フランスから16,820km離れた南太平洋のフランス領ニューカレドニア。2018年11月4日、この島で独立に関する住民投票が行われた。56.4%対43.6%で独立は否決されたが、事前予想より接戦となった。

ニューカレドニア独立に向けた旗(写真:david takes photos/ Flickr [CC BY-NC 2.0])
第2次世界大戦以降、欧米の植民地は次々に独立していったのだが、未だに非植民地化が完了していない非自治地域や海外領土は世界各地で見られる。これらの地域には南太平洋やカリブ海、大西洋の島々が多く含まれている。特にヨーロッパ諸国の占領はまだ終わっていない。世界地図におけるヨーロッパ連合(EU)の構成国の領土全体を見れば、一目瞭然である。ヨーロッパ大陸だけでなく、世界中に領土が点在しているのが分かる。第2次世界大戦後から1970年代にかけて、独立の機運が高まっていた中、なぜこれらの領土は独立に至らなかったのか。また、そこにはどんな課題が存在するのだろうか。今回はこの疑問に焦点を当ててEUの領土問題について考えていきたい。
世界に点在するEU
EUにはヨーロッパ大陸の領域以外に9つのもっとも外側の地域(外部地域)(Outermost Regions: ORs) と呼ばれる地域がある。これらの地域はEUの一部であり、人・物・サービスが自由に行き来できるEUの単一市場に属していながら、EUから距離の遠い地域のことである。6つのフランス領(ギアナ、グアドループ、マルティニーク、マヨット、レユニオン、サンマルタン)、2つの自治ポルトガル領(アゾレス諸島とマデイラ)、自治スペイン地域(カナリア諸島)がある。これらの地域はギアナを除いて島であり、ヨーロッパからの流通、人口や面積の規模、気候変動などの問題を抱えている。
一方、EUの海外の国と地域(海外領域)(Overseas Countries and Territories: OCTs)と呼ばれる25の地域がある。これらの地域はEUの領土ではないが、協会などを通して経済や社会発展のためにEUとつながっている。また、これらの地域はすべて島であり、財政的支援を受けている。デンマーク領グリーンランド、フランス領ニューカレドニア、オランダ領アルバ、イギリス領フォークランド諸島などがその代表例である。
なぜヨーロッパの一部として留まり続けているのか
なぜ未だ独立しておらず、ヨーロッパの国々に属する地域が多く見られるのか。これにはいくつもの理由がある。そのうち、多くの地域に共通してみられるものをいくつか挙げてみる。
まず1つ目に挙げられるのは本国にとって利用しやすいということだ。特に島々は地理的に大陸と大陸の間に位置し、孤立しているため、軍基地・核兵器の実験場、宇宙基地などに利用されやすい。本国にとって重要な領土となっていることから、本国としてもなかなか手放すわけにはいかない。軍基地の例として、インド洋の真ん中に位置するチャゴス諸島(イギリス領インド洋地域)が挙げられる。チャゴス島は植民地時代、イギリスの自治区であったモーリシャス諸島の一部であったが、1965年に国防の目的でイギリスに売却された。その後インド洋に基地を新設しようとしていたアメリカにチャゴス諸島のディエゴガルシア島は貸し出され、住民全員が強制退去となった。また、核実験については南太平洋のポリネシアのタヒチ島やムルロア環礁などで1960年から1996年までの間に193回の核実験がフランス政府によって行われた。

1970年7月3日にフランス領ポリネシアのムルロア環礁付近でフランス軍によって行われた核実験(写真:Pierre/Flickr [ CC BY-NC-SA 2.0]
宇宙基地の例にはフランス領ギアナが挙げられる。ギアナは南アメリカの北東の端、つまりブラジルの北に位置する。ギアナには欧州宇宙機関とフランス政府が運営している宇宙センターがある。
地理的な距離を利用するだけでなく、法律的に本国に縛られないことをメリットとしてタックスヘイブンを利用している例も多い。カリブ海のイギリス領ケイマン諸島やヴァージン諸島はタックスヘイブンとして有名だ。海外領土は財政規模こそ小さいが機密性が高く、タックスヘイブンとしてもってこいの場所である。1950年代以降イギリスは多くの海外領土がタックスヘイブンとなるよう進めてきた。イギリスは、植民地が独立し領土を手放すことになっても、金銭的利益が出せるように準備をしていたのだ。タックスヘイブンにとっても、税金を安くしても企業が籍を置いているだけでお金が入ってくる。しかし、タックスヘイブンは多国籍企業などの租税回避になる代わりに本来その企業が税を納めるべき国に税金が回らず、特に低所得の国にしわ寄せがいってしまうのだ。
独立しない2つ目の理由として考えられるのは、海外領土の地域住民も本国も独立しない方がより良い生活ができると判断していることだ。2014年から2020年にかけてEUはORsに133億ユーロの資金を割り当てている。また、ORsの地域には人口が50万人に満たない島も多い。人口が少なく、経済規模も小さいところでは本国からの支援もあり、より良い生活水準を保つことができるわけだ。
3つ目の理由としては、長年の植民地支配を経て住民の多くが、本国から移住してきた人々であるということだ。フォークランド諸島(アルゼンチンの呼び名ではマルビナス諸島)がその例である。島の住民の多くがイギリス本土から来た移民であり、島全体でみても本国への帰属意識が強く、独立に向けた運動が起こりにくい。南大西洋に浮かぶイギリス領セントヘレナ島もその一つである。もともと無人島であったが、大航海時代以降、貿易船の中継地として使われてきた経緯から現在の住民はかつての船乗りや移住者、奴隷の子孫である。

フォークランド戦争でのアルゼンチンの捕虜(写真:Ken Griffiths/Wikimedia Commons)
独立に対する各地域の姿勢
さて、これらの領土に住む人々は現状に満足しているのだろうか。満足していると思われる地域もある。つまり、現在でも独立運動が見られない地域であり、例えばイギリス領ケイマン諸島・ヴァージン諸島、ポルトガル領アゾレス諸島・マデイラ諸島などがそうである。財政が安定しており、住民の多くが入植者の子孫である。
しかし、現状を変えたい住民が多い地域もある。冒頭で述べたニューカレドニアやタヒチ島などでは、住民による独立運動が起こっている。フランス政府はニューカレドニアに13億ユーロ拠出しており、ニューカレドニアの生活水準は近隣の地域と比べるとはるかに高い。しかし、若者の失業率は高く、電子機器の製造に不可欠なニッケルの生産に頼ったモノカルチャー経済など、社会問題は絶えない。今回の投票では独立が否決されたが、2022年までにあと2回、同様の住民投票が行われる予定だ。また、タヒチ島では1970年代に独立運動が盛んになった。タヒチ島の人々はフランス政府によるポリネシア諸島での核実験に対して不信感を抱き、より大きな自治権を得ようとした。一方、独立運動をすることでフランス政府からの莫大な補助金を失うこともあり、独立運動はなかなか進まず、今のところ大きな動きは見られない。
デンマーク領グリーンランドは徐々に自治権を拡大してきている。国内で今すぐ独立したいという運動はあまりないが、長期的な目でみていずれ独立したいという傾向が強い。グリーンランドには大量の天然資源が埋蔵されているとされているが、これまで厚い氷に覆われて発掘困難だった天然資源が、地球温暖化の影響により発掘できることが可能になるかもしれないという。そうすると、グリーンランドは経済を支えるだけの財政基盤を作り上げることも可能だ。

グリーンランドの首都ヌーク(写真:Nanopixi/Wikimedia Commons [CC BY-SA3.0]
また、不満を表しているのは領土の当事者間だけではない。海外領土の隣国が歴史的経緯からその領土が自らの国の属すると主張している地域もある。つまり、植民地化によって島が奪われ、隣国がその領土の返還を求めているのだ。フォークランド諸島(マルビナス諸島)がその例である。フォークランド戦争は、1982年にイギリスに返還を求めたアルゼンチンがフォークランド諸島を侵攻・占領したことから勃発した戦争である。イギリスとアルゼンチンの双方がフォークランド諸島の主権を主張した。イギリスがフォークランド諸島を取り返したことでアルゼンチン側の敗北に終わったが、領土問題は未だに解決していない。2016年には大陸棚を調査した国連の委員会がフォークランド諸島はアルゼンチンの海域に含まれると発表した。現在でもこの領土問題に動きがみられる。
また、コモロ諸島も複雑な問題を抱える。コモロ諸島はアフリカ大陸とマダガスカル島の間のモザンビーク海峡に位置している。1975年、コモロ諸島で旧宗主国フランスから独立するかを問う投票が行われた。コモロ諸島は4つの島から成る。ここでは島ごとの投票が行われ、そのうちのマヨット島だけはフランスの統治下に残る決断をしたのだ。したがって、3つの島はコモロ連合を形成し、マヨット島だけはフランスの領土となった。しかしこの島ごとに投票する制度について、非植民地化のプロセスで領土を分解するのは国連総会の決議に反していることから、コモロ連合側はマヨット島はコモロ側のものだとの主張し続けている。

コモロにある「マヨットは永遠にコモロのものだ」と書かれた看板(写真:David Stanley/Flickr [CC BY 2.0]
領土をめぐる諸問題
こうしてみると、それぞれの地域に固有の問題があることが見えてくる。例えば、先ほど述べたマヨット島であるが、独立問題に加えて移民問題が深刻だ。移民・難民の問題は中東やアフリカから地中海に向けてやってくる移民の場合に取り上げられることが多いが、コモロ諸島でも同じようなことが起きている。マヨット島は2014年にOCTからORになり、EU圏内となった。フランスからも大きく財政的支援を受けており、コモロ諸島の残りの島と比べると1人あたりのGDPは10倍にもなる。そこで、貧困脱出とEU圏内に入ることを目的に安全性の低いボートに乗ってコモロ連合からマヨット島に渡ろうとする人が後を絶たない。彼らは仕事、医療、そしてより良い生活を求めているが、海を渡る際に死者も多く出ている。同様の問題は実はマヨットだけに限らない。北アフリカにあるスペインの飛び地セウタにも隣国のモロッコから入国しようとする人が絶えない。アフリカ大陸にあるヨーロッパ唯一の飛び地ということはつまり、アフリカからヨーロッパの国に移動するために海を渡る必要がなくなる。アフリカの移民はセウタとモロッコを隔てるフェンスをよじ登ってやってくる。
大国の一部となっている島々にとって長年にわたり問題となっているのは核実験だ。近年、1960年代から1970年代に行われていた核実験は当時公にされていたよりもはるかに危険で、タヒチ島は20世紀に行われた核実験により、許容最大放射線レベルの500倍の量の放射線を浴びていたことが報道されている。フランス政府は実際には公に認知されている以上の被害があると知った上で実験を行ったのだ。2006年、フランスの医学研究機関は核実験が行われた場所に近い島の住民ほどガン患者が増加することを発見した。しかし、フランスは2010年までガンを発症した可能性のある退役軍人と住民に対する補償を認めなかった。核実験当時には約15万人の民間人と軍人が核実験に従事していたが、実際、補償金を受け取れたのはたったの20人ほどだった。
また、タックスヘイブンである海外領土も多いことも問題だ。イギリス領ヴァージン諸島やケイマン諸島、バミューダ諸島などはパナマ文書やパラダイス文書の漏洩でタックスヘイブンとして注目を集めた。イギリスはこれまでのパナマ・パラダイス文書の漏洩で何らかの対策を取らざるを得ない状況だったが、本格的な対策は取ろうとしていない。下に表示されている5階建ての建物はケイマン諸島のジョージタウンにあるアグランド・ハウス(Ugland house)だが、この一つの建物には約20,000もの会社が名義上登録されている。つまり、お金の流れを隠すためのペーパーカンパニーがたくさん入っているのだ。タックスヘイブンでの問題は大きく2つある。1つはタックスヘイブンに関連する職業の人は高収入である一方、そうでない一般市民の収入は少なく、激しい格差が生じることだ。もう1つはタックスヘイブン自体には不利益は生じないが、ほかの国に悪影響を及ぼすことだ。タックスヘイブンが金融情報を隠すことによって、脱税や犯罪に使われるお金が経由していることが明るみに出ない。このような租税回避によって、特に低所得国が大きな損失を被っている。今後イギリスがタックスヘイブン問題にどれだけの透明性を持たせることができるのか注目だ。
このように、EUはヨーロッパに限らず、世界に広がっている。各地域にとって独立とはなにを意味するのか、地域によって違うだろう。そして、果たしてニューカレドニアの独立が現実と化すことはあるのだろうか。まだまだ注目していきたい。
ライター:Shiori Tomohara
グラフィック:Saki Takeuchi
戦争、軍基地、核兵器の実験、タックスヘイブン・・
チャゴス諸島の住民が全員故郷から強制移住。
ポリネシアの住民の被爆。
ひどい話ばかり。歴史がまだこんなに現在も響き続けているんですね。
ヨーロッパによる小さな島々への大きいな迷惑。
こんなに広い範囲でEU諸国の領土が残っているとは知りませんでした。その上で独立したいと思っていない地域があることも驚きでした。ニューカレドニアの独立運動にこれからも注目していきたいと思いました。
EUの海外地域が独立を目指す理由は、経済的なもの、政治的なものだと思っていましたが、核問題やタックスヘイブンの問題なども潜んでいたことには驚きでした。
国連憲章は民族自決権をうたっているが、現状を変えたい領土をサポートするかどうかを期待しています。
同じ地域にある、もしくは隣り合ってるような地域であってもEU領であるか否かによって経済状況や扱いが異なることそれ自体の問題点はあまり想像がつかなかったけど、タックスヘイブン問題での租税回避によって途上国が害を被っているのならそれは大問題だと思いました。
結局、自称先進国たちの都合のいいように使われていると思うとムカつきますね。
大戦の爪痕がこんなに長く残っているとは驚きました。
地域の自治権が最大限尊重されてほしいと思います。
EUの国はヨーロッパ大陸以外にもこれほど多くの島があることに驚きました。核実験やタックスヘイブンなどに利用されていることも初めて知りました。安定している国もあるが、大国からの被害を被っている島は独立が達成されるべきだと思います。
世界から孤立するのは本当に恐ろしいことになるんですね...