気候変動は現在人類が直面する、最も大きな課題の一つだ。自然災害や環境破壊、食料不足などの様々な深刻な問題と密接に関連している。こうした気候変動の深刻度に見合った報道をメディアが出来ていないことを危惧し、こうした状況を改善しようと「気候報道を今(Covering Climate Now)」という国際運動が行われている。これは気候変動に関する報道量を増やし、その質の改善を目指そうとする運動だ。世界各地から460以上の報道機関が参加し、参加機関が記事を共有・転載などして協力するネットワークを構築している。GNVもこの運動に参加しており、気候変動について積極的に発信をしている。
この運動に関連して、今回GNVが取り上げるのは、プラスチックゴミについてだ。プラスチックは石油が原料であることから、生産時やゴミとして燃やす時に二酸化炭素を排出し、地球温暖化を促進する効果がある。また一度使用されると、何万年経っても分解されず、地球環境や生物の体内に残り、生態系の破壊にも繋がるという点で、環境破壊や気候変動と密接に関係している。ここでは、同じく「気候変動を今」の運動に参加しているニュースサイトから2つの記事を紹介する。1つ目は、ニュースサイト「グリスト(Grist)」から、ジョセフ・ウィンターズ氏の「高所得国が、想定の2倍ものプラスチックごみを、低所得国に輸出していたことが明らかに」である。この記事では、高所得国から低所得国へのプラスチックの輸出に関する問題点を指摘している。2つ目は、「ハカイ・マガジン(Hakai Magazine)」から、ジャニーン・ぺラルタ氏の「プラスチック袋が海底に残す跡」である。この記事では、海底に沈むプラスチック袋が、深海の生態系を破壊している問題を取り上げられている。

海岸に流れついたプラスチックの容器(写真:Pxfuel [Terms of use])
高所得国が、想定の2倍ものプラスチックごみを、低所得国に輸出していたことが明らかに
《グリスト(Grist)の翻訳記事、ジョセフ・ウィンターズ氏(Joseph Winters)著(※1)》
直近の調査では、「氷山の一角」しか測定できていない。
高所得国は長い間、廃棄やリサイクルのために、廃棄物を国外に送ってきた。その中で、低所得国に対して送られてきたプラスチックの量が、これまでの想定よりもはるかに多いということが、独自の専門家チームの調べで分かった。
2023年3月に発表された新しい調査報告によると、世界の廃棄物取引に関する国連のデータは、繊維製品、汚染された紙ベールなどに含まれる「隠れた」プラスチックを考慮していない。そのため、欧州連合(EU)、日本、イギリス、アメリカから低所得国へ送られるプラスチックの量は、年間180万トンも、実際の値よりも少なく計上されていたのだ。この報告の著者らは、低所得国では輸入業者が管理しきれないほどのプラスチック廃棄物を投棄したり焼却したりすることが多く、それが低所得国の公衆衛生と環境に大きな影響をもたらすと述べている。
非営利団体国際汚染物質廃絶ネットワーク(IPEN)の科学技術顧問であるテレーズ・カールソン氏は、「これらのプラスチックから出る有毒化学物質が地域社会を汚染している」と述べている。IPENは、スウェーデン、トルコ、アメリカの研究者からなる国際チームとともに、分析を行った。
プラスチック廃棄物取引の規模を示す多くの推定は、「調和された商品説明とコード化システム」を利用している。これは、各商品カテゴリーにHSの文字で始まるコードを割り当て、様々な種類の製品を追跡する国連のデータベースだ。たとえばHS3915というコードは、プラスチックの「廃棄物、削りくず、スクラップ」を指し、世界で取引されているプラスチック総量を示すために、研究者や政策立案者に用いられている。しかし、このHS3915には、他の製品カテゴリーに含まれる大量のプラスチックが含まれていない。つまりこの統計データは、実際の値よりもはるかに小さい値しか反映しておらず、プラスチック廃棄物の氷山の一角に過ぎないということが、新しい分析から分かった。

廃棄を待つ大量のプラスチックゴミ(写真:Maggie Jones / Flickr [Public Domain Mark 1.0])
他にも、HS5505というコードは廃棄された衣料品を指すが、全繊維製品の60~70%が何らかのプラスチックでできているにも拘わらず、プラスチック廃棄物としてカウントされないことが分かった。また、中古の衣類やアクセサリーを指すHS6309は、国連では再利用やリサイクルが前提となっているため、廃棄物とはみなされない。しかし実態は、輸出された衣類の約40%が再生不可能と判断され、廃棄物として埋め立て地に捨てられているのだ。
さらに、分別されていない巨大な紙の束である紙ベールが、リサイクルのために国外に輸送される場合、プラスチックに汚染されていながら、国際的なプラスチック廃棄物取引の試算では見過ごされることが多い。この紙ベールは5~30%のプラスチックが含まれており、除去して廃棄する必要がある。
この2つの製品カテゴリーからのプラスチックを考慮すると、すべての分析対象地域からのプラスチック廃棄物の輸出量は、年間180万トン(紙ベールから130万トン、繊維製品から50万トン)であった。これは、プラスチックの「廃棄物、削りくず、スクラップ」のみを分析した場合の2倍以上もの値である。
さらに、電子機器やゴムなどの製品カテゴリーも、世界のプラスチック廃棄物取引増加に拍車をかけている。データが不十分なため、正確な値を推定することは難しいとカールソン氏は述べているが、これらのプラスチックは、低所得国の廃棄物管理インフラに負担をかけ、大量のプラスチック廃棄物がゴミ捨て場、埋立地、焼却炉で処理されることに繋がっている。
また、廃棄物処理場や埋め立て地では、土壌や水源に発ガン性化合物(PCB)などの化学物質が溶け出す可能性もある。プラスチックの製造には1万種類以上の化学物質が使用されており、そのうちの4分の1は、環境や人々の体内に蓄積され、悪影響を及ぼす可能性があると、研究者は指摘している。報告書では、プラスチックや石油化学産業の中で試用される化学物質について透明性を高め、規制当局がより少ない無害な化学物質を使用することが求められている。

廃棄される大量の衣料品(写真:C-Monster / Flickr [CC BY-NC 2.0])
カールソン氏は、世界的なプラスチック廃棄物取引の全面禁止と、世界で作られるプラスチックの量に対する制限を設けることを求めている。「プラスチック廃棄物をどのように処理するかにかかわらず、私たちは発生するプラスチックの量を減らす必要がある。」と、彼女はグリストの取材で語った。
プラスチック生産を段階的に減らす積極的な行動がなければ、世界は2050年までに累計260億トンのプラスチック廃棄物を排出する見込みだ。そしてそのほとんどは焼却、投棄、埋立地に送られることになるだろう。
プラスチック袋が海底に残す跡
《ハカイ・マガジン(Hakai Magazine)の翻訳記事、ジャニーン・ぺラルタ(Janine Peralta)氏著(※2)》
ゴミの跡は、プラスチックの黙示録の最新の兆候である。
プラスチック汚染は、エベレストの頂上からマリアナ海溝の底まで、いたるところに存在する。それが及ぼす影響は様々で、病原体を運び、野生生物の首を絞め、時には生物の生息地になることもある。しかし、水深1万メートルのフィリピン海溝の底では、プラスチックが海底の生態系を変えつつあることが分かった。
2021年、西オーストラリア大学の海洋生物学者アラン・ジェイミソン氏とフィリピン大学海洋科学研究所の微生物海洋学者デオ・フローレンス・L・オンダ氏とそのクルーは、世界で3番目に深い海溝に潜入した。そこはビニール袋が大量に蓄積されていた。
調査を続けると、深海の海流がビニール袋を海底に引きずり込み、タイヤの跡のような平行線で海底を削り取っていた。ジェイミソン氏は、以前参加した「ファイブ・ディープス探検隊」の調査でも、同じ跡を見たと話す。その探検隊は、大西洋のプエルトリコ海溝、南氷洋のサウスサンドイッチ海溝、インド洋のジャワ海溝、太平洋のチャレンジャー海溝、北極海のモロイ海溝といった場所を調査したものだ。そこでも同じ跡を確認したが、それらがどのように形成されたのかは不明であった。ジェイミソン氏によれば、「深海には直線的に移動するものはない」という。つまり、この跡は人工物によって作られたものだったのである。
ジェイミソン氏とオンダ氏は、これらの跡を「ミュールシュプーレン(müllspuren)」と名付けた。これは、ドイツ語で海底生物が残した跡を意味する「レベンシュプレーン」にちなんだものである。ところが、このミュールシュプーレンが、海底に生物が残したレベンスシュプレンを駆逐してしまったのだ。

海中をさまようプラスチック袋(写真:MichaelisScientists / Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0])
プラスチック袋が海底に与える影響は、深海生物にも及ぶ可能性があるとオンダ氏は言う。多くの深海生物の主な食料源は、海面から落ちてくる有機物である。今回の研究には参加していないものの、南デンマーク大学の生物学者小栗一将氏は、プラスチック袋が海底を引きずられ、堆積物に食い込むと、この希少な食料が埋もれてしまう恐れがあると話している。
またジェイミーソン氏は、これをブルドーザーによる森林の伐採に例えてこう述べている。「木の堆積も葉もすべて残っているのに、誰かがそれを押し倒して平らにしてしまう、その結果、動物たちの生活を一変させるほど、環境が変化してしまったのだ。」
この跡が、深海の堆積物に蓄積される炭素を破壊する可能性も指摘されている。ゴミの跡が、海洋の炭素循環やその他の深海の生態系プロセスに与える影響を正しく理解するには、さらなる研究・調査が必要だ。だが少なくとも今回の調査では、プラスチックが水深1万メートルの海底の環境を変えていることが分かったといえる。
オンダ氏はこう語る。「これらの研究は基礎研究ではあるものの、自然をよく理解し、人間と自然とのつながりを理解するのに役立つ。この研究のことを他の人に話すと、みんなショックを受けるんです。そのショックが人々に反省や気づきを与え、そして何か行動を起こしてくれることを願うばかりです。」
※1 この記事はGNVがパートナー組織として参加する「気候報道を今」(Climate Covering Now)の同じくパートナー組織であるグリスト(Grist)のジョセフ・ウィンターズ氏(Joseph Winters)の記事「Rich countries export twice as much plastic waste to the developing world as previously thought」を翻訳したものである。この場を借りて記事を提供してくれたグリストとウィンターズ氏にお礼を申し上げる。
※2 この記事はGNVがパートナー組織として参加する「気候報道を今」(Climate Covering Now)の同じくパートナー組織であるハカイマガジン(Hakai Magazine)のジャニーン・ぺラルタ氏(Janine Peralta)の記事「Plastic Bags Are Leaving Their Mark on the Deep-Sea Floor」を翻訳したものである。この場を借りて記事を提供してくれたハカイマガジンとぺラルタ氏にお礼を申し上げる。
ライター:
Joseph Winters
Janine Peralta
翻訳:Takumi Kuriyama
挿入されているごみの写真にとても衝撃を受けました。世界全体がごみ問題を理解し、行動を改善していく必要があると強く感じました。