヘイブンが集中している世界有数の地域である。イギリスを拠点とするNGOのタックス・ジャスティス・ネットワークから発表された、多国籍企業による租税回避への加担の度合いを表す法人タックスヘイブン指数値(※4)の2021年のデータでは、英領ヴァージン諸島、英領ケイマン諸島、英領バーミューダ諸島の3つの地域で値が最も高かった。実際に英領ケイマン諸島では企業の登録社数はケイマン諸島の人口6万人の2倍である約12万にも上り、非常に大規模であるといえる。
富裕層たちによるパスポート(市民権)購入
さらに、地域外の富豪たちはカリブ海諸国のパスポート・システムを悪用している例があるという問題も存在する。
カリブ海には、国外に向けて自国のパスポートの販売を行っている国がある。そのパスポートを購入することが、地域外出身の富裕層たちがカリブ海地域に市民権を持つ手段の1つとなっている。市民権を購入するために必要なものは、パスポート販売を行っている国の中で自分が市民権を得たい国の公共財や不動産に投資するおよそ数十万米ドルから数百万米ドルの資金と身辺調査だけである。こうして富裕層が購入する第2、第3のパスポートは「ゴールデン・パスポート」と呼ばれ、購入者の富裕層本人は市民権を保持している場所に住む必要さえない。
富裕層の人々はカリブ海諸国のゴールデン・パスポートを購入することで税制上の優遇措置や多くの国へのビザなしでの渡航権を得ることが出来る。例えば、セントクリストファー・ネイビスのパスポートを取得すると法人税以外の租税が免除され、ビザなしで157ヶ国もの国へ渡航することが出来る権利を得ることができる。
ドミニカ国政府は1993年から外国人への市民権とパスポートの販売を行っている。パスポートの購入者の大半は北アフリカ、中央アジア、中東の国々の出身であり、組織犯罪・汚職報告プロジェクト(OCCRP)とガーディアン紙などとの2023年の共同調査によると、2007年以降ドミニカ国のパスポートを購入した人の数は7万人ほどの人口に対して約7,700人にもなるという。
こうしたパスポートの販売からドミニカ国政府は2009年から推定10億米ドル以上とも言われる大きな利益を得ている。しかし、政府がこのような利益を得ている背景には犯罪歴のある富裕層にも市民権の購入が許されているという問題(※5)がある。
カリブ海の富豪と気候変動
さらに、カリブ海地域で起こっている深刻な気候変動問題にも富裕層の存在が関わっている。近年問題になっている地球温暖化による気候変動の影響を受け、カリブ海地域でのハリケーン発生の頻度が高まる可能性がある。
ハリケーン発生の回数が増えるリスクが高まっているのと同時に、災害による被害も非常に大きいものとなっている。例えば、2022年時点でカリブ海地域では1950年以降、324件の災害が発生し、25万人以上の命が失われている。2022年にカリブ海地域を襲ったハリケーン「フィオナ」により米領プエルトリコでは大規模な洪水が発生し、1,000人以上の救助が余儀なくされただけでなく、水路の氾濫と停電によりポンプが故障し、公共の上下水道システムに依存している家庭や企業の70%が飲料水へアクセスできない被害がおきた。
また、地球温暖化による海氷の融解から引き起こされる海面の上昇もカリブ海地域での重大な気候変動被害の1つである。カリブ海の海面は今後の世界での温室効果ガスの排出量の増加に伴って、2000年時点と比較して2050年までに最大で約84cm上昇する可能性があるとされている。海面上昇が進むと、高潮が高まることで低海抜の地域でハリケーンを含む災害によるインフラなどへの被害が大きくなるだけでなく、低海抜地域の恒久的な浸水の危険性も増す。
このような異常気象や海面上昇の被害を引き起こす気候変動の一因となっているのが、世界の富裕層たちが温室効果ガスを大量に排出している事実である。オックスファム・インターナショナルの報告書 によると、2022年には世界の上位125人の富裕層はその投資活動により1人当たり年間平均300万トンの二酸化炭素(CO2)を排出している。これは世界の収入で下位90%にあたる人々の平均である2.76トンの100万倍にもあたる。この莫大なCO2の排出量は富裕層の人々の頻繁なプライベートジェットやヨットの使用などの生活上の消費行動にも起因している。
このようにカリブ海地域は気候変動の影響を大きく受けているが、気候変動による被害に耐えられるようになるための対策も実施されている例がある。2017年、ドミニカ国のルーズベルト・スケリット首相は国連総会で、ドミニカ国は「気候変動との戦いの最前線」にあると述べ、新たに政策も実行されている。例えば自然災害の被害に耐えうるインフラを整備するための復興計画と建築基準の導入や、エコツーリズムの推進などが行われている。
しかし、カリブ海の小さな低所得国の全てがこのような対策を取れるようになるとは限らない。高所得国がこれまで多く排出してきた温室効果ガスを原因とした気候変動の影響・被害を主に受けるのは、インフラ整備や医療などのサービスへのアクセス制度が整っていない低所得国であるという、「損失と損害」の問題も存在する。このように経済力があり気候変動の影響に対して比較的対応しやすい高所得国や富裕層と、経済的余裕の無く気候変動の被害を大きく受ける低所得国や貧困層との間の格差がある状況は「気候アパルトヘイト」とも呼ばれる。
開発と環境破壊
さらにカリブ海では富裕層向けのリゾート建設などのための土地開発が現地の環境破壊を加速させている。例えば、2017年には、カリブ海東部の小アンティル諸島にある島国であるアンティグア・バーブーダのバーブーダ島で、現地の政治家たちと提携を結んだ開発業者が島の大部分を富裕層のための高級リゾートに変えようとした。
しかし、そのリゾート開発の対象地域には、コドリントンラグーン国立公園(CLNP)が含まれている。CLNPには豊かなマングローブの茂みや広大な海草藻場、サンゴ礁が広がっており、ハリケーンによる海岸浸食の防波堤としても機能していることから湿地とその資源の保護や利用に関するラムサール条約によって保護されている。しかし、このリゾート開発によりCLNPのマングローブやサンゴ礁は破壊され続けており、ラムサール条約が守られていない疑いが専門家から唱えられている。このような環境破壊により島の土壌は弱まり、将来ハリケーンが起こった時の洪水のリスクをより高める原因となっているのだ。
それに加え、このバーブーダ島のリゾート開発ではハリケーン被害を利用した富裕層による土地の収奪が行われた。2017年に起こった大規模ハリケーン「イルマ」によりアンティグア・バーブーダのバーブーダ島は家屋やインフラ、生活手段が破壊されるという甚大な被害を受けた。そのため非常事態宣言が発令され、避難民は人口の多い姉妹島アンティグア島に30日間滞在することになった。バーブーダ島のリゾート開発はこの住民不在の機会を利用して、現地住民の反対を避けて行われたのだ。バーブーダの地元の人々はこれを「土地収奪」だとして厳しく非難している。
まとめ
カリブ海地域は欧米諸国の植民地支配を受けていた歴史があったり、現在も欧米諸国の国外領土のまま独立できていない地域が多かったりと、時代を超えて現地の貧しい人々が高所得国や富裕層に翻弄され続けている地域といえる。カリブ海に目をつける大富豪による投資には現地の経済の活性化につながる側面は確かにある。しかし同時に、この地域では億万長者たちの存在によって、環境問題だけでなく、これまで述べてきたような租税問題、富裕層の政治・政策への関与、大規模な土地入手や開発などにより広がっていく経済格差などを含む様々な問題が引き起こされている。そしてこうした問題によって被害を受けているのが、現地の貧困層の人々なのである。
また、富豪たちによるカリブ海地域での気候変動やタックスヘイブンの問題はカリブ海地域のみならず世界中に影響を与えるとして問題視されているものである。カリブ海地域にとどまらず、世界全体の社会問題に大きく関わる超富裕層たちの存在について、今改めて問うべきといえるだろう。
※1 世界銀行が2019年時点において定めた極度の貧困ラインは1日あたり1.9米ドルである。しかし、人間が生活することを考えるとこの基準は現実的ではないとして、その代わりに「エシカルな(倫理的)な貧困ライン」を提案する研究者もいる。これは、寿命と所得の関係から生き延びることが保障される最低ラインのことであり、2019年当時は1日7.4米ドルとされていた。GNVではこのエシカルな貧困ラインを採用している。ただし、世界銀行のデータから調べることができる貧困率の基準は、1日7.0米ドルのものと7.5米ドルのもののみであったため、よりエシカルな貧困ラインの1日7.4米ドルに近い7.5米ドルを採用した。また、ドミニカ共和国のデータは2021年時点、ジャマイカ共和国のデータは2004年時点、セントルシアのデータは2016年時点、ハイチのデータは2012年時点のものである。
※2 トランスペアレンシー・インターナショナルが毎年発表する世界の腐敗認識指数(CPI)において、カリブ海諸国は過去10年間にわたって低い水準であり、一部の国では政治腐敗の状態は悪化している。
※3 国や地域がタックスヘイブンとなる理由は、外国企業に対しての税制の優遇措置を設けることで海外企業を誘致したり、その利益を移転させたりするためである。このように設立・移転された海外企業が取引を行うことによって経済が活発化することに加えて、企業の移転や設立の際の手数料によって利益を得ることができる。
※4 タックス・ジャスティス・ネットワークによって発行され、ある国のタックスヘイブンについての法が企業や投資家によって悪用される可能性がある程度、およびその国がホストする租税回避策を利用しての取引の割合の2つの指標を組み合わせたもの。
※5 トルコの実業家で元政府大臣のツァヴィト・チャラル氏は2001年に銀行インターバンクに関する詐欺で逮捕された。しかし、彼はその後2011年に犯罪歴のある人は市民権が申請できない規制があるはずのドミニカ国の市民権を取得している。
ライター:Mayu Nakata
グラフィック:Saki Takeuchi
カリブ海諸国についてタックスヘイブンの問題や環境問題など少しは理解していたつもりでしたが、富裕層たちによるパスポート(市民権)購入については全く知らずとても驚きました。ゴールデンパスポートについてもう少し調べてみようと思いました。