現在世界各地で起きている紛争によって、多くの命が失われている。ここ数年はイエメン、イラク、シリア、中央アフリカ共和国、ナイジェリア、南スーダンでの紛争が特に規模が大きく、2015年の紛争による死者数は16万7,000人とされている。ただこれは紛争にまつわる死の一部でしかない。なぜなら、この数字は直接的な暴力行為によって死亡した人の数であり、飢餓や感染症といった、紛争の副次的な産物による死亡者が含まれていないからだ。実際そういった戦闘以外の理由での死者の数は膨大である。しかし、多くの紛争に対してそれがどれほどの規模に達しているのかについて調査が行われていない。さまざまな要因によってその特定は難しくはあるが、本当の意味で紛争によって命を落とした人が近年世界全体でどの位いるのかは、把握されてはいない状況だ。

破壊された街、アレッポ シリア IHH Humanitarian Relief Foundation Azez, Aleppo (3) ( CC BY-NC-ND 2.0)
ここでは戦闘によらないところで、紛争が勃発した際にどのようにして命を落としてしまうのかを改めて考えたい。
前提として、紛争とは複雑な社会現象である。紛争が起きると、水道や電気、ガス、医療などの社会サービスは停止し、スーパーマーケットなど食料を提供する店舗の営業も停止する。交通網は混乱し、医療従事者がいないばかりか薬も届かない。銃撃戦により物理的なダメージを負うだけでなく、街や村を破壊されることによって生活インフラが破壊されてしまうのだ。その結果、なんとか逃げ切ってもそれ以降の生活を支える食料もなく、怪我の手当てをする医薬品も不足する。衛生環境も悪化していき、感染症も蔓延する。運良く難民キャンプに入ることができても、人口密度の高さやキャンプへの支援不足を原因として、感染症が蔓延することが多い。こうして人は命を落としていく。
実際に近年の紛争は、そういった紛争の間接的な被害による(以下「間接死」)死者数が暴力による(以下「直接死」)を上回る場合が多い。
実際に上の表に挙げられている13の紛争において、コソボ紛争を除いた全てで全死者数の60%以上が間接死だ。その中でも特に、第二次世界大戦後世界最大の紛争であるコンゴ民主共和国における紛争は、1998年8月から2007年4月までに約540万人の死者を出したが、その内直接死は10%以下で、90%が間接死だという統計がある。紛争はいまだに部分的に続いているが、死者数に関する調査はもう行われていない。 一方コソボ紛争で間接死がほぼ皆無だったのは、紛争前の生活インフラの充実度や生活水準が高かったことや、国内外の避難先における社会保障サービスが充実していたことで、危機に対する対応力が比較的あったことも理由としてあるが、アメリカやNATOの介入に至るまでに国際社会の注目を集めたこの紛争に対して、多くの人道支援が施されたことが大きい。コソボとコンゴ民主共和国が共に紛争下にあった1999年、1人あたりの援助額は前者が207米ドルに対して後者は8米ドルと、その差は歴然としている。 見方を変えれば、紛争における間接死は、社会インフラの整備や生活水準の向上に加え、人道支援によって防ぐことのできるかもしれない死、ということができる。紛争による不条理な犠牲を防ぐための重要なファクターとして、必要とされる人道支援は近年増加している。
Financial Tracking Service のデータをもとに作成
国連人道問題調整事務所のデータ によると、国連は、2016年は12月現在、全世界における支援対象者約9,600万人を援助するための必要額は約220億ドルだとしている。これは支援対象者8,300万人へ必要額200億ドルという去年の数字をはるかに上回る数値である。しかしその大きな必要性に対して、現実的に供給できる支援は限定的だ。今年必要な220億ドルの内、12月8日の時点で達成できたのは53%の100億強ドルである。しかも、何らかの支援を必要としている人口は、支援対象者を超える1億3000万人と推定されている。国連の定める「支援対象者」は、事態の重要性や、支援を届けるためのアクセスが確保されているか、被害が国家主導で支援を施すことのできる範囲を超えているか、といったことを考慮に入れて数えられているからだ。

紛争地域については Conflict Barometerのデータを、人道支援額と達成率については、 Financial Tracking Serviceのデータをもとに作成。
ライター:Yusuke Sugihara
グラフィック:Yosuke Tomino, Miho Kono