「製造される銃、進水する軍艦、発射されるロケットはすべて、最終的には飢えている人や、食べ物がない者、凍えている人や、服を持たない者からの盗みを意味している。武装したこの世界では、お金だけが消費されているのではない。労働者の汗、科学者の才能、子どもたちの希望が消費されているのだ。」
これは世界平和を訴える見識者や活動家による言葉ではない。1953年にアメリカ大統領に就任した元陸軍参謀総長であるドワイト・D・アイゼンハワー氏が発した言葉である。1961年の退任演説では、アメリカの政権、議会、国防総省、そして軍需産業の密接な関係が、 アメリカの国内政策および対外政策に多大な影響を及ぼすことに警戒する必要性があると訴えた。同氏は、政権、議会、国防総省、そして軍需産業の関係を「軍産複合体」と呼んだ。
アイゼンハワー氏は、軍人としても、大統領としても、いわゆる軍産複合体の当事者として指揮をとっていた側面があった。しかし、同氏の警告には、彼自身がそのような役割を果たしてきたからこその説得力があろう。軍産複合体という言葉が使われるようになってから60年以上が経ったが、現在の軍産複合体の実態はいかに変化したのか。
現在の軍産複合体は、国防総省の予算も軍需産業も大きく膨れ上がり、アイゼンハワー氏が示した懸念を上回っているといえる。軍産複合体は、軍備、武器貿易、戦争から利益を得る組織や個人によって構成されている。世界の多くの国で軍事・防衛予算が増大しているが、その背景には軍産複合体という仕組みがあるのだ。一方、日本では、軍産複合体という言葉が広く一般に使用されているとは言い難い。その背景として考えられるのが、世論形成に大きな役割を果たす報道である。そこで本記事では、軍産複合体の実態について概説し、その上で、軍産複合体に対する日本での報道ぶりについて検証する。
目次
軍産複合体の概要
軍産複合体という言葉が使用される前からも、戦争が生み出す利益について警鐘を鳴らしていたのは、アメリカ海兵隊のスメドレー・バトラー元少将である。バトラー氏は、中南米や中国などで、長年アメリカの戦争に参戦していたが、退役後は反戦運動に加わった。同氏は、1935年に出版された雑誌で、「私は海兵隊に33年と4ヶ月いたが、その大半は大企業、ウォール街、銀行の高級用心棒だった。資本主義のためのゆすり屋、ギャングスターであった」と語り、同年には、書籍『戦争はいかがわしい商売(War Is A Racket)』も出版した。
アイゼンハワー氏による「軍産複合体」発言の後、アメリカでは、軍需産業、国防総省、政権・立法機関の関係が「鉄の三角形」として描かられるようになった。「鉄の三角形」の仕組みは以下の通りだ。武器やその他の備品・サービスを国防総省に提供する民間企業(軍需産業)は、より多くの商品を売るため、国防総省に武器の必要性を訴えるといった営業活動をする。一方、政権・立法機関は、国防総省の予算配分を決め、武器の製造、使用、輸出などに関する規制を決める。そこで軍需産業が、国防総省に配分される予算を増やし規制を緩和するために、政権・立法機関の関係者に対して政治献金やロビー活動を行う。アメリカでは、国防総省に配分される予算増加に賛成の票を投じた議員は、反対する議員よりはるかに多くの政治献金を軍需産業から受け取っていることが明らかになっている。
なお、軍産複合体の仕組みはアメリカ国内の政治・経済問題にとどまらない。軍需産業は、武器の輸出入や他国に対する軍事行動・軍事支援によっても発達する。そのため、国内の軍需産業の営業活動に、自国の政府が加わることも多い。
個人レベルにおいても、軍産複合体の当事者がつながる側面もある。軍需産業と国防総省との間に現役の職員が出向するケース、または退役軍人は軍需産業に転職するケースがある。アメリカでは、80%の将軍が退役後に軍需産業に転職するというデータもある。ロイド・オースティン国防長官のように、鉄の三角形の3部門すべてにおいての職務経験を有する場合もある。オースティン氏は陸軍出身だが、退役後は軍需産業の企業に務め、2021年に国防長官として政権に加わった。さらに、アメリカの議員の多くは、軍需産業の株を保有する。議会で国防費増加や武器輸出増加を決定したり、軍事行動に踏み切る決断を下したりする場合は、軍需産業の株価が上昇する可能性が高いが、株価が上昇すればその株を保有する議員は個人レベルで利益を得ることになる。
軍産複合体の概念は、国防費も軍需産業も規模が圧倒的に多いアメリカに対して適用されてきたことが多いが、軍需産業を有すればいずれの国においても当てはめることができる。現在国防費世界2位の中国において、10年以上前から軍産複合体の台頭が指摘されてきた。また、数年前からは、欧州連合(EU)における軍産複合体に関する分析が頻出するようになっている。同じヨーロッパでも、冷戦後に一度衰退したロシアの軍産複合体は、近年新たな成長がみられる。その他、イスラエルはアメリカから多大な軍事支援を受けており、アメリカの軍産複合体と密接な関係にあるが、独自の軍産複合体もイスラエル国内で大きく発展している。日本においても、国会議員とその関係者による軍需産業の株保有や、与党に対する軍需産業からの政治献金が報告されている。
拡大された軍産複合体:MICIMATT
軍産複合体は、政権・立法機関、国防総省、軍需産業の密接な関係にとどまらない。国防費、武器貿易、戦争をめぐる行動には、他の当事者も関わる。
その中で興味深いのは、非軍需産業の民間企業の存在である。これらの企業は、直接武器製造を行なわないが、軍産複合体に間接的に関係する。例えば、金属など武器の原材料や電子部品を製造するメーカーがあげられる。また、建設業者や給食、クリーニングなどのサービス業者は、軍基地の建設や運営に関わる。さらに、アメリカが他国に侵攻・占領する場合、建設やインフラに関わる業者は、アメリカによる介入後の破壊された街やインフラの復興作業を請負う。銀行や投資信託会社などの金融機関も、戦争とその後の復興から大きな利益を得る場合もある。このように、国防総省や軍需産業から恩恵を受ける非軍需産業は、多岐にわたる。
一方、一国の政治に対する軍の影響力が強い国では、軍が運営する企業が民間企業の領域に進出することもある。エジプトでは、軍が運営する建設業者が、政府の多くの委託契約を獲得する。パキスタンでは、退役軍人のために設置された企業が、肥料やコーンフレークなどを製造している。
諜報機関や情報を扱う民間組織も、軍産複合体と関係している。例えば、軍事目的にも利用される衛星技術関連企業や、サイバーセキュリティーなどに関わる情報通信技術企業をはじめ、コンサルティング会社や、アマゾン、グーグル、マイクロソフト、オラクルといったビッグテック企業も、国防総省の事業を請負う。
大学などに所属する研究者は、武器の技術にも関わる場合があるほか、政府の国防政策や政府が推進する偽情報対策などにおいても軍産複合体との関係を有する。さらに、外交・安全保障を専門とするシンクタンクの多くは、軍需産業や国防総省などから事業運営費または助成を受けている。これらシンクタンクが国防費の増加や政府の軍事介入に対して肯定的な見解を示すことが多いと指摘されるが、それは軍需産業から助成を得ているためであるともいわれる。
また、報道機関の軍産複合体との関係についても指摘される。政権、国防総省、諜報機関などの政府機関は、報道機関にとっては主要な情報源になっている。そのため、自国政府の発信する情報や見解を問わずに復唱する場合が多い。また、自国政府が報道機関の発信に対して圧力や規制をかける場合もある。さらに、国防総省や諜報機関の元職員がゲストとしてニュース番組に出演したり、報道機関に転職したりするケースもみられる。
エンターテイメント業界も、軍産複合体との関係を有する。戦争を題材にするハリウッド映画の多くは、国防総省から様々なレベルでの協力提供を受ける。その代わり、国防総省が映画の脚本に手を加えることができるとの報告もある。また、軍需産業がエンターテイメント業界に関わることがある。2023年には、アメリカの武器メーカーであるジェネラル・ダイナミクス社が、アメリカ軍のドローン操縦士を題材としたオペラのスポンサーとなった。
アメリカの中央情報局(CIA)に長年務めたレイ・マクガバン氏は、拡大された軍産複合体のことを「軍産・議会・諜報・メディア・アカデミア・シンクタンク複合体」(MICIMATT:ミキマット)と呼称した。
軍産複合体から生まれる問題
しかし、軍産複合体が原因で生じる問題は多い。税金の無駄遣いがその一つである。軍産複合体の原動力のひとつに、拡張を目指す軍需産業があると言えよう。政府が国防費を抑えるのではなく、なるべく高額な武器や備品を購入する傾向がみられる。当然、国防費がどの程度必要なのかを客観的に定めることは難しい。しかし、世界各国では、質の低いまたは不要な武器や備品が、高い金額で取引される事例が数多く報告されている。
また、国防費増加を正当化するために、雇用の創出・拡大が強調されることも多い。しかし、税金を国防費よりも教育や保健医療などの社会部門に割り当てたほうが多くの雇用につながるとの指摘がある。
国防に関わる課題は国の死活問題としてみなされ、機密性も高い。そのため、武器開発や売買は、必要とされている金額を含め、透明性が低い。そこで、武器開発や売買は不正や腐敗が生じやすい環境となる。契約を成立させるため多くの賄賂が交渉の場に用いられるともいわれる。実際、世界のあらゆる貿易にみられる腐敗の40%に武器貿易が関わっているという報告もある。
また、国内で軍需産業を拡張させるために、「脅威」の存在が必要となる。無論、各国に対する脅威は実際に存在する。しかし、軍産複合体の一環で、政権、防衛省、シンクタンク、報道機関などによって脅威が誇張されすぎる様が度々指摘されている。
さらに、他国に対する武力行使も復興作業も、自国産業に利益をもたらすように、軍産複合体は、問題を「生み出す」ことでも、問題を「解決する」ことでも、利益を得られる。近年西側諸国では、従来の安全保障領域である陸、海、空、宇宙、サイバーに加え、「認知」領域を、新たな「戦場」として捉えるようになった。偽情報などが認知領域の対象となっており、いわゆる偽情報対策産業までが成長しつつある。しかし、「ツイッター・ファイルズ」と呼ばれるツイッター社の内部から流出された情報が示すように、偽情報対策の名目で行われている取り組みは、国家権力にとって都合の悪い情報を情報空間から排除するという側面も無視できない。偽情報対策に関わる各アクターの関係を「検閲産業複合体」と呼ぶジャーナリストもいる。
報道されない軍産複合体
これまでみてきたように、軍産複合体は、国防費の増大をはじめ、軍備競争、国家間の対立、武力紛争に影響を与える。では、日本の報道において、軍産複合体がどのように取り上げられているのか。朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の10年分(2013年7月〜2023年6月)の軍産複合体に言及した報道を分析した(※1)。
まず、「軍産複合体」という言葉が3紙の報道に登場したのは、毎日新聞26件、朝日新聞17件、読売新聞5件となった。平均して、毎日新聞では年に2回程度、読売新聞では2年に1回報道されたということとなり、軍産複合体の規模とそれによってもたらされる問題の重大さの割に報道量が少ないと言えよう。
さらに、軍産複合体という言葉が記事の中で言及されたとしても、報道の内容が 読者の理解を促す軍産複合体の仕組みに関する内容となっているとは限らない。読売新聞において、軍産複合体に言及した記事5件中4件は、ロシアの軍需産業を表す言葉として言葉が用いられているにとどまり、軍産複合体という仕組みや各アクターの関係性についての説明はなかった。朝日新聞の17件中8件は、ロシアや中国の軍需産業やそれらに対する他国の制裁に関する内容であった。これらの記事以外には、軍産複合体という言葉が、軍産複合体という仕組みまたは各アクターの関係性を紹介するために使用されている記事もあるが、そのほとんどが軍産複合体の実態について深堀することはなかった。唯一、朝日新聞が軍産複合体によって生じる問題を取り上げた2023年1月の記事(2023年1月6日)は、アメリカの核兵器更新計画ついて語った広島平和文化センターのスティーブン・リーパー元理事長へのインタビューであった。
毎日新聞が報じた軍産複合体に関連する記事のうち数件は、軍産複合体の仕組みに触れた。例えば、2013年のアメリカに関する記事は、アメリカの伝統的な軍需産業と政府との関係に加え、諜報機関と民間企業も軍産複合体の一環となっていると指摘した(※2)。その他に、戦闘機F35の製造とアメリカ軍需産業からの政治献金の問題(※3)や、アメリカの核兵器更新計画を推進する軍産複合体の問題(※4)を取り上げる記事も確認された。
朝日新聞および毎日新聞の報道の中には、アメリカ国防総省、軍需産業、議会の関係について厳しく批判する記事も確認された。しかし、軍産複合体を記事全体の中心的テーマとした記事はいずれの新聞にも掲載されず、前述の朝日新聞および毎日新聞の報道は、軍産複合体の問題の一部を断片的にしか把握できない内容にとどまった。一方、読売新聞の報道では、軍産複合体について批判的な捉え方をした記事は確認されなかった。同紙の報道の中で、政府と軍産複合体に触れた記事は1件(※5)確認され、その中でアメリカのドナルド・トランプ前大統領と軍産複合体との付き合い方について紹介された。
軍需産業に関する日本の報道
軍産複合体という言葉こそ用いられていないものの、各紙には、各国の軍産複合体を構成する各アクターの関係性とその問題に触れる記事が多く掲載されている。そこで、「軍産複合体」という概念を「軍需産業」に広げ、各紙の10年分(2013年7月〜2023年6月)の報道を分析した(※6)。
興味深いことに、軍産複合体に言及した報道量と比較し、軍需産業に言及した報道量が大きく増えた。読売新聞が「軍産複合体」に言及した記事は、10年間で5件のみであったが、「軍需産業」に言及した記事は132件確認された(※7)。
これら記事の内容の大半が、武器貿易をめぐる国家間の取引や制裁などの規制、または各国の軍需産業の成長や傾向に関する内容であった。例えば、中国の軍需産業における「軍民融合」に関する記事や(※8)、スイスのウクライナに対する武器輸出の議論を扱う記事(※9)である。また、日本政府が2014年に武器輸出三原則に代わる新たなルールを閣議決定される予定を受け、日本の武器輸出をビジネスチャンスとして捉え、肯定的に取り上げる記事が、読売新聞では多くみられた(※10)。一方、日本の複数の武器メーカーによる防衛省への不正請求を問題視する記事は1件にとどまった(※11)。
読売新聞が軍需産業に言及した132件の記事が対象とした国についても調査した(※12)。軍需産業が登場した記事で最も言及された国はロシアで、記事の24%を占めていた。2位は中国(17%)、3位はアメリカ(15%)、4位はウクライナ(13%)だった。西ヨーロッパ諸国を合わせても記事の11%程度だった。全世界の軍事支出では、アメリカが39%、中国が13%、ロシアが3.9%を占めている。世界の武器売却では、アメリカの企業が占める売却価格の割合は51%である。アメリカが軍事支出及び武器売却いずれにおいても大きな存在感を示しているにもかかわらず、読売新聞は、アメリカの軍需産業よりロシアと中国の軍需産業に対する注目していることがわかる。
毎日新聞は、3紙の中でも、軍産複合体あるいは軍需産業に対する注目度が最も高く、批判的な姿勢を示していた。軍需産業に言及した毎日新聞の記事数(196件)は、朝日新聞(149件)と読売新聞(132件)を上回っており、その中で、数は少ないものの、ある事象や政府の意思決定を、軍産複合体の問題に結びつけて報じる記事もあった。例えば、ドローンに関する2023年の記事では、ロシアによる「ウクライナ侵攻が多大な犠牲を生む一方で、各国の軍需企業にとって大きなビジネスチャンスになっているのは冷徹な事実だ」と掲載する記事(※13)があった。日本の武器輸出に対し批判的な見方を示す記事もあった(※14)。一方、アメリカの国防費増加に関する2017年の長文記事では、軍需産業への言及は少なく、同産業への刺激と雇用創出につながるという肯定的な主張のみが見られた(※15)。
朝日新聞が軍需産業に言及した記事の中には、軍需産業と政府の関係にみられる問題を指摘する批判的な内容が含まれるものもあった。例えば、日本の武器輸出三原則に関する2013年の社説では、「世界の武器取引に目を向ければ、軍需産業が政府高官にわいろを渡し、不要な兵器を買わせるといった例も目につく」という記述があった(※16)。しかし、朝日新聞は、他の2紙と同様、軍需産業にみられる問題を取り上げることが少なく、また取り上げたとしても、記事の内容は具体性に欠ける。例えば、朝日新聞の10年間の報道において、世界の軍需産業によるロビー活動あるいは政治献金に言及した記事は3件にとどまり、その中でもデータが用いられたのは1件のみであった(※17)。ちなみに、少なくともアメリカの軍需産業によるロビー活動や政治献金に関しては、データの入手は困難ではない。
ロシア・ウクライナ戦争関連報道と軍産複合体
GNVは、これまで、日本の報道機関が権力に寄り添った内容の報道を行う傾向にあること、また、それが日本の国際報道における偏りの原因となっていることを指摘してきた。日本の報道機関が権力に寄り添った内容の報道を行う背景には、報道機関の主要な情報源が政府となっていることをはじめ、外交政策において日本政府や同盟国であるアメリカ政府の方針や姿勢を支持する傾向があると言えよう。
こうした日本の報道機関の傾向や特徴が、ロシア・ウクライナ戦争に関する報道からも透けて見える。アメリカが、ロシア・ウクライナ戦争を通じてロシアを弱体化させることを目標のひとつとし、ロシア・ウクライナ間の停戦交渉を妨げてきたことも報告されている。また、アメリカは2023年6月のウクライナによるロシアに対する反転攻勢を促し、大規模な軍事支援を行なってきている。しかし、アメリカ政府内では、反転攻勢の成果は期待できないという見解が開始前の同年2月時点で示されていた。その内部からの懸念と実際の行動との間にギャップが生じていた。なお、反転攻勢開始から数ヶ月が経った11月現在も、ウクライナ側は成果をあげられていない。
日本の報道機関は、ロシア・ウクライナ戦争における停戦や和平に向けた動きにあまり注目してこなかった。また、2023年6月に始まったウクライナの反転攻勢は成功する可能性が低いことが明らかになってからも、日本の大半の報道は反転攻勢のための軍事支援を支持する立場を表明し続け、反転攻勢への支援が大幅な領土の奪還につながるといった期待を寄せてきた。例えば、読売新聞は2023年9月21日付の社説で、「ウクライナ軍は一部の地域でロシア軍の防衛線を突破し、領土を奪還しているが、反転攻勢の戦果はまだ限定的だ。米欧が軍事支援を継続、拡大していくことが欠かせない。」と主張した。テレビのニュース解説番組でも同様である。例えば、2023年7月24日に放送されたフジテレビのプライムニュースは「ウクライナ軍 突破口のカギを分析」をテーマに、ウクライナによる反転攻勢が成果をあげるために何が必要かが分析された。
ウクライナへの積極的な軍事支援を促す日本の報道の背景には、報道の主要な情報源となる軍産複合体の関係者の影響がある。例えば、上述したプライムニュースの番組でゲスト出演していた専門家の多くは、防衛研究所および元陸上自衛隊の関係者だった。そのうち、元陸上自衛隊の関係者に関しては、現在「防衛産業」関連企業の顧問を務めている(※18)。その他にも、「防衛産業」関連企業の戦略アドバイザーや顧問となっている元自衛隊関係者が、度々新聞やテレビ番組を通じて、ロシア・ウクライナ戦争に関する見解を発信している。なお、これらの専門家がメディアに登場する際、元自衛隊の関係者としてのみ紹介されることがほとんどであり、現在の役職は紹介されないことがほとんどである。
まとめ
以上から、日本の報道機関は、軍産複合体ともたらされる問題を軽視してきたと言わざるを得ない。なぜ世界各地で国防費が増大しているのか、なぜ国家間対立が深まるのか、なぜ武力紛争が長期化するのかといった問いに対する答えを、報道から導き出すことは難しい。そこで、各国に潜む巨大な軍産複合体は、ひとつの手がかりとなろう。
世界が軍備拡張へと向かう今、冒頭で紹介したアイゼンハワー氏の言葉は、重要な示唆となるかもしれない。
※1 3社各紙のデータベース「朝日新聞クロスサーチ」(朝日新聞社)、「毎索」/(毎日新聞社)、「ヨミダス歴史館」(読売新聞社)を使用。本社の本紙を選択し、朝刊と夕刊を対象とした。読者からの投稿や記事でない言及は分析の対象にしていない。
※2 毎日新聞「暗視国家アメリカ:/4 機密管理に黄信号 情報技術頼り民間委託拡大 」2013年7月27日。
※3 毎日新聞「風知草:F35と政治=山田孝男」2017年12月4日。
※4 毎日新聞「米国:核弾頭の運搬手段強化 NPR、3本柱の更新明示 ICBM・戦略原子力潜水艦・戦略爆撃機」2018年2月7日。
※5 読売新聞「トランプ氏 軍首脳批判 将兵の支持低下 焦りか」2020年9月22日。
※6 検索に使用したキーワード:「軍需産業」「軍事産業」「軍需企業」「軍事企業」。
※7 「防衛産業」にキーワードを変えてみると、259件の記事がさらに増えたが、その大半が日本国内の産業の内容でありこの記事では分析の対象にしていない。
※8 読売新聞「『価値観外交』を推進 韓国と欧州 関係強化鮮明」2023年6月7日。
※9 読売新聞「スイス 揺らぐ中立 国内外から圧力 『ウクライナに武器』議論」2023年6月6日。
※10 読売新聞「[社説]武器輸出新原則 安全保障の観点を重視した」2014年3月13日。
※11 読売新聞「防衛産業 PR作戦 各社、生産現場を公開」2014年1月29日。
※12 同記事に複数の国の軍需産業に関する言及があった場合、国の数で割ってカウントした。
※13 毎日新聞「『侵攻』が変えた世界:ドローン戦争、現実に」2023年3月3日。
※14 毎日新聞「そこが聞きたい:防衛装備移転三原則 武器輸出反対ネットワーク代表・杉原浩司氏」2017年3月16日。
※15 毎日新聞「揺れる世界:トランプ・ショック 米国防費1割増「歴史的」 「力」で他国圧倒 雇用創出の狙いも」2017年3月1日。
※16 朝日新聞「[社説]F35部品輸出 三原則を空文にするな」2013年3月2日。
※17 朝日新聞「(米国核戦力 現場から:上)雪原の地下、潜むICBM」2021年5月5日。
※18 戦後日本は、憲法のもと「専守防衛」の立場をとっており、保持する部隊を国防軍や軍隊と呼ばず自衛隊としている。そのため日本政府は、一般的な軍需産業を「防衛産業」としているが、当該産業は、戦闘機、軍艦、戦車等の軍事装備の購入やメンテナンスなどに関わっているため、本記事では、他国の軍需産業と同様のものとして扱っている。
ライター:Virgil Hawkins
グラフィック: Mayu Nakata
軍産複合体って聞いたことない。
報道されないから知らないんだな。
こういうのをもっと報道してほしい!