2017年は3か国で長期政権が終わった年だ。1月には、ガンビアのジャメが、大統領選の敗北により、22年続いた政権の座から退いた。9月には、アンゴラのドス・サントスが自ら選挙の不出馬を表明し、38年ぶりに大統領が交代した。11月には、ジンバブエのムガベが、クーデターを受け、大統領を辞任。93歳の世界最高齢の国家指導者は37年の統治に終止符を打った。特にジンバブエの件は日本でもよく報道されており、知っている人も多いだろう。そこで、2017年のガンビア、アンゴラ、ジンバブエの大統領退陣について、日本の大手全国紙3社である朝日、読売、毎日の報道量を記事数で比較してみた。すると結果は、ガンビアが13件、アンゴラが1件、ジンバブエが77件だった。長期政権が変わるという同じような出来事が起こったにもかかわらず、3国間の報道量には大きな差があることが分かる。ちなみに、その前年におけるジンバブエに関する記事数はたった7件だった。このことから、普段報道されないジンバブエだが、そこでの退陣が例外的に注目されていたと言える。

記者会見(2013年)に臨む3人の大統領。2018年2月に辞任に追い込まれた南アフリカのズマ(左)、2017年に大統領の座を降りたアンゴラのドス・サントス(中央)、任期が終わっても大統領の座に居残るコンゴ民主共和国のカビラ(右) (写真:GovernmentZA/Flickr [CC BY-ND 2.0])
2017年に3か国の長期政権が終わったものの、世界には依然として20年を超える長期政権の国家が多数存在する。そこで、この記事では、このような長期政権国家や権威主義体制の国家についての報道にスポットを当てて、日本の国際報道について分析していく。
そもそも権威主義体制とは
まず初めに、今回取り上げる権威主義国家とはいったいどのようなものなのか、説明しよう。権威主義体制では、軍政、一党制、個人支配、君主制のように、少数の人間に権力が集中している。このような国家では、市民の参政権が制限されていたり、権力分立が無かったり、富が一部の人間にのみ分配され、公共財が提供されていなかったりする。しかしながら、権威主義国家でも選挙が行われることはある。ただ、その方法や過程が不公平なので、民主的な選挙とはいえない。例えば、不合理な理由をつけて野党の出馬あるいはその選挙キャンペーンを禁止するとか、票を獲得するために不正に有権者の数または票を水増しするとか、現政権が有利なように国営放送をコントロールするとか、選挙結果の数字を改ざんするとか、様々な手段を用いている。また、選挙や国民投票といった民主的と思われる手段を用いて、自らの権力拡大を進める指導者もいる。つまり、見た目は民主主義だが、その実態は権威主義という国があるということだ。
そこで、権威主義国家かどうかの判断基準として、イギリスのエコノミスト誌の調査部門であるインテリジェンスユニットが発表した民主主義指数のランキングを用いる。この民主主義指数は、世界167の国を対象にしている。それぞれの国に5つの部門で得点を付け、得点が高い方から順に、完全な民主主義、欠陥のある民主主義、ハイブリッドの体制、権威主義の4つに分類している。これから行う分析では、権威主義のグループに入っている国々に注目していく。
民主主義指数ワースト10の報道量
まずは、民主主義指数ランキングでワースト10に入った国についての日本の報道量を見ていこう。用いるデータは、2016年の民主主義指数と2016年の大手全国紙3社(朝日、読売、毎日)の朝刊から収集したデータだ。この分析を通して、権威主義度合いが高い国家について、日本のメディアがどれくらい報道していて、どのような角度からその国について伝えているのかというのを見ていきたい。
上の表は、民主主義指数ランキングが低い国から順に並べ、報道量を文字数で比較している。見てわかるとおり、北朝鮮とシリアの報道量が圧倒的に多い。実際に、2016年の国際報道全体で、北朝鮮は4番目、シリアが7番目に多く報道されていた国だった。北朝鮮についての報道の多くは、ミサイルと核の問題や拉致被害者に関するものだった。シリアについては、イスラム国(IS)や紛争の問題に関する報道が多く見られた。次に報道量が多い国はサウジアラビアで、イランとの国交断絶や石油についての報道が目立った。
そのほかの国は、1年間で1万字に満たない報道量であった。では、それぞれの国についてどのようなことが報じられたのだろうか。ウズベキスタンは、2016年8月にカリモフ大統領が入院し、翌9月に死去したというニュースが大半を占めた。このカリモフ大統領は、亡くなるまで27年間在任しており、その間政府によって、多くの人々の人権が侵害された。そして、2016年12月には、初めての政権移行が実現した。
コンゴ民主共和国では、9月に反政府デモで17人が死亡したというニュースが報じられた。このデモは、ジョセフ・カビラ大統領が自身の在任期間を不当に延長しようとしたことに抗議するために行われた。さらに、コンゴ民主共和国は、2016年の紛争による国内避難民の数が世界最多で、およそ92万人の避難民が発生した。
タジキスタンについては、大統領の多選制限廃止が伝えられている。5月に、大統領の任期を無期限にするという憲法改正の国民投票が行われ、賛成多数で可決された。ラフモン大統領は、2018年で就任24年目になる。この2016年に行われた憲法改正では、大統領に立候補できる最低年齢を35歳から30歳に下げるという項目があり、それは、ラフモン氏の息子を次の大統領選に出馬させるためだと言われている。
残りの4国はほとんど報道が無かった。チャドについては、ハブレ前大統領が、亡命先のセネガルの法廷にて、人道に対する罪で終身刑を言い渡されたという記事が掲載されていた。赤道ギニアは、大統領が5回目の再選を果たしたことが報道されていたが、中央アフリカ共和国は、大統領選があったにもかかわらず報道されなかった。特に中央アフリカ共和国は、政情が不安定で、武力紛争も続いている中で久しぶりに選挙によって大統領が選出されたが、そのことについては各紙一言も触れていない。トルクメニスタンは、2007年からベルディムハメドフ大統領が就任し、強権体制を敷いているが、2016年にトルクメニスタンに関する報道は無かった。
以上のことから、権威主義国家に限定して報道量を分析してみても、よく報道されるのは一部の国のみで、アフリカの国々は報道されにくいということが分かった。一方で、報道量が少ない国でも、その国の政治体制に関わるようなニュースをわずかながらに取り上げているということも分かった。ただし、この調査では、権威主義の国家を対象としているので、権威主義体制そのものが注目されるのか、ということは知ることができない。そこで、次に権威主義国家の顔である指導者に注目してみよう。
現役の長期政権トップ10の報道量
世界には、20年以上国を統治している指導者が13人も存在する。(※1)統治の形は、大統領制だったり、君主制だったりする。下の図は、在任期間が最も長い10人の指導者を示したものである。(※2)
最も長いのは、オマーン国王のカブース・ビン・サイードである。彼は、1970年に当時の王である父に対してクーデターを起こし、王になった。首相や外務大臣も兼任しており、オマーンの政治に対して絶対的な権力を持っている。このように独裁的である一方で、近代化政策やインフラ整備などを推し進め、市民の支持を得ている。アラブの春の時には、市民の要求に対して早急に応じ、デモを鎮静化した。
ブルネイの国王であるハサナル・ボルキアは1967年に彼の父から王位を継承した。当時のブルネイは、イギリスの保護領でありながら、内政の自治は確立されているという状態だったが、1984年に完全独立を果たした。政体は立憲君主制だが、独立してから議会は停止されていた。2004年に議会が再開されたものの、依然としてボルキアは、国政全般を掌握している。
カザフスタンのナザルバエフ大統領は、ソ連からの独立以来ずっと政権を維持している。2010年には、議会がナザルバエフ大統領の選挙なしでの任期延長を承認したが、翌年には、選挙を行い、再選を果たした。彼は、民主化について、「長期的な目標だが、安定性が失われるため、急速に進めるべきではない」と主張している。
その他、アフリカの長期政権については、こちらの記事で詳しく説明している。
続いて、この10か国が過去20年間どれくらい報道されていたのか見てみよう。大手全国紙3社の朝刊を調査対象とし、各国の指導者の名前や指導者を示唆する文言が見出しに出現した記事の文字数を調べた。結果が以下のグラフである。
一目見てわかるのが、スーダンのバシルとカザフスタンのナザルバエフに関する報道がこの10か国の中では突出しているということだ。バシル大統領は、2000年代のダルフール紛争で虐殺を主導したとして、国際刑事裁判所から逮捕状が請求されたが、そのことについての報道が最も多かった。ナザルバエフ大統領については、再選のニュースが目立った。ほかの国に関しても、選挙についての報道は見受けられた。しかしながら、20年という期間がありながら、半分以上の指導者は3社を合わせても5,000字に満たない報道量であった。記事数にすると10記事を下回る量だ。つまり、統治者の在任期間が長くても、その人自身の報道量は増加しないということが明らかになった。
権威主義は報道の対象になるのか
ここまで国家と指導者という2つの視点から日本の報道における権威主義体制の取り上げ方を見てきた。これらの分析の結果、国や指導者の間で報道量に大きな差があったといえる。しかしながら、権威主義の度合いと報道量には相関関係があまりないだろう。確かに、北朝鮮やシリアの報道量は多かったが、権威主義だからというよりは、日本にとって直接的な脅威だとみなされるような、核ミサイル問題や紛争などがあるからニュースになっている。また、長期政権に関して言えば、在任期間の長さと報道量は関連していない。こちらは、スーダンのバシルのように何か大きな事件、とりわけ欧米で大きく注目されるような事件があれば、日本でも取り上げられやすくなるのだろう。
長期政権は、当たり前のことだが、政権交代をしないため、劇的な変化が起こることが少ない。逆に言えば、長期政権が終わるということは大きな変化なので、報道量は伸びてもよいはずだ。冒頭でも紹介したとおり、昨年のジンバブエのムガベ氏が退陣したニュースは大きく取り上げられた。しかし、それ以外の2国についてはほとんど報道されていない。この理由としては、指導者の知名度や他国との関係が挙げられる。ムガベは、以前から欧米と敵対しており、悪名高い指導者として認知されていた。だから、欧米では、知名度が高いムガベの退陣のニュースが大きく取り扱われ、その影響で日本でも報道量が多くなったのだ。つまり、長期独裁的な国家が日本で報道されるためには、国際的な注目を浴びるようなセンセーショナルな出来事が必要なのだ。しかし、大きな事件がなくとも、権力と財産の独占や日常的に人権問題が起こっている国を無視してよいのだろうか。今後とも権威主義国家に対する報道に注目していきたい。

アメリカのケリー国務長官と会話するカブース国王 / 2013年、マスカット(写真:U.S. Department of State/flickr [U.S. Government Works])
[脚注]
※1 現在の体制になってからの年数をカウント。1期目と2期目に間が空いている場合は、2期目のみを対象とする。
※2 君主制は、国王に行政権が存する国のみ対象とする。イランでは、最高指導者が国政に関して最終決定権を持っており、国軍の最高司令官でもあるが、大統領が行政府の長として政策を実行しているため、ここでは最高指導者は対象外としている。
ライター:Miho Horinouchi
グラフィック:Miho Horinouchi