オーストラリア初の先住民との条約が成立

執筆者 | 2025年11月16日 | GNVニュース, オセアニア, 共生・移動, 政治, 法・人権

GNVニュース 2025年11月16日

2025年11月13日オーストラリアで初となる、先住民(※1)と州政府の間での正式な条約が成立した。オーストラリアにはこれまで先住民と政府の間で結ばれた条約が存在せず、先住民の権利について法的な根拠がない状態が続いていた。今回の条約はヴィクトリア州での10年近い協議の結果、ヴィクトリア州先住民代表議会と州政府の間で合意されたものだ。

この条約はまず歴史認識について言及しており、この中で先住民の地位の確認、植民地化による大量虐殺の歴史、そして植民地化の最初の20年で先住民の人口が90%減少したことを明記している。また、制度的には州政府の意思決定過程への先住民の参加が盛り込まれている。具体的には、先住民を代表する常設の諮問機関「ゲルング・ワール」(先住民のグループの1つでありヴィクトリア州ギプスランド地方で生活するグナイ・クルナイの言葉で「槍の先」の意)が設置され、この機関が州政府や州議会に助言や情報提供を行い、州に責任を問うことができるとされている。その他、教育カリキュラムの改定や地名の先住民言語への置き換えなども言及されている。

この背景には、18世紀後半のオーストラリア植民地化から始まる先住民に対する差別と迫害の歴史がある。20世紀前半まで入植者とその子孫は先住民に対して大量虐殺を行っていた。その総数について正確に推定することは難しいが、信頼できる記録や資料に基づく分析では少なくとも438件の大量虐殺があり、10,657人が犠牲になったという。このほか、入植者が先住民の使う井戸に毒を入れたり、毒入りの食料を先住民に渡したりすることもあった。また、女性の先住民に対する性暴力や性的搾取も行われていた。大量虐殺については1920年代まで行われたことが記録されている。

1967年の国民投票により先住民は完全な市民権が認められたが、その後も先住民の高い投獄率や子どもの引き離し(※2)の多さなどの点から、遠回しな差別が未だ残っていると指摘されている。なお、今回の条約は先住民代表議会とヴィクトリア州政府の間で結ばれたものだが、オーストラリアの他の州や連邦政府はまだ先住民と正式な形での条約を結んでいない

※1 オーストラリアにおける先住民は独自の文化や言語を持つ数多くのグループにより構成される。彼らは、大まかにはオーストラリア大陸に住むアボリジナルの人々とトレス海峡諸島の人々に分けられる。なお、「アボリジニ」という呼称には否定的なニュアンスが含まれているため使用は推奨されておらず、その代わりとしてオーストラリアでは「ファースト・ネイションズ」などの呼び方が提唱されている。

※2 子どもの引き離しについて、オーストラリアで1910年から1970年頃まで行われた隔離政策の影響が指摘されている。この60年の間、同化政策の一環で当局などが先住民の子どもを親から引き離し、施設や先住民ではない家庭で育てるという隔離政策が取られていた。家族から引き離された子どもたちは先住民としてのアイデンティティを奪われ、性的、身体的、精神的な虐待を受けた者も多くいた。彼らは「盗まれた世代」と呼ばれ、現在も続く文化的、経済的、社会的な世代間の断絶の原因となっている。

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2023年にオーストラリアのメルボルンで行われた、先住民との条約の締結を求める集会(写真:Matt Hrkac / Flickr [CC BY 2.0])

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