2018年も残り数日。年末になると新聞やニュース番組では、今年起こった国内外の10大ニュースといったようなランキングが毎年発表される。2018年の各社の海外ニュースランキングには、どのような出来事が登場するのだろうか。米朝首脳会談や南北首脳会談がランクインするだろうと考えられる。他にも、タイの少年の洞窟救出、サウジアラビアの記者殺害事件、アメリカの中間選挙、フランスのデモなども挙げられる。一方、今年起こった多くの人に影響を与えた重大な出来事にもかかわらず、ランキングに入らないと考えられるものも多く存在する。そこで、GNVではあまり日本で報道されなかった重大なニュースをランキング方式で紹介していく。
ランキングの選出については、その出来事・現象に関する年間の報道量や、人間や世界への影響の度合い、2018年にどれほど変化したかなどを考慮した。出来事・現象は2018年に発生したもの以外にも、過去に起きたものの2018年に明らかになったものも含む。報道量に関しては、出来事・現象の規模に比べてどれほど報道されたかを重視している。(ランキング方法の詳細については脚注(※1)で掲載してある)。
GNVが選んだ2018年の潜んだ世界の10大ニュースは以下のとおりである。
第1位 エチオピア:地域の和平にも良い影響をもたらす新首相の大改革
2018年4月、エチオピアではアビー首相が就任した。以降、国内外において様々な改革が行われている。国内では、複数の地域で人権侵害を繰り返してきたこれまでの政権に対して、自由や平等を求める反政府デモや武力紛争が続いていた。アビー首相は就任直後から、それぞれの地域で政治犯の解放や拷問を行っていた刑務所の廃止を行い、国内の和平成立を目指している。さらに、政治改革として独裁政権の出現を防ぐために憲法の改正も行うようだ。国際的な影響としてはまず、エリトリアとの和平が大きな成果となった。エチオピアは国境をめぐって1998年からエリトリアと大規模な戦争を行っていたが、2018年6月に20年ぶりに和平を成立させて国交正常化に導いた。さらに、この和平合意の影響で国境紛争を抱えていたエリトリアとジブチが和解し、ソマリアとエリトリアとの関係も回復した。国連事務総長がアフリカの角に「希望の風」が吹いていると述べているように、和平合意は地域全体にも良い影響を及ぼしている。しかし、アビー首相の改革に反対する者による事件も起こっている。今後のエチオピアの平和はこの政権にかかっている。
報道量
朝日新聞:2.5記事/416文字
毎日新聞:5記事/2,220文字
読売新聞:0記事/0文字

エチオピアとエリトリアの和平合意(写真:Yemane Gebremeskel /Wikimedia)
第2位 イエメン:世界最悪の人道危機
2014年から続く武力紛争の影響で、イエメンでは人口の4分の3にあたる人々が援助と保護を必要としており、世界最悪の人道危機であることを国連事務総長が2018年4月に発表した。12月の時点で、1,400万人が食料不足に陥っており、2015年以降、約85,000人の5歳以下の子どもが飢餓で亡くなっている。さらに、コレラも流行し100万人以上の感染者が出ている。2014年に新政府に反対したフーシ派勢力が、政府を追い出し首都サナアを制圧さたことでイエメン紛争は始まった。2015年からサウジアラビアが率いる連合が介入し、大規模な空爆を繰り返し、地上での介入も行っている。また、イランから支援を受けているとされているフーシ派は、政府を支持するサウジアラビアに対して数回ミサイルによる攻撃も行っている。サウジアラビアが陸海空の輸送経路を封鎖してきたことが食料などの物資の不足を招いた。2018年12月に紛争終結に向けて、スウェーデンでフーシ派と政府の直接対談が行われた。そして13日に、紛争の主要地域であったボデイダでの休戦が決定した。紛争の解決、そして、人道危機の改善への一歩となるだろう。
報道量
朝日新聞:26記事/16,417文字
毎日新聞:17記事/9,303文字
読売新聞:17記事/6,399文字

(写真:Peter Biro /Flickr[CC BY-NC-ND 2.0])
第3位 ベネズエラ:難民・移民の増加
ベネズエラでは経済危機が主な原因で、人口3,240万人のうち2018年11月には300万人以上が国外に逃げている。難民や移民はコロンビアに100万人以上、ペルーに50万人、他にもブラジルやエクアドル、アルゼンチン、さらには中米やカリブ地域に逃げている。2014年以降、歳入の中心であった石油価格の下落に伴う物資不足に加えてハイパーインフレの影響で、経済が悪化し始め多くの難民や移民が発生した。2018年8月に通貨単位を10万分の1に切り下げて新通貨を導入したが、新通貨を入手するのは困難になっている。また、インフラ整備ができず水不足や停電が発生し、特に医療現場では十分な治療ができない地域もある。これらも原因となり国を出るものもいる。当初、周辺諸国はベネズエラ難民や移民に法的地位を認めるなど受け入れに寛容であった。しかし、難民や移民の規模の拡大につれて受け入れに苦労している国もあり、国内から難民や移民を追い出すなど厳しい対応が見られるケースもある。増え続けるベネズエラ難民や移民に対し、中南米全体で対応する枠組み作りが必要とされる。
報道量
朝日新聞:4記事/3,930文字
毎日新聞:1記事/1,080文字
読売新聞:0記事/0文字

ベネズエラ難民・移民のためにUNICEFが建てた一時的なテント内の様子(写真:UNICEF Ecuador /Flickr[CC BY 2.0])
第4位 インド:400万人を市民権リストから除名
インド北東のアッサム州で、400万人が、市民権リストから除名され追放の危機に直面する可能性がある。アッサム州に住む人々は、自分や自分の家族が1971年3月以前にインドに住んでいたことを証明するよう求められた。1971年3月は、隣接するバングラディッシュで起こったパキスタンからの独立戦争から逃れるために1,000万ものバングラディッシュの人々が流入した時期である。大半は独立後に戻ったものの、多くの人がアッサム州に定住した。インドのナレンドラ・モディ首相が主導する人民党は、市民権の登録は民族上のアッサム人を保護し、不法移民を弾圧するものだと述べている。その結果、インド市民としての登録を申請した3,200万人のうち400万人以上が市民権リストの草案では登録を拒否された。一方で、市民権リストからの除名は移民排斥を口実に、インドにおいて少数派であるムスリムを標的にしたものであるとも言われている。市民権リストから除名された人々は直ちに国から追放されるわけではなく、不服申立ての余地が残っている。しかし、除名された者にとっては厳しい状況になると考えられる。最終的な市民権リストは12月31日に完成する。
報道量
朝日新聞: 1記事/ 2,217文字
毎日新聞:0記事/0文字
読売新聞:0記事/0文字

(写真:Goutam Roy/Flickr[CC BY-SA 2.0])
第5位 世界:難民・避難民過去最多(2017年度)
2018年6月、UNHCR(国際連合難民高等弁務官事務所)の調査によると2017年に国内避難民も含む世界の難民の数が5年連続で増加し、6,850万人になり過去最多となったことがわかった。そのうち4,000万人が国内避難民、2,540万人が難民、310万人が庇護申請の結果待ちの状態である。2,540万人の難民のうち半数以上が18歳以下である。また、2017年に新たに難民・避難となった人数は1,620万人である。2017年の難民の原因は2017年後半に急激に悪化したミャンマーのロヒンギャ難民と、2017年新たな国内避難民が世界最多であったコンゴ民主共和国である。さらに、ベネズエラ難民などの庇護を求めて中米からメキシコやアメリカに向かう難民や庇護申請者も関係している。過去に難民となり、その状態が続いているものを含むと、難民の発生国は依然としてシリアが約630万人と最も多く、次にアフガニスタンや南スーダンが続く。こうした難民の85%は発展途上国で暮らしている。難民が増加する状況で、原因となっている紛争解決の他に、難民の受け入れ体制も重要となっている。
報道量(UNHCR発表を含み世界全体の難民の人数に関する記事)
朝日新聞:0記事/0文字
毎日新聞:1記事/441文字
読売新聞:1記事/158文字

バングラディッシュのキャンプで歩く子どものロヒンギャ難民(写真:EU Civil Protection and Humanitarian Aid Operations /Flickr[CC BY-NC-ND 2.0])
第6位 世界:抗生物質の耐性問題
2018年に発表されたWHO(世界保健機構)の報告書によると、調査を行った65か国中49か国では、薬剤耐性を防ぐために耐性菌が見られたときにのみ使うはずの抗生物質が、処方されている抗生物質の半数以上を占めていることがわかった。つまり、抗生物質の耐性問題が危機的なレベルに達している。抗生物質を過剰に摂取することで病原菌が抗生物質に対して耐久性を持つようになり、抗生物質が効かなくなるのである。その結果、肺炎やガン、感染症などの治療が十分に行えなくなる危険性がある。特に低所得や中間層の国で抗生物質の消費量が年々増加しているが、世界的にも見られる傾向であり、スーパー耐性菌の出現は激増している。また薬の供給が不十分な地域では、適切な処方もできず、耐性問題が助長される。さらに、新たな抗生物質を作っても利益が十分に得られないため抗生物質の開発があまり進んでいない。また、人間以外にも動物の体内にもスーパー耐性菌がみられる。家畜の飼育において成長を早め、効率を上げるために病気の予防として健康な家畜に抗生物質を過剰投与していることも原因とみられている。
報道量
朝日新聞:0記事/0文字
毎日新聞:0記事/0文字
読売新聞:0記事/0文字

(写真:ranys /Pixabay)
第7位 世界:貧富の差拡大
貧困問題を中心とした国際問題に取り組む国際NGOであるOxfam(オックスファム)によると、世界の42人の大富豪が最も貧しい世界人口の半数にあたる37億人と同じ富を持っていることが2018年に明らかになった。毎年行われる調査だが、2017年には61人、2009年には380人の富が最貧困の人々の半数の富に匹敵し、年々貧富の格差が拡大している。さらに2017年に生み出された世界の富の82%は世界で最も裕福な1%の人々のものになっている。アマゾン創設者のジェフ・ベゾスが2018年に世界で最も裕福になったように、世界の株式市場の活発化に伴い、2017年にはもともと資産を持っていた大富豪の富が7,620億ドル増えた。この富の7分の1を使うと世界で最貧困に苦しむ人々の貧困を解決できるほどの量である。一方で、世界人口の下位の半数の富は増加していない。また、男女間の格差も大きく世界の大富豪の9割が男性である。
報道量
朝日新聞:0記事/0文字
毎日新聞:0記事/0文字
読売新聞:0記事/0文字

インドのムンバイから見えるスラム街と都市の様子(写真:Sthitaprajna Jena /Flickr[CC BY-SA 2.0])
第8位 サヘル:10年ぶりの人道危機
2018年に雨不足や食料の価格高騰、紛争などが原因で、サヘルと呼ばれるサハラ砂漠の南部に東西に広がる帯状の地域では10年ぶりに子どもの飢餓が高い水準に達したことが明らかになった。さらに、サヘル地域は2018年において飢餓の増加率が世界で最も高かった。特に、ブルキナファソ、チャド、マリ、セネガル、モーリタニア、ニジェールの6か国では130万人以上の5歳以下の子どもが深刻な栄養失調の状態にある。食料が乏しくマラリアなどの病気が増加する収穫の少ない時期に特に栄養失調が深刻になる。FAO(国連食糧農業機関)によると2018年のこの時期に約600万人が食料不足に陥った。サヘルでは食物が育つ雨季が年に1度しかない。そのため気候変動や紛争の影響で不作であれば、作物や家畜を育てて食料とするサヘルの人々にとって次年度まで生活することが厳しくなる。近年は気候変動が原因で降水量が不安定であるため、栄養失調の問題が一層悪化している。
報道量
朝日新聞:0記事/0文字
毎日新聞:0記事/0文字
読売新聞:0記事/0文字

干ばつにより収穫量に悩むモーリタニアの女性(写真:Pablo Tosco /Flickr[CC BY-NC-ND 2.0])
第9位 東アフリカ:20年間でFGM(女性性器切除)激減
1995年から2016年の過去20年間で、東アフリカの14歳以下のFGMが行われた女性の割合は71.4%から8%に激減したことが2018年に明らかになった。また、北アフリカでは43.8%、西アフリカでも48.2%減少した。激減した原因はおそらく政策転換と地道な草の根レベルでのキャンペーンなどが挙げられる。FGMとは一定の年齢に達した女性の性器の一部を切除するもので一部の地域の文化的な慣習である。FGMを行うことで感染症にかかる恐れや、不妊など生涯つきまとう健康上の被害につながることもある。FGMが行われている28のアフリカの国のうち22か国がFGMを禁止する法律を定めた。アフリカでは減少しているものの、中東のイエメンとイラクでは現在も減少しておらず、それ以外の地域でも問題が未だに見られている。またFGMが減少した多くの地域でも、貧困や教育不足、文化的にFGMを支持する人々の存在で再び増加する可能性もある。世界でFGMが行われると予想される人数は2030年までに4,600万人にのぼる可能性があるとされている。この傾向は慣習としてFGMが行われている場所で人口が増加すると考えられるためである。FGMを減らすためには、その地域において教育の向上も重要になると考えられる。
報道量
朝日新聞:0記事/0文字
毎日新聞:0記事/0文字
読売新聞:0記事/0文字

FGMの危険性を学ぶ集会(写真:David Mutua /Flickr)
第10位 東南アジア:覚せい剤の生産・流通激増
国連によると、東南アジアのメコンデルタにおけるメタンフェタミン(覚せい剤)の生産・流通量が急激に増えていることが2018年に明らかになった。この地域はもともとアヘンやヘロインで有名で、特にラオス・ミャンマー・タイをまたぐ地域は「黄金の三角地帯」と呼ばれている。市場要因の作用として犯罪グループは覚せい剤に投資している。覚せい剤を製造する工場は一時的なもので簡単に移動させることができるので、覚せい剤の製造は発見されにくい。現在、特に中央政府の統治が届いていないミャンマー北部で行われている。国連職員によると、メコンにおけるアヘンやヘロインの生産は減少しつつあるが、覚せい剤の押収は2017年に比べて増えている。メコン地域やミャンマーで作られた覚せい剤は日本やオーストラリアなどアジア・太平洋地域で大量に見つかっている。ヘロインと覚せい剤の麻薬市場は400億ドルに値すると推定される。また、タイなどの東南アジア諸国においても先進国で消費される覚せい剤とは別の種類の、より安い価格の覚せい剤が多く出回っている。
報道量
朝日新聞:1記事/2,137文字
毎日新聞:0記事/0文字
読売新聞:0記事/0文字

「黄金の三角地帯」(写真:ryan harvey /Flickr[CC BY-SA 2.0])
ランキングの結果は以上である。日本では報道されなかったものが多いが、世界では2018年も多くの人間に大きな影響を与えた様々な出来事や現象が起こった。越境する、もしくグローバルにも広がるものも多く、問題に関してはグローバルなレベルでの対応が求められる。今後も日本では報道されないものも含め世界の様々は出来事や現象に目を向けていく。
※1:ランキングの決め方は以下の通りである。6つの地域(東・南・中央アジア、東南アジア・太平洋・インド洋、中東・北アフリカ、サハラ以南アフリカ、ヨーロッパ、南北アメリカ)で起こった出来事・現象から4個ずつとグローバルな出来事・現象から6個の計30個の日本での報道量が少なかった重大な出来事・現象を選出した。それぞれの出来事・現象に対して、報道量、越境性、影響を受ける人数、政治・経済・安全保障などのシステムへの影響、新鮮度の5つの項目において点数をつけた。特に注目されていないことを重要視するランキングであるため、報道量項目に関しては他の4つの項目に比べて倍の比重をかけた。点数をつけた結果、30個の中から7個の出来事・現象を決定することができた。残りの3個に関しては、点数が同じであったものの中から編集会議でテーマと地域のバランスなどを考慮して選んだ。最後に順位は編集会議で協議をした上で決定した。なお、報道量は2018年1月1日から2018年12月19日までを集計したものである。
ライター:Saki Takeuchi
すごいリストですね。たくさんの人間が大きな影響を受けているのに、まったく報道されていないものがあまりにも多すぎます・・
毎年、発表してほしい!
世界での出来事、知らない事ばかり。同じ人間なのに一日、一日の生き方が全く違う。
世界の富を独占している42人! 何とかしようと思わないの? おなじ人間としてもっと考えよう!!!
知らないことばかりで、特に1,2位はかなり衝撃を受けました。自力であるのが難しいのでこういうものは続けてほしいです。
ここまで甚大な被害が出ているにもかかわらず、GNVを読むまでほとんど知りませんでした。
こういった状況は明らかにおかしいので、日本の報道機関にはもっと目覚めてもらいたいですね。
読売新聞の「2018年海外の10大ニュース」が出ましたね。
https://www.yomiuri.co.jp/feature/top10news/20181129-OYT8T50038.html
GNVのトップ3のひとつも入っていない。というか、もとの候補にも入っていない。
それに、読売の【6位】英ヘンリー王子、米女優と挙式??
なんだか芸能ニュースのタブロイドみたい・・
潜んだニュース興味深く拝見しました。さまざまな出来事があるからこそ、世界を包括的に見ていかなければならないのに、日本の新聞の報道量の少なさには驚きを隠せません。2019年も世界のニュースを届けてください!
いつも興味深く読んでいます。GNVを知り記事を読んでいくうちに、世界や日本に対して見方や考えが変わってきました。
知らなかった世界がある‼️まず知る事の大切さを痛感しています。
より多くの人にGNVを読んで欲しいと願います。
1位のエチオピアのアビー首相がノーベル平和賞を受賞しましたね。
ノーベル平和賞になって初めて各報道機関が報道する。
それは、報道機関の役割を十分に果たせていると言えるのでしょうか。