2019年、ジョージアは大規模のサイバー攻撃を受けた。その対象にはジョージア政府のウェブサイトや国営テレビ放送局も含まれ、2,000以上のウェブサイトが攻撃されたのだ。これに関して疑いの目を向けられたロシア外務省は一切の関与を否定しているが、ジョージア政府のほか、イギリスとアメリカ政府もロシアによる攻撃であると主張している。
ロシアとジョージアの関係はソ連崩壊以降、不安定な状態が続いている。さらに、ジョージアは近隣の国々の政治や世界を取り巻く情勢にも大きく影響を受けている。ヨーロッパとアジアの境目に位置するジョージア。長年にわたり、ペルシャ、トルコ、ロシア等の周辺国から侵略・占領を受けながら今の国家に至る。今回はこれまでの国際関係にも注目してジョージアを解説していきたい。

ジョージアの首都トビリシ(写真: Bas van den Heuvel/ Shutterstock.com)
ロシアとの関係とそれに伴う問題
まずはジョージアの近代以降の歴史を振り返ってみよう。ジョージアは19世紀前半にロシア帝国に併合され、1918年にはロシア革命を契機に独立を宣言した。そしてその後、1921年にはソビエト社会主義共和国連邦に吸収される。1956年には民衆によってソビエトの政策に対する抗議運動が勃発するも軍に鎮圧されるなどの事件を重ね、1991年、ソビエト連邦の崩壊によって独立を獲得する。ジョージアはこうして今の形にたどり着く。
ジョージアとロシアの間には様々な利益対立が存在するが、その中の一つが領土問題だ。ジョージアには南オセチアとアブハジアというジョージア中央政府の統治が及ばない地域がある。国際的にほとんど承認されていないが、ロシアの強い後ろ盾により独立を宣言した。現在、それぞれ独立した政府を持っているものの、ロシアの被占領地域としての色合いが濃い。
歴史的には、南オセチアという地域は18世紀にはある程度の形ができていたといわれている。1992年には明確に南オセチア自治州がソ連構成国であったジョージア域内で誕生した。もともとコーカサス山脈を挟んだ向こう側にある北オセチアはロシアに属する一方で、オセット人が多く住む南オセチアをソビエト連邦共産党書記長ヨシフ・スターリンが分割統治に利用したことが始まりとされている。ソ連崩壊目前の1980年代になると、ジョージアで民族運動が盛んになり、南オセチアではジョージア化に抵抗する動きが活発となる。1989年、さらに南オセチア内から自治を求める声が広がり、反政府勢力がジョージアと武力衝突。1992年、南オセチアは独立を宣言した。
一方、アブハジアでも同様の混乱が生じていた。1992年、ソ連崩壊後に国家として復活したジョージアは、ソ連に吸収される以前のジョージア民主共和国憲法を採用し、当時ジョージアに編入されていたアブハジアの権利や自治を縮小した。同年、それに対しアブハジアは反発。ジョージアとの間で武力衝突が起きた。これには、南ロシアや北コーカサス、コサック人などからボランティアが救援に駆け付けた。1992年当時のロシア政府はというと、ジョージアの領土保全への支持を表明しつつも、反政府勢力へテコ入れしていた。翌年、ジョージアからの独立を求めるアブハジアの勢力がジョージア軍をアブハジアから追い出した。

1992から1993年での紛争で焼けたアブハジア議会の建物(写真:hélène veilleux/Flickr [CC BY-NC-SA 2.0 ])
さらには1993年、ジョージアはロシアを中心として多くの旧ソ連国で構成された独立国家共同体(CIS)協定に加盟。その後ロシアのCIS平和維持部隊を南オセチアとアブハジアへ派遣することをジョージアは認めることとなった。以来、ロシア政府はそれら反政府勢力に公的給与やインフラの整備など直接的支援を行っている。
以後、政治においては膠着状態が続いたが、2004年、ジョージアでミハイル・サーカシビリ氏が大統領に選出され、領土を取り戻すことを表明した。2006年、対する南オセチアでは、ジョージアからの独立に関する投票が行われ、99%の住民が独立を支持した。さらに大きな変化があったのは2008年。ジョージアはサーカシビリ大統領の命令下で、南オセチアを攻撃した。しかしながらジョージアの向こう見ずな攻撃は南オセチアを支援するロシアの軍事介入によってあっけなく鎮圧された。あろうことか、南オセチアと連携を密にするアブハジアもジョージアを攻撃。これらを経てロシアは南オセチアとアブハジアの独立を一方的に承認した。この紛争はジョージアにとって逆に両地域の分離を一層進める形となってしまったのだ。
ロシアは南オセチアとアブハジアにおける支援を継続しており、両地域の市民にはロシアのパスポートも与えている。現在、ロシアは両地域でジョージアとの境界に違法に有刺鉄線やフェンスを設け、「国境化」を狙う。ロシア側はソ連時代の国境に従って行政境界線を引いたと主張しているが、ジョージア側は境界策定の会議には参加しないと拒否している。そのような行動は事実上の独立を認めることになるからだ。移動の自由への制限は行政境界線の周辺に住む住民にとって大きな問題にもなる。近年、ジョージア側に住む行政境界線周辺の住民は南オセチアとアブハジア当局やロシアの治安部隊から独断的な逮捕や迫害、殺害されたりしている。ジョージア側によると、840人ものジョージア人が違法に境界を超えたとして拘留された。

ジョージアでの生活から切り離され南オセチアから故郷を見つめる農民(写真:Jelger/Flickr [CC BY-NC 2.0 ])
南コーカサスでの国際関係
ジョージアがロシアとの関係に大きく影響されているのは明らかだが、他の国との関係はどうなっているのだろうか。ジョージアのある南コーカサスを構成するもう二つの国、アルメニアとアゼルバイジャンを見てみよう。
まず、コーカサス地方とは黒海とカスピ海に挟まれた地域一帯のことだ。コーカサスはコーカサス山脈を境に北コーカサスと南コーカサスに区分されている。北コーカサスはチェチェン共和国などのロシア連邦の各共和国で構成され、南コーカサスはジョージア、アルメニア、アゼルバイジャンの3カ国で構成される。ここで説明する南コーカサスの3カ国はもともとソ連に属していたが、ソ連崩壊後、それぞれ独立を果たした。ただ、この3カ国へのロシアの影響はまだまだ大きく、各国の外交政策の模索は続く。また、アゼルバイジャンとアルメニア間はジョージアと同じように領土問題を抱えており、ナゴルノ・カラバフという地域を巡って衝突が繰り返されている。詳しくはGNVの過去の記事を参照していただきたい。
アルメニアはロシアを中心とした地域経済連合であるユーラシア経済連合(EAEU)に2015年から参加している。ロシアとアルメニア間は石油などの貿易が増加している。アルメニアはヨーロッパとアジアの境界の国として多方向で外交関係を築くマルチベクトル外交を目指しているが、ロシアへの依存度はまだまだ高い。一方、アゼルバイジャンはトルコと密接な関係にある。EAEUには参加しておらず、ヨーロッパ連合(EU)やアメリカとのつながりを維持しつつ、ロシアとの関係も保ち続けている。ただし、権威主義的性格が見られるため、人権問題などにおいてしばしば欧米諸国から批判を受けている。また、アゼルバイジャンは天然ガスと石油の貯蔵国であり、安定した利益を得てきた。
ジョージアと両国の関係性をみてみよう。概ねにおいて良好であるが、ときとして、その裏にはどちらも大国ロシアの影が垣間見える。まず、ジョージアとアルメニアの関係性である。内陸国であるアルメニアは船荷のおよそ75%がジョージアを経由しており、さらにはロシアからのガスパイプラインを危険にさらす可能性があるため、ジョージアとロシアの対立には敏感だ。一方のジョージアもアルメニアにおけるロシアの外交への圧力や軍事的存在を恐れている。また、両国は現在に至るまで、暴力の発生や大規模な抗議、大統領の早期辞任、紛争など多くの困難を経験してきている。人々の関心が治安や文化遺産、民族問題に向いており、政府は繊細な対立に至らないよう腐心している。

2016年、アルメニアを訪問する当時のジョージア首相ギオルギ・クヴィリカシヴィリ氏(写真:Georgian Government/Flickr [CC BY-NC-SA 2.0])
次にジョージアとアゼルバイジャンの関係についてである。両国は30年に渡って戦略的パートナーシップを結んできた。しかし、双方にとって宗教的遺産であるダビッドガレージという修道院の所有を巡る緊張関係もある。加えて、この2国間の関係を左右するのが大国ロシアと欧米諸国である。ロシアは意図的に、欧米諸国は意図せずしてこの2国間の関係を弱めてしまう可能性もある。2013年には、EUは「民主的移行への努力をした国」としてアルメニア、モルドバ、ジョージアを選んだ。民主的な国家に対する恩賞のような効果を狙ったのかもしれないが、実際のところ、アゼルバイジャンなどの他の国々を疎外する効果をもたらしかねない。アメリカとEUはアゼルバイジャン・ジョージア・トルコを結ぶ世界2位の敷設距離を誇るバクー・トビリシ・ジェイハン(BTC)石油パイプラインのプロジェクトの主導的役割を果たすなどの尽力はしてきている。
地域でのその他の国際関係
さて、ここまでは南コーカサスに注目してきたが、ジョージアにとって重要な近隣国がもう一つある。それはトルコである。トルコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国であり、EUとも強い結びつきを持っていることから、欧米諸国との関係を築きたいジョージアにとって外せない国だ。しかし、最近のトルコとロシアの関係にジョージアは揺らいでいる。トルコは近年、ロシアからミサイルを購入していることもあり、またロシアからトルコや南ヨーロッパにかけて石油のパイプラインを敷く計画にも着手している。大国ロシアとの確執を抱えるジョージアにとってロシアがトルコと友好関係を持つことは不都合である。ただ、2020年に入って以後、トルコとロシアがシリアのイドリブ県を巡って関係が冷え込んだ。これはジョージアにとっては喜ばしい出来事だったかもしれない。
イランの国際関係もジョージアにとっては細心の注意を払う必要がある。ジョージア政府はアメリカ政府と親密な関係にあるとして知られているが、アメリカの外交的立場に大きくあおりを受けることもある。2020年1月、アメリカがイランのガゼム・スレイマニ司令官を殺害したことを受けて、現在のアメリカとイランの対立はジョージアにどのような影響を与えるのだろうか。このことが中東に大きな影響を与えることは確かだが、ジョージアはイランから多くの観光客を受け入れているため、軍事衝突がなくても不和が観光客減少をもたらす。また、ジョージアにとってロシアは何といっても最大の関心事である。ロシアが今回の事件を利用し、世界を巻き込んでアメリカへの反感を高め、コーカサスにおける軍事的存在を強める口実ができることも懸念している。ただし、それは中東の権力バランスを変える可能性もあるので、一概にロシアにとって良いとは言えないという意見もある。いずれにせよ、ジョージアは慎重にアメリカとイランの関係に目を配る必要があるだろう。

ジョージア・イラン間の会議の様子(写真:Georgian Government/Flickr [CC BY-NC-SA 2.0])
NATO加盟について
これまでにみてきたように、ロシアに依存せずに欧米諸国との関係を強化したいジョージアにとって、北大西洋条約機構(NATO)加盟は長年の目標である。全米民主国際研究所(NDI)によると2019年1月の国民調査でジョージア国民の78%がNATO加盟に賛成していることが分かった。これは2013年の調査結果である81%以来の高い数値である。これまでにジョージアはアフガニスタンやイラクへ兵士を派遣するなどNATOの活動へ貢献し、加盟への意欲を積極的に表してきた。そうして2008年、NATOもウクライナとジョージアを最終的にNATOに迎え入れることに合意している。さらに2019年にもNATOは同様の宣言をしているのだが、いまだに加盟のための明確な指針はない。実際のところ、NATO側はジョージアが領土問題を抱えていることやロシアの介入を恐れてあまり乗り気ではないというのがその理由のようだ。

NATOとジョージアによる委員会の様子(写真:Georgian Government/Flickr [CC BY-NC-SA 2.0])
このように、ジョージアはロシアをはじめとする周辺国、中東の情勢の変化から影響を受けやすい。常にアンテナを張ってこれからをどう切り抜けていくのか、またどれほど欧米諸国に接近することができるのだろうか。
ライター:Shiori Tomohara
グラフィック:Saki takeuchi