国際報道を守り広げる協力体制(ジャーナリズムの危機を考える会:開催レポート)

執筆者 | 2025年12月11日 | News View, サハラ以南アフリカ, 世界, 報道・言論

【以下は、2025年11月27日に大阪で開催された「ジャーナリズムの危機を考える会」(ジャーナリズムの現状に危機感を抱く報道関係者、研究者、市民らによる緩やかな集まり)の一環として行われたGNVのイベントを基にした報告である。これは、ジャーナリズムが直面する具体的な問題に対し、登壇者が解決策を提案し、その内容について参加者が議論する「提案型ワークショップ」という形式で行われた。提案者は大阪大学のヴァージル・ホーキンスである。】

 

日本の報道機関による国際報道の量は相対的に少ない。グローバル化によって国外の出来事の重要性が高まっているにもかかわらず、その報道は実際には減少している。さらに地理的に見ると、国際報道はごく限られた少数の国々に大きく偏っている。その結果、報道の受け手が目にするのは、世界のごく一部をかいま見る断片的な情報にとどまり、多くの重大な出来事や深刻な問題が十分に報じられず、あるいは全く報じられないままになっている。

国際報道の量の減少と地域的偏りは、海外特派員の数の減少やその配置にも表れている。近年、報道機関が直面してきた財政的制約は今後さらに厳しくなると見込まれ、各報道機関が維持できる海外特派員の数は、今後も減らさざるを得ない可能性が高い。

こうした状況を踏まえ、本報告は、日本の報道機関が海外支局およびそこで収集された国際報道の素材を他の報道機関と共有することを検討するよう提案する。

取材するジャーナリストたち(写真:wellphoto / Shutterstock.com)

課題

GNVは、日本の主要新聞における国際報道の総量を測定する2つの長期的な調査を実施している。最初の調査は1989年から2018年までの朝日新聞を対象とし、2つ目は2000年から2024年までの読売新聞を対象とした。両方の調査で、国際報道の記事数が大幅に減少していることが明らかになった。減少は主に2000年代半ばから2010年代半ばに集中している。減少はその後止まったように見え、報道量は安定しているものの、この水準がどれだけ維持できるかは不明である。対象となる新聞の財政状況を考えれば、今後も国際報道の量はさらに減少する可能性が高い。

また、GNVは日本の報道機関が世界の各地域をどのように報じているかについても広範な調査も行っている。例えば2025年には、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の3紙を対象に10年間の国際報道量の調査を発表した。この調査では、報道がごく限られた国々、主にいわゆるグローバル・ノースに偏っており、グローバル・サウスの国々への報道は相対的に少ないことが分かった。たとえば、これらの新聞は全国際報道の25%を単一の国、アメリカに割いていた。一方で、中南米全体は国際報道のわずか2.2%、アフリカ大陸全体は2.0%にとどまっている。

国際報道の減少は、日本の報道機関が配置する海外特派員の数の減少と密接に関連している。日本新聞協会(NSK)が収集したデータの分析によれば、過去30年間(1994〜2024年)で、68の新聞、放送局、通信社が雇用する海外特派員の総数は625人から524人へと16%減少している。

地域間の報道の偏りは、海外特派員の配置にも反映されている。2024年時点で、日本の報道機関の海外特派員はサハラ以南アフリカ全域でわずか4人にとどまり、イギリス単独に配置されている人数の10分の1である。1994年には5人いた。中南米では合計6人で、1994年の12人から減少している。アメリカ単独では158人の海外特派員がいるが、30年前と比べると13%の減少である。

(ワークショップのスライドより)

こうした懸念される傾向は、日本の報道機関全体における取材体制の脆弱さを示すとともに、世界の広範な地域でほとんど取材体制が存在しないことを明らかにしている。また、報道機関が得られる収入が今後も減少すると予想されることを考えれば、この状況は今後さらに悪化する可能性が高い。

提案

以下は、上記で示した課題の一部に対応することを目的とした提案である。

提案:報道機関がリソースを共有し、共同で海外支局を設置する

通常は競合関係にある報道機関が、特定の地域でリソースを共有することで、追加コストをかけずに国際報道の取材能力を拡大するというものである。たとえば、2つの報道機関が協力した場合、両者は2つの地域から国際報道を取材できるにもかかわらず、費用は一拠点分で済む。理想的には、現在の報道が限られている地域での活動を拡大できる。つまり、一方の報道機関は既存の支局を維持し、もう一方は新たな支局を追加で設置する。担当地域を分担し、互いに取材した情報、インタビュー、映像・画像などの資料を共有する。

この提案は、新聞が単一の海外特派員を1つの支局に配置し、複数国あるいは大陸全体をカバーしている地域で試行可能である。たとえば、読売新聞と朝日新聞はそれぞれ、サハラ以南アフリカ全域を担当する海外特派員を南アフリカのヨハネスブルグに1人置いている。この2紙がこの地域でリソースを共有すれば、一方の特派員はヨハネスブルグに残り、もう一方はケニアやナイジェリアなどに新しい支局を設置できる。これにより、各特派員が担当する国の数は大幅に減少し、各報道機関の取材アクセスは増加するが、費用の大幅な増加は発生しない。中南米も、地域内の特派員がほとんどブラジルに集中していることから、このような取り組みの候補として適している。

(ワークショップのスライドより)

こうした取り組みは、特に複数の報道機関が情報共有に参加する場合、通信社の業務に似ているように見えるかもしれない。しかし本提案の目的は、出来事の基本的な事実を迅速に収集して他媒体に配信する通信社を補完・代替することではない。本提案の下では、新聞や放送局は引き続き文脈や解説を伴った詳細な報道を行い、それをパートナー機関が利用できる形で提供する。

こうした取り組みの潜在的な欠点は、各媒体の独自性が低下し、結果として報道全体の多様性も減少する可能性がある。言い換えれば、ある新聞が特定地域について報じる内容は、別の新聞が報じるものと同じ情報源に基づくことになり、編集の仕方は異なっても内容の出所は同一になる。各報道機関は、自社の視点やその地域における「ブランド」となる報道の独自性が重要だと考える場合、このような協力には慎重になるだろう。戦略的に重要と考えられる地域では、この種の協力は適さない可能性がある。しかし、もともと報道が乏しい地域、たとえばアフリカや中南米では、多様性の損失は、国際報道の入手可能性を維持・拡大するための許容される代償と考えられる。

本提案は、財政的制約の中で実施可能な比較的控えめな暫定的措置である。予算がさらに削減され、海外特派員が世界各地でますます少なくなる状況においては、一部の地域で独自の情報収集体制を維持するための、ほぼ唯一の方法の一つとなる可能性がある。

事例

報道機関間の協力は、決して新しい概念ではない。ここでは、そのような協力の事例をいくつか簡潔に紹介し、主に報道機関の本拠地国外での取材に関するケースに焦点を当てる。

調査報道は、報道機関同士の協力が頻繁に見られる分野である。これは主に、調査報道が通常のニュース報道よりもはるかに多くのリソースを必要とするためである。場合によっては、膨大なデータ量を単独の報道機関が効果的に分析・解釈することが困難であり、パナマ文書(報道は2016年開始)やパンドラ文書(2021年開始)の共同プロジェクトがその例である。これらの調査は、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)を通じて、世界中の多数の報道機関によって行われた。調査報道では、現地特有の知識や専門的な技能を必要とする場合もあり、協力が促されることがある。例えば、イスラエル企業 NSO グループが開発したスパイウェア「ペガサス」の世界的な使用を調査したペガサス・プロジェクトでは、多数の報道機関に加えて NGO や大学の研究機関も参加している。

パナマ文書におけるコラボレーションについて話し合う中南米のジャーナリストたち、コロンビア(写真:Fundacion Gabo / Flickr [CC BY-SA 2.0] )

しかし、上で示した提案とは異なり、このような調査報道の多くは、直接の競合関係にない報道機関同士による協力であることが多い。それでも、競合関係にある報道機関が協力するケースも存在する。注目すべき例として、アメリカのフロリダ州で行われた気候変動に関する複数の報道機関による共同プロジェクト「インベイディング・シー」がある。このプロジェクトでは、通常は他の問題で競合している報道機関が、この特定のテーマに関してコンテンツを共有している。また、競合するテレビ局同士が、特定の番組において一時的に記者を共有するもいくつか存在する。

より広範な国際報道のコンテンツ共有の例として、欧州主要新聞連合(LENA)がある。これはヨーロッパの8つの主要新聞による協力関係である。競合関係にある報道機関同士の協力ではないが、国際報道の共有という点で本提案といくつかの共通点がある。各報道機関は自前の支局を維持しつつ、支局で収集したコンテンツの一部を同盟内で共有している。例えば、スペイン紙エル・パイスは歴史的・言語的なつながりによりラテンアメリカに強力な支局ネットワークを持っており、同盟の他の加盟メンバーに、自らでは取材できないコンテンツを提供している。

ワークショップでの意見

ワークショップの参加者の複数は、本提案に対する意見や、国際報道の取材を維持・拡大するための別の方法を示した。

国内の災害や緊急事態の際、競合するテレビ局がニュースコンテンツを共有する先例が既にあることが指摘された。さらに、国際報道においても、系列テレビ局間で海外支局を共同運営している例があり、収集したコンテンツの共有が可能であることが確認されている。課題は、競合する報道機関が同様の仕組みを構築できるかどうかにある。

参加者の中には、日本の報道機関が 欧州主要新聞連合(LENA) のような仕組みを検討する価値があるという意見もあった。国内の競合ではなく、国外の報道機関と協力することで、同一市場内でのコンテンツ共有という問題を回避できる。言語や国内の文脈の違いといった障壁はあるものの、実現可能な選択肢とみなすことができるだろう。

また、報道機関同士だけでなく通信社との連携を強化し、収集した情報や取材内容、映像素材を互いに共有・活用する案も示された。これは当初の提案よりも大幅に大胆な施策である。

さらに、海外支局を維持する代わりに、現地のフリーランス記者(ストリンガー)への依存度を高めるという方法も提案された。

(ワークショップの様子)

終わりに

イベントの発表部分の録画は、ポッドキャストおよび動画で視聴可能である。GNVは今後も「ジャーナリズムの危機を考える会」のもとで、提案型ワークショップを開催する予定である。

 

ライター:Virgil Hawkins

 

1件のコメント

  1. だーすべいだー

    報道機関同士の協力は、現実的かつ合理的なアイデアのように思います。国内報道においては、自社以外の報道機関は競合であり、スクープを争う関係にあるため難しいように思いますが、こと国際報道、特に本稿で提言されている調査報道においては、速報性よりも内容の正確性・充実性が重要であるという点で、実現の可能性は低くないと思われます。(日本の報道機関はグループ会社で運営されている側面があるため、グループ会社内での協力も一案としてあるかもしれません、既に情報提供程度の協力体制は築かれていますが、共同での取材体制構築は検討されたことがあるのか、なければそれはどうしてか、取材してみるのも面白いと思います)

    懸念としては、協力体制を作る際のイニシアチブを誰がとるのか、そのモチベーションは何か、出資の比率はどうなるのか、メディアのスタンスの違い(右派寄りか、左派よりか)をどのように乗り越えるのか、などの課題があげられるかと思います。

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