GNVニュース2025年8月8日
2025年7月31日、エルサルバドルの立法議会は、大統領の再選回数制限の撤廃、任期の5年から6年への延長、第2決選投票の廃止など、政治・選挙制度に関する憲法改定案を、国民参加や十分な議論を欠いたまま急速な手続きで承認した。この迅速さの背景には、2024年5月に憲法改定の手続きが簡略化され、それまで必要だった「2期の議会承認」が「1度の議会承認」のみで済むようになったことを始め、立法議会議席の9割を占めるナジブ・ブケレ大統領率いる現与党の新思想党が、国民からの高い支持を背景に権威主義的な法改定や憲法改定を推進していることがある。
エルサルバドルは長年「世界の殺人首都」として知られており、ブケレ氏は2019年に、貧困とギャングによる治安の悪さを解決できなかった伝統的な右派と左派に代わり、52%の得票率で大統領選挙を勝利した。ブケレ氏は広範なメディア戦略を駆使する政治家であり、2021年には新思想党が議会で過半数を大幅に超える議席を獲得した。これによって、ブケレ氏に批判的な裁判官や検察官を更迭することが可能になり、司法の独立性が著しく損なわれることとなった。今回焦点となった大統領任期延長等の改憲に関しても、ブケレ氏の政党が任命した判事が法を再解釈し、大統領への再立候補が可能となったことが影響している。
2022年3月には、今もなお続く緊急事態宣言が発令され、ブケレ氏による強硬な治安対策と統治が成された。これにより、殺人率は2015年の10万人あたり106人から大きく減少したとされている。治安改善によりブケレ氏は国民から人気を集めた一方で、表裏一体的に一部基本的人権が停止され、人権擁護活動家や批判者の恣意的な拘束、弾圧、追放、表現の自由の抑圧といった深刻な人権侵害が多発することとなった。
このような憲法改定と権力の集中は、過去にベネズエラやニカラグアで起きた制度改変と類似しており、人気を背景にした指導者が民主主義の仕組みを徐々に弱体化させて独裁体制へと進む危険が指摘されている。人権侵害や十分な熟議を経ずに市民参加の機会を奪う権威主義的な手続きの横行は、市民社会や野党から「民主主義の死」と批判されている他、国際人権団体からも問題視されているが、ブケレ氏はこれに反発している。
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エルサルバドルのナジブ・ブケレ大統領(写真:Casa Presidencial El Salvador / Wikimedia Commons[CC0 1.0])




















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