《YES! Magazineの翻訳記事(※1)》
食生活の未来を捉えがたい中で、ひとつのヒントをメキシコの伝統的な食文化の中に見いだすことができる。アメリカの国境の南側を歩くと、チャプリネス(chapulines)やホミレス(jumiles)を売る人たちに遭遇することができるだろう。チャプリネスはトルティーヤやスパイスの効いた料理にアクセントを加える食材である。タンパク質が豊富で脂質が低いチャプリネスの素材であるバッタのサクサクとした食感は、柔らかいトルティーヤやトマティーヨ、アボカドなどを引き立たせる。一方のホミレスは料理にシナモンやミントのような風味を加え、サルサに入れればザクザクとした食感が得られる食材である。ホミレスの素材となるカメムシは治療薬としても有名である。
視点の転換が必要なのであれば、これらの珍味を陸で暮らすエビと考えることもできる。実際問題、昆虫を食事に取り入れることは私たちだけでなく、地球にとっても良いことなのである。人間が育てる栄養素の中でタンパク質は環境への影響がもっとも大きい。乳製品、牛肉など家禽産業を維持するためには、それらの飼料となる牧草やトウモロコシに大量の水、土地などの資源を必要とする。
農業とそのための土地開拓で2007年から2016年までの間に排出された温室効果ガスは全体の23%を占める。魚の養殖などの産業は化学物質の使用、ゴミの排出、危険な寄生虫の増殖、病気を野生の魚に広めるなどの海洋環境の損失を引き起こしている。2018年にネイチャーで発表された研究は、大量の資源を必要とする今日の西洋型の食事はすぐにでも環境にとって大惨事となる結果を引き起こすだろうと指摘する。
2100年には地球の人口は109億人に上るとされている中で、我々は今後増えるであろう30億人分を賄う十分なタンパク源が必要となる。この状況は消費者個人からタンパク源の生産システムまでを含む全ての過程において、食物連鎖のさらに下層にあるタンパク源を選ぶことや動物を用いずに肉を生産するなどの変革を必要とする。そしてこれらの変化をもたらすためには、植物性、生体内で生成される、さらには廃棄物を餌とするタンパク源などを活用しなければならない。
地球に優しいタンパク質
国連食糧農業機関は哺乳類や鳥類以外に代わる、安く、健康的で、生育に資源を多く必要としないタンパク源を強く求めている。この中にはすでに世界130カ国で取り入れられている習慣が含まれている。それが昆虫食、虫を食べることである。世界各地に伝統的に伝わる文化では昆虫などの持続可能なタンパク源を数千年に渡り取り入れてきた。西洋文化が節足動物を食べ物とするアイデアに後ずさりする中(もちろん甲殻類は含まれていない)、20億人以上の人々は昆虫を日々の食事に取り入れている。その一例がメキシコのチャプリネスやホミレスである。
世界中の人々は2千種にも上る驚くほど多様な昆虫を食べており、そのほとんどは野生である。もっとも一般的なものはカブトムシであり、全世界の消費量の1/3を占めている。イモムシはサハラ以南アフリカで最も人気があり、ハチやスズメバチ、アリなどは南米で人気がある。
さらに研究によれば、人間は遺伝的にポリポリした昆虫の食感を、ヒメアリクイが同様の食感を好む以上に好む傾向があるという。ヒメアリクイはその食性のほとんどをアリが占めているにもかかわらず、キチン質(※2)を消化することができない。そのためヒメアリクイの排泄物には大量の昆虫の外骨格が含まれている。しかし我々人を含む霊長類共通の祖先は、今日我々がドリトスをポリポリ食べるように、チャンスがあるたびに昆虫をポリポリ食べていたおかげで我々はキチン質を消化する酵素を生成できる遺伝子を受け継いだと考えられている。その結果、アリを食べるということに関して人間は、消化という側面から見れば「アリクイ」という名前を持つ動物以上に有利なのである。
近年、アメリカでは昆虫への流れがゆっくりではあるが始まりつつある。積極的に人類の昆虫食の歴史を受け入れたケビン・バックヒューバー(Kevin Bachhuber)氏は、2014年にアメリカ初のFDA認証(※3)を受けた食用昆虫の農場を作った。
「私たちは一般的にハウスクリケットと呼ばれるヨーロッパイエコオロギを使います」とバックヒューバー 氏はいう。「しかし、あなたが家で見るコオロギはクロコオロギと呼ばれるものでヨーロッパイエコオロギとは全く異なるものです」。
バックヒューバー 氏は、昆虫は安価で育てることができ、食用にするための飼料と肉の比率は2:1であるという。これはつまり、1匹の食べられるコオロギを育てるために必要な飼料はコオロギの重さの2倍ほど必要であるということになる。研究によれば、これは鶏を育て食べられる大きさにするのとほぼ同じ比率であるが、1ポンドの牛肉の生産にかかる6:1という比率とは比べものにならないほど少ないことがわかる。バックヒューバー 氏はさらに、その廃棄物が危険な細菌の流出リスクをもつ養豚場や、強い匂いを発する3万羽の鶏がいる養鶏場とは、コオロギの出す廃棄物は比べものにならないという。
頑張る蛆虫
さらに効率的な生物は廃棄物からタンパク質を作ることができる。その生物とはアメリカミズアブの幼虫である。牛や鶏と違いアメリカミズアブの蛆は、人間と小麦やトウモロコシ粉を取り合うことがない。その代わりに食べるのはジャガイモの剥いた皮やパンの残り、テンサイ糖のパルプ、動物や人間の糞尿である。アメリカミズアブの蛆はウイスキーの蒸留所から出るエタノールの染み込んだ廃棄物ですら処理することができる。
誰が、なぜ、このような大食いで小さく野蛮な虫を食べるのだろうか?「アメリカミズアブの蛆はポップコーンのような、少しナッツのような風味を持っています」とテキサスA&M大学の昆虫学者ジェフ・トンバーリン(Jeff Tomberlin)氏は言う。トンバーリン 氏は合同会社エボ・コンバージョン・システムズ(Evo Conversion Systems)の共同設立者の一人で、動物の飼料用にアメリカミズアブの研究を行なった。トンバーリン 氏はアメリカミズアブの腸が骨、髪、パイナップルの皮以外のものであればタンパク質へと変えることができるという特性に着目し、アメリカミズアブを虫による廃棄物処理のシステムに取り込んでいる。この能力は危険な医薬品や農薬すら処理することができる。例えばトリメトプリムという苛性殺虫剤は自然環境であれば25日間残留するが、アメリカミズアブの腐食性消化酵素はわずか1.1日でこれらを中和することができ、アメリカミズアブの中にも農薬の成分が蓄積されることはないという研究結果が示されている。
トンバーリン 氏はアメリカの食卓に、アメリカミズアブを食べて育った豚肉を並べる代わりにアメリカミズアブそのものを並べたいと考えている。彼は昆虫を加工し他の食べ物の材料にすることを提案している。昆虫を加工した食材にはコオロギ粉などがあり、店頭やオンラインで販売されている。

バッタとイモムシの唐揚げ(写真:Alpha/Flickr [CC BY-SA 2.0])
より緑に近いタンパク源
食物連鎖のさらに下層を見てみると、より少ない資源からタンパク質が生成されている。テキサスの栄養会社iWi(イーウィーと発音する)はナンノクロロプシス(※4)をニューメキシコとテキサスの砂漠に点在している100以上の絵画のように美しい海水プールで栽培している。最小限の栄養素と大量の二酸化炭素と太陽光を使いこの藻は急速にプール内で増殖する。増殖した藻はろ過され、オメガ3オイルへと加工される。同社は藻をタンパク質と炭水化物を多く含む粉末にするための認可手続きも完了している。
「もしあなたが寿司を食べたことがあったり、鮮やかな緑色のスムージーを飲んだりしたことがあるなら、すでに藻類を食事の中に取り入れています」と同社の副社長として活躍するレベッカ・ホワイト(Rebecca White)氏は言う。ホワイト氏は藻類をどこにでも存在し、低資源、持続可能な濃縮タンパク質であると言う。
ホワイト氏はホライゾン(Horizon)やフェアライフ(Fairlife)といったすでに藻類由来のオメガ3を使用して乳製品の栄養価を高めている乳製品ブランドを挙げた。藻類油は最近、健康補助食品としてFDAの認証を受けている。オドワラ(Odwalla)社も同様にスムージーやジュース、スナックバーといった商品に藻類を添加している。
「多くの人が実験を重ねているのはすばらしいことです」とワシントンD.C.に暮らすヴィーガンのフラニー・マース(Frannie Maas)氏は言う。彼女は持続可能で、動物を含まない食事はいつも簡単に手に入るものではなく価格も高いと指摘する。「ヴィーガンとして、誰もが肉や乳製品の代替品を買える経済状況にいるわけではないことを知ることは大切です。もしくは、それらの代替品を気軽に買える地域に住んでいない場合もあります」しかし彼女は新たな可能性が、賢明で正当な選択肢を全ての人の食卓へと運んで来るだろうと予測している。

藻類養殖(写真:Steve Jurvetson/Flickr [CC BY 2.0])
水の中にいない魚
しかし、昆虫食や植物性の代替品を受け入れる準備ができていない人々もタンパク質のない未来を嘆く必要はない。本物の肉もまた、新たな、持続可能な段階へと進んでいる。
ワイルド・タイプ(Wild Type)社はサーモンの細胞から本物のサーモンを作るサンフランシスコの企業だ。その過程は個々の魚類細胞を栄養素と酸素が豊富な溶液の入った槽の中で、それらが筋繊維になり結合組織になるまで増殖させるというものだ。アシモフの小説を連想させるが、この方法は調理後に魚の身が自然にほぐれフレーク状になる組織を作るまでに至っている。この会社の共同設立者で研究長のアリー・エルフェンビーン(Arye Elfenbein)氏は燻製が美味で、視覚的にも寿司を作れるくらい魅力的な見た目をしているという。
「私たちは野生や養殖の魚に含まれる水銀、抗生物質や殺虫剤を含まない、よりクリーンな食料源を見つけたかったのです。一方で私たちは人々が地球にもう少し負担をかけずに生きる機会も提供したかったのです。」ベン・フリードマン(Ben Friedman)氏、ワイルド・タイプの製品責任者はいう。

サーモン(写真:Ján Sokoly/Flickr [CC BY-SA 2.0])
ワイルド・タイプの共同設立者でCEOのジャスティン・コルベック(Justin Kolbeck)氏は、同社はすでにパートナーとなる食品会社と協力し、肉を理想的な形にすることに取り組んでいると言う。彼は5年から10年の間にはチェーン店のメニューの選択肢にWild Typeのサーモンが加えられるだろうと考えている。
「ホワイトキャッスルのバーガーキングで植物由来のハンバーガーが売られるなんて、誰が想像したでしょうか。それが今ではほとんどどこにでもあり得る光景になりました。」コルベック氏は言う。「同じことがシーフードの代替品でも起こるでしょう」
※1 この記事はGNVがパートナー組織として参加する「気候報道を今」(Climate Covering Now)の同じくパートナー組織であるYES! Magazineのアダム・リンチ氏(Adam Lynch)の記事「The Search for Planet-Friendly Protein: We can take a cue from cultures that eat further down the food chain」を翻訳したものである。「気候報道を今」は2020年4月19~26日の一週間を報道週間として定め、参加している報道機関に「Climate Solutions」のテーマでの報道を呼び掛けている。この場を借りて記事を提供してくれたYes! Magazineとリンチ氏にお礼を申し上げる。
※2 菌類の細胞壁や甲殻類の外骨格の成分
※3 米国連邦の食品医薬品局の認可
※4 不等毛植物門、真正眼点藻綱に属する海産性単細胞藻類
ライター:Adam Lynch (YES! Magazine)
翻訳:Azusa Iwane