アフリカ中部に位置するコンゴ民主共和国。人口は7,800万人に上り、その面積は西ヨーロッパに匹敵する。鉱物資源にも恵まれており、金、ダイヤモンド、銅のほかに、電化製品に欠かせないタンタル、スズ、タングステンなどを産出する。リチウムイオン電池に使用されるコバルトは世界生産量の5割以上を占める。
豊かであるかのように見えるこの国は、実は大きな混乱のなかにある。2年連続で避難民の数は世界第一であり、中東のシリアやイエメンなどの国々よりもひどい状況なのである。2017年には一日に平均5,500、合計170万もの人々が家を捨てざるを得なかった。世界最大の避難民を生み出す原因は紛争にとどまらず、他にも国内に問題を抱えているコンゴ民主共和国だが、なかなか注目されることがないのだ。

コンゴ民主共和国(南キヴ州)の国内避難民キャンプ (写真:Enough Project/Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
コンゴ民主共和国が歩んできた厳しい道のり
現在のコンゴ民主共和国は、1885年のアフリカ分割に関するベルリン会議においてベルギーの領有が認められ、コンゴ自由国と呼ばれるようになった。しかし、その実態はベルギー国王レオポルド2世の私有地であり、そのもとでゴム、象牙、土地などをめぐり現地人への過酷な収奪が行われたため、国際的な非難を受け、1908年にはベルギー政府直轄のベルギー領コンゴへと形を変えた。その後、他のアフリカ諸国と同じように独立運動が始まり、1960年にコンゴ共和国として独立を達成した。しかし、南部カタンガ州の分離運動からコンゴ動乱に突入し、5年にわたる紛争が続いた。この紛争は、独立を認めたはずのベルギーが、南部の豊かな鉱山地帯であるカタンガ州を分離独立させて影響力を残そうとして兵力を残し、分離独立に肩入れをした。ベルギーとアメリカの後押しを受けた軍部のモブツがクーデターにより当時の首相ルムンバを逮捕し、後にルムンバが殺害されたことで動乱が拡大した。
1965年にモブツが大統領となり軍政を敷き、一応動乱は収拾されたものの、モブツは国名をザイールに変更したのち、アメリカに支えられて独裁体制を強め、国の資源・財源を私物化したため経済成長が止まり、貧困が続いた。モブツの長期政権の中で腐敗が進行しただけでなく、人権抑圧も続き、国家としての機能が退廃した。
1994年の隣国ルワンダのジェノサイドから発生した多くの難民や武装勢力が東ザイールに滞在するようになり、それがきっかけで、ルワンダ、ウガンダなど数カ国による侵攻で1997年にモブツ政権が倒された。そしてローラン・カビラが大統領となりコンゴ民主共和国という国名に改名された。しかしこの政権への不満を募らせたルワンダは反政府勢力を組織、国内の豊富な天然資源に対する利権も絡み、ウガンダ、ブルンジとともにコンゴ民主共和国に侵攻した。これが2回目の侵攻で、今回は政府側にアンゴラ、ジンバブエなどが応援に入り、合計8カ国による紛争となった。これが「アフリカの第一次世界大戦」とも呼ばれるものである。
カビラが暗殺され息子ジョゼフ・カビラが大統領に就任した後、2003年の和平合意が結ばれ、外国兵の撤退は実現したが、形を変えた武力紛争が部分的に続いた。鉱物の採掘権や民族間のアイデンティティ対立、隣国の関与などの問題を抱え、武装勢力による襲撃や食料の略奪により、住民たちは不安定な生活を余儀なくされている。
このように続くコンゴ民主共和国の紛争は、1998年から2007年の間に540万人以上もの犠牲者を出しており、1950年代の朝鮮戦争以来世界最大だ。
同時進行する複数の紛争
現在、具体的にどのような紛争が起こっているのだろうか。特に南部や東部での紛争が激しい。
コンゴ民主共和国の大きな紛争は東部で始まったと言われる。そこには132もの武装集団が存在し、混乱を起こしている。特に、南北キブ州は暴力と人道危機の中心となっている。これらの州は、隣国とも絡む複雑な歴史的背景もある、反政府的な感情と行動の温床となっている。

コンゴ民主共和国軍の兵士たち(写真:MONUSCO Photos/Flickr[CC BY-SA 2.0])
各地で起こる紛争に対して、MONUSCOと呼ばれる国連の平和維持活動(PKO)は20年近く滞在しているが、膨大な領土・問題に対しては人数が足りず、インフラが崩壊しているために、移動するだけでも労力が必要だ。また、PKOへの支持が低く、武装勢力から狙われることもある。2017年12月には、PKO部隊が武装勢力に襲撃され、15人の死者を出す事件も起こっている。PKO部隊を襲撃したのは、ADF(各武装勢力の正式名称は※1を参照に)と呼ばれるウガンダから移ってきたイスラム過激派集団とされている。統治が行き届いていないコンゴ民主共和国では隣国の武装勢力が国境を超えて活動することが多い。彼らはもともとウガンダの反政府勢力で、現在はこの北キブ州で、武器密輸、森林伐採、略奪した土地の売買などの不法行為を行っている。PKO部隊や市民への攻撃もこれが初めてではなく、北キブ州を悩ませている。
また、CNPSCと呼ばれるグループも反政府勢力として勢いを増し、多くの人権侵害を犯している。彼らは、政府の統治能力の弱まった地域に入り各地で出没している自警団「マイマイ」の一つの連盟である。ルワンダ、ウガンダ、ブルンジの2回目の侵攻の際に、これらの軍と戦ったナショナリスト集団がもとになっているとされる。地域のアイデンティティを守るという名目で、移民への強奪や不法課税などにより資源を支配する目的、政治やビジネス目的、他の勢力から土地を守る目的などを持っており、実態は様々だ。マイマイ組織のなかではCNPSCが最大とされているが、MNR、CMCなどその他の勢力も存在する。マイマイ以外にも、隣国ウガンダから生まれた反政府勢力LRAがコンゴ民主共和国内を含む中央アフリカ地域諸中央アフリカ地域諸国でも虐殺、拉致、少年兵の結成などの非人道的行為を行っている。その他にも、イトゥリ州(ヘマ・レンドゥ)やタンガニーカ州(トゥワ・ルバ)には民族間の対立から生まれている紛争も発生している。また、ルワンダのジェノサイドから生まれた武装勢力のFDLRや、ブルンジからの武装勢力もいまだにコンゴ民主共和国で活動を続けている。
南部のカサイ州でも近年紛争が起こっている。コンゴ民主共和国では、その地域の伝統的なリーダーが重要な役割を担ってきた。彼らには自治政治やコミュニティーでの問題解決だけではなく、宗教的な機能を果たしている場合もある。このようなリーダーは現地の慣習によって選ばれ、国家に承認されることで正式に就任する。しかし、2016年、野党を支持していたカサイ州での有力なリーダー、ジャンピエール・ムパンディを政府が承認せず、彼が政府部隊に殺害されたことを受けて衝突が始まった。彼が殺害された後もこの流れを汲んだ反政府運動(カムウィナ・ンサプ)が続いており、多くの犠牲者が出ている。
このように、コンゴ民主共和国の政情不安定の要因は複雑な歴史的な事情や隣国との関係も絡んでいる。しかし、政府関係者による横領や国外への資本流出などの問題で統治が行き届いていないことにも起因している。そのせいもあり国軍は力が弱く、安全保障を確保するどころか、国軍の兵士も多くの人権侵害を犯しているとされている。コンゴ民主共和国が抱える諸問題の背景には、現職のカビラ大統領の問題も大きく関与している。彼は2001年に父の座を継いで大統領になり、2期の任期を務めた。しかし、2016年に任期満了となったものの、資金不足などを理由として大統領選が政権によって延期され、現在も大統領職に留まり続けている。カビラ大統領自身はあまり表に出てこないが、2018年に入ってから、「政情不安定は存在しない」との声明を発表した。
カビラ大統領に対して立ち上がる市民
近年は、紛争以外にも市民社会からの不満が暴力を招いている。首都キンシャサなどで、大統領の退陣を求めるデモが多発している。カトリック教会が市民の声を代表して政権に反発しており、警察との衝突も起こっている。植民地時代から、カトリック教会は重要な役割を担っており、2017年に選挙を行うことを条件にカビラが大統領職を続けることを認める合意に至ったが、今回選挙が再び延期されたことにより、教会の怒りが高まっている。反大統領派の集会を治安部隊が弾圧しており、ミサのために信者が集った各地の教会に催涙弾が撃ち込まれ、教会の関係者が逮捕される事件も発生している。政府は厳しい弾圧に元反政府勢力(M23)を動員しているという報告もある。

ミサで祈る人々 (写真:Steve Evans/Flickr[CC BY-NC 2.0])
国連事務総長からも被害状況の調査を呼びかけられているが、カビラ大統領はこれを無視している。2018年1月に6年ぶりに臨んだ記者会見では、改めて国連の国内での活動を批判したうえで、コンゴ民主共和国は民主的であると主張した。安全保障に取り組んでいくということをアピールする狙いがあったようだ。これに対し野党は、大統領が憲法(※2)を改正して大統領の任期を延長しようとしているとして疑念を強めている。
このように国内外からの非難を浴びながらもカビラ大統領が警察や治安部隊などに影響力を持ち続けている。政府に立ち向かうのがかなり命がけと言っても過言ではないし、大統領の有力候補とも言われていた野党の大物リーダーであるエティエンヌ・チセケディは2017年に亡くなったばかりだという現状だ。

国連で演説するジョゼフ・カビラ大統領 (写真:a katz/Shutterstock.com)
山積する問題
各地で紛争が起こっているコンゴ民主共和国。しかし問題はそれだけではない。
はじめに述べたように、この国は多くの天然資源・鉱物に恵まれている。しかし、鉱物資源の富の大半は政府関係者や外資系企業によって持って行かれている。また、鉱物資源が武装勢力の資金として使われているケースもある。鉱山での労働条件は酷く、危険であり、報酬が少なく、児童労働問題も存在する。
また、カサイ州などでの飢餓も大きな問題となっている。紛争によって農地や畑が破壊されていることが原因だ。国連世界食糧計画(WFP)によるとコンゴ民主共和国の人口の約1割が飢餓の瀬戸際にあるとされ、被害にあっている人口にするとシリアの10倍にも及ぶ。食糧支援が不可欠な状況に置かれているのだ。紛争による副次的な被害が発生しており、国家の不安定の原因となっているカビラ大統領に非難が集まっている。

鉱山で働く子どもたち
(写真:Enough Project/Flickr[CC BY-NC-ND 2.0])
世界に無視されてきたコンゴ民主共和国
コンゴ民主共和国がこんなにも多くの問題を抱えているという事実には驚くかもしれない。世界中で中東の動向が注目されてきた近年、アフリカの真ん中で起こっている惨劇に目が向けられることはなかった。メディアが報道しないから人々には知る由もない、というのは当然かもしれない。しかし、紛争による死傷者や避難民の他にも飢餓を含む人道危機が拡大している現在、我々は、世界は密接に関わっていて、遠く離れた土地での出来事も決して他人事ではないということを自覚しなければならない。例えば、外の世界は鉱物資源の貿易や利用を通じて、コンゴ民主共和国の富の搾取や紛争鉱物問題に関わっているのだ。地域によって世界の関心度に差が見受けられる状況を打破し、日の当たっていない事態に注目を集める必要がある。
※1 コンゴ民主共和国で活動する主要な武装グループ
ADF (Allied Defense Forces 防衛連合軍)
CNPSC (Coalition Nationale du Peuple pour la Souveraineté du Congo 全人民コンゴ主権連合)
CMC (Commandement Militaire pour le Changement 革命指揮軍)
FDLR (Forces Démocratiques de Libération du Rwanda ルワンダ解放民主軍)
Kamwina Nsapu (カムイナ・ンサプ)
LRA (Lord's Resistance Army 神の抵抗軍)
MNR (Mouvement National de la Révolution 国家運動革命派)
※2 コンゴ民主共和国の憲法では大統領の任期は2期と定められている。
グラフィック:Hinako Hosokawa