中央アジアで水と電気の危機が起こりつつある。旧ソ連時代に構築され、この地域の国家間での資源共有を目的とした制度は崩壊した。その結果、恒常的な停電が生じている国や灌漑用水を確保できない国が存在する。

ソ連時代のアパート(キルギス・ビシュケク)。写真:Philip Mowbray / Shutterstock.com
中央アジアにおいて水資源は貴重なものである。この地域は世界でも有数の「大陸度(気候の大陸性を表した数値)」を示すが、これは1年間の気温変動が大きいという事に加え、地域の水資源が限られたものである事を意味している。高い気温と低い湿度のために蒸発率は高く、このために中央アジア地域の大部分が砂漠気候やステップ気候となっている。
また中央アジアは気候変動の「ホットスポット」と言われており、水の供給に関して深刻な事態が生じると予想されている。大部分の地域に供給される水資源は、パミール高原や天山山脈から構成される山岳地帯の上流地域に端を発する。
これらの山岳地域では氷河や積雪が水資源を貯え、季節によってそれが溶け出してくる。夏には水が農業用灌漑に必須となるが、この時期には氷河や積雪の両方から水が得られる。しかしながら、地球温暖化の影響で積雪や氷河が形成される期間が短くなり、また水が溶け出してくる期間はより長くなっている。
この地域において水資源が重要である別の理由としては、中央アジアの経済成長と急速な人口増加が挙げられる。アムダリア川とシルダリア川からは大量の水資源が灌漑用水として取水され、それが1960年代から継続しているアラル海の枯渇を助長している。両河川は昔からアラル海の水源となってきた。
![アラル海近くに打ち捨てられた船。写真:Zhanat Kulenov [CC BY-SA 3.0-igo]、via Wikipedia Commons](http://globalnewsview.org/wp-content/uploads/2017/01/The_Aral_sea_is_drying_up._Bay_of_Zhalanash_Ship_Cemetery_Aralsk_Kazakhstan.jpg)
アラル海近くに打ち捨てられた船。写真:Zhanat Kulenov [CC BY-SA 3.0-igo]、via Wikimedia Commons
現在ではこうした水資源が中央アジア諸国間の緊張関係を高める理由の一つとなっている。水資源管理を巡る問題はソ連の崩壊によって複雑化し、特にタジキスタン・キルギス・ウズベキスタン間における抗争の要因となった。
タジキスタンとキルギスは山岳地域に位置する水資源が豊富な国であるが、その他の天然資源には恵まれない。アムダリア川とシルダリア川に流れる水の大部分はこの両国内から取水されている。一方、ウズベキスタンは石油と天然ガスに恵まれた農業国であり綿花の栽培量では世界第6位の生産量を誇っている。
ソ連時代、これらの国々はソ連政府に決定された統一的な制度の下で協働して水管理にあたり、経済的な役割分担もなされていた。冬には上流国が大規模なダムに水を貯え、春と夏にはそれを放水して下流国であるウズベキスタンの灌漑用水とした。ダムでは水力発電も行われている。発電のために河川の水量が目減りする冬には、ウズベキスタンがタジキスタンとキルギスに火力発電で産出した電力を供給していた。

OpenStreetMap、 Barqi Tojik 、 CIS Electric Power Council. Electric power of the Kyrgyz Republic 、 The Aral Sea disasterを基に作成
この制度はどの国にとっても有益なものであった。しかしながら、ソ連からの独立によって各国は自己利益を追求するようになりこうした協働制度は崩れた。協働ではなく資源を巡る対立紛争が生じてしまったのだ。
1990年代半ばにはウズベキスタンが電力の費用を市場価格で請求し始めたが、キルギスとタジキスタンはその費用を賄うことができなかった。そこで両国は電力が極めて重要である寒冷な冬には水力発電のために放水を続け、温暖な夏には貯水を行った。それによってウズベキスタンは灌漑を行う夏に十分な水を入手できなくなってしまった。
![ウズベキスタンの綿花畑。写真:David Stanley / Flickr [CC BY 2.0]、via Wikipedia Commons](http://globalnewsview.org/wp-content/uploads/2017/01/8145399540_392b500f41_o.jpg)
ウズベキスタンの綿花畑。写真:David Stanley / Flickr [CC BY 2.0]
しかし、水力発電を行ってもキルギスとタジキスタンが冬に必要な電気量を賄うことはできない。2013年から2014年の冬季期間、タジキスタン住民の1日の電気使用時間は5~9時間であり、中には30分から1時間しか使用できない地域もあった。キルギスでも似たような問題が存在する。
このジレンマを避けるために、キルギスタンとタジキスタンはヴァフシュ川とナルイン川でのダム建設を増やす計画だ。タジキスタンで建設中のログン・ダムは高さ335メートルあり、完成すれば世界一の高さとなる。キルギスタンのカンバラタ第1ダムについては、約275メートルの高さとなる予定だ。
![キルギスのトクトグルダム。写真: heinerbischkek (http://www.panoramio.com) [Copyrighted free use], via Wikimedia Commons](http://globalnewsview.org/wp-content/uploads/2017/01/ccaa675627c4bbf977c3d0a14714efa0.jpg)
キルギスのトクトグルダム。写真: heinerbischkek (http://www.panoramio.com) [Copyrighted free use], via Wikimedia Commons
ウズベキスタンはこれらの計画に断固として反対している。というのも、ダム計画が進展すれば灌漑用水が枯渇してしまうからだ。2012年には、前大統領であるイスラム・カリモフがタジキスタンとキルギスに対し、上流地域での水力発電所の建設によって地域紛争が起こり得ると警告した。彼によると、新たに建設されるダムに水を満たすには最大で8年間かかり、ウズベキスタンが枯渇する期間を長引かせるとしている。
お互いの信頼と協力が欠けていることが中央アジアの水・エネルギー問題を悪化させている。タジキスタンとキルギスでは寒冷な冬に電気が寸断し、ウズベキスタンでは夏に灌漑用水が不足している。
また、加えて、政府の統治および資源管理の拙さが両問題を深刻化させている。タジキスタンでは、エネルギー部門への不適切な資本投資が発電と電力消費の両方に悪影響を与えている。ソ連時代の遺物であるインフラは適切に管理されず、新たに交換される事もなかった。電力会社がインフラを整備しないのは資金不足が原因である。キルギス、タジキスタン両当局は民衆の不満を買わないように電気料金を明らかに低く設定している。
更に言えば、これらの国々で蔓延している腐敗もエネルギー問題に拍車をかけている。例えば、タジキスタンでは停電であえぐ冬に電力が輸出された事がある。ウズベキスタンでも似たような状況である。ウズベキスタンにおいても灌漑システムの近代化は喫緊の課題であり、50~80%の灌漑用水が失われていると示唆する研究もある。実際に農産物に供される水のうち、わずか25~35%のみが効率的に使用されている。ウズベキスタン地方当局の元高官は、次のように述べている。
(農業従事者は)綿花の栽培を指示されているが、農地や綿花への水やりは時代遅れの方法を取っている。近代的な方法で水やりをすべきなのだが、(政府は)金を使いたがらない。綿花を摘み取る機械を購入する事も可能ではあるが、それよりも子供や労働者を使った方が安上がりである。ウズベキスタンは水不足を嘆くがそれは真ではない。それは人工的に作り上げられた問題なのだ。
以上から言えるのは、中央アジアの3ヶ国全てが深刻化する水資源問題に責任を負っているということだ。結果として、当局間が問題の責任を転嫁し合っている一方で水と電気不足に苦しむ住人がいるという状況が生じているのである。
ライター:Kamil Hamidov
グラフィック:Kamil Hamidov
翻訳:Ryo Kobayashi