2018年8月、ロシアの3人のジャーナリストが中央アフリカ共和国を車で移動していた時、襲撃に遭い殺害された。3人は、同国の鉱山で施設警備などを行っていたとみられる民間軍事会社(Private Military Company: PMC)のワグナー社(Wagner)へ取材をしようとしていたところであった。ワグナー社はロシア政府とも近い関係にあり(ロシア政府の支配下にあるという疑惑もある)、その活動はベールに覆われている。中央アフリカ共和国は政情不安定であり、襲撃は強盗目的だったと発表されているが、その殺害をめぐり不審な点がいくつか残る。殺害された3人が勤めていた報道機関の編集長は、彼らの殺害と取材の内容が関係しているのではないかと疑っている。
ワグナー社は、元ロシア兵をウクライナ反政府勢力の応援部隊として派遣し、その後は中央アフリカの他に、シリア、スーダンなどで活動してきたとされている。とはいえ、ワグナー社はあくまでも世界中で増え続けている民間軍事会社のひとつにすぎない。民間軍事会社は、陰に隠れて活動する場合もあれば、活動範囲を大きく広げ、堂々と活動している場合も少なくない。紛争地のような陸、海賊対策等を行う海、そして偵察等を行う空など、その活動範囲は広い。この記事では、そのような民間軍事会社とその活動について探っていく。

ウクライナ紛争で破壊されたドネツィク空港の様子(写真:Mstyslav Chernov [ CC BY-SA 4.0 ])
ビジネス、戦争、民間軍事会社
どの時代でも、世界のどこにおいても、金儲けと戦争とのつながりは深い。そもそも、ほとんどの戦争の背景には、富や資源をめぐる争いが存在すると言えるだろう。武力紛争を行う政府や反政府勢力が自国の企業などと協力しながら紛争を進めるケースはけっして少なくない。また、紛争の現場で多くの武力紛争の主役となる「ウォーロード」(※1)も、政府のコントロールが行き届いていない地域で、不安定な状況を利用し資源や経済活動を牛耳る存在となっている。さらに、戦争を行うためには大量の武器を作りグローバルなネットワークを通じて戦場に届ける必要があることから、武器貿易も巨大ビジネスである。
兵力に関しても、昔からビジネス的な側面を伴っていた。古代エジプトが行っていた戦争では、1万人を超える外国人傭兵が参戦していたと記録され、中世時代のヨーロッパやアジアでも傭兵で構成された部隊が大きな戦力となっていたケースがある。また、植民地化において、多くの場合その最先端を走っていたのは宗主国となる政府ではなく企業であり、奴隷貿易、資源や土地の略奪と占領には企業自身が兵力を有し行っていた。
現代の形の民間軍事会社は、軍事関連のサービスを提供する法人企業として、第二次世界大戦後から欧米で現れ始め、冷戦後にアメリカとソ連による世界各地での直接軍事介入が減少する中、この民間軍事会社が急増していった。1990年代には、アパルトヘイト政権の終結と共に、主に部分的に解体された南アフリカ軍の退役軍人で構成されたエグゼクティブ・アウトカムズ社(Executive Outcomes: EO)と、イギリス軍の退役軍人が立ち上げたサンドライン・インターナショナル社(Sandline International)の存在が特に目立っていた。アンゴラ、シエラレオネ、インドネシア、パプアニューギニアなどの政府や、大手石油・鉱山会社からも委託されていた。特にアンゴラとシエラレオネでは、EOが政府軍と協力しつつも、自社の兵力や戦闘ヘリ、歩兵戦闘車などを用いて、反政府勢力を撃退・追放することに成功している。

アフガニスタン兵士に迫撃砲の使い方を教える民間軍事会社の社員(写真:U.S. Army photo, Capt. Jarrod Morris [Public domain])
しかし、民間軍事会社がもっとも増えたのはアメリカだった。アフガニスタンやイラクの戦争が始まると米軍の活動の多くは民間会社に委託されることとなった。第二次世界大戦中、アメリカの軍事関係者の約10%が国軍外の下請け会社の社員で構成されていたが、2003年のイラク戦争になるとそれが50%にも跳ね上がっていた。2016年の時点で、米軍の下請けでアフガニスタンに派遣されている民間人の数は、米軍の約3倍、イラクでは約2倍にもなっている。同紛争の死亡者数をみても、米軍関係者より下請けの民間人のほうが上回っている。ダインコープ社(DynCorp)やアカデミ社(Academi)(※2)などアメリカを拠点とする大手民間軍事会社は、1万人以上の社員を雇い、10億米ドル単位の収益を得ている。これらの会社は、イラク、アフガニスタンの他に、コロンビア、イエメン、ソマリア、南スーダンなど多くの紛争地や政情不安定な地域で活動してきた。
平常時に一般的な警備を提供する会社も含めると、その規模はさらに大きくなる。紛争地域で活動する会社の中には、一般の警備を提供している会社もあり、それらを合わせて民間軍事警備会社(Private Military and Security Company: PMSC)と呼ぶ。この中では、特にイギリスに拠点を構えるG4S社の存在が目立つ。G4S社は世界125カ国で事業を展開しており、民間企業での単独従業員数(625,000人)としては世界2位とまでなっている。軍事活動も行っているが、警備活動が中心である。その他、軍事活動がメインとなっている企業も、紛争のない国で活動をすることがある。例えば、ブラックウォーター社(現在のアカデミ社)はハリケーン・カトリーナ後のアメリカ・ニューオーリンズでの警備や、日本のミサイル防衛用のレーダーの警備などを委託されることもあった。

イラクでアメリカ国務省関係者の護衛を担当する民間軍事会社の社員(写真:Jamesdale10 [ CC BY-2.0 ])
疑わしい活動、危険な活動
民間軍事会社の活動は大きく3つに分けることができる。1つ目は「軍事力の提供」であり、前線での活動となる。戦闘関連の活動や警備、飛行機やドローンによる偵察なども含まれる。2つ目は「後方支援の提供」で、運送、物流などのサポート業務が挙げられる。3つ目は「コンサルティング業」である。国軍などに対する教育・訓練、分析及び助言業務である。特に問題が発生するのは1つ目の「軍事力の提供」である。
ひとつの大きな問題は、民間軍事会社が利益を追求する団体だというところにある。利益が出る見込みがなければ、そもそも出動することはない。先進国の大きな軍隊の下請けとなるものに関しては国軍の延長線としてみることができるかもしれないが、貧困国の政府から委託される場合、民間軍事会社の費用はその国の天然資源と関連付けられ、鉱山の売上のシェアなどで支払われることがある。場合によっては、政府から委託されるとしても、国民の安全より収益の高い天然資源の確保を優先し、反政府勢力を抑える、あるいは長期的な治安回復関連の業務よりも、鉱山を取り返すことやその施設の警備が活動内容のメインとなってしまうこともある。また、現地の政府ではなく、鉱山・石油関連の外資系企業から委託されることもあり、これらの企業による不法な鉱物資源の搾取に加担することもありうる。
利益の追求が目的となっているため、人材についても問題が発生する。民間軍事会社は国軍と違って、社員の国籍は問わないが、国籍とバックグラウンドによって給料が異なる。先進国の退役軍人は高いレベルの訓練を受けていることもあり、高い給料でなければ雇えない。一方、貧困国出身の人材だと給料が安くても雇うことができる。まさに世界の格差問題が現れている。例えば、イラクでの米軍施設の警備を委託されていたイギリスのイージス社(Aegis)(※3)の行動が2016年に注目された。当初、米軍からの高額な委託料により、先進国からの退役軍人を主に雇っていたが、委託料が減ってくると、ネパールなどの退役軍人を安い給料で雇い、やがて、さらに安く雇えるアフリカから人材を確保するようになった。軍事活動の経験者を求める中で、トラウマを抱えているシエラレオネの元少年兵もその中に含まれていたことが判明し、問題となった。

シエラレオネ紛争で破壊された学校の近くで遊ぶ子どもたち(写真:Laura Lartigue [Public domain], via Wikimedia Commons)
誰に、何のために委託されるのかも問われている。正当な政府から委託され、その政府の法律に従って活動をしていると主張する民間軍事会社は多い。しかし、違法に闇で反政府勢力や企業から委託される場合もある。例えば、2004年に傭兵グループが赤道ギニアの政府に対してクーデター未遂事件を起こし、イギリスのサッチャー元首相の息子がその関与で有罪判決を受け、本人の関与が疑われることもあった。また国際的に認められている政府からの委託といっても、その委託内容が国民の抑圧、戦争犯罪や人権侵害への加担となった場合にどのような責任が問われるのかは難しい問題である。
例えば、サウジアラビアとアラブ首長国連邦が主導する連合が介入しているイエメン紛争において、戦争犯罪とも捉えられる行為や人権侵害が数々記録されている。その連合の主要な一員であるアラブ首長国連邦は、民間軍事会社に大きく頼っている。アメリカのアカデミ社もダインコープ社も委託された経緯があり、また、アラブ首長国連邦政府は、紛争経験が豊富なコロンビアやその他の中南米の傭兵を直接雇っている。さらに、アラブ首長国連邦は外国軍の退役軍人を個人ベースで雇うこともある。例えば、同国のヘリ部隊の長となっているのは元米軍の退役軍人だが、2017年にヘリがイエメンの港を目指していた船に対して複数回にわたり発砲し、40人以上のソマリア難民が殺された。アラブ首長国連邦は否定しているものの、同国のヘリによる行為であった可能性が高い。
さらに、民間軍事会社の中でも、指揮系統や交戦規則などのルールが明確で、人権や戦争犯罪に関する訓練や教育が徹底されているかどうかも大きな問題となりうる。イラクでは、ブラックウォーター社の社員による殺害事件が複数報告され、特に、米大使館車両の護衛中に同社の社員が一般市民に向けて発砲し17人が死亡した2007年の事件が目立っている。

イラクで爆撃の偵察をするブラックウォーター社のヘリ(写真:U.S. Air Force, Master Sgt. Michael E. Best [Public domain], via Wikimedia Commons)
このような事件に対して、戦争犯罪の場合は国際刑事裁判所(ICC)に持ち込むことができるのかもしれない。また、事件が発生した国、もしくは民間軍事会社の社員やその他の傭兵の出身国の司法制度で裁くことができる場合もある。実際、上記のブラックウォーター社の事件では、4人がアメリカで有罪判決を受けた。このような事件が起きなくても、民間軍事会社の前線への参加自体がどこまで許されるのかも問われている。戦闘行為を行う「傭兵」の募集や使用などを禁じる決議が1989年に国連総会で採択されたが、警備や護衛などはグレーゾーンとして残っている。また、合法な組織による正当な活動として認められたとしても、民間軍事会社の存在と活動を厳しく規制・監視をする必要がある。
平和活動の救世主?
2015年、ナイジェリアは反政府勢力ボコ・ハラムとの戦いで民間軍事会社のSTTEP社(※4)に協力を依頼した。ボコ・ハラムは政府との戦争において、子どもの誘拐やテロ事件などを起こし、ISに忠誠を誓った団体として悪名高かった。他国が介入の意欲を見せない中、STTEP社の力を借りたナイジェリア政府が比較的短期間でボコ・ハラムに大きな打撃を与えることができた。
これはけっして平和活動ではなく、上記のように民間軍事会社をめぐり多くの課題や問題が残っている。だが、このケースにおいては、民間軍事会社が政府による統治と治安を取り戻すという効果的な役割を果たしたことも否定できない。民間軍事会社は確かに利益を追求するが、国家も類似のものとも考えられる国益を追求する。他国での人道問題がどれほど深刻であろうと、国益上の価値が認められなければ、国家はなかなか動かない。また、国益として重要だと認められたとしても、自国の兵士が亡くなれば政治的なコストがかかることから、政府は国軍の代わりに、「自己責任」として片付けられる民間軍事会社へ委託する場合が多い。
そこで、人材の獲得に苦労する国連平和維持部隊(PKO)においても、民間軍事会社の活用が議論されるようになっている。国連とその関連機関は、すでに施設警備、護衛、訓練などを民間軍事会社に依頼しているが、PKOへの参加はまだ見られていない。現在、先進国はPKO用の資金は提供しても、兵力はほとんど提供していない。PKOに参加する兵士の多くが、いわゆる発展途上国で構成されているが、提供されている部隊は十分な訓練を受けていない場合も少なくない。また、どの国に関しても、PKOに全力で参加するインセンティブが低いため、そのような状況の中で、民間軍事会社の社員をPKO兵士として動員することについては、慎重に、かつ、条件付きで推進する声が現れている。
国際政治の悪役として批難されやすい民間軍事会社。PKOへ委託され、平和の回復に貢献する日はそう遠くはないのかもしれない。

中央アフリカ共和国でPKOを視察するアントニオ・グテーレス国連事務総長(写真:UN Photo/Eskinder Debebe [ CC BY-NC-ND 2.0 ])
ライター:Virgil Hawkins
※1 ウォーロード(warlord)とは、私的利益を追求するための武装勢力のことである。政府の統治能力が低い地域で生まれ、その地域の実質的な支配者となる。反政府勢力と違い、政府転覆は目指さず、政府軍との衝突も避ける。占領・活動地域内での安全保障環境を独占することによって経済活動もコントロールでき利益を得る。
※2 アカデミ社は、1997年に米軍の退役軍人のエリック・プリンスにより、ブラックウォーター社(Blackwater)として創設されたが、数々のスキャンダルを経て、2009年にジー・サービシズ社(Xe Services)として生まれ変わり、2010年に現在のアカデミ社となった。
※3 イージス社は2015年にカナダのガルダ・ワールド社(GardaWorld)に買収された。
※4 STTEP社 (Specialized Tasks, Training, Equipment and Protectionの略)を運営するのは、民間軍事会社の元祖ともなったエグゼクティブ・ア ウトカムズ社(1989-1998年)の創設者である南アフリ カの退役軍人エーベン・バー ローである。
記事興味深く拝読しました。民間軍事会社というと
つい「悪」や「紛争に介入する」という
イメージがありますが、PKOに行ってもらう
というのはいいアィディアかと思いました。