世界で格差が広がり、富の集中はとてつもないレベルに達している。現在、世界人口の20パーセントの最富裕層は世界の富の94.5パーセントを独占している。世界で最も富裕な8人が、最も貧困な世界人口の半分である36億人分と同じ資産を所有していることも明らかになった。しかし、このような格差はなぜ縮まらないのだろうか。最貧国・発展途上国における貧困脱出の議論おいては「開発支援」「国際協力」「国際貢献」などの言葉が先進国で飛び交う。しかし、この観点は問題の本質を捉えているのだろうか。そもそも、先進国による開発支援は大きく不足している。アメリカ、日本などの経済大国が支出している開発支援は国連目標(国民総所得(GNI)の0.7%)の3分の1以下のままである。さらに、その開発支援の中、企業が展開する事業(特にインフラ支援)やコンサルの費用などで自国に戻ってくる「支援金」は決して少なくない。

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また、貧困脱出を妨げているもっと大きな問題が潜んでいる。持続可能な開発を実現するには貿易や投資こそが必要不可欠で「援助ではなく貿易だ」(“trade not aid”)という格言が掲げられているぐらいである。その貿易が売る側、買う側共に利益をもたらすwin-winの状況であればよいのだが、実際のところは、貿易を通じて最貧国・発展途上国から大きな利益が不正に流出しているのだ。最貧国・発展途上国で活動する多くの企業が納税を抑えるためにはさまざまな不法な方法を用いていると思われている。天然資源あるいは製品を輸出する企業の場合、利益を低く見せるために、採掘・生産にかかったコストを高く見せたり、あるいは輸出価格を低く見せたりすることが代表的な手口だと考えられている。
このような状況の中、不正な貿易価格設定(trade mispricing)、あるいは不正な請求(trade misinvoicing)が目立つ。例えば、貧困国で鉱物資源を採掘する外資系企業がその鉱物を輸出する場合、まず税率が極めて低い税金逃避国(タックスヘイブン:tax haven)に構えている関連会社へ相場よりはるかに低い価格で「販売」し、貧困国で支払うべき利益税や輸出にかかる関税を逃れる。次には、タックスヘイブンでその関連会社が鉱物の価格を正常に戻し、実際の顧客である先進国に「転売」する。鉱物そのものはタックスヘイブンを経由することなく、貧困国から直接顧客に運送される。また、タックスヘイブンに構える会社が関連会社であるという事実を隠すためには、複数のペーパーカンパニーを立ち上げたり、会社を複雑に関連付けたりすることが多い。2016年にパナマの法律事務所からリークされた「パナマ文書」では、このような仕組みの一部が暴露された。
被害を受けている貧困国はこのような流出を取り締まるほどの予算や人材(国際弁護士など)を揃えることができず、また政府の内部では金銭的な見返りを得て外資系企業に加担する者が介在している場合もある。このような不法資本流出は限られた「悪質」な企業による行動だと思われがちだが、被害総額はこの手口がいかに広く用いられており、それがいかに重大な問題なのかを物語っている。例えば、アメリカの多国籍企業が人口7万人の小さな諸島であるバミューダで得ている利益は、日本、中国、ドイツ、フランスで得ている利益の合計額より多いと報告されている。

ペーパーカンパニーが多いケイマン諸島での郵便ポスト(Pixabay)
しかし、不法資本流出は不正な貿易価格設定だけの問題ではない。実際、貿易価格が不正に設定されている場合でも、それは正規のルートによる貿易であり、正規の価格を操ることによって脱税するといった手口で行われる。しかし、関税そのものを完全に回避してしまう不正規なルートを利用した貿易、つまり密輸、という問題もある。これは外資系企業というよりは犯罪組織が行うものである。さらに、貧困国での政府関係者が政府からお金を横領し、もしくは外資系企業から賄賂を受け取り、国外の銀行に蓄えるという不法資本流出のパターンもある。不法資本流出問題の分析に取り組んでいる民間団体グローバル・フィナンシャル・インテグリティ(Global Financial Integrity, GFI)によると、アフリカからの不法資本流出の約60~65%は不正な貿易価格設定、30~35%は密輸などの犯罪組織による行動、そして約3%が政府関係者の横領等の問題で構成されているとのことである。
これらの状況から、最貧国・発展途上国からの不法資本流出はとてつもない金額となっていることが明らかである。以下の図にあるように、その額はODA総額の10倍以上であり、ODAと外国直接投資(FDI)を合わせても不法資本流出を下回る。現在、その不法資本流出の総額は年間1兆米ドルを越えている。
では、このお金はどこに流出しているのだろうか。むろん、その多くはバミューダ、ケイマン諸島、スイスなどのタックスヘイブンを経由することも、そこに止まることもある。しかし、GFIの報告によると、不法資本流出の最大で67%が、アメリカ、日本、イギリス、オーストラリアの銀行にある。
上記の数字はあくまでも不法資本流出であるが、最貧国・発展途上国の発展を妨げている合法的なアンフェアトレードの影も大きい。つまり大国や大手多国籍企業に対して極めて不利な立場にある弱国と、その地元企業や労働者、農民は非常に安い価格で資源、商品、労働力を売ることが決して少なくない。これは国家間の貿易協定から個人レベルで農民が行う契約栽培でもよく見られるパターンである。しかし、これはアンフェアと言っても、合法的なものなのである。
貧困脱出を考えるためにはさらに包括的な「収支」を考慮する必要がある。援助、FDIと不法資本流出だけでなく、貿易(フェア、アンフェアとも)、借入れ、債務返済、海外の銀行への預金、出稼ぎ労働者等からの送金などをすべて計算すれば、貧困脱出の展望が期待できるのかがある程度見えてくる。これらの指標をサハラ以南アフリカの33ヶ国に適応した調査では、1970~2008の期間において、サハラ以南のアフリカに入ってくる資本に比べ出て行く資本のほうが多いことが明らかになった。つまり、総合的にみるとサハラ以南のアフリカの国々は世界に対する債権諸国となっている。この視点から見れば、アフリカのような貧困を抱えている地域の貧困脱出が実現できるどころか、先進国やその他の大国との貧富の差が広がりつつある事実がけっして不思議でなく、むしろ当然の結果だとも言える。
では、不法資本流出問題への対策は進んでいるのだろうか。残念ながら、大きな改善は見られていない。2015年にエチオピアで開催された第3回国連開発資金国際会議(FfD3)では、国際組織レベルでの制度的な改革が議題に挙げられ、議論された。国連には不法資本流出のような問題を検討する「税金問題における国際協力に関する専門家委員会」が存在するが、最貧国・発展途上国はこの委員会を正式に国際機関へ格上げすることを強く求めた。しかしこれに対して、アメリカ、日本、イギリスなどが強く反対し、実現されることはなかった。
このような状況の中で、グローバルなレベルで広がりつつある格差に歯止めはかかるのだろうか。
ライター: Virgil Hawkins
グラフィック: Kamil Hamidov