2020年前半から、世界中で流行し様々な影響を及ぼしている新型コロナウイルス(COVID-19)。その影響はアフリカの経済にまで及んでいる。アフリカ諸国は以前から深刻な貧困問題を抱え、さらには債務の返済も危機的な状況に達していた。そして、そのただでさえ苦しい状況を新型コロナウイルスはさらに悪化させた。そこで、エチオピアなどを中心とするアフリカ諸国は債務削減および再編を求める文書を3月に発表した。これを受けて、G20はアフリカの多くの国を含む76の最貧国に対して、債務返済の1年猶予を決定した。

IMFのアフリカ協議グループ(写真:IMF / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
しかし、果たしてこれだけでアフリカの債務問題は解決に向かうのだろうか。そもそもいったいなぜそれほどまでに借金を抱え込んでしまったのか、そしてなぜ返済に苦しんでいるのか。本記事で探っていく。
現在の債務危機に至るまでの経緯と原因
1960年代に次々と独立を果たし、経済成長を見せていたアフリカ諸国だったが、1970年に発生したオイルショックによってアフリカ経済は急変した。1973年の中東戦争を機に発生したオイルショックは、石油価格の急激な上昇を引き起こし、石油を必要とする企業や消費者の大きな負担となり、アフリカの国々の経済に打撃を与えた。またオイルショックによってもたらされた高所得国での不景気により、アフリカで産出される天然資源への需要が減少したこともアフリカ経済への追い打ちとなった。これらの要因によりアフリカ政府の収入は減少した。さらに石油価格の上昇でお金を儲けた中東諸国等が高所得国の銀行に莫大な金額を預け、それらの銀行がどんどんローンを促した。当時は冷戦の最中であり、アフリカ諸国を味方に引き入れたがった高所得国の政府は自国の銀行にそのローンを保証し、当時のアフリカの独裁政権に、返済の可否に関係なく大量に貸し付けを行った。オイルショックによる収入減少に頭を悩ませていたアフリカ政府は、促されるままお金を借り入れ、結果的に莫大な借金を抱えることとなってしまった。

マリの地下での金鉱採掘の様子(写真:Dave Dyet/Flickr[CC BY-NC 2.0])
そして1980年代、アメリカの高金利政策を機に世界的な金利上昇が起こり、アフリカ諸国は次々と債務危機に陥った。世界の債務問題に取り組むNGO、ジュビリー債務キャンペーンによると、ここでいう債務危機とは、「債務が人命そのものよりも優先されたり、人権が否定されたりする状況を引き起こすこと」という意味である。アフリカにおける過剰な債務の現状に対して、世界銀行と「国際通貨基金(IMF)」は構造調整プログラム(Structural Adjustment Programs: SAPs)という政策を実行した。この政策は新たな融資または金利の低下の条件として、厳しい緊縮財政や貿易の自由化、国営企業の民営化の促進などを課す政策であった。しかし、この政策は国内投資の低迷や公務員の失業増加、貧困層の切り捨てなどにつながるとして国連アフリカ経済委員会(ECA)が批判し、代替案を発表した。実際、緊縮財政による教育や保健への支出削減により、結果的に貧困化は促進されることとなった。
こうした構造調整プログラムの失敗を受けて、世界銀行とIMFは1996年に「重債務貧困国イニシアチブ(HIPCイニシアチブ)(※1) 」を作成、債務救済を実行し、低所得国の債務返済を削減した。さらに2005年には「マルチ債務救済イニシアチブ(MDRI)(※2)」が開始され、HIPCイニシアチブとMDRIにより多くのアフリカの国々を含む37カ国約1,000億ドル以上の負債を解決した。
また、同年に行われたG8サミットでは低所得国における債務問題が議題にあげられた。このサミットに合わせて、ジュビリー債務キャンペーンなど複数の国で市民運動が盛り上がりを見せた。例えば、期間中に行われたサミット主催都市での債務取り消し等を求めた行進や、世界8都市でアフリカ債務の帳消しなどを求めて行われたLive8のコンサートなどである。これらの市民運動の盛り上がりもプレッシャーとなり、結果的にG8でアフリカ14カ国の重債務国がIMF、世界銀行、アフリカ開発銀行に負っている債務の100%免除が承認された。

2005年米国財務省前で「債務救済」を掲げて歩く人々(写真:Friends of the Earth International[CC BY-NC-ND 2.0])
アフリカ債務が再度危機的状況になった理由
ここまでの経過を見ると、アフリカ債務に対しては様々な対策が行われ、一見問題は解決へと進んでいるように思われる。では、なぜ現在アフリカの国々は再び債務に悩まされているのだろうか。
原因はいくつか存在する。1つ目の原因は、2008年にリーマンブラザーズの破産により引き起こされた金融危機である。アメリカから始まった経済の急低下は世界各地に拡大し、アフリカにも不景気をもたらした。そして、アフリカからの輸出品への需要や直接投資、観光、出稼ぎ労働者による送金、開発支援などが減少した。さらに、高所得国からアフリカ諸国への貸し出し額は増加した。金融危機に対応するため、高所得国の銀行は金利の引き下げを行い、加えて米国連邦準備制度による量的緩和政策が実行されたが、これがさらに金利を引き下げたのである。金利が低下すれば借りる側はお金を借りやすくなるため、結果的にアフリカ諸国の借り入れ額は増加した。また、アフリカ諸国の政府が金融危機を乗り越えるために政府の出費を増加させたことも原因となり、アフリカ諸国の債務問題はさらに深刻化した。
2つ目の原因は、アフリカ諸国がインフラに大きく投資をしていたことである。アフリカ諸国は植民地支配が長かったこともあり、歴史的に高所得国に比べてインフラが非常に低い水準にとどまっており、インフラギャップが生じている。このインフラギャップを埋めるため、アフリカ政府はインフラ整備を目的とし投資を増加させていた。そしてその投資増加の資金を債務によって調達していた。

ナイジェリアで道をつくる土木技師(写真:Stanley 2321/Wikimedia[CC BY-SA 4.0])
3つ目の原因は、2014年から世界的に原材料の相場と価格が下落したことである。中国経済の減速やアメリカでのシェールガス革命などが原因で石油や工業用の金属といった原材料の価格が低下した。そして、この価格の下落によって原材料を輸出している国々の収入は減少した。また、為替レートが大きく低下したことで、外貨で支払う債務が急激に膨れ上がることとなった。
そして、2020年の新型コロナウイルスの流行が債務問題の深刻化に拍車をかける結果となった。ウイルスの流行によってアフリカ大陸内の経済活動は大きく低下した。そして、保健医療・経済対策に投入している資金が莫大に膨れ上がり、さらなる債務を抱えることになってしまった。また、ウイルスの流行による石油価格の下落も債務問題を深刻化させた。ナイジェリア、アンゴラ、ガボン、アルジェリアなど有数の石油産出国は、特にその影響を受けている。なかでも輸出の約90%と政府歳入の3分の1程度を原油販売が占めているナイジェリアでは、国家予算の大幅な削減や、通貨であるナイラの切り下げが行われた。
アフリカ債務の具体的な状況
現在のアフリカ諸国は一体誰に対して、どれくらいの金額の借金を抱えているのだろうか。
2017年の時点でアフリカ諸国の政府の対外債務の合計額は4,170億米ドルと推定されている。アフリカ各国のGDPに対する債務の割合を見てみると、2019年時点では、エリトリア(184.7%)、カボベルデ(132.4%)、アンゴラ(132.2%)、モザンビーク(125.4%)、コンゴ共和国(119.9%)、ザンビア(109.8%)などの国が特に高くなっている。また、債務の金額をアフリカ各国政府の予算に占める割合で見ると、2017年の時点で12%程度となっており、これは2010年の6%の倍の数字である。さらに、多くのアフリカ諸国ではこうした債務返済への投資は公衆衛生への投資よりも多く、2020年の時点で債務返済に割り当てた予算が保健医療に割り当てたものを上回るアフリカの国は32カ国存在する。まさに債務危機状態を表していると言える。
では、この債務は誰に対しての債務なのだろうか。アフリカの対外債務の内訳としては、36%が世界銀行やIMFなどの多国間組織(主に高所得国の出資によるもの)、32%が二国間債権者(うち20%が中国)、さらに32%が民間の債権者という構成である。
具体的に債務危機の可能性があるいくつかのアフリカの国の債務構成を見てみる。チャドは民間の債権者49%、多国間組織24%、中国8%と民間の債権者に半分程度の借金を背負っている。ジブチは中国68%、多国間組織20%、民間の債権者0%と中国にかなりの割合の借金をしている。対してガンビアは多国間組織71%、民間の債権者6%、中国0%とほとんどを多国間組織から借入れている。地域によって債務を抱えている相手は大きく異なるようだ。
債務問題解決のために
アフリカの債務問題を解決するためには、どのような策があり、それはどれほどの効果が見込めるのだろうか。
債務問題への対策の1つとして、2020年4月にG20によって決定された債務返済の猶予が考えられる。この対策によって重債務国は一時的に債務返済に予算を当てる必要がなくなり、経済の立て直しに注力することができる。また、重債務国に対して資金投入を行うことで経済を刺激するという手もある。しかし、これらはあくまで一時的な解決策で、債務危機に陥った国の経済立て直しにはどれほどの時間と資金が必要であるのか不明瞭であるし、根本的な解決にはつながらないだろう。さらに、これはあくまでもG20に対してのみ効力があり、銀行や民間企業に対する強制力を持たない。また、債務の免除や取消という手段も存在するが、それは債務の返済能力がないということを意味するため、国の信用を失うことにつながる。国の信用を失えば、当然次回以降に資金を借入れることはできない。加えて取消を積極的に妨げるものとして、返済の見込みが低い債券を安価で買い取り債務の全額返済を追求することで、デフォルト(債務不履行)に陥った国からさらにお金を得ようとする悪質なハゲタカファンドなども存在する。
アフリカの債務問題の長期的、根本的解決のためには、アフリカがお金を借り入れなければならない仕組み、すなわち国際的な格差を解消する必要がある。現在は貿易、投資、債務・債務返済、出稼ぎ労働者による送金、政府開発支援などの流出入をすべて合わせると、アフリカに入るあらゆる資金よりも出ていく資金のほうが多い。その原因として、タックスヘイヴンを通じて輸出入の際にかかる税金を回避することにより生じる不法資本流出や、アフリカ諸国にとってはアンフェアトレードの存在が大きい。これらの問題の解決も必要不可欠である。
また、気候変動の問題もある。現在起こっている気候変動は主に高所得国によって排出された温室効果ガスが原因である。それにも関わらず、アフリカなどの低所得国が気候変動による自然災害の影響を大きく受ける。これは「気候アパルトヘイト(※3)」と呼ばれる現象を引き起こし、貧富の格差が拡大、債務は深刻化する。
現在の債務は公平な状況ではなく、人命より返済が優先されているという点で倫理的にも問題がある。医療や保健に資金を投資するため、債務の返済を断るという手も選択肢の1つとして提案されている。
アフリカ諸国が巨額の借金を抱え苦しむ原因となったこれらの構造的な問題を、今すぐに解決することは簡単なことではない。しかし、返済の見込みを見極めた上での債務であるため、「借りる側」だけでなく「貸す側」にも責任がある。したがって根本的な解決のためには、双方の国々が積極的にこの問題に向き合うべきだろう。現在すでに実行されている一時的な対応策で対応を終わらせるのではなく、もっと抜本的な解決策を世界各国、官民ともに模索していかなければアフリカ諸国に根深く蔓延る借金問題は解決できないだろう。
※1 Initiative for Heavily Indebted Poor Countries(重債務貧困国イニシアチブ)。債務の返済に苦しむ重債務国が、一定の条件を満たしかつ貧困削減のための政策変更の約束とその遂行の実績を残すことで債務救済を受けることができる制度。現在は40カ国が支援の適格国、または潜在的な適格国。
※2 The Multilateral Debt Relief Initiative(マルチ債務救済イニシアチブ)の略。HIPCの枠組みの中で、資格を得た国に対して完全な債務救済を行う制度。
※3 富裕層と貧困層とで気候変動の引き起こすさまざまな問題に対応する能力が異なり、結果として現在の貧富格差を広げてしまう現象のこと
ライター:Hisahiro Furukawa
グラフィック:Hisahiro Furukawa
理想論ではあるかもしれませんが、アフリカ諸国における負のサイクルをなくすためにも、最低限の人権を守った上で行動することが当たり前の世界になっていって欲しいと思いました。
Live8というものを知らなかったのですが、コンサートとはどういうものなのでしょうか?
1980年代にエチオピア飢餓への支援を呼びかけた有名なLive Aidコンサートの続きといってもいいのかもしれません。G8に行動を起こさせるという意味で「8」がつけられたものです。コンサート中に「債務の帳消しを!」的なスローガンも電子看板で流れるなど、啓発活動も含まれていました。欧米の複数の都市を中心に(ヨハネスブルグもあったが)、数多く(1千以上)の有名なバンド・歌手たちが参加したものです。Youtubeにもその様子が見れます:https://www.youtube.com/channel/UCckKR1kDbRKXJArtGYh6drQ/videos
3点質問です。
❶アフリカ諸国への貸付の主体が他の国の中で中国だけ多くなっているのはなぜでしょうか?
加えて、債務構成をみると、中国以外の国が主体となる貸付は割合的にはすごく少ないように感じます。そこで、g20の猶予は本文中にもありましたがそれほど効果がなさそうです。
そこで
❷多国間組織や民間の債権者の持つ債権に関してこの問題を解決する方法はあるのでしょうか?
❸債務の免除をすると信用に関わり借り入れを今後できなくなるという話もありましたが、国外からの借り入れ自体は悪いことではないのでしょうか?
横からすみません。
① 貸付の主体として中国が多くなっている背景には借りる側の都合も貸す側の都合もあります。借りる側としては、中国は他の国・組織に比べて低金利のものが多く、ローンが降りるまでの待つ・審査の期間が短いのです。貸す側としては、中国はアフリカを天然資源の入手先としても、製造品の輸出先としても重要視しており、友好関係を作り上げることも国際政治上の味方を増やす狙いもあるでしょう。
G20の猶予についてですが、G20にはIMF・世銀の主要メンバー(欧米・日本など)も中国も含まれているので、民間債権者以外のローンの大半はカバーされているはずです。一時的な猶予では、問題の根本的な解決策にはなりませんが。
② ①の答えにもありましたように、多国間組織(IMF・世銀)はG20の決定で含まれているので、ポイントとなるのは民間の債権者です。その中にいわゆるハゲタカファンドも含まれたりしていることもあり非常に難しいでしょう。G20各国が自国に所属するそれぞれの民間企業・銀行のローンを保証するなどと決めたら解決できそうですが、現実問題として可能かどうか、G20各国がそこまでするのかも不明瞭ですね。
③ 国外から借り入れ自体は悪い話ではないのでは?実際に、インフラなどのために資金は必要となったときに国内で調達できなかったら国外から求めるというのはありでしょう。開発に役立つことは考えられるでしょう。ただ、返済能力も、低金利かどうかなどの問題もあります。しかしなんといっても、記事の最後のほうにあったように、いろんな意味でアフリカが非常に不利な世界の経済システムが変わらない限り、この問題は繰り返し発生してしまうでしょう。
「債務危機」ということばを聞いて、「借金を抱えている」という意味でしかとらえたことがなかったので、「債務が人命そのものよりも優先されたり、人権が否定されたりする状況を引き起こすこと」という意味を知り驚いたと同時に、現実と照らし合わせて納得しました。
また、アフリカの国々にお金を貸していた国・銀行は、猶予を付けたり、借金をなしにするという施策が実行されることで、逆に、どのくらいマイナスの影響を受けるのか気になりました。
国内の資源の豊富さなど、アフリカ諸国間においても格差が生まれてしまっているのではないかと思いました。実際に人命や人権を守るためにはどのような行動をとることができるのか考えさせられました。
GDPに対する債務の割合が100%を超えていて、その深刻さがわかりました。
貸す側に責任があるのももちろんで、さらに国際的な格差という解決の道のりが長いものが根本的な原因なので、なかなか解決は難しそうです。
まずは高所得国による低所得国の搾取や不法資本流出を止めなければ、債務問題はいつまでも続くと感じました。
私たち日本人も、低所得国の人々の『貧しさ』を利用して快適に暮らしていて、その結果の一部としてこの現状があるということを認識しなければいけないと思いました。
債務国の割合が国によって全然違うことと、3国の平均で見ると、多国間組織、民間企業、中国の割合に大差ないことに驚きました。中国からの債務のイメージが強かったです。