2022年6月から10月にかけて、パキスタンは国土のほぼ3分の1を水没させる壊滅的な洪水に見舞われた。その結果、1,700人近い死者が出て、3,300万人近くが避難せざるを得なくなった。今回の洪水はあまりに大規模だったため、初めて海軍が救助・救援活動のために内陸部に派遣された。この危機は、大洪水そのものによる人命への直接的な被害にとどまらず、公衆衛生上の危機、食料不安、何百万人の避難民への飲料水の不足、ジェンダー関連の問題などをもたらした。それだけにとどまらず、この洪水は同国の経済危機を悪化させた。
この記事では、まず洪水が発生した原因や経緯を説明し、次にこの多面的な危機を引き起こした気候変動の影響について述べる。後半では、取られた対策について述べ、最後に残された課題についての考察を行う。

2022年の洪水の様子(写真:EU Civil Protection and Humanitarian Aid / Flickr [CC BY 2.0])
インダス川水系:自然の氾濫原
パキスタンは世界で5番目に人口の多い国で、その人口は2億3千万人以上である。繊維、外科器具、スポーツ用品、サービス業が主な輸出産業となっている準工業国である。また、農業は依然として経済生産のかなりの部分を占めている。1947年の独立以前、パキスタンを構成する地域は約1世紀にわたってイギリスの植民地であったため、その影響は政治や文化だけでなく、地域全体の経済活動やインフラにも及んだ。
2022年の洪水がなぜ大規模な危機になったのか、そしてそれはどのように引き起こされたのかを理解するためには、パキスタンの地理と地形を理解することが重要である。ここで鍵になる大きな特徴の一つは、世界最古の文明の一つであるインダス文明の基礎を支えたインダス川流域である。国土の大部分の気候は、乾燥帯から亜熱帯に属するが、歴史的に経済や人々の生活の生命線となってきたのは、国土の平野部を流れるインダス川の水系である。中国のチベット高原から始まり、南はアラビア海に注ぐインダス川は、パキスタン北部にある多くの氷河を水源としている。実際、パキスタンは約7,253個もの氷河があり、極地を除けば世界で最も氷河の数が多い国である。
川の流れに隣接しているのは、人口の大部分が住む平野部である。そのため、氷河の融解による水量の増加によって、また降雨量の多いモンスーン期には、パキスタンは常に洪水の危険にさらされている。イギリスによるインド半島の植民地化とともに、インダス川流域では、川の水を経済や農業に利用することを目的としたインフラ整備が行われた。イギリス植民地時代から現在に至るまで、乾燥した地形が多いこの国では、運河、用水路、掘り抜き井戸、ダムなどの広大な水道施設を通じて、何百万ヘクタールもの農地を灌漑するために水の流れを拡大することに重点を置いたインフラ整備が行われ、それは「世界最大の灌漑システム」と呼ばれている。
インダス川流域に広がるこの広大な灌漑システムは、農業経済の基盤を形成し、耕作可能な農地を増やしたことで、パキスタンを乾燥地帯から大規模な農業経済へと変貌させた。パキスタンは、綿花、小麦、米、サトウキビなどの農作物においては世界生産量10位以内に入る。また、綿花の生産は同国の繊維産業の基幹をなすものでもある。

農家と水路(写真:IWMI Flickr Photos / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
農地の耕作を強化し、生産量を増やすために作られたこの広大な灌漑システムは、増え続ける人口を養うために不可欠なものとなっている。しかし、その灌漑システムは気候変動との関連性が指摘されている洪水やその他の異常気象による被害を段々と吸収しきれなくなってきている。洪水やそれに関連する災害は年々激しさを増しており、2022年の洪水では数千人の死者と数百万人の避難民を出すに至った。
気候変動と歴史的損失及び損害
パキスタンで洪水による大規模な破壊が続いていたころ、同国の気候変動大臣は「地球温暖化は世界が直面する実存的危機であり、パキスタンはその中心地だ」と述べている。人為的な気候変動は、地球の生存と人類の未来をますます脅かしているが、その影響は世界中で平等ではない。グローバル・サウスとも呼ばれる低所得国は、そもそも気候変動の原因となる二酸化炭素の排出量が少ないにもかかわらず、気候変動に対してより脆弱な立場に置かれ続けている。世界で5番目に人口の多いパキスタンは、世界の温室効果ガス(Global Greenhouse Gas:GHG)排出量の1%にも満たないにもかかわらず、気候変動に対して最も脆弱な国のトップ10に入る。一方、グローバルノースと呼ばれる高所得国はこれらの温室効果ガス排出量のほとんどに責任を負っている。G7諸国だけで世界の排出量の4分の1を占めており、G20諸国を合わせると80%近くを占めている。
2022年の洪水に先立ち、この危機はまず大規模な熱波に始まったことがわかっている。南部のシンド州では、夏が始まる前の4月から5月にかけて気温が51度にも達し、当時地球上で最も暑い場所の1つとなった。その結果、干ばつや水不足に加え破壊的な野火が発生し、ただでさえ少ない同国の森林が破壊され、生物多様性が損なわれた。ある試算によると、南部のバローチスターン州では、この野火の結果、森林面積の40%が焼失した。
この未曾有の長期にわたる熱波により、パキスタン北部の氷河の融解速度が高まり、最初結果として北部地域で氷河湖決壊洪水(Glacial Lake Outburst Flooding:GLOF)(※1)が発生した。北部地域で発生した氷河湖の決壊の数は、通常の3倍であった。これらの決壊は、橋やインフラを破壊し、地域社会を危険にさらすことになった。この熱波と氷河湖の決壊に続いてその後、6月から8月にかけて「モンスターモンスーン」による豪雨が発生し、降雨量は全国で30年平均の190%以上、シンド州では466%以上まで増加した。6月から始まったこうした大量かつ長時間の降雨は、2022年の「超洪水」への呼び水となった。

パキスタン北部にある氷河(写真:Imran Shah / Flickr [CC BY-SA 2.0])
気候変動がこれらの異常気象に与える直接的な影響はまだ完全には解明されていないが、気候科学者は、気候変動によって降雨の激しさが国全体で最大50%、被害の大半が発生したシンド州では最大75%増加した可能性があることを明らかにした。気候変動は、パキスタンのような国にこのような異常事態がまた訪れるまでの時間を縮めている。そしてそれこそがこの危機の本質なのである。つまり、異常事態がはるかに頻繁に起こるようになると、救助や復旧だけでなく、復興も制限されるようになる。
パキスタンの気候変動省は、2012年に初めて発足したものの、翌年には部局に格下げされ、その後、2015年のパリ協定(※2)を見据えて、2015年に連邦省庁として復活した。同省は、高所得国に対し、このような異常気象に直面した低所得国を支援する誓約を果たすことで、気候変動を引き起こした責任を取るよう求め続けている。
2022年の洪水:複数の危機
先述したように、パキスタンの洪水は、人命の損失、大規模な人々の避難、同国の人口の15%以上に影響を与えた。ただでさえ不安定な経済は、複数の財政難に見舞われた上に深刻な打撃を受け、ある試算では、2022年の洪水によって同国のGDPが2.2%減少すると予測されている。また世界銀行によると、2022年の洪水による経済損失は300億米ドルを超え、復興費用だけでも160億米ドル以上になるとされている。この金額の中には、国が追加で負担しなければならない気候変動への適応の費用と、将来またこのような事態が起こった時それに対応できる国全体の回復力を構築する費用は含まれない。
同国経済の基幹をなす農業分野だけでも、最も脆弱なシンド州、バローチスターン州、パンジャーブ州の一部で、洪水により84%の農業と82%の家畜が被害を受けた。実際、この洪水によって75万頭以上の家畜が死亡し、乳製品や食肉の生産量が大幅に減少した。さらに、主要な換金作物である綿花の生産量は88%、サトウキビは61%、シンド州では米の生産量が約80%減少したと予想されている。この結果、生活基盤が大きく失われ、食料不安の危機が始まっている。国連開発計画(UNDP)は、この洪水によってさらに900万人が貧困に追い込まれるとまで推定しており、洪水で流れ込んだ水が引いた後も危機は続くと考えられている。
食料不安の危機に加えて、洪水は公衆衛生上の危機ももたらし、農村部と都市部の両方で洪水により流れ込んだ水が停滞し、マラリア、コレラ、デング熱などの水を媒介とする疾病が増加した。また、世界保健機関(WHO)は、洪水により1,400以上の医療施設が被害を受け、洪水被害者へのアクセスや基礎的保健医療の提供が制限されたと推定している。特に女性や子どもにとって危機はさらに深刻化したといえる。洪水の被害を受けた地域の50万人以上の妊婦が緊急の妊産婦ケアを必要としているという事例もある。経済的な生計手段の喪失と脆弱性の増大により、洪水は被災地のメンタルヘルスの危機も増大させ、うつ病やトラウマなど「前例のないメンタルヘルス上の課題」をもたらした。
医療危機に加え、この洪水は、新型コロナウイルスのパンデミックの影響からすでに揺らいでいた教育現場にも影響を与えた。27,000以上の学校が破壊または破損し、洪水によって200万人以上の子どもたちが学校に行けなくなったと推定されている。人口の大部分が読み書きのできない国で、教育へのアクセスという問題がさらに深刻化したのである。
さらに、この洪水はすでに国際収支危機に陥っていた経済を悪化させることとなった。エネルギー輸入コストの増加により、石油輸入代が前年比95%近く増加し、洪水前からすでに24%以上あったインフレ率の上昇していた。これに加わって、この洪水による被害は、同国のエネルギー事情にも影響を与えた。パキスタンでは2022年現在、火力発電所が総発電量の60%以上を占め、次いで水力発電が24%、原子力発電が12%、風力や太陽光、バガス(サトウキビの絞りかす)などの自然エネルギーはわずか3%にとどまっている。 今回の洪水では、多くの発電所が被害を受け、全国的に停電や電力不足が発生した。

2022年の洪水の様子(写真:Julien Harneis / Flickr [CC BY-SA 2.0])
気候の危機:グローバルな対応とローカルな対応
洪水危機が悪化し、同国で国家非常事態宣言が出される中、パキスタンは国際支援の呼びかけを開始した。多くの国や国際機関が支援を約束し、その後、国連が2022年8月に1億6,000万ドルの国連緊急要請(フラッシュ・アピール)を開始、その後、モンスーン後の健康危機や飢餓危機も発生し始めたため、10月に8億1,600万ドルに修正された。2022年9月、アントニオ・グテーレス国連事務総長が洪水被災地を訪問し、この危機を「気候の殺戮」と呼んだことで、危機の大きさが外部世界に対してさらに強調された。グテーレス氏は連帯と支援を呼びかけるとともに、洪水の規模が裕福な国々の行動がもたらした気候変動によって悪化していることを踏まえ、裕福な国々が危機に対する責任を取る必要性を訴えた。
このほか、パキスタン議会は気候変動省が主導する「生きたインダス川」プロジェクトを承認した。このプロジェクトは、パキスタン最大の気候変動対策であると主張されている。このプロジェクトの目的は、インダス川流域の文明、地形、生物多様性を環境破壊から守ることである。気候変動担当大臣は、「インダス川の自然のルートを復活させる方法を見つけなければならない」と述べ、インダス川流域をこのような壊滅的な災害や異常気象が起こりやすくしないような、自然に基づいた解決策や介入の必要性を強調している。このプロジェクトは、インダス川信託基金、河川浄化のための社会起業、回復力のある農業手法など、インダス川全域に及ぶいくつかの介入策で構成されており、インダス水系の生態系を修復・復元し、気候変動に耐性あるものにすることを全体として目指している。
国際舞台では、2022年9月の国連総会の冒頭で、複数の首脳がパキスタンの洪水について語り、気候変動対策への取り組みを強化するよう呼びかけた。この時期に、洪水被害者のための資金をより多く集めるため、またパキスタンの復興支援として、ドナー会議も計画された。この会議は2023年1月にジュネーブで開催され、「気候変動に対して回復力のあるパキスタンに関する国際会議」と題された。同国の災害後の復旧、復興、回復力を高めるプログラムのために、ドナーから90億米ドル以上の拠出が誓約された。

COP27(2022年)(写真:Ministry of Environment - Rwanda / Flickr [CC BY-ND 2.0])
さらに、この洪水は、パキスタン国内に住む被災者の復旧・救援活動に繋がっただけではなく、世界的な気候変動に関する議論にも影響を与えた。パキスタンにおける洪水が気候変動対策にもたらした最も顕著な効果は、2022年11月にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催された 国連気候変動枠組条約締約国会議(COP27)の会合で見られた。パキスタンでの危機は、「損失と損害」(ロス&ダメージ)と呼ばれる問題を表舞台に持ち込んだ。「損失と損害」とは、気候変動によって引き起こされた永久的な損失や修復可能な損害のことで、それらの大部分は二酸化炭素の大量排出者によって引き起こされ、その被害は脆弱な立場に置かれた人々が被るものである。この問題は、COP会議の公式議題に加えられただけでなく、COPで初めて実際の政策採択に繋がった。
低所得国は30年以上前から気候変動交渉に損失と損害の問題を加えることを要求していたが、COP27ではエジプト議長国のもと、パキスタン議長国のG-77+中国グループ(※3)のロビー活動によって、ようやくこの問題の勢いが増した。この問題は、気候変動交渉の中で最も論争を引き起こす問題であると言われており、欧州連合(EU)やアメリカなどの高所得国は、損失と損害に対処するための別個の基金の設立を求める声を拒否し続けていたのである。そして彼らは代わりに気候変動資金制度の下にある既存の資金をこの目的に振り向けるよう主張していた。しかし、パキスタンを中心としたCOP27での激しい交渉により、ついに妥協案が実現することになった。その結果、損失と損害のための独立した基金が創設され、これはCOP27の歴史的な成果とみなされるととともに、低所得国から称賛された。これは気候正義に向けた重要な一歩であったが、その実施に関する重要かつ必要な決定のほとんどは、翌年のドバイでのCOP会議まで延期されることが決定された。
課題とこれから:グローバル・サウスと呼ばれる低所得国
2022年の洪水は、パキスタンの中で最も弱い立場にある人々、つまり、同国で最も貧しい人々や最も疎外されている人々に不均衡な形で影響を与えた。したがって、気候変動に直面した脆弱な立場に置かれた人々の保護とエンパワーメントに焦点を当てることは、このような巨大な課題に対するあらゆる取り組みにとって極めて重要である。ゆえに、どのような政策であれ、気候変動に対して回復力のあるインフラへの投資や技術を、最も必要とされる地域やコミュニティに向けて導入することを目指さなければならない。専門家はこのように、気候変動対策や将来の災害との闘いに、脆弱性や地域の視点を取り入れる必要性を強調し続けている。

2022年の洪水の被災者(写真:EU Civil Protection and Humanitarian Aid / Flickr [CC BY 2.0])
気候ガバナンスを改善し、気候レジリエンス(回復力)、適応、都市計画、気候変動に強いインフラ設計を行政の中心に据えることは、パキスタンの行政に課せられた責務である。そのためには、国、州、地方レベルの合意を経て、膨大な国家的気候レジリエンスプロジェクトを実施し、またそうした政策を横断的に継続し、一貫性を持たせることが必要だとされている。世界銀行の報告書では、パキスタンで気候変動に対する回復力を構築するために、次の5つの優先分野を推奨している。1)スマートで再生可能な農業に向けた農業・食料システムの変革、2) より良い都市計画と回復力のある都市、3)持続可能なエネルギー生成と公共交通システムへの移行、4)人材育成への公正で公平な投資、5)気候変動対策に向けた資金・投資動員の拡大である。
これらの提案はすべて、パキスタンにおけるより良い計画、実施、国内ガバナンスを必要とするだけでなく、歴史的損失や損害に対する責任を考えると、高所得国はパキスタンのような低所得国の脆弱な立場に置かれたコミュニティを保護するための資源の動員に向けて大きな貢献をしなければならない。しかし、高所得国が損害賠償としての支援を拡大するだけでは不十分である。ここで必要なのは、既存の国際的なガバナンス・システム、特に国際通貨基金(IMF)や世界銀行などの国際金融機関や多国間開発銀行の方向転換である。
その例として、バルバドスの首相が提案したブリッジタウン構想にここで言及したい。この構想は、気候変動対策に適した世界金融システムを実現することを目指している。具体的には、気候危機に直面している低所得国が気候変動資金や投資にアクセスできるよう財政スペースを拡大し、そうした投資の資本コストを下げ、自然災害や危機が起こったときに低所得国にとって世界金融システムがより耐性がある状態にすることを意図している。
2030アジェンダ(※4)やパリ協定など、気候変動を減速・停止させることを目的とした主要な政策の進捗は依然として遅れており、一部の科学者は、世界が化石燃料に依存し続け、二酸化炭素排出量が十分に減少していない現状では、2030年までの1.5度目標(※5)を達成することは現実的ではないと述べている。国連環境計画では、誓約や国が決定する貢献(Nationally-Determined Contributions:NDC)を行っても、2030年の予想排出量に対して1%程度の削減しか見込んでおらず、世界は今世紀末には1.5度の目標ではなく、2.4~2.6度の上昇という道を歩むことになる。

気候変動に関する会議(2022年)で話すパキスタン外務副大臣(左)(写真:BMW Foundation Herbert Quandt / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
したがって、2022年の洪水が、パキスタンが直面する最後の気候変動災害とならないことは明らかであり、実際はむしろ、悪化していっているかもしれない。気候変動は、極端な気象現象の規模、頻度、強度を増大させる要因となっている。これは、次の災害に備えるための時間や資源が少なくなることも意味しているのだ。気候変動に強いインフラ投資や適応策を講じなければ、状況は厳しいだろう。
これはパキスタンだけでなく、グローバル・サウスに多く位置する低所得国すべての国が直面している傾向であり、気候変動の破壊的な影響にますます直面すると同時に、その影響に対する回復力を強化するための財政能力が不足している。損失と損害の基金の設立や、高所得国から気候正義を求める声が高まっていることは前向きな一歩であるが、基金やその他の対策がどのように機能するのか、その方法や限界には依然として不確実性が残されている。気候変動適応資金(※6)などの他のタイプの気候変動資金についても、低所得国には高いリスクとコストが存在するため、投資家にとって魅力のない国としてみなされていないことに変わりはない。
したがって、パキスタン、ひいてはグローバル・サウスに多く位置する低所得国全体が進むべき道は、気候正義と、国際金融システムと資源動員に焦点を当てた包括的なアプローチである。そうしたアプローチは、一方では高所得国や国際的金融機関の変革的改革を通じて、他方では、国が直面する財政、計画、設計、インフラの課題に直接取り組む、回復力のあるインフラの修復、建設、計画などの国内ガバナンスを通じて達成される。既存の気候変動資金の大部分を占める「緩和」(※7)だけでは、パキスタンのような国の危機を解決することはできない。しかし、多国間の資金援助や国内のガバナンス改革を通じて、より良い適応と回復力を高めるための努力を結集することで、パキスタンのような国が気候の課題に向き合い、将来の気候リスクを軽減する希望が持てるようになるだろう。
※1 氷河湖決壊洪水は、氷河が溶けてできた湖から、突然の決壊や膨大な水流が発生することで起こる。
※2 パリ協定とは、2015年のCOP21で採択された、二酸化炭素排出量の削減、地球温暖化の1.5度への抑制、気候変動対策のための資金や技術の仕組みづくりを目指す国際条約。
※3 G77(+中国)は政府間組織で、共通の利益を先進国から守るために国際フォーラムで集団的に交渉する低所得国から構成されている。
※4 2030アジェンダとは、2030年までに達成するために2015年に採択された17の持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)を示す言葉である。
※5 1.5度目標とは、地球温暖化を産業革命以前の水準から1.5度以内に抑えることを目指すパリ協定の重要な部分であり、気候変動の最も破壊的な側面から世界を保護するものである。
※6 気候変動適応資金とは、気候変動がもたらす被害や危害などの悪影響を軽減するために、気候変動に対する回復力の創出や適応に投資するタイプの気候変動資金。
※7 緩和資金とは、気候変動を緩和する目的で、環境から排出される二酸化炭素や温室効果ガスを削減するために投資するタイプの気候変動資金。
ライター:Shah Sardar Ahmed
翻訳:Natsumi Motoura
グラフィック:Yudai Sekiguchi
大変ですね。
世界はパキスタンへの気候被害を補償すべきです。