昨今、「日本文化」や「日本人」を称賛するテレビ番組が目立つ。多くの視聴者にあてはまる「日本人」というカテゴリーを持ち上げることで、彼らの承認欲求を満たし視聴率を稼ぎたいというのは当然の思惑だろう。日本を称賛するメディアについて、それは日本人の自信のなさの表れだという考察がある。また一方で、長い不況から抜け出した日本が五輪招致や「和食」の世界無形文化遺産登録など対外的評価を得たことに起因する「日本称賛ブーム」であるという見方もある。確かに日本称賛番組では多くの外国人が日本を大絶賛している。しかし、客観的に見て過剰な日本賛美に違和感を覚える人も多い。日本称賛番組の映し出す世界の様子や、世界における日本の様子、更には自国を称賛することの意義や問題点について今一度見直す必要がある。

タイで行われたJAPAN EXPOで踊るアイドル(写真:Iudexvivorum /Wikimedia Commons[CC0 1.0])
多くのテレビ局で放送されている「日本称賛番組」
日本称賛番組に当てはまる番組はどれくらいあるだろうか。各テレビ局の番組をリサーチしたところ、多くのテレビ局が日本を称賛するバラエティ番組を放送している。
例えばテレビ朝日の『世界が驚いたニッポン! スゴ〜イデスネ!!視察団』は、番組のウェブサイトによると、「外国人に母国と大きく異なる日本の凄さを紹介してもらい、日本の素晴らしさと独自性を新発見する」番組である。NHKの『COOL JAPAN~発掘!かっこいいニッポン~』はそのテーマを日本文化に絞り、10年以上も「外国人の視点から日本文化の魅力を探求」している。ウェブサイトでは「私たちが当たり前と思ってきた日本の様々な文化が外国の人たちには格好いいモノとして受け入れられ、流行している」と述べられている。一方、TBSの『メイドインジャパン!』の主なテーマは「日本製品」である。この番組は日本で暮らす外国人に「日本で一番素晴らしいと思った日本製品を母国に持って帰ってもらい、感動的な家族の絆と日本製品の素晴らしさを一度に認識してもらうハートフルバラエティ」であるという。
他にも、海外に住む日本人が現地の人々を救って感謝されていたり人気になっていたりする様子を映す番組もある。テレビ東京の『世界ナゼそこに?日本人~知られざる波瀾万丈伝~』は「日本人であることに誇りが持て、日本を応援するドキュメントバラエティ」であり、ある日本人の海外での活躍を国民全体の喜びであるかのようにとらえている。テレビ朝日の『世界の村で発見!こんなところに日本人』は世界中の様々な地に住む日本人を訪問し、想像を絶する暮らし方や人生を紐解く番組である。
これらの番組にみられる共通点は「世界から評価される日本像」を映し出していることだ。日本を称賛する手法は、日本に来た外国人にインタビューを行い、彼らが日本のことを褒める様子を映したり、日本人が海外で人を救って感謝された成功話だったり、およそテンプレート化されている。そしてどれも主観的な偏った見方で日本の様子を伝えている。

ある日本称賛番組のタイトル
また、番組制作者側が意図的に内容を歪めて放送していることもある、という指摘が複数上がっている。例えば日本で英会話講師をやっている女性が、日本称賛番組に出る際に日本のアニメグッズなど番組映えするものを要求されたり、コンビニエンスストアを過剰に褒めるようにセリフを指示されたりしたことが不快だったと告発している。また、ある日本称賛番組で、外国製の玩具を「メイドインジャパン」の商品として紹介していたという問題点も挙げられている。他にも、ペルシャ語のセリフを字幕で大げさに誇張していたり、日本製品を褒めているセリフが字幕で付け足されていたりするという指摘がイラン在住の新聞記者から寄せられている。外国人の視点や国外からの評価を都合のいいように利用していることは、メディアの信頼を損なうことにつながっているのではないだろうか。
世界を舞台にする「日本称賛番組」はどんな世界を映し出しているのか
数ある日本称賛番組の中で、上記したように世界各国を舞台にする番組も幾つかある。これらの番組は、各国の様々な姿を知る機会を視聴者に提供しているにもかかわらず、番組の目的は「日本の素晴らしさ」を確かめることだという。そこで、多くの国に足を運び取材を行っている、テレビ東京の『世界ナゼそこに?日本人~知られざる波瀾万丈伝~』をピックアップし、そこからどんな世界が見えるのか調査を行った。
この番組は放送開始から7年、これまでに130ヵ国以上を訪れ、そこに住む日本人を取材してきた。彼らの壮絶な人生を振り返りながら、日本を離れ異国の地にやってきた理由や、現地で奮闘しながら生活する様子を映し出す。更に、一人の日本人の波瀾万丈な人生を映すことをベースにしつつ、「日本人が現地の人々を救って感謝されている話」や「日本文化を広めて現地で人気を博したり絶賛されたりした話」などが主要なテーマとなるエピソードも多い。全307エピソードのうち、日本人が恵まれない人々を救済し感謝された、というような話は94つと多く、日本文化が外国の人に高い評価を受けたという話も39つあった。
各エピソードを詳しく見ると、日本人が救済支援を行い感謝されたというエピソードでは「2000万円もの私財を投げ打ってまで カンボジアの貧しい子ども達を無給で救い続けている日本人」、「愛する妻と子どもを日本に残してまで、スーダンで貧しい人々の命を救う、日本人医師」、「アフリカ中部の秘境で19年間…貧しい先住民族 バカ族を救う日本人女性」などのタイトルにみられるように、孤児院や学校を設立した話や医療の無償提供の話がよく見られる。更に、この番組は「日本人が世界で感謝されている」という点を強調したがる節があることが確認される。「感謝される日本人」というワードは24エピソードのタイトルに盛り込まれ、2018年には「世界で感謝されている日本人特集2時間スペシャル」と称した拡大版が5回も放送されている。感謝されているという内容は、医療や教育現場での支援の話が多く、「私財○億円を投げうった」など金銭面での支援が強調されているタイトルは8つあった。

「世界で尊敬される日本人」特集を放送する日本称賛番組
日本文化が称賛されているというエピソードでは「カナダで日本のアレを広め ナゼか現地の人から非常に喜ばれている日本人職人」、「オーストラリアで『日本伝統のある事』を披露した事で スタンディングオベーションされる程に超有名になった日本人女性」、「全米で大ヒット!アメリカで日本のアレを広め、あのイチローより有名! 感謝され続けている日本人」などのように、日本文化の人気の高さをうかがわせるエピソードになっている。
また、地域別に分けるとその違いも浮き彫りになる。エピソード数でみれば、南・東南アジア、ヨーロッパ、アフリカ、中南米の4地域が圧倒的に多く、合計で全体の8割を占めているが、それぞれの地域ごとに特徴が見られる。ヨーロッパではほとんど見られない「救済支援」の話は、対照的に南・東南アジアの全エピソードの半数以上を占めており、アフリカでも同様に多くなっている。特に、カンボジアは12回、ケニアは9回と、番組で上位の出場回数を誇る国々だが、そのエピソードはほとんどが学校建設や医療面での救済である。援助の方法は多様にあるにもかかわらず、同じことを繰り返し放送するばかりである。
日本称賛番組の問題点
ここまで日本称賛番組を分析してきたが、このような番組にみられる過剰な日本賛美はどのような点が問題なのだろうか。
まず、これらの番組は日本を称賛することにばかり注力した結果、日本以外の国々の様子を画一化・単純化してしまっている。特に『世界ナゼそこに?日本人』では、アフリカや東南アジアの国々に日本人が支援するところばかりを映し出しており、「自力で発展する術を持たず、日本からの救いの手を頼りにしている」という一方的な見方を潜在的に視聴者に与えている。しかし、アフリカなどのいわゆる発展途上国でも、自国で様々なイノベーションを創出するなど、自助努力で成長を成し遂げていることは言うまでもない。つまりこれらの番組は、世界各国の成長や国と国との関係への理解を妨げているのである。
また、日本人や日本文化に感謝する外国人の様子ばかり映せば、その国全体が「親日」であるのだという勘違いを生みだしてしまう。そもそも、一個人の他国への感情は各々の価値観や経験に基づく非常に複雑なものであり、ある国が丸ごと「親日」だと考えるのは非現実的な捉え方である。また国家間の関係も同様に複雑化しており、「援助」という形もあれば同時に「搾取」の関係も存在するのだ。日本称賛番組で「援助」の内容や「親日」の人が一部存在することを誇張して放送する一方で、日本を含む経済大国がどんな搾取を行っているのかを報道するメディアは少ない。
例えば、バングラデシュは日本称賛番組では「親日」とされており、「日本人が感謝されている」という面だけを映している。しかし、ファッション業界の労働環境の悲惨さが問題視されている中、世界中のファッションメーカーの服飾工場が置かれているバングラデシュでは、そこで働く労働者が低賃金に抗議するデモを現在でも行っている。バングラデシュに多数進出している日本企業もその対象の例外ではない。それにもかかわらず、2016年にバングラデシュの首都ダッカでテロが起き、日本人7人を含む20人が殺害された際、日本では「親日国であるはずのバングラデシュ」でこのような事件が起きることの意外性が話題となった。このテロは労働者のデモに直接起因するものではないが、ある国が丸ごと「親日」だという神話をメディアが作り上げることが危険な場合もある。
他にも、日本称賛番組は概して「日本の凄さ」を再確認させたり「日本人であることの誇り」を視聴者に持たせたりすることを宣言しているが、客観的な見方をしなければ多くの誤解を招く。日本称賛ブームは過去にも見られ、1933年の満州事変をきっかけに日本が国際社会から孤立し、太平洋戦争に突入していった時期と重なる。メディアが肥大化させたナショナリズムや「日本人」としてのエゴが、国家を自国中心主義的な方向に突き進ませる起爆剤となってしまった歴史も過去にはあったのだ。

アフリカ・ザンビアの様子を放送する日本称賛番組
日本称賛番組は様々な切り口や手法で「日本の素晴らしさ」を伝えている。しかし、事実を歪めて過剰に「日本賛美」ばかりしていては、世界の情勢や多様な価値観を無視する人を育ててしまう危険もある。日本を褒めるところだけを切り取っても、世界のありのままの現状は見えてこず、過大評価が行き過ぎたナショナリズムを育ててしまうことも考えられる。特にアフリカや南アジアは、普段のニュースではほとんど報道されない地域であるからこそ、それらの国々を知る機会を得られる日本称賛番組の存在や責任は重要である。日本称賛番組は時に娯楽の域を超えた大きな影響力を持つのだということを、テレビ局側は理解しなければならない。
ライター:Aya Inoue
グラフィック:Saki Takeuchi
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自国の外国からの「客観的」な「スゴさ」は実は客観的ではなく歪められたスゴさなんですよね。
自国民の活躍や文化の賞賛などは一見するとそこまで問題性がなさそうですが、記事を読んで問題点を明確に理解することができました。
日本人は元来謙虚さが売りであったように思うが、このような偏狭的な報道により、それを鵜呑みにした視聴者が「私は日本人だからすごいんだ」といったような傲慢さを持つことに繋がりかねないと、このような番組を見る度に危機感を抱いていた。記事ではデータがきちんと示されていて、報道の歪みを強く感じさせられた。
ただたんなる娯楽で済むならいいけど、残念ながらそうではなくて、
このような番組がかなり有害だよね。
番組が助長するナルシズムとナショナリズムも問題だけど、
実際の世界と違う歪んだイメージをつくっているのも大きな問題。
この記事にあるように、アフリカは通常のニュースでは基本的に報道されないから、
視聴者の「アフリカ」に対するイメージはこのような番組で作られてしまう。
強い危機感を感じる。
こういう番組をただただ楽しんで見ていたという人にこそ、この記事を読んでみてほしい。受身的に享受しているだけでも価値観に与える影響は大きいと思う。
テレビは、限られた時間内で「面白い」番組を届けるために、あらゆる物事を単純化して切り取っている。それがテレビの特性でもあり、ある程度はしょうがないのかもしれない。だからこそ私たち見る側は「分かりやすい=重要な細部が多々端折られている」ということに自覚的に見なきゃですね。
日本を褒め称えるような言論が多くなってきている、この風潮にすこし危機感を感じています。日本の外へと目を向けず、日本の内へ内へと注意が向かう現状の空気は、戦前のそれと近いものがあるのではないでしょうか?また、ここで取り上げられているような番組が、普段報道がなされないアフリカや南米についてを紹介する数少ない機会だと知り、その点でも非常に問題視されるべきことだと感じています。自国の認識も他国の認識もある種捻じ曲げてしまっているからです。
客観的に世界を捉えること、そしてそこから相対化して初めて己も理解できること。それができなくなっている日本の危うさが、こういった番組や今のメディアの在り方に表れていると思います。是正していかないと。
私自身も近年、日本人を称賛する番組が増えていることに違和感を覚えていた。
変に日本人をヒーローのように誇張して祭り上げ、現地の生活などは全く触れない番組が多く存在するのは、ナショナリズムを高揚させ、世界を歪んだ見方で見てしまうことに繋がりかねないので、非常に危機感を感じる。
記事の趣旨とは外れますが、番組中にある「秘境」という表現が、そもそも「日本から見て”秘められた場所”」であり、偏った認知を促進するワーディングだなと感じました。世界で戦っている日本人を承認・賞賛するのは意義あることですが、大衆の目に触れるメディアでは表現に気を配るべきだと思います。
日本称賛番組に対して違和感を抱きつつも、「なぜ」それが危険なことなのかというのは自分の中でぼんやりしていたのですが、この記事でよく理解できました。このような番組を放送することによって満たされる承認欲求的なものの引き合いに出されるのが東南アジアやアフリカの誇張された貧困とというは問題視すべきだと思います。
今の日本人は一時期日本製品やら何やらが世界で売れまくった時の幻影にすがりついて
現実逃避したくてしょうがないのだと思います。
現実はすでに先進国と呼べないような状況になっているけど、それを認めたくないのではないでしょうか。
世界に向けて大々的にゴリ押しするには恥の精神が邪魔をするけど自画自賛してるくらいならいいだろ?みたいな感じかな、と。
今の高齢者層がいなくなるまではこういうのは続くんだろうなって思います。
日本全体がナショナリズム化させられていて、とても不安。
オリンピック→金メダルの数をひたすら求める。+ダメでも感動を与えたなど称賛。ぶっちゃけかずで競うものでもないし、お涙頂戴でもない。
出場できた彼らがただひたすら自身の成果を披露するだけ。
そこにお涙頂戴はいらない。
日本称賛番組も反吐が出る。朝夕のニュースでも海外からの観光客が和食に舌鼓を映すさまを放送するが、ホントに不愉快。
このニュース系の字幕は特に信用していない。日本を称賛する部分だけを特に誇張している風に感じるから。(実際誇張している)
もうね、日本のマスゴミのレベル低下は来るところまで来ています。
そして、低下したからかナショナリズムにすることに走ってる気がする。1番安易な方法だし。
報道はあくまで中立に行ってほしいものだ。とはいえ、日本人は馬鹿なのでこういった偏った情報を求めている。(こういう意見はマイノリティ)
要するに井の中の蛙大海を知らずというか、知りたくもない。なんだろうね。
先行きが不安になります。
すみません今になっての通りすがりです。
日本上げな番組は東日本大震災後から始まってます。
私も始まった時は違和感がありましたが、
番組開始時のコメントで「震災で失われた日本人の自信を取り戻してほしい」というのが有り腑に落ちました。
人気が出て今まで続いているんでしょう。
それはおかしいですよ。
日本国民の豊かさを誇るのならわかるのですが、なぜ国民をさしおいて国を褒めるのでしょうか。
誤魔化しにしかすぎませんよ。
日本アゲは一見してわかるのですが、それに隠されてしまう日本以外への見方を画一化してしまうほうが恐ろしいですね。
決して相対的なものでなく絶対的なものだと思います。マスコミというか現在の政府、与党への献金をしている企業がそれらのスポンサーを
しているわけでどうにも気持ちが悪いです。わざとらしいというか炎上というか煽情的なものに感じるんですよね。極端なことを表に出し、
その反対で自分たちの都合のいいようにことを進める。憲法改正、オリンピック、コロナに乗じて一体どれだけの疑惑、犯罪が隠れてしまったのか。復興オリンピックと嘯くならばまず何人もの犠牲者が出てしまった開会式会場建設よりも、被災地を救済すべきでした。
ようやく我が国のリーダーが退きこの国にも少し希望が出てきたのではないでしょうか。膿をだすにはそれこそ政府与党の身を切らねばならないわけですが、臆することなく断行しすこしでも前進してそれこそすごいぞニッポンと外からではなく日本人として言いたいものですね。
日本賞賛番組は、全く違和感ない。私たちが知らない話や視点を提示してくれるのはありがたい。むしろいいことだと思う。
ただ、世の中の番組が同じ色に染まるのは気持ち悪い。同じように、このコメント欄が同じ色に染まるのも気持ち悪い。検閲がないことを願う。
国籍は民族は、個人が何の努力もなし得られるもの。海外で活躍する日本人はその人個人の努力や情熱の賜物であるのに、日本人というくくりだけ悦に入ってしまう。その個人を尊敬したり見倣ったりする事もなく、ただひと時の安心感を得ているだけの哀れな姿と言える。それは日本人だけでなく、どの国にもあるんじゃないのかな。その国や社会が勢いを失い膠着化してくると噴出してくる現象ではないでしょうか。