「報道されない世界がある」。その問題意識を持って、国際報道の少なさや偏りを指摘し、その欠落を埋めるために、世界の問題や現象について情報発信を行ってきた私たちグローバル・ニュース・ビュー(Global News View:GNV)。そもそもメディアには、世界について情報を発信すると同時に、権力者や富が集中する企業・組織などを監視し、問題があればそれを暴き、指摘する「番犬」という役割もあろう。しかし日本のメディアはどこまでそれを果たせているのか。そういった疑問からGNVは国際報道という分野において、メディア自体を監視し、問題を指摘するという「番犬の番犬」を目指してきた。そして2019年9月には3周年を迎えた。
グローバル化や気候変動が進み、他人事としてみなせる地域がなくなってきている。また、技術も進歩し続け、情報が容易に手に入る環境となっている。そのような世界において、報道機関は大量の情報の中から何をどのように伝えるべきか。どのような情報があれば人々は世界を理解することができるのだろうか。ここで、改めて私たちが問題意識していること、大事にしていることは何か、それをどのようにGNVの方針や構成に反映しているかをこの記事でお伝えしたい。

(写真:pxhere/[CC 0])
GNVの問題意識
GNVが問題視していることは大きく3つある。1つ目は、国際報道が少ないということだ。数字で見ると、全報道の約10%しか世界のことを伝えていない。この割合はスポーツ報道の半分以下でもある。
2つ目は、国際報道が世界を断片的にしか捉えられていないということである。下の地図を参照してほしい。国別に見ると、アメリカや中国、北朝鮮などの最も多い3カ国だけで全国際報道の半分近くを占めている場合もある。それに比べてアフリカや中南米といった大きな大陸についての記事はそれぞれ国際報道全体の3.3%と2%のみと極端に少なく、貧困国が対象となりにくくなっている。

大手3紙の国際報道量の分配(2017年)
グローバル化がこれだけ進む中、貿易、安全保障などの面だけではなく、気候変動や貧困、人の移動、公害、ゴミ、感染症などの問題も地球全体の課題であり、日本は世界から影響を受けると同時に、影響を与えている。そもそも国単位で世界を見ることがどこまで妥当なのかということすら問われる時代ともなってきている。それにも関わらず、日本のメディアは世界の部分的なところだけに注目し、他の多くの問題や現象、出来事に対しては見て見ぬ振りをしているのだ。
3つ目は、速報や出来事のみを発信する報道、いわゆるブレイキング・ニュース(breaking news)が多いということだ。こういったニュースには出来事の背景や文脈があまり描ききれていない。単なる出来事や事実だけでは、読者が現状とその意義を把握することは困難である。このような現状では、人々は世界で起きていることを理解しきれず、関心も育たないだろう。
そこでGNVは国際報道が捉えられていない部分を指摘し、人々が世界の問題や現象を深く理解してもらえるような情報を発信することを目指し、活動している。その上で大事にしていることを説明したい。
大事にしていること
まずは国際報道を分析する上で、様々なレベルでの偏りや傾向に注目する。どの地域や国の記事が多いか、またどのようなトピックの記事がどのような角度から報道されているのかも分析する。さらに、記事の文字数やそのニュースがどれくらいの期間取り上げられているかにも注目し報道の傾向を分析する。その上で、どのように改善できるかを指摘する。新聞以外にも、テレビやオンラインメディアなど幅広いメディアの媒体も対象にしている。

様々な媒体におけるメディア(写真:Gregor Fischer/Flickr[CC BY-ND 2.0] )
しかし、現在の国際報道における問題を指摘しただけではまだ人々の理解を深めたり、関心を育てたりすることはできない。そこで実際にGNVが従来の報道機関に代わって、注目されていない世界の問題や現象を伝えている。その時に特に大事にしていることが大きく3つある。
1つ目は包括性である。世界全体がこれだけ密接につながってきた以上、その全体像なしには世界の問題や現象を正確に理解はできないだろう。また、地域の包括性だけでなく、問題や現象、分野においても包括性を重視している。国境の枠を超えて起きている世界の課題を、できる限りバランスよく取り上げるように努めている。
2つ目は客観性である。特定の国や立場で問題を伝えるのではなく、できる限り複眼的な記事を目指している。しかし客観的に伝えることは理想に過ぎず、現実的には不可能だ。必然的に何かしらの立場を取らざるを得ない。そこでGNVが客観性からずれてしまう際は、権力や富が集中しているところから離れている弱者側の立場をとる。そういった弱者側である貧困状態にある人々は世界の多数派でもあるため、これは声なきものに声を与えるという番犬的役割を担う上でも仕方のない「偏り」と考えている。
3つ目に大事にしていることは、長期的な視点で、解説記事を書くことだ。上記のGNVの問題意識のセクションでも触れたように、報道は文字数や時間が限られていることからも出来事の背景の説明が十分になされていない記事が多い。GNVは、読者が多くの世界の問題や現象をただのニュース記事として消費していくのではなく、一つ一つを掘り下げて理解できることを目指している。そのため、世界の問題や現象を深く分析し、読者にとって分かりやすく、その裏にある背景や文脈の複雑さをできるだけ犠牲にしないような情報発信を心がけている。

台風(写真:Photobank gallery/Shutterstock)
それでは次に、それらがGNVの構成にどのように反映されているかについて説明したい。
具体的に決めていること
まず、国際報道の分析を担っているのはニュース・ビュー(News View:NV)という種類の記事である。このNVがメディアの番犬的な記事となる。そして実際に世界の問題や現象、出来事について伝えているのはグローバル・ビュー(Global View:GV)という種類の記事だ。GNVは毎週1つの解説記事を発信しているが、現在はNV,GV,GVのようなローテーションで記事を出している。GVの方が多いのは、メディアが捉えきれていない部分を指摘するという批判的な側面より、実際にメディアに代わって報道されない世界を伝えるという建設的な側面を強調したいからだ。
それでは実際に記事を書く上で具体的に決めていることを説明していきたい。
まずは、包括性について。NVでは国際報道全般の傾向を分析するマクロ的視点のものと、場所や時間を特定した分析をするミクロ的視点のものと両方行うことでバランスをとろうとしている。また、GVでは特定の地域・国に偏らないようにするため、GNVは世界を地域ごとに便宜的に分けた6つのグループ(東・南・中央アジア、東南アジア・太平洋、中東・北アフリカ、サハラ以南のアフリカ、ヨーロッパ、南北アメリカ)と世界全体に共通する問題や現象に着目するグループ(グローバル・イシュー)と合わせて7つのグループに分かれて、順番に記事を発信している。
この際、GNVは報道が伝えきれていない不足の部分を補う形で国際報道における世界全体の包括性を目指しているため、アメリカや中国、朝鮮半島、西欧地域などメディアによって多く報道されている国や地域を中心にした記事は書かない。またそれぞれのグループの中でも取り残される地域がないように記事のテーマを選ぶときに意識している。さらにトピックについてもできるだけ、社会、経済、安全保障、環境などあらゆる分野について記事を書き、全体のバランスに考慮している。
次に客観性についてである。NVで着目しているのは、問題や出来事の重要性と実際の報道の傾向である。GNVは自国との関係性だけではなく、問題や現象の規模自体も報道の量や傾向に反映されることが必要だと考えている。そのため、規模が大きいにも関わらず、報道されない問題や現象の存在を指摘する。またGVでは問題や現象の全体像をできる限りありのままで理解できるように、日本の立場からは書かない。日本の立場から書く時点でその現状を日本との関わりという偏った視点から見ることになり、客観性が失われるからだ。そのため取り上げるものが日本にとってどういう影響があるかにも注目しない。
また、GNVは広告収入や政府からの資金を受け取らない。そのため、企業や政府の意見を気にしながら書くこともない。またニュースを品物として売ることもないため、閲覧数の獲得のために記事を書いたりすることはない。このようにして記事の客観性を保っている。
次に長期的な視点で解説記事を書くことについて。NVでは、時に30年以上にわたる報道の傾向を分析する場合もある。また、GVではいわゆる「スローニュース」を書くようにしている。スローニュースとは、速報性を目指したものではなく、深く問題や現象を分析し、読者にとって分かりやすく解説されたニュースのことだ。ブレイキングニュースが多い報道に代わって、時間が経っても読めるようなアーカイブ的役割を果たしていきたい。できるだけ最新の出来事には繋がるような記事を書くが、問題や出来事の背景を深く探るためにも、それにつながる歴史や文脈を解説するなどして、現状を包括的に捉えられるような記事を目指す。
また、解説記事を書く上で、読者が理解できる記事を作るために、丁寧な説明をおろそかにはしない。世界のどの問題や現象、出来事もその現実は複雑である。それをニュース記事として単純化すればするほど、現状を理解することは困難になる。そのため、文章が比較的長い記事になることもあるが、分かりやすいものになるよう努めながら、複雑な現状や背景、文脈を犠牲にすることがないように説明している。
今後の課題、目指すもの
以上のように、GNVは日本における国際報道を分析した上で、問題点を指摘するという番犬の番犬役に努めながら、人々が世界の問題や現象、出来事を包括的に理解できるようになることを目指してきた。そのために、客観的で読者にとって分かりやすい記事を解説形式で発信することを大事にしてきた。これからの課題は、マスコミ関係者との対話の形式を増やすことだ。国際報道を実際にどのように改善していくことができるかを一方的に発信するだけではなく、話し合い、協力していきたい。
これからの国際報道は、財政面で厳しい報道機関において、コスト削減の対象となっていき、加速するグローバル化に逆行する形でさらに減少し偏っていくとも考えられる。しかし、そういった中でも、GNVは客観的に世界を見ることに価値があると考え、それを強調してきた。これからも国際報道を監視し、人々に報道されない世界について情報を発信し、理解を促していきたい。

取材の様子(写真:wellphoto/Shutterstock)
ライター:Maika Kajigaya
それぞれの記事や活動でどういったことを大事にしているのかがよくわかりました。この活動がさらに広がっていくといいですね!
これからの国際問題に国民がさらに意識を向けるよう、今後も多角的な見方をした報道を期待します。
紙面スペース等の都合上、何か載せると、何かを消さないといけない。どうやら著者はスポーツ報道を毛嫌いしているみたいだから、きちんと主張するべきだ。「スポーツを消して開いた面を国際面にしろ」と。そして叩かれればいいんじゃないか?
娯楽記事など要らないという者は、娯楽こそが収入源であるという側面をきちんと知るべきだ。正直私自身、運動面も囲碁将棋もテレビ欄も全く読まない。しかし、それがあるおかげで金を払う奴がいる。その金で報道がある。国際報道もしかり。著者にとり不都合な真実かも知れないが、扇情報道に文句言うのならまだしも、スポーツ報道の存在が誰かの迷惑になっているのでないのだから黙ってろということ。
また、貧困等が取り上げられないのは新規性が皆無だからでしょう。勿論重要課題には違いないが、ニュースではない。国際報道に限らずニュースにならなければ「とはもの」もない。ましてや紙面スペースの都合も考えれば……。新聞に出来ないからこそ、ニュースサイトでない貴サイトでやる価値があるのだろう。これは役割の違いだ。それと客観性云々言ってるけど左に寄りすぎではないか。
番犬の番犬の番犬っぽくなってしまいましたが、国際情勢を取り扱うメディアとして貴サイトには、GLOBEやフォーサイト、クーリエと並んで貴重な存在に育って欲しい思います。応援しています。
多様性と客観性。
グローバル化が進みボーダーレスな方向に一直線と思いきや、大国の自国偏重主義も増大。
そんな中で、GNVが掲げる精神。最大公約数か、妥協点なのか、最適化が非常に困難に思えるテーマに、真正面から正攻法で取り組んでいく姿勢に好感が持てますし、期待するところも大です。
客観的な報道は必要だが理想的すぎる、という表現に特に感銘を受けました。GNVの方針などが非常にわかりやすく、今後もこちらのサイトでの報道を見ていきたいと思います。
とても分かりやすかったです!
GNVのライターでありながら客観的にGNVについて書くのは難しかっただろうと思いますが、丁寧に描いていただいて読みやすかったです。
広告収入や政府からの資金を受け取らないとのことですが、ではどのようにして資金を調達し、当サイトを運営しているのですか?